007
2/20と2/27分が更新できずに過ぎてしまったので、その分今日(2/28)は2話更新します。
まずは007です。
第6話「帰り道に、ひとりごと」
帰り道は、思ったより静かだった。
夕方の空気はまだぬるくて、
舗装された道の脇には、昼の名残みたいな熱がこもっている。
古都音は、駅へ向かう一本道を歩きながら、さっきまでの出来事を何度も頭の中で反芻していた。
地蔵堂。
色あせた提灯。
誰も来なくなった地蔵盆。
それでも、そこに「在り続けていた」存在。
(……ちゃんと、待ってはったな)
答えをくれたわけでも、
何かをしてくれたわけでもない。
ただ、そこにいた。
それだけだったのに、
胸の奥に、妙なあたたかさが残っている。
「……変やな」
誰に向けるでもなく、古都音は小さくつぶやいた。
何かを“してあげた”感覚はない。
でも、“何かが終わった”感じもしない。
むしろ――
始まった、というほうが近かった。
歩道の角を曲がったところに、
小さな石のお地蔵さんがあった。
花立ては空。
帽子も前掛けもない。
ただ、
少しだけ道に寄り添うように、そこにいる。
古都音は足を止めるほどでもなく、
視線だけを向けて通り過ぎた。
(ここにも……あったんや)
その瞬間。
――ああ。
低く、丸い音。
言葉というより、
長い息みたいな気配だった。
――今日は、賑やかやったな。
古都音は、一瞬だけ足を緩める。
「……?」
今の、
今のは、なんやろ。
聞こえた、というほどはっきりしていない。
でも、気のせいで片づけるには、少しだけ輪郭があった。
――あの子も、来てくれた。
また、別の気配。
同じ声なのか、違うのかも分からない。
ただ、どこか満足そうだった。
古都音は、思わず振り返る。
そこには、
変わらず小さな地蔵が立っているだけ。
「……気のせい、やんな」
そう呟いて、再び歩き出した。
歩道の端に、小さな花が咲いている。
名前も知らない、
踏みしめられてもおかしくない場所に、
当たり前みたいに咲いていた。
その横を通り過ぎたとき。
――変わった子だな。
今度は、もっと軽い。
風に混じるみたいに、
誰かの感想だけが、ふわりと落ちてきた。
「……え?」
古都音は、ほんの一瞬だけ眉をひそめる。
耳で聞いたわけじゃない。
言葉として聞こえた気もしない。
ただ、
“そう思われた”感じだけが残る。
――つなぐ者。
その言葉は、
誰かが名付けたというより、
ずっと前から在った呼び方みたいだった。
意味は、まだ分からない。
けれど、不思議と嫌な感じはしなかった。
古都音は、辺りを見回す。
道。
街灯。
揺れる草。
空中をふわふわと漂う、たんぽぽの綿毛。
そのひとつが、
地面に落ちる前に、ふっと方向を変えた。
――……もう、気づき始めてるな。
今度の声は、
どこからともなく、でも少しだけ近い。
――急がなくていい。
――聞こえるままで、いい。
はっきりとした声ではない。
でも、否定でも命令でもない。
「大丈夫」と言われたわけでもないのに、
その言葉だけで、足元が妙に安定する。
古都音は、小さく息を吐いた。
(……あの人、かな)
いつものお社の、
困ったように笑う女神。
名前も知らない。
正体も分からない。
でも、不思議と
「ここに戻れば会える」と思える存在。
「……ありがとう、ございます」
誰に向けたかも分からないまま、
古都音はそう言って、歩き出した。
夕暮れの道に、影が長く伸びる。
気づけば、
帰り道はもう、ただの“帰り道”じゃなくなっていた。
そして、古都音はまだ知らない。
この日から――
少しずつ、
“声の数”が増えていくことを。
008は今日の夕方更新します。




