第11章 最後の決着 ~永遠の相棒~
古の厄の本体が、ついに姿を現した。それは、夜空を覆う巨大な黒い渦。無数の目と口が蠢き、呻き声が大地を震わせる。
朱の鳥居が軋み、石灯籠が次々と倒れていく。さきは境内中央に立ち、左手首の紋章を強く握った。
銀髪が風に乱れ、赤いドレスが夜に映える。コンはすでに巨大な九尾の姿。赤い瞳が燃えるように輝いている。
「さき……来るぞ」
「うん。
覚悟、できてる」
渦が一気に降り注ぐ。黒い触手が無数に伸び、さきを狙う。コンが吼え、九つの尾を鞭のように振り回した。触手を切り裂き、赤い光の斬撃を放つ。さきは両手を広げ、光の糸を無数に展開。触手を絡め取り、引き裂く。
「まだ……!」
代償の疼きが、激しくなる。
視界がぼやけ、記憶の端々が剥がれ落ちていく。あかりの笑顔。学校のチャイム。おばあちゃんの声……。さきは膝をつきかけた。コンが即座にさきを尾で支える。
「さき! 俺の声に集中しろ!」さきは震える声で答えた。
「……コン……名前、忘れそう……」
コンは低く、優しく、でも力強く呼んだ。
「さき」
その一言で、霧が少し晴れる。さきは立ち上がり、涙を拭った。
「ありがとう……
もう、迷わない」
渦の中心から、巨大な核が浮かび上がる。
黒い結晶のようなもの。古の厄の心臓部。さきはコンを見上げた。
「コン……全部、預けるよ。
私の記憶も、感情も、心も……全部あんたに」コンが目を細めた。
「それで、お前は……」
「うん。
でも、最後に一つだけ……
あんたに、私の『好き』を残す。
それだけは、絶対に忘れないように」コンは静かに頷いた。
「……わかった。
受け取る」
さきは左手首を掲げた。
紋章が爆発的に輝き、全ての光がコンへと流れ込む。さきの瞳が、一瞬完全に曇る。
「……コン……? 私、誰……?」
コンはすぐに、優しく、強く呼んだ。
「さき」さきははっと息を吸った。
瞳に、光が戻る。
「コン……!」
二人の力が完全に融合した。
さきの体が赤い光に包まれ、狐の耳と九つの尾の幻影が現れる。
コンとさきは、一つの存在のように重なり合う。さき(とコン)の声が、重なる。
「これで……終わりだ」
光の柱が夜空を貫き、渦の核を直撃する。古の厄が、最後の咆哮を上げて崩れ落ちた。
黒い霧が散り、星空が再び現れる。光が収まり、さきは地面に膝をついた。
コンは小型に戻り、さきの胸に飛び込む。さきはぼんやりとコンを見た。
「……コン……?
私……全部、忘れちゃった……?」
コンは尻尾を優しくさきの頰に触れさせた。
「忘れた部分もあるだろう。
だが、お前はまだここにいる。
そして、俺の名前を呼べる」
さきはゆっくり微笑んだ。
涙がこぼれる。
「コン……私の相棒」
コンは赤い瞳を潤ませ、静かに答えた。
「さき……俺の相棒」
境内は静かになった。
倒れた石灯籠が、再び灯りをともす。さきはコンを抱きしめた。
「これからも……ずっと、一緒だよ」
コンは小さく頷いた。「永遠に、だ」朱の鳥居の下で、二人は寄り添った。
記憶は薄れても、絆だけは永遠に輝く。




