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第3話「ひとりごとの続きを、聞いてみた」
木漏れ日は、さっきより少しだけ傾いていた。
午後の光が、社殿の前をやわらかく染めている。
女の人――
いや、「ここにいる側」と言った、その人は、
さっきまでと同じ場所に立っていた。
「……で?」
ふいに、そう言われる。
古都音は、一瞬きょとんとした。
「……で、って?」
「さっきの」
「続き、聞きたいって言わなかった?」
思わず、息をのむ。
(あ……覚えてはる)
「……はい」
少しだけ迷ってから、古都音はうなずいた。
女の人は、ふっと視線を社殿のほうへ向ける。
その横顔は、どこか困ったようで、
それでいて、少しだけ楽しそうにも見えた。
「実はね」
「最近、ちょっと気になる子がいて」
(また、あの“あの子”や)
「ちゃんと生きてるし、笑ってるし、問題ないようにも見える」
「でも……なんて言うのかな」
「自分でも気づかないうちに、立ち止まってる感じがして」
女の人は、木漏れ日を手で掬うみたいな仕草をする。
「無理してるわけでもない」
「でも、無理してないとも言い切れない」
古都音は、黙って聞いていた。
なぜか、口を挟んではいけない気がした。
「わたしが行ったら、楽になるかもしれない」
「でもね」
「行ったら、その子の“考える時間”を奪うかもしれない」
少しだけ、声が低くなる。
「助けるって、簡単だけど」
「“考えなくていい”を渡すのは、本当に助けになるのかなぁ、って」
古都音は、胸の奥が、きゅっとするのを感じた。
(……それ)
(それ、昨日の私や)
留学生の言葉。
おばあちゃんの声。
「神様は、見たはるさかいに」。
「……難しいですね」
思わず、そう口にしていた。
女の人は、驚いたようにこちらを見る。
「そう?」
「はい」
「でも……だから、考えてはるんやなって思いました」
一瞬の沈黙。
風が、社殿の鈴をわずかに揺らす。
「……優しいこと、言うね」
「そうですか?」
「うん」
女の人は、少しだけ笑った。
「でもね」
「優しいだけの答え、わたし、あんまり好きじゃないの」
古都音は、思わず苦笑する。
(なんやそれ)
「じゃあ、どうしはるんですか?」
女の人は、少し考える。
「……見守る」
「でも、見てるだけじゃなくて」
「“ここにいる”ってことだけは、伝わるように」
古都音は、その言葉を反芻する。
(見られてる、やなくて)
(見てくれてる、か)
「……あの」
「なに?」
「その“気になる子”って」
「……幸せになりますか?」
女の人は、一瞬だけ目を伏せたあと、
まっすぐ古都音を見る。
「なるよ」
即答だった。
「時間はかかるかもしれんけど」
「ちゃんと、自分で選ぶ子だから」
その言葉に、なぜか胸が熱くなる。
「……そっか」
古都音は、ほっと息をついた。
そのときだった。
女の人の目が、ふっと見開かれる。
「あ」
「……?」
「やっぱり、そうか」
「なにがですか?」
女の人は、少し照れたように笑う。
「ううん」
「なんでもない」
そして、少しだけ距離を詰めてきて、
古都音の顔をまじまじと見る。
「……あなた」
「はい?」
「大きくなったわねぇ」
「……え?」
意味が分からず、固まる。
次の瞬間。
「ことねちゃん、何歳になったのかしら?」




