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苦手な方はご注意ください。

【夏のホラー2025】仮初めのミモザ

作者: 花萌ゆる

俺には言えない秘密がある。

「大好き!」と言われて付き合った人がいる。

彼女の熱意に根負けするかたちで付き合うことにした。

でも、どこか想いを利用している自覚があった。

理想の彼女に出逢ったときに巧く立ち回れるように、恋の練習がしたい。

そう思ったのだ。

もちろん、デートを重ね、人並みに彼女への気持ちを募らせて、愛を育んできたつもりだ。

たまに情緒不安定になるけど、そんなときも真摯に向き合ってきた。


付き合って3ヶ月。風車のある公園で、彼女とデートした。

まるでオランダにいるみたいだった。

「すごい!日本じゃないみたい!!」と、彼女も嬉しそうに、目を輝かせている。

デートコースとしては上々のようだ。

メモ帳をポケットから取り出し彼女の反応をなぐり書きした。

「風車小屋に行ってみようか?」と、俺は、すっかりこなれてエスコートする。

ふと、彼女を見ると、さっきまで、はしゃいでいた表情とは変わって、どんよりとした空気が漂っていた。

「どうしたの?」と、恐る恐る聞いた。

「……」


もしかして、俺の気持ちがホンモノではないことに気づいたのか。

焦りにも似た感情が俺を襲った。

「怒らせたのなら謝るよ。ごめん。」

この関係性が生んだ常套句を口にした。

彼女は池の方をゆっくりと指差し、こう言った。


「……女の人がいる。」


「えっ、どこに?」


「池の上にいる。」


「俺を驚かそうたってそうはいかないよ。」


柵越しに池に近づくと、俺にもゆらゆらした何かが視界に入った。

それが何か確かめようとして、身を乗り出す。

すると、たしかに女の人が池の上に立っていた。

あり得ない!どうなってるんだ?

俺を見て、手招きをしている。

つい、目を合わせてしまった。


「何してるの!危ないよ、早く戻って!!」


気がついたら、柵を乗り越えていた。

俺の肩を掴んで、彼女が何か叫んでいる。

何を言っているのか理解できない。

その手を振り払い、俺は足を一歩踏み出した。


バシャッ


そして、何かに頭を掴まれ顔を水面に押しつけられた。

強い力で押さえつけられ、抵抗できない。

何でこんなことになったんだ。

彼女の気持ちを知ってて練習台にしたからだろうか。

変なモノを見せられたのも、彼女の仕業なんじゃないかとすら思えてくる。

酸素が肺から少なくなり、頭がボーッとしてきた。

最後の力を振り絞って顔を水面から上げると、柵越しに彼女は不気味な笑みを浮かべていた。

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― 新着の感想 ―
ホラーというよりは、恋愛小説のような印象の題名ですが、しっかり怖かったです。 下心を隠してのお付き合いは、意外とあるような気がしますが、「彼女の仕業」と人のせいにしているところが、こんな目にあっても救…
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