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第7章 迫り来る影 ~失いたくないもの~

文化祭から一週間。学校も神社も、穏やかな日々が続いていた。さきは毎朝コンを肩に乗せて登校し、放課後は神社でお稲荷さんを作って報酬を払う。そんな日常が、すっかり当たり前になっていた。


でも、ある夜。境内が、異様な静けさに包まれた。さきは縁側で本を読んでいたが、ふと顔を上げた。石灯籠の火が、青白く揺れている。コンが肩から飛び降り、体を膨張させた。九尾が一斉に広がり、赤い瞳が鋭く光る。


「……来た。

今までとは違う。

これは……『古の厄』だ」


空気が重くなる。鳥居の向こうから、黒い渦がゆっくりと近づいてくる。人の形ではなく、巨大な影の塊。無数の目が浮かんでは消え、呻き声のような音が響く。さきは立ち上がった。左手首の紋章が、熱く疼く。


「コン……これ、ヤバいよね?」コンは低く唸った。


「古の厄は、俺の過去の契約者たちを喰らったものだ。

あやめが封じたはずの……残滓が、蘇っている」さきは息を飲んだ。


「じゃあ……あやめさんが、全部封じたわけじゃなかったの?」


「封じた。だが、完全ではなかった。

俺の力が弱まっていたから……いや、俺が弱かったからだ」


コンの声に、自嘲が混じる。渦が境内に入り込み、石灯籠を次々と倒す。地面が裂け、朱の鳥居が軋む。さきは一歩前に出た。


「コン、私も戦う。

あんた一人で抱え込まないで」


コンが振り返る。赤い瞳に、驚きと――感謝が浮かぶ。


「……お前は、まだ力が未熟だ。

代償も、大きくなる」さきは首を振った。


「知ってる。

でも、失いたくない。

この神社も、学校の友達も……そして、コンも」コンは静かに頷いた。


「ならば、共に戦おう。

俺の全ての力を、お前に預ける」赤い光が爆発した。さきの体を包み、狐の耳と尾の幻影が現れる。赤いドレスが風に舞い、巫女のような神聖な衣装に変わる。さきは両手を広げ、声を張り上げた。


「来なさい……!

この社を、この絆を、守るために!」


古の厄が咆哮を上げ、黒い触手を伸ばす。コンが九尾を振り回し、触手を切り裂く。さきは光の糸を放ち、渦の核を絡め取る。


「今だ、コン!」


コンが吼えた。


「さき……お前の覚悟を、受け取る!」


二人の力が融合する。赤い光と白い毛並みが渦を巻き、巨大な光の柱が夜空を貫いた。古の厄が悲鳴を上げ、徐々に縮小していく。最後に残った黒い核を、さきが素手で握り潰した。


「……もう、誰も失わせない」光が収まり、境内が静かになった。さきは膝をつき、息を荒げた。コンが小型に戻り、さきの胸に飛び込む。


「お前……本当に、よくやった」さきはコンを抱きしめた。涙がこぼれる


「コン……ありがとう。

あんたがいなかったら、怖くて動けなかった」


コンはさきの頰を尻尾で優しく拭った。「俺もだ。

お前がいなければ、俺はまた……過去を繰り返していた」


月明かりが二人を照らす。倒れた石灯籠が、再び灯りをともし始めた。さきは立ち上がり、コンを肩に乗せた。


「これからも、ずっと一緒に。

約束だよ」コンは赤い目を細めて、静かに答えた。


「ふん……当然だ、相棒」夜風が、朱の鳥居を優しく撫でた。

二人の絆は、また一つ、強くなった。



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