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003


第3話「ひとりごとの続きを、聞いてみた」



木漏れ日は、さっきより少しだけ傾いていた。

午後の光が、社殿の前をやわらかく染めている。


女の人――

いや、「ここにいる側」と言った、その人は、

さっきまでと同じ場所に立っていた。


「……で?」


ふいに、そう言われる。


古都音は、一瞬きょとんとした。


「……で、って?」


「さっきの」

「続き、聞きたいって言わなかった?」


思わず、息をのむ。


(あ……覚えてはる)


「……はい」


少しだけ迷ってから、古都音はうなずいた。


女の人は、ふっと視線を社殿のほうへ向ける。

その横顔は、どこか困ったようで、

それでいて、少しだけ楽しそうにも見えた。


「実はね」

「最近、ちょっと気になる子がいて」


(また、あの“あの子”や)


「ちゃんと生きてるし、笑ってるし、問題ないようにも見える」

「でも……なんて言うのかな」

「自分でも気づかないうちに、立ち止まってる感じがして」


女の人は、木漏れ日を手で掬うみたいな仕草をする。


「無理してるわけでもない」

「でも、無理してないとも言い切れない」


古都音は、黙って聞いていた。

なぜか、口を挟んではいけない気がした。


「わたしが行ったら、楽になるかもしれない」

「でもね」

「行ったら、その子の“考える時間”を奪うかもしれない」


少しだけ、声が低くなる。


「助けるって、簡単だけど」

「“考えなくていい”を渡すのは、本当に助けになるのかなぁ、って」


古都音は、胸の奥が、きゅっとするのを感じた。


(……それ)


(それ、昨日の私や)


留学生の言葉。

おばあちゃんの声。

「神様は、見たはるさかいに」。


「……難しいですね」


思わず、そう口にしていた。


女の人は、驚いたようにこちらを見る。


「そう?」


「はい」

「でも……だから、考えてはるんやなって思いました」


一瞬の沈黙。


風が、社殿の鈴をわずかに揺らす。


「……優しいこと、言うね」


「そうですか?」


「うん」


女の人は、少しだけ笑った。


「でもね」

「優しいだけの答え、わたし、あんまり好きじゃないの」


古都音は、思わず苦笑する。


(なんやそれ)


「じゃあ、どうしはるんですか?」


女の人は、少し考える。


「……見守る」

「でも、見てるだけじゃなくて」

「“ここにいる”ってことだけは、伝わるように」


古都音は、その言葉を反芻する。


(見られてる、やなくて)

(見てくれてる、か)


「……あの」


「なに?」


「その“気になる子”って」

「……幸せになりますか?」


女の人は、一瞬だけ目を伏せたあと、

まっすぐ古都音を見る。


「なるよ」


即答だった。


「時間はかかるかもしれんけど」

「ちゃんと、自分で選ぶ子だから」


その言葉に、なぜか胸が熱くなる。


「……そっか」


古都音は、ほっと息をついた。


そのときだった。


女の人の目が、ふっと見開かれる。


「あ」


「……?」


「やっぱり、そうか」


「なにがですか?」


女の人は、少し照れたように笑う。


「ううん」

「なんでもない」


そして、少しだけ距離を詰めてきて、

古都音の顔をまじまじと見る。


「……あなた」


「はい?」


「大きくなったわねぇ」


「……え?」


意味が分からず、固まる。


次の瞬間。


「ことねちゃん、何歳になったのかしら?」






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