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悪役令嬢なんてめんどくさいんです〜ヒロインをイジメる暇があったら、異世界ライフを満喫したい〜【本編完結】  作者: 麻咲 塔子


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61 波乱の乙女ゲームイベント

優さん、森さん、私の三人は二年生の教室へ向かった。そして教室からは死角になっている場所に隠れ、ヒロイン達を待つ。


「そろそろ来る頃よね」

「誰と来るのかしら」

「やっぱり王子ですかね。一番距離が近い感じですし」


程なく、バーナード様の話し声が聞こえてきた。


「大丈夫だよ。俺も一緒だから」

「でも、私本当に無理なんですっ。暗い所も狭い所も苦手で――」

「僕達に掴まっていれば大丈夫」

「お化けなんて俺が捻り潰してやるから」


あれ? トレバー様とジェフリー様も一緒なの?


「三人連れなんて展開あったっけ?」

「なかったと思うわ。逆ハーならこのイベント自体無くて、他のイベントが発生したはず」

「またバグってるんですかね。ネイサン先生はテラスでカレーを食べてたし」


私達はなるべくヒロインと攻略対象とは距離を置いていたので、それまでのイベントも何が起こったのかさっぱりわからないのよ。優さんがフローラを見て何かに気付いた。


「ね、あの子顔色が悪くない?」

「本当ですね。さっきも暗い所や狭い所が駄目だって言ってたし」

「「「暗所恐怖症?」」」


「まずいわね。どうにかしないと」

「でも、ここで止めたら余計に拗れそうだし」

「私、中の構造を知ってます! あの人達が中に入ったら、フローラだけ連れ出してみましょうか」

「「森さん、頼むわ!」」


森さんが中庭を抜けて、廊下の反対側から教室の出口へ向かった。その間も、廊下では筋肉男達が無理矢理フローラを入口から中へ入れようとしている。泣き出しそうになっているフローラを見て、係の生徒や通行人も怪訝そうにしている。

森さんが教室の反対側の出口に着いた! 頭に変なマスクを被って、私達に親指を立てて合図をしている。あんな覆面レスラーみたいな目出しマスク、どこにあったんだろう……


「いやーー!」


とうとう中に連れ込まれたフローラの叫び声が聞こえた。森さんが中に入ると、私達も出口に走って待機した。中からはお化けが人を驚かせる声や、先に入った人の叫び声で状況がよく分からない。

それから間もなく、目出しマスクの女子生徒が出てきた。誰かの手を引いている。フローラだわ!


「モリーさん、よくやった!」

「さあ、急いでずらかるわよ」


ずらかるって……優さん、令嬢の仮面を脱ぎ捨てたわね。ともかく、私達三人は青くなったフローラを取り囲んで、カフェテリアまで急いだ。



◇◇◇◇


「あなた、大丈夫? ほら、お水を飲んで」

「あ、ありがとう、ござ」

「お礼なんていいから、ね?」


カフェテリアの椅子に座らせたフローラは、ガタガタと震えている。優さんが落ち着かせようと背中を擦った。森さん、もう目出しマスクは外して大丈夫よ。


「どうしたんだい?」


売店のおばさまも心配そうに近寄ってきた。


「この子が暗い所は苦手だって言ってるのに、無理矢理お化け屋敷に引っ張り込まれたのを見て連れてきたんです。うちのクラスの出し物だったから」

「まあ、そんな酷い輩がいるのかい? まったくとんでもないね」

「私達の婚約者達ですの」

「ハァ、またあいつらかい。厄介な相手に目をつけられたもんだね。あんた大丈夫かい?」

「ええ、だいぶ落ち着きました。助けてくださってありがとうございました。私、本当に暗い所が駄目なんです」


フローラの震えは止まっていた。血色も取り戻している。


「ごめんなさいね。あなたに酷いことを」

「スケベ心を出したんでしょうね。キャーって抱きつかれたくて。ごめんね」

「最低のセクハラ野郎共です」

「ヴァイオレット様達はなにも! むしろ私は助けられたのに、どうか謝らないでください!」


やっぱりこの子、いい子だわ。あんな筋肉達の相手をさせてしまって逆に申し訳ない。


「あの、私はもう大丈夫ですから。それより、この匂いが気になってたんです」

「ああ、カレーライスというの。私達のクラスの出店よ。良かったら食べてみる?」

「はい! 放課後にも試作していましたよね? あの時から食べたくて」

「ふふっ、じゃあここで待ってて。すぐに持ってくるわ」


私はフローラの分のカレーライスを取りにテラスへ出た。お父様達が目で合図を送ってきたので、カクカクシカジカしておいた。


「なんだと、女子生徒にそんなことを」

「しかも、娘達の婚約者が揃いも揃って」

「あの筋肉には逆らえなくて怖かったでしょうに」


お父様も小父様達もフローラに同情し、婚約者達には憤慨していた。


「カレーを食べてみたいってくらいには元気を取り戻しているわ。心配しないで」


そう言って、カフェテリアへ戻った。


「さあどうぞ。お口に合うといいんだけど」

「美味しそうです。いただきます」


フローラはきちんと手を合わせていただきますをした。やっぱりこの子は転生者なのね。カレーが懐かしいのもわかるわ。


「とっても、とっても美味しいです!」

「良かったわ、ゆっくり食べて。おにぎりもあるわよ」


フローラは口いっぱいにカレーライスを入れて、嬉しそうにコクコクと首を縦に振った。

私達はフローラを見て、ニマニマと気持ち悪く笑っていた。ごめん、だって一生懸命食べてる姿がかわいいんだもの。


そんな至福の時をぶち壊すような、ヒステリックな叫びが響き渡った。


「お前達、俺のフローラに何をしている! こんなところにいたのか、フローラ! 突然居なくなったから心配したよ」


後半はとろけるような優しい笑顔で言っていた。あ、これゲームで見たことがある顔だわ。『俺のフローラ』ねぇ……あなた、一応私の婚約者よね? 取り巻きの筋肉ふたりも、腕組みをして睨みつけている。


「なぜお前達がフローラと一緒にいるんだ! ふん、どうせまた言いがかりを付けていたのであろう。フローラ、そんな物を食べては駄目だ! 毒でも入っていたらどうする」

「ち、違います。ヴァイオレット様達はそんな事しません!」


言いがかりを付けているのはあなたでしょうに。その時、テラス席から大きな影が三つカフェテリアへ入ってきた。


「それは聞き捨てならないな。うちの娘が毒入りの食べ物を振る舞うとでも?」

「言いがかりは殿下の方ではないですかな? 私達は全て見ておりましたよ」

「うちの米に毒があるとは、国の事業に対しても中傷になりますぞ」


「うっ、ヘザートン公爵! なぜこんなところに」

「グラント侯爵、お、お久しぶりです」

「ファニング子爵も、領地に居られるのでは無かったんですか」


お父様達の姿を見て、途端にバーナード様達は狼狽えだした。国の要人であり、未来の義父でもあるのだから。王族といえど、第二王子程度では頭は上がらない。どちらが国に貢献しているかなど、考えるまでもない。


売店のおばさまも参戦する。


「あんた達、この子を無理矢理お化け屋敷に連れ込んだそうね。かわいそうに、真っ青になってガタガタ震えていたよ」

「ほう、か弱い女子生徒にそんな無体を強いていたのですかな?」

「これは陛下にも報告しませんと」



お父様達も全力でおばさまに乗っかった。バーナード様達は『陛下』と聞いて、顔の色を無くした。


「そんな、俺達はただ一緒に学園祭を楽しもうとしていただけだ」

「へぇ、婚約者を差し置いて他の女子生徒と?」


ジェフリー様の言葉に、森さんのお父様も負けていない。ジェフリー様はばつが悪そうな顔になった。婚約者を蔑ろにしている自覚はあるのね。


「この様な事が続くのなら、将来について陛下と話し合わなければなりませんな」


お父様は暗に『婚約解消してもいいのか』と脅しているのだ。この婚約は国王陛下と公爵家で結ばれた政略的なもの。私も婚約解消は喜んで! と言いたいが、さすがにバーナード様もその意味がわかっていると思いたい。



「くっ、生徒会の仕事があるので失礼する!」


分が悪いと思ったのか、バーナード様達は逃げ出すように去っていった。


「君、巻き込んで済まなかったね」

「い、いいえ! 私は大丈夫です!」


お父様に話しかけられて、フローラはアワアワとしていた。


「ヴァイオレット。ベアトリスから少し聞いていたが、この目で確かめるまでは……と思っていた。うちの娘を何だと思っている」

「ユージェニーも、辛い思いをさせているな」

「モリー、お前は大丈夫なのか?」


「「「お父様……」」」


貴族の当主としてではなく、父親の言葉だった。私達はちょっとウルっときてしまったけど、頑張って笑顔を作る。


「ええ、私達だって何もしていないわけじゃありませんわ」

「きちんと対策はしております」

「だけど、もしもの時は助けてくださいね」


「当たり前じゃないか」


お父様達の笑顔が頼もしい。今日ここに居てくれて良かった。


「よし、気を取り直してカレーを売るわよ! あなたも元気出して」

「フローラさん、これお土産。モリーさんちのお米で作ったおにぎりなの。あとで食べてね」

「ピッカピカの新米ですよ!」

「皆さん、ありがとうございます」


少し笑顔が出てきたフローラは、おにぎりを胸に抱いて手を振り去っていった。もう絡まれなければいいけど。お父様達もおばさまもホッとして定位置に戻っていった。



抜けたのは三十分ほどだったけど、その間もお客さんが増えていた。騒動の間に、お父様達の席も無くなったらしい。元々じっとしていられない仕事人間達は、薪を運んだり土鍋を運んだりと、目立たないように観察しながら手伝っていた。クラスメイト達も、この働くおじさん達の存在に慣れていった。


本もちょこちょこ売れている。中には貴族の令嬢や奥様と思われる人達も、わざわざ本を買いに来てくれていた。


「これ、お茶会で話題になっていたんですの。まだ残っていてよかったわ」

「ありがとうございます。楽しんでいただけると嬉しいですわ」


まさか、公爵家の娘が売っているとは思わないでしょうね。私達はまだ社交界デビューをしていないので、王子の婚約者といえどあまり顔も知られていない。愛想よくお礼を言って、皆さんに勧めてくださいとさり気なく付け加えた。



こうして、今年もバタバタと忙しく学園祭をすごした。


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