004
今日は、《幕間》の神さまSideのお話です。
少し短いです。
幕間001「神様の目に映る“変な子”」
《神さまSide》
木漏れ日の午後。
小さなお社の前で、神様はひとり、静かに立っていた。
――変な子。
思わず口にしてしまった、その言葉が、まだ胸の奥に残っている。
目の前にいたあの子。
話し方も、間の取り方も、どこか懐かしかった。
けれど、はっきりとは思い出せない。
(……誰だったかしら)
そう思った、その瞬間だった。
ふっと、光が重なる。
*
生まれて間もない頃。
まだ言葉も持たない小さな命が、抱かれながらこのお社を見上げていた。
鈴の音に、きらきらと目を瞬かせて。
お食い初め。
祝い膳の前で、にこにこ笑いながら小さな手を伸ばす。
何も分からないはずなのに、空気だけはちゃんと感じ取っていた。
初節句。
雛人形と桃の花。
少し大きめの着物に包まれて、きょろきょろと辺りを見回す。
祖母のぬくもりに、安心したような顔。
初詣。
よちよち歩きで鈴を鳴らし、
「ことねです。さんさいです」
指を立てて、一生懸命に名乗る声。
七五三。
晴れ着姿で、少し照れながらも誇らしげに頭を下げる。
祖母の手を、ぎゅっと握って。
合格祈願。
小学六年生。
願いごとを書く手が、ほんの少し震えていた。
それでも、まっすぐ前を向いていた。
成人式。
振袖に身を包み、大人になった姿。
嬉しそうで、でも少し不安そうで。
それでもちゃんと、ここへ来ていた。
*
映像は、木漏れ日の中に溶けるように消えていく。
神様は、静かに息を吐いた。
「……そうか」
ようやく、腑に落ちる。
何度もここへ来て、
何度も縁を結び直して、
それでも特別扱いはせず、ただ見守ってきた――
あの子。
目の前にいた“大きくなった姿”が、胸の奥に重なる。
「……ずいぶん、立派になったわね」
小さく、そう呟く。
呼び止めはしない。
答えも与えない。
ただ、今日も――
ここにいる。
木漏れ日の中で、
神様は変わらず、静かに微笑んでいた。
幕間・了
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《注釈》
※この幕間に登場する存在たちは、
名前を持たないわけではありません。
この物語の最初の方では、
あえて名を名乗らず、
ただ古都音のそばにいます。
神として崇められるためでも、
何かを教えるためでもなく、
友だちのように、
ときには少し距離を保ちながら、
同じ時間を過ごすために。
名前や由来を知ることよりも、
「一緒にいること」そのものを大切にする。
そんな関わり方を、
彼らもまた、望んでいるのかもしれません。
この物語では、
神々を遠い存在としてではなく、
人の営みのすぐそばで、
静かに息づく気配として描いています。
《注釈》
※この幕間では、
後に神話として語られる存在たちの、
まだ名を持たない時間を描いています。
彼らはこの時点では、崇められる神でも、語られる物語の登場人物でもありません。
ただ、
人の営みを遠くから見つめ、
ときに気配を残し、
名乗らず、関わりすぎず、
それでも確かに「そこにいた」存在です。
本作では、
神さまたちを完成された存在としてではなく、揺らぎや成長の途中にあるものとして描いています。
名が与えられる前の時間。
語られる前の、静かな物語として――。




