三 コンテンラーメン
「そうか、だから“テン・ラーメン”か」
そうして僕は、あらためて壁の文字と向き合い、その薄汚れた壁を見つめていた。そして、壁の文字に夢中になっていた僕は、ふと、“テン”の文字の左側に目を向けた。すると、壁紙の境目に、何かがあることに気づいたのだ。壁紙の縁に沿って、ほんの少しだけ色や模様が違う部分が見える。直感的に「もしかして…」と思い、慎重に近づいた。
壁紙をよく観察すると、確かに微妙な差異が存在していた。薄汚れた壁紙の一部分だけ、模様のやや異なる部分が見え、その境界線はまるで意図的に貼り分けられたように見えた。
「なるほど、壁紙を貼り付けたせいで、ちょうど“コン”の文字が欠けたのか」
僕の心は好奇心でいっぱいになった。その瞬間、ついに気になっていた壁紙を少しずつはがしてみる決心がついた。まず、壁紙の端に指を差し込み、慎重に剥がし始めた。壁紙は経年のしみと埃にまみれ、剥がすのも一苦労だ。でも、不思議と不快感は湧かなかった。むしろ、何か隠されているようなワクワク感に包まれていた。
少しずつ、ちょっとずつ、めくるうちに、やっとのことで壁紙の一部を剥がすことに成功した。すると、その下から出てきたのは、壁の表面に貼り付いた紙片、それは、薄くてしわくちゃなメモ紙だった。どうやら、そこには、かすれたインクで何かが書かれている。何度も擦れていて読みにくいが、何とか解読しようと目を凝らした。
“コンテンラーメン同盟はその体系を引き継ぐ”
壁の秘密を解き明かすうちに、僕の中に次第に疑問が湧き上がってきた。壁の文字や紙片の“コンテンラーメン同盟”だけではなく、何か他の手がかりも必要だと感じていた。
僕はいったん、紙切れをポケットにしまい、壁の謎を解くヒントや、過去の記録を調べるため図書館へ向かった。古い会計研究会の資料や、学生たちの寄贈ノート、そして当時のサークル会議録などを一通り確認した結果、あることに気づいた。会計研究会の活動記録の中に、ひとりの名前が頻繁に登場していたことだった。
「細田教授…?、この大学の学部OB、しかも会計研究会に所属していたのか」
誰もが知る、学内で尊敬される教授の名前だ。だが、その名前が、当時の会議記録や活動の中で頻繁に出てきていたのだ。また、調査を進めるうちに、古い資料の一部に、こんな記述があった。
“本研究会のコンテンラーメン同盟の新たなるリーダーとして、会計学科4年、細田の推薦が決定された”
この一文を見て、僕は少しだけ首をかしげた。
「え、教授…?」
そしてその資料には、こうも書いてあったのである。
“本日の会議において、秘密結社の活動の一環として、次期リーダーの選出について議論した。候補者は、会計学科4年の細田氏が最有力と判断された。彼のリーダーシップと、秘密裏の運営及び調整能力を高く評価した。”