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短編2

追放された? えぇ、こちらが。

作者: 猫宮蒼



「失礼。アンリ・フューラーとは貴方の事で合っていますか?」


 一仕事終えて、じゃあご飯食べて宿に戻ろうか、なんて話をしていた三人の冒険者たちは、冒険者ギルドから少し離れたところにある食堂で食事をしている真っ最中だった。


 そこにギルド職員がやって来て声をかけた事で、食事の手を止めて思わずきょとんとした顔をして職員を見上げる。


「え、はい、そうです」


 名を呼ばれた冒険者――アンリは一体何事だろう? という困惑を隠しもしないまま、それでも頷く。


「えぇと……このあと少しお話し大丈夫ですか? ちょっとした聞き取り調査みたいなものなんですが……」


 ギルド職員も若干困惑した様子でそう切り出す。


「えっと、食べながらでも? 冷めちゃうし」

「あ、はい。構いません。えぇと、私も相席して大丈夫でしょうか?」

「あぁ、はい。そうですね、立ちっぱなしもなんですし」


 アンリがそう言えば、職員はぺこりと頭を下げてから向かいの席に座った。


 職員は一先ずお茶を注文して、それ以上は何かを頼んだりはしなかった。

 アンリたち三名も食事は半分ほど終わっているが、食べ終わるまでにはまだもう少しかかりそうだし、その間職員を待たせるのもどうかと思ったので、食事をしながらでも構わない程度の話であるという事実に安堵していた。

 待たせるのもなんだか申し訳ないし、かといって早く食べ終わって下さいと急かされるのもどうかと思うし。


 アンリの正面に職員が、アンリの隣に長い髪を上で結わえた女性が、そしてその女性の向かいに髪の短い少女が座った状態である。


 職員の元にお茶が運ばれてきたことで、職員は一口お茶を飲んでから「それでですね……」と切り出す。


「あ、すいませんその前に自己紹介を。私ここの冒険者ギルドでギルド長補佐を務めておりますユエルと言います」

「あぁ、これはご丁寧に。僕は……名乗る必要はなさそうですね。アンリ・フューラーです」


「リリーナ・セルディン」

「マリアン・ボードン」


 自己紹介の流れになったので、アンリの隣に座っていた女性が名乗れば、向かいの――つまりユエルの隣に座っている少女も名乗る。


「はい、貴方がたの活躍は存じております。先日も付近に出没した魔物をいち早く退治してもらいましたから」


「たまたま出没した近くに居合わせただけですけどね」


 アンリが苦笑を浮かべる。謙遜しているのが見て取れて、ユエルは改めて本題に入ろうとした。


「えぇと、それでですね、貴方がたに伺いたいのはコルト・ラウアーに関してです」


「あぁ、彼、ですか」


 薄々勘付いていたのかアンリの反応は然程驚いた様子はなかった。しかしユエルは見た。リリーナの表情が露骨に顰められたのを。ちら、と隣にいるマリアンを覗き見ればこちらも露骨に不機嫌そうな表情を浮かべていた。


「あいつの事? 飯不味くなりそ」

「こらマリアン、本当の事だけど少しは言葉を選びな」

「へーい」


 途端にテンションダウンした様子の二人に対し、アンリはやはり苦笑を浮かべたままであった。


「すいません。この二人、コルトの事になるとこうで……」

「あぁ、いえ」


 コルトの名を聞いて露骨にイヤそうな態度に出た二人を見て、ユエルはやっぱりあの話本当なのかなぁ……と内心で嫌な予感を抱き始めていた。

 もし予想通りであったなら、自分の仕事が増えるので。


「では単刀直入にお聞きします。

 コルト・ラウアー、彼が貴方たちに不当に追放された、と言っていたのですがそれは事実ですか?」


 ユエルの言葉は決して大声だったわけではない。

 けれどもその言葉に、周囲は騒めいていくつかの客の目がアンリたちに向けられた。


 冒険者とは危険と隣り合わせである。魔物退治は勿論、時として誕生したダンジョンの攻略、また破壊などが冒険者にとって仕事の一部となっているからだ。


 仲間である以上協力は必須。けれども人間である以上、相性の良し悪しはどうしたって存在するし時として意見の相違だってあるだろう。

 最初は上手くやれていても、いつしかお互いの考え方が異なっていくうちに袂を分かつ、なんて事もよくある話だ。


 けれども冒険者たちにもそれなりのルールが存在している。

 仲間を一方的な理由で本人の意思を無視して追い出す事はしてはならない、というのもそのルールの中の一つだ。


 それがまかり通れば、ダンジョンの中で見捨てる行為も正当である、となってしまう。

 そうなってしまえば、互いに協力関係にあるはずが常に疑心暗鬼に陥り結果として魔物と戦っている時でも仲間を信じ切れず、自滅するなんて未来だってあり得る。仲間だと思った相手と殺し合いに発展するような事になれば、ダンジョン攻略などまずもって不可能である。


 どうしてもこの先一緒にやっていけないな、と思ったとしても、まずは話し合いが必要だし、その結果拗れた場合は冒険者ギルドが仲介に入る事が決まっている。


 ダンジョンの中じゃなければ追放してもいい、というわけではない。ギルドの依頼を引き受けた際、どの冒険者チームがどの依頼を受けたかはギルドでも記録される。

 そして依頼を達成したら報酬を払う事になるのだが、依頼を受けたチームと別のチームが報酬を受け取りに来た場合、すんなりと支払われるはずもなく。


 たとえばこれが、依頼の最中魔物との戦いで命を落とした、などでチームの人数が減ったとかであればまだしも、全然違うチームが報酬を受け取りにきたとなれば事情を確認する必要が出てくる。

 あいつらの代わりに、頼まれたんだ、なんて言われたところでそれをすんなり信じられるかは……まぁ、難しいだろう。

 その言葉を信じて報酬を渡した後で、本来のチームが報酬を貰いにきた、なんて事があれば揉め事の一丁上がりである。


「最近チームの変更があったという申請を受け取っておりますが、もしそこに不当な追放があったというのなら場合によってはペナルティが発生するのですが」


 食堂には他にも冒険者たちが食事をしていたし、なんだったら冒険者たちとそれなりに関わりのある職業の者たちも食事に来ていた。

 なので、もしそんな卑劣な行為をしていたのならこんな連中とは関わりたくない……と思うのは当然だし、冒険者と関わる職業の者たちからしても、そういう不誠実な相手と仕事をする場合、契約を平気で無視したり一方的な破棄をされるかもしれないと思うのも無理のない話で。


 故に周囲は声を潜めて、アンリたちの話に耳を澄ませていた。



「えっと。コルトが追放されたんですか? 僕じゃなくて?」

「なんて?」


 こてんと首を傾げて言ったアンリに、ユエルは思わず聞き返していた。


「え、あの、先日コルトがギルドに訴えてきたんですよ。不当な追放をされたと」

「えぇ、僕が」

「……どういう事です?」


 あっれー、なんか聞いてた話と違ったなー?

 そんな気持ちを一切隠す事なくユエルは表情に出していた。普段は冷静沈着な秘書系お姉さんとして評判だが、この時ばかりはそんなクールさは遥か彼方である。


「えーと、コルトは何て言ってたんですか?」


 何言ってるのかわかんない、とばかりにアンリも首を傾げて「むむむ……?」と唸りそうな感じであった。

 なのでまずは詳しく説明をして下さい、なんて話を促す。

 ユエルもいったん情報の共有が必要だなと判断したので、そうですね……と、頭の中で軽く情報を整理する。



 情報を整理も何も、そう複雑な話ではない。


 先日コルトが冒険者ギルドにやって来て、仲間に不当な追放を食らったと訴えてきた。

 ただそれだけ。


 チームの共有財産も既になく、そのせいでこちらは他の仲間を見つけるにしても難しく、これじゃあギルドの依頼を受けるのも難しい、と泣きついてきたのだ。

 実際泣いていたかどうかは問題ではない。そんな目に遭えばそりゃ泣きたくもなるだろう、というのはユエルも理解はできるので。


 こういう時、少数になった側が割を食うのはよくある話だ。


 一人を大勢でよってたかって糾弾するような状況では、その少数である側が余程の鋼鉄メンタルと素晴らしく回転の速い頭脳でも持っていなければ大体は勢いに負ける。


 正論を掲げたところで、大勢の理不尽な意見でその場がさも大勢の方が正しいように持ち込まれてしまえば、味方のいない状態で逆転勝利をするのは中々に難しいのである。


 大勢と一人、のそれらを見守る更なる第三者がいるのであれば、公平に物事を見てもらえる状態であればいいが、そうでなければ馬鹿みたいな言い分がまかり通ってしまうのである。


 勿論後日改めて然るべき場所に訴えればどうにかなるかもしれない。

 けれどそれすら封じられるような展開に持ち込まれれば、最悪命を失う事にもなりかねなかった。


 実際過去にそういった胸糞案件があったからこそ、冒険者たちにだって相応のルールが決められる事となったのだから。それ以前の冒険者というものは、ぶっちゃけ無法者みたいな認識だった時代も確かにあったので。


 コルトの状況を伝えられたアンリたち三人は、思わず顔を見合わせていた。

 悪事がバレたというよりは、何言われてるんだかよくわかんない、みたいな完全なるきょとん顔であった。


「念のため聞くけど、コルトなんかヤバイ薬物摂取してたりしてた?」

「いえ、素面だったと思うし別段薬物を使用したような感じでもなかったですが」

「じゃ頭が最初からアレなのかな」


 リリーナの呆れたような声に、ユエルも思わず困惑するしかない。


「えっとですね、元々僕らのチームってコルトがリーダーだったんですけれども。

 ある日言われたんです、僕を追放するって」

「そ、であたしらもついでにチーム抜けてきた」

「追放されたアンリと一緒に出てったから、残されたあいつはあいつでまた他に仲間集めんじゃないのかな、って思ってたけど……見つからなかったんかな」


「んんん?」


 アンリと同じようにユエルも首を傾げていた。


 追放される時、というのは大体他の仲間たちにとってその一人が足手纏いになってきただとか、性格的な面で色々と合わなくなってきただとか、大抵はそういう理由だ。

 周囲が日々鍛錬を欠かさず実力を上げようと努力している中、一人だけそんな事もしないで成長も何もなければ、いずれ確実に足を引っ張るのはわかり切った事だし、そんな奴のせいで命を落とすような事になるのは馬鹿らしい。

 似た実力の持ち主で組むならまだしも、実力差がありすぎると強者側に負担が大きくなるのは言うまでもない。


 なのでそういう時は穏便に他のチームに行く事を勧めるだとか、せめて強くなるための行動をとって様子を見るとかして、期間をある程度定めた上でそれでも駄目ならお別れするだとか、大抵は概ね穏便なお別れをするのだが。


 ちら、とユエルは三人を不躾にならない程度に見た。


 アンリは治癒術師、リリーナは弓使い、マリアンは魔術師だろうか。装備からして恐らくユエルの見立ては間違っていないはずだ。

 三人とも後衛職なのは間違いない。


 コルトは確か剣士だったはずだ。彼一人が前衛ともなれば負担は大きそうだけど、しかしアンリは自分が追放されたと言っていた。治癒術師を? 回復職ヒーラーは需要より供給が少ない職業なのに?

 いや、希少種って程でもないけど十人必要とされてたら実際は八人くらいしかいない、みたいな感じだ。それでも治癒術師を追放する理由はとなれば……癒しが追い付かない?

 まぁ前衛一人ならそういう可能性もあるけれど……いやでもしかし、事前にアンリたちの事は調べておいたけど、治癒術師としてはそれなりだったはずだ。今までこなしてきた依頼の記録から見ても間違ってはいないはず。


 じゃあもしかして、リリーナとかマリアン、女性を優先してコルトを放置しがちだった?


 いやでもなぁ……前衛死んだら結局最終的に不利になるのこの三人だしなぁ……とユエルは脳内でいくつかの可能性を考えてみる。

 みるけれど、今までの彼らの受けてきた依頼やそれらの達成報告から、なんか違う気がするなと思い始める。


「なんていうか、言わない方がいいのかなぁ、と思ってたんですけどこっちがまるで悪いみたいに思われても困るから正直に言いますね。悪口みたいになりそうだからちょっと気は進まない部分もあるけれど。


 まず最初に言っておきます。僕は男です」


「えぇはい。えっ?」


「よく間違われるんですけど、男です。生まれてから今までずっと」

「えっ?」


 念を押すように言われて、ユエルは信じられないような目をアンリに向けた。

 確かにアンリって男性名だったような気がするけれど、でも女性にも使われる事があるし、もっと言うのならいくつかの地方では魔除けとかの意味を込めて女性に男性名を、男性に女性名をつけるなんて土地もある。

 なので絶世の美女がコングマンと名乗ったとしてもおかしくはないし、逆にごついおっさんがフローレンスと名乗ったとしても別におかしなことではない。

 まぁ確かにぎょっとする事はあるけれど。


 アンリが自分は男だと念を押してきた事にユエルが驚いたのは、女性だと思っていたからである。

 座っている状態だから背丈はわからないけれど、でも華奢で見た目もどこからどう見たって薄幸の美少女だし、声だって高めで男性にはとてもじゃないが思えなかったからだ。

 年齢的に声変わりはしているはずだが、それにしたってボーイソプラノすぎる。


 周囲もアンリが男だと宣言した事にどよめいていた。


 嘘だろ、あんな可愛いのに?

 マジかよ、この後声かけようと思ったのに……?


 そんな感じの言葉がいくつか聞こえた。


 リリーナとマリアンの態度や口調が少々雑なのもあって、礼儀正しくしているアンリがより一層どこかのお嬢様みたいに見えていたのだろう。治癒術師というのもそういった印象に拍車をかけたのかもしれない。


 ともあれ、アンリはそんな周囲とユエルの驚きを無視して話し始めた。



 ――アンリとリリーナ、マリアンは元々同じ村の出身である。

 何事もなければ村で畑を耕して暮らしていく日々を過ごすはずだったが、ある日村を魔物が襲った。

 その時にアンリの両親は死に、リリーナとマリアンも魔物の襲撃で家族を失ったクチだった。

 結果三人は孤児になってしまったのである。

 魔物の襲撃のせいで家も壊れたし、親もいない。後ろ盾のない孤児が三名。しかも女が二人。アンリは男だけれど見た目が美少女すぎたので、これはヤバイと思ったのである。


 村長の家は金持ちだけど、だからといって親を亡くした子供を無条件で面倒を見てくれるはずもない。

 将来うちの孫の嫁になってくれるなら、とか言い出したのである。

 リリーナとマリアンは全力で拒否した。何故って村長さん家のお孫さんは性格がクソだったので。

 今までは親がやんわりと守ってくれていたけれど、それがなくなった今逃げ場を失った無力な少女なんて毒牙にかけ放題である。

 アンリも見た目が美少女なせいで、まぁ男でも……なんて村長の孫にコナかけられてたのでこいつぁやべぇとなって三人はありったけの荷物をかき集めて村から逃げ出したのであった。


 そもそも村長さんとこの孫は一人なのにリリーナとマリアン両方を嫁にしようとしてる時点で倫理観がどっかいってる。いくら閉鎖的な村だからってこのままだと三人の人生は詰みまっしぐら。

 それなら危険を冒してでも外の世界に旅立つぞ! となるのは当然の帰結だった。


 アンリには治癒術師としての素質が、マリアンも魔術が使える事が判明したのでどうにかなったが、そうでなければ今頃もっと苦労していた事だろう。

 リリーナは元々村で父から狩りの仕方を教わっていたから弓を扱えていたので、どうにか三人とも冒険者としてやっていけそうだとなったのである。


 魔物と立ち向かう恐怖は村長さんとこの孫を思い返せば簡単に殺意に変換された。

 死ねクソ野郎! そんな掛け声とともに魔物を倒していくリリーナとマリアンの気迫は見事としか言いようがなかった。ちなみにアンリは治癒術師なのでそこらの石ころを拾って魔物に投げつけていた。前線で戦うには少々向いていなかったので。


 そんなこんなで三人でやっていたのだが、ある日前衛が一人でもいた方がいいだろ? なんて言って仲間入りを果たしたのがコルトである。

 彼はアンリたちよりほんの少しだけ先に冒険者になっていて、先輩風を吹かせて色々と教えてくれたけれど。


「正直あいつ目がやらしくていやだったのよね」

「なんかあるたび体に触ろうとしてくるし」

「僕も最初の頃はそうだったんですよ。あれ間違われてましたね」


 宿で部屋を取る際、大部屋でいいかと聞かれた事もあったけれど、リリーナとマリアンが秒で反対した。寝てる間にベッドに潜り込まれるんじゃないかとか、ちょっとでも思ってしまったので。

 男女で分けて部屋をとるにしても、そうするとその頃アンリは女と間違われていたのでアンリとコルトが同室になる。

 その時点でのコルトがアンリが男でも構わない、とか言い出すかどうかはわからなかったが、もしそうなればアンリの貞操の危機だ。


 かといって、コルト一人だけ別部屋にするとそれはそれで、なんか間違ってこっちの部屋に真夜中に紛れ込んできそうだし気が気じゃない。


 なので最初から個別に部屋をとって、しっかり鍵を施錠する事で各々自衛する事にしたのである。

 個室のカギはしっかりしているが、大部屋のカギは大勢が利用する事もあって、宿によっては少しばかり壊れかけたりしてるところもあるので。


 実際個別に部屋を取った時に部屋に入ってこようとした事はなかったけれど、それでも信用はあまりできなかった。なんというかそれ以外の言動に下心が常に存在していたので。


 早々にコルトをチームから外せば良かったのだが、チームリーダーがコルトだったので明らかに揉めるであろう事がわかりきっていたのだ。

 俺たちでチーム組もうぜ! と言い出したコルトがアンリたちよりも先に冒険者として活動していたのもあって、なんだか流れでコルトがリーダーになってしまっていたのだ。

 最初の頃はちょっと頼りになる部分もあったし、あからさまな下心はなかったはずだがそれも徐々に……という状態になっていき、気付いた頃にはリリーナとマリアンがうんざりするくらいにまでなっていたのである。


 アンリは男であるのでそんなリリーナとマリアンをやんわりと助けていたのだが、アンリを男だと思っていなかったコルトはそこから執拗にアンリに絡むようになっていった。

 ウザ絡みに関しては仲間としての親睦を深めるためのものだとコルトが言い張るし、決定的なレベルでのセクハラでもなかったから対処に困っていたのは確かだ。



 だがしかし、アンリが男であるとバレた後から色々と変わった。


 アンリへのあたりがやたらと強くなったのである。


 女だと思って親切にしてたら男だった騙された、というのがコルトの言い分らしいが、男女でこうも態度に差を出しすぎれば仲間としての親睦がどうのこうのと言われても、最早信用などできるはずもない。


 自分がリーダーであるというのを悪用し、コルトはアンリに色々と無茶な命令をし始めるようになっていった。

 無茶、といっても魔物との戦闘中特攻しろとかそういうところまでは言わないが、本来なら仲間内で協力してやる雑用を押し付けたり、別に治癒魔法が必要じゃない時にも治癒が遅れたと難癖をつけたり。


 そういった態度のせいでますますリリーナとマリアンからは嫌われていったという事にコルト本人は気付いていなかったのだろう。


 どうするあいつ処す? とリリーナが真顔でアンリに言っていたこともあるくらいだ。

 アンリは流石にそれは、と止めていたが。


 雑用の押し付けの他にも、わけのわからない言いがかりもするようになっていった。

 女侍らせていいご身分だよな、とか。

 むしろそれをやろうとしているのはコルトの方では……? と思ったアンリがつい口に出せば彼は激昂した。図星だったのだろう。むしろコルトは侍らせたくても侍らせられていないので余計に心の柔い部分に突き刺さったのかもしれない。


 段々とアンリへの態度が横柄になっていくのと同時に、リリーナやマリアンに対する態度も最初の頃はまだ紳士的に振舞おうとしていたが、しかしその頃にはまるで自分の恋人かのような態度。

 毎回それにリリーナとマリアンも「いい加減にしろ」「きっしょ」と態度に出していたものの、通じる事はなかったのである。


 そんな中起きたのが、アンリ追放である。


 お前もういらねーわ、出てけよ。


 そんな風に一切自分が悪いと思っていない態度で。


 コルトとお別れできると思ったアンリは縋るつもりはなかった。

 そうですか、お元気で。

 そんな風に言って自分の荷物を纏めていれば、リリーナとマリアンも、

「えっ、アンリ出てくの?」

「じゃうちらもついてく」

 そう言って、本当にあっさりと抜けてきたのだ。


 コルトが呼び止めていたようだけど、リリーナとマリアンはガン無視していた。


 その後冒険者ギルドでチーム変更の手続きをしたアンリは、別にその時点でコルトに追放すると言われたなんて明かしたりはしていない。

 仲間内で合わない事が明らかになったので、とよくある冒険者チームの解散理由でもって穏便に手続きをしたくらいだ。


 何故なら別にそこで突然追放って言われて追い出されたんですよ! なんて訴えて冒険者ギルドの介入で詳しく話を聞かれた挙句、お互いの食い違いから再度やり直しを提案されたところで面倒だったから。


 コルトとどうしても仲間でいたい、という感情は別にないので。


 前衛として立ち回ってくれていたのは確かにそれなりに助かりはしたけれど、別にそれはどうしてもコルトじゃなければいけないという理由にはならないので。


 コルトがやり直したいのは追放したアンリではなく、アンリと一緒に出ていく形になったリリーナやマリアンであるというのもわかりきっている。

 なので追放云々を言って事を明らかにしたところで、アンリたちにはこれといったメリットがないのだ。

 逆にコルトはアンリたちが戻ってくれば、アンリの存在を邪魔に思いつつもそれでもリリーナとマリアンも戻ってくるのでむしろその展開は彼の望むところだろう。



「一応依頼達成後の報酬はマトモに分けてたんですよ。で、個別に分けた後で共有の、チーム全体のために使う資金とかはリーダーが管理してたので、チームの財産に手をつけたりもしていません」

 アンリは一応それも伝えておいた。


「でもあいつ金遣い荒かったからね。

 共有の資金も個人利用してたとしても別におかしくなかったよ」

「そだね。あいつこっちが個別に必要な物買いに行く時にこっちについでで頼んできたけど、立て替えたのを払ってもらったのって何回くらいだっけ?」

「三回に一回あればいいほう」

「そうだったそうだった、最初の頃はじゃあ先にお金頂戴って言って確保してたけど、最後の方全然ついでじゃないから自分で買いに行きなって言って放置だったっけ」


「わぁ」


 出るわ出るわ。コルトの悪口。というか実際にあったあれやこれやの不平不満。


 聞けば聞く程コルトが悪い。

 必要な道具の買い出しも最初は自分でやってたようだが、リリーナやマリアンが買い物に行く時に、

「ついでにこれも頼むわ」

 なんて言うようになったようなのだけれど、それは単純に一緒に行こうとすると二人が嫌がるから苦肉の策だったのだろう。

 そうやって買い物を頼めば、買ってきた後で渡しにきてくれる。接点をここで増やそうというのが見え見えだった。

 けれどもリリーナやマリアンからすれば、全然ついでではないのだ。


 リリーナが矢の補充のために武器屋に行く時に同じように剣の手入れに必要な道具を買い足してきてほしい、とかならまだしも、道具屋でポーション購入だとか、リリーナは別にその時道具屋に行く予定はなかったりするような状況で言ってくるのである。

 しかも武器屋と道具屋が近くにあるならまだついでと言われてもわからないでもないけれど、そういう時に限って真逆の方向にあるのだ。

 全然ついでじゃない。自分で行け。

 そういう反応になるのも当然だろう。


 アンリに頼まれたなら二人も快く引き受けるけれど、コルトに言われたそれらはどう考えても嫌がらせにしか思えなかった。


 仮に代わりに買い物をしてきたとして、それを渡しに行かなきゃいけないのがとても苦痛。

 なんだかんだ二人きりになると口説いてくるのも迷惑だった。

 コルトが鬱陶しくて食事だって宿でとる時は各自で、と言って時間をずらしていたのだ。最初の頃はそれでも仲間になった以上、お互いの事を知るのに食事を一緒にとるのは丁度いいかなと思っていた事もあったけれど。


 リリーナとしては押せばいけると思われているのが明らかだったし、マリアンもマリアンでリリーナを口説いてる場面に出くわしていたというのに、そんな事はなかったとばかりに自分にも口説いてきたあたりで嫌気しかなかった。


 そういった諸々を暴露したリリーナとマリアンを見て、ユエルは多分こっちが事実だな、と思い始めていた。


 確かに、かつての彼らのチームとしての報告書とかそこら辺を見た時に、コルトがリーダーだったというのは把握している。その上でなんか変だなとは思っていたのだ。

 リーダーが追放されるって、どういう事? と。


 リーダーが頼りなさ過ぎたとしても、じゃあチーム内で新たなリーダーを決めれば済む話だ。

 向いていないのにどうしても自分がリーダーじゃなきゃイヤだ、とか言い出すケースもゼロではないが、そうなった時他の仲間がその頼りにもならないリーダーの言う事を聞くかとなればまぁ聞かない。

 危険な状況下で頼りない相手の言う事を聞いて命を落とすような事になったらと考えたら、それはまぁ当然の結果である。


 けれどもコルトからは頼りないという印象はなかった。


 もしかしなくても自分がリーダーだからと、自分こそが絶対だと思い込んだのだろう。

 女性二人の扱いを聞いて、ついでに女性に間違われていた時と男と発覚した時のアンリへの態度の差を聞けば、ハーレムパーティ作ろうとしてたのかもしれないな……なんて思いもする。ユエルの目から見てもアンリは美少女にしか見えないし、リリーナもマリアンも見目は良い方なので。下心満載の男からすれば、狙い目だとでも思ったのかもしれない。


 依頼で得たお金はちゃんと分配していたようだけど、話を聞く限り個人の財産とは別の、チーム全体の資金もコルトが管理していた事で、それも自分の金と勘違いしていた部分も見受けられる。


 コルトがギルドに泣きついてきた時、てっきり共有の資産も持ち逃げされたのかと思っていたが、恐らくそこら辺は調べれば簡単に明らかになるだろう。アンリたちはやっていない。

 コルトを抜いて、新たなチームとして登録しなおした際の申請書類を確認すればその辺はあっさりと判明しそうだ。


 後衛職三人というのもあって不便ではないのだろうか、と思いはするけれど、元々幼い頃からの付き合いである三人ならばそれもわかった上で立ち回っている、というのも依頼達成した際の報告書で察した。



 あえてコルトの悪口になるような事を言いふらさず、普通によくあるお別れをしたという態度のままだったアンリたちと、逆に自分こそが不当な追放をされたのだと言い出したコルトとでは。

 今まで彼らが関わった依頼の報告書を見る限り、どうしたってアンリたちの方が信用できそうではあった。


(恐らくは三人がそれぞれ系統の違う美女に見えたコルトは、三人ともが後衛職だったのを見てチャンスだと思ったのかもしれない。前衛職が一人入れば三人の安全も少しは確保できてくるわけだし……女三人の中に一人だけ男性がいて頼りにされればもしかしたらその中の一人くらいとは恋に落ちるかもしれない……と、そういう想像をしたとしてもおかしくはない。上手い事やれば三人ともといい関係になれるかも、なんてそこまで馬鹿な事は考えてないと思いたいけど……でも、アンリが男だと判明した後彼への態度が酷かった、と他の二人が言うくらいだから、男だと判明した後のアンリへの態度はもしかして騙されたと感じたから……?)


 考えれば考えるだけ何だかもうそうだとしか思えなくて、ユエルは目を閉じてこめかみのあたりを揉んだ。


 もし本当に不当な追放が行われたのであればペナルティを与える事になるのだが、アンリは自分が追放されたと言っていたしリリーナとマリアンの証言からもそれは間違いなさそう。

 もし仮に、コルトの言い分が本当だったとして。

 その場合コルトが彼らにあっさりと追い出されるような事になるだろうか? と疑問が残る。

 なんだかんだ居座ろうとしてごねにごねた可能性が高い。

 もしそうなったのなら、それこそギルドに間に入ってもらって今後の話し合いとか、そういったものをするのではないだろうか。


 アンリは追放されたとしてコルトとお別れできるから困らない。

 リリーナはアンリがいなくなるなら元から一緒にいた仲間なのでついていくから問題ない。

 マリアンも同じく、であるのなら。


 アンリだけを追い出して二人を手元に残そうとしたコルトだけが、この結果に困る事になる。


 コルトが追放されたとして、その場合アンリたち三人の総意だろうからこちらも困らない。

 けれどもその場合コルトは困るわけだから、さっさとギルドに駆け込んだだろう。

 けれどもアンリたちがコルトと別れてから既に数日が経過している。


 もし本当にコルトの方が追放されて困っているというのなら、もっと早くにギルドに駆け込んでいたはずだ。


 最初こそ強がって、じゃあこっちはこっちで新たな仲間を見つけてやってくぜ、と思ったとしても、それだって案外すぐに仲間は見つかるのである。

 何故ってギルドがそういった斡旋もしているからだ。余程馬鹿みたいな高望みをしなければ、大抵は新たな仲間が見つかって、とりあえずお試しで組んでみて上手くやっていけそうなら正式に仲間となる……なんてのはよくある話なので。


 新たな仲間がみつからずに困っている、というのならそれは相手との相性が本当に悪すぎるか、その人物に問題があるかだ。冒険者として向いていないのにその立場にしがみついているようなのは確かに仲間を、と言われても見つからないしお試しで組んでもやっぱ無しで、と相手に言われる事もあるが、そうなった場合ギルドでは実力に問題があるようならベテラン冒険者に指導してもらう事も可能だし、鍛錬しても見込みなしとなった場合はギルドの職員やそれに近い職業を紹介する事もある。


 余程の身の程知らずでなければなんとかなるのが冒険者だ。


(コルト・ラウアーに関して、もう少し詳しく調べてみた方がよさそうね)


 アンリたちからすればコルトとお別れできてラッキーと思っているようなので、関係の改善だとかに手や口を出す必要はどこにもなさそうだし、この三人で依頼もそれなりに達成できているので今すぐ前衛職を一人か二人追加させるほどの緊急性も感じられない。

 この三人に関してギルドが今すぐ手を貸す事は精々コルト関連くらいか。


 アンリたちの言い分に嘘はなさそうとはいえ、じゃあなんの問題も無いかといえばあるのだ。


 コルトはアンリに不当な追放を言い渡した側になるし、そのくせ自分が不当な追放を受けた、と被害者としてアンリを加害者に仕立て上げようとした。

 アンリが本当に追放を言い渡されたのであれば、コルトのやった事は悪質である。


 単に追い出しただけならそうでもないけれど、そのくせアンリこそがコルトを追放したと言っているのならそれは冤罪になりえるのだから。


 コルトの言い分を秒で嘘だと断じなかったのは、リリーナとマリアンがアンリと一緒にいるからだ。

 三人がコルトを追い出した、と見えなくもないので。


 女を食い物にする悪い男もいれば、逆に男を手玉にとる悪い女だっているので、〇〇だからこう、と決めつけてはいけないのである。


「えっと……別段嘘は吐いていないので、証言にもっと確かなものが必要だ、というのなら自白剤を飲んでも構いませんし、真実の水晶を使ったって構いませんよ」

「ま、そん時は今以上に言葉のオブラートが消えてもっと酷い言葉が出てくるかもだけど」

「申し訳ないけどあいつに関してはホントにこっちも色々と我慢の限界なんだわ」


 今までの経緯と情報を洗いざらい吐いたであろうアンリが、気遣わしげにユエルに言うものだから。

 そこまで言われてしまえば、流石に彼らは嘘を吐いていないと思うしかない。

 嘘を吐いている相手が自分から真実の水晶を使っていい、なんて言えるはずがないので。

 真実の水晶とはどんな嘘でも暴く、裁判などでも大活躍のマジックアイテムだが。結構な力の強さなのでその場で明かさなくていい真実まで口から出してしまうレベルで強烈なのだ。


 最悪裁判で事件に関わる情報と一緒に自分の性癖まで暴露する恐れもある、ある種の最終手段。

 多分それを使われて困るのは、コルトの方かもしれない。そんな風に思い始める。

 だからこそユエルは――


「いえ、そこまでは必要がなさそうです。貴方たちに関しては嘘を言ってもいないようですし、もう一度コルトに関しての情報を調べてみようと思います。余罪が出る可能性もあるので」

「そうですか」

「えぇ、お時間をもらってしまって申し訳ありませんでした」

「いえ、お仕事ですもんね。お疲れ様です」


 自分に不当に追放したクソ野郎の汚名がかかるところだったというのに、アンリは気を悪くした様子もなく、それどころかユエルを労わる始末。

 コルトに対して悪態をついているリリーナとマリアンの方が正常な反応な気がしてきた。


 迷惑料として彼らの食事代をこちらがギルドの情報収集という名目で支払うべきかと思ったが、それより先にアンリがユエルが頼んだお茶の伝票まで一緒に持っていってしまった。


「えっ、あの!?」

「本当だったら出向いてくれた相手をこちらが持て成すべきだったとは思うんですが、場所が場所なので。

 お茶代くらいは払わせて下さい。ギルドにはいつもお世話になってますし」


 自分で払うつもりだったお茶代なので、お高いものは注文していない。それでもなんだか申し訳なくなってユエルはわたわたとアンリの後を慌てて席を立って追いかけた。


 払う払わないで軽く揉めたが、最終的にコルトがその後どうなるのか、どうなったのかを教えられる範囲で教えてほしいと言われたので。

 ユエルとしてはそれに頷くしかなかったのであった。


 ちなみにこれは別に賄賂だとかそういうものに該当はしない。こっちから奢れと言い出したわけでもないし、時と場合によっては冒険者たちに酒を奢って情報を募る場合もあるので。

 冒険者ギルドではこの程度でお咎めはないけれど、しかしお城とかそっち方面のお堅い職場だと完全アウトなのは確かである。




 ――さて、その後の事ではあるけれど。



 ユエルは本当にコルトの事をもっと詳しくじっくりと調べたらしく、アンリの元へその結果が封書で届けられた。その頃にはもう一つ隣の街を拠点にしてお仕事をしていたので、依頼達成後にそこの受付嬢から渡されたのだ。


 なになに、と興味を示して近寄ってきたリリーナとマリアンだが、内容がコルトについてという事で露骨にイヤそうな表情をしたものの、しかしそれでも気になりはしたのだろう。

 アンリの両隣からそれぞれ覗き込んで読んでいた。


「はーん、で、最終的に冒険者としてやってくことにはなったけど、男ばっかのむさ苦しいとこしか受け入れてくんなかった、と」

「いんじゃない? おさまるべきところにおさまった、って感じだし」


 そして読み終わった後の二人の感想がこれだった。



 なんでもユエルが調べた結果、コルトはチームの共有のお財布としてあった分の金にもすっかり手を付けてしまい、本来自分の分としてのお金も使い切った後だった。

 文字通りのすっからかん。素寒貧である。


 アンリたちと組んでいた時も仕事終わりに酒場でパーッとやったりはしていたようだが、恐らくはそれで早々に自分の分を使い切っていたのだろう。

 それで肝心の必要な物を買う時にお金が足りず、自分で買いに行かないで人についでに、なんて頼んでいるのだからロクなもんじゃない。


 共有の財布から必要な物資を買う分を使うのは言うまでもないが、あの時点で既に手をつけていたのではないか……という疑いが出てしまうのも仕方のない事だ。だってあまりにもすっからかんになるのが早すぎるので。


 冒険者ギルドで依頼を受けて、その後の報告書の作成・提出についてはリーダーがやるところもあれば、そうじゃないところも勿論あるのだが、アンリたちのチームではリーダーがやっていた。

 最初の頃はアンリも女だと勘違いしていたようなので、そういった仕事もいいところを見せようとした結果なのだろう。

 だがその報告書も中々にザルだったようで、結果としてコルトは自分が追い出された挙句チームの共有財産まで持ってかれた……なんて言ったもののその嘘がバレる事となったようだ。

 コルトが提出した報告書だけではその嘘がまかり通る可能性もあったけれど、しかしコルトから追い出されたアンリと、コルトのチームから抜けてきたリリーナとマリアンたち三人のチームが出した報告書が、あまりにも差がありすぎたのである。


 雑な冒険者は他にもいるのでコルトの報告書はまぁ、読めなくはない……といった感じで、若干の不備があってもまだギルドにとって想定の範囲内程度のものであった。

 ところがアンリはそういった書類作成はかなりきっちりとしていたので、とてもわかりやすかったのである。


 収支計算までつけて出しているので、それらを比べた結果コルトの報告書の杜撰さが目立ち、結果として共有財産まるごとコルトが持っているという部分に行きついたのであった。


 金勘定もできず自分で追い出した仲間が持ってった事にした、というのも悪質だったので、一方的な追放をしておきながら自分が被害者のように振舞ったという点とで、中々に悪質となったらしくコルトはどうやら冒険者ギルドからペナルティを受ける事になったらしい。


 そうでなくとも仲間を求めてギルドに助けを求めていたのだが、どうやら彼の希望は女性と組む事らしく、下心があまりにも透けて見えていた。

 とりあえずお試しで女性のいるチームと組ませてみたものの、隙さえあればその女性を口説こうとしているようだったので、お試しの時点で解散となったのである。

 ちなみに口説かれていた女性は同じチームの男性と付き合っていたのでコルトの事は鬱陶しそうにしていたらしい。

 相手がいても口説いてくるという点で、そんなのがいたらチーム内の規律がぐちゃぐちゃである。女がコルトに靡いても修羅場。靡かなくても修羅場。どっちにしても修羅場。

 仲間内の男に殺されるか、女に殺されるかはさておき、そのままだったらいずれ邪魔者として始末されていたかもしれない。


 かといって野郎ばかりのチームにぶちこめば明らかにやる気が下がった挙句、かつてのリーダーやってた時のノリで上から目線だったらしく、そちらではお試しで依頼をこなした後、見事な乱闘騒ぎになったらしい。


 そんな感じで短期間でお試しチームで揉めたというか、あまり良い印象がなかったコルトは、あっという間に噂になった。女性たちからは要注意の男として。男性たちからもそこそこの実力はあるけど態度に難ありとして。


 相手が男の場合自分より下だと思った相手の事は手下だとでも思っているかのような態度になるし、上であっても隙あらばその立場を自分が奪ってやるみたいな態度らしいのだ。

 上を目指すという点では向上心がある、と言えなくもないが仲間の足を引っ張って自分だけが上にいこうとしたところで、他の仲間からすればいい迷惑でしかない。



 恋人がいてもお構いなしに女性に自分の方が良い男だろうとばかりに言い寄ったりしていた事もあって、こんなの仲間にしたらチーム内の人間関係がギスギスするとどこもかしこもコルトの事はお断りしたらしく。


 かといってギルドで一時的に職員として手伝わせても受付嬢にべったりだったり、新米冒険者の訓練に手伝ってやってほしいとなっても女性には親切だけど男性相手にはとてもじゃないが褒められない態度。


 女がいると相手にいい格好しようとするから使いどころ次第では上手く機能するかもしれないが、手間の方が圧倒的に多いとなって最終的に。


 女に現を抜かすなどたるんどる! とか常々言ってるようなストイックな冒険者チームに配属されたようだった。

 むしろそこ以外引き受けてくれなかったとも言う。


 そんななので当然コルトは不満を抱いたらしいが、他にコルトを仲間に引き入れてもいい、と言ってくれるチームがないので、一応そこでしぶしぶではあるが頑張っているらしい。


 欲望剥きだしすぎて結局思い通りにならなかったと言えばそれまでである。


 その結果にリリーナとマリアンは、じゃあこれであいつと関わる事もほぼなくなったって事かぁ、いやースッキリしたわ、なんて言っているけれど。



(この人たちって確かに女性との関わりはほとんどないチームだったと思うけど、でも確かあれだよな、衆道が嗜みとか言ってた人たちだったような……

 …………うーん、つまりコルトが女役になるのかな?)


 女だと間違われていた時のコルトの態度は最初こそ紳士的だったが、しかし徐々に欲望駄々洩れ露骨すぎてうんざりしていたので、アンリとしては回りまわった挙句今度はコルト自身がそういう立場になったとしても。


(ま、僕はしーらない)


 彼が今更どういう状況に置かれていたとしても、既に仲間ではなくなってしまったので。


 何事もなかったかのように報告書を折りたたんで封筒の中に戻すと、そのまま鞄の奥底に突っ込んだ。


 仮に、もし。


 もし今コルトと再会したところでアンリにできる事は精々尻にむかってヒールをかけてやるくらいである――が、まぁ。


 新しい仲間にも回復職はいるので、別にアンリがわざわざそんなお節介をしてやる義理もないだろう。

 次回短編予告

 拒否権無しで神様に聖女認定されてしまったけれど、多分皆が思ってる聖女とはこれ違うよなぁ……っていう聖女ちゃんのおはなし。


 次回 聖女なんて呼ばれているけど私はただのアンテナです

 前に書いた神様、ちょっと黙ってくださいと似た世界線の話。

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― 新着の感想 ―
ガチムチ益荒男チームさん、ソイツが女性が眼中に無くなるまでそれはもう徹底的に理解らせてやってください。壊しても一向にかまいませんので。
途中までは割とよくある話だと思ってましたが…オ・チwwwww コルト君、尻が無事だとよいね♪
「◯っていいのは◯される覚悟のある奴だけだ」という、 昔の反逆者のセリフが思い浮かんだのは、ナイショ。 アンリ「やなオチだなぁ(⌒-⌒; )」 女性二人「「ん?」」 ギルド職員「仕方ないじゃない…
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