表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢なんてめんどくさいんです〜ヒロインをイジメる暇があったら、異世界ライフを満喫したい〜【本編完結】  作者: 麻咲 塔子


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

58/74

58 よっ! かまど職人!

翌日の放課後、早速クラスメイト達とかまどを作ることになった。


去年のピザ窯は設置されたままだ。焼き芋パーティーでも大活躍だし、そのまま置いておこう。


「この隣でいいんじゃないか?」

「そうね。テラスから離れすぎても不便だし、隣に作りましょうか」


今日は家から土鍋を持ってきている。さすがに羽釜なんてないものね。そもそも羽釜の実物を見たことも使ったこともないから、再現しようもないのだ。学園祭ではうちにある土鍋を総動員で炊くことにして、それに合わせたかまどの大きさにする。


「ユージェニー、かまどはこの土鍋の大きさに合わせて上に穴を開けてね。上に金網を乗せてから鍋を置くわ」

「あなた、段々と難しい要求をするようになったわね」

「ユージェニーの魔法の精度も上がってるし、いけるかなーって」

「まあ、やれなくもないけど?」

「かまどは四つくらいあったらいいかなぁ」

「ふふん、まあやってみるわ」


優さんは得意げに鼻を鳴らすと、両手を前に突き出した。


「エイッ!」


優さんが掛け声を上げると、ゴロッとした石がゴロゴロと出てきて、きれいに積み上がっていた。ちょっとキャンプで作るかまどっぽい。コの字型で手前だけ薪を入れられるよう空いている。上の穴に網を乗せてみると、高さもそこそこあるのにかなり安定している。


「良さそうね! 鍋もグラグラしないわ」

「でしょう?」

「よっ! かまど職人!」

「違うわよっ!」


褒めたのに、否定されてしまった。優さんはあと三つのかまども難なく作り上げていった。これ、このまま焼肉とかも出来そう。いつかやりたいわ、バーベキュー。学校だけど。


実はさっきお米を一回分研いで水に浸けておいたの。出来たばかりのかまどに、慣れた手付きの男子達が薪を組み火を熾してくれた。去年だいぶピザ窯で火熾しをしたものね。薪は去年と同じく学園の敷地内の間伐材だ。

今日は担任のキートン先生もいらっしゃるから、火を焚くことも許可されている。


「まあ、お米ってこんなに白い穀物なのねぇ」

「ええ、精米と言って周りの余分な所は削ってしまうんです。するとこんなに白くなるんですよ」

「その削りかすを取り除くために、前もって洗ってあります。しばらく水に浸して置くと、柔らかくて美味しく炊けるんです」

「へぇ、小麦とは随分違う食べ方なのね。オーブンではなくて、鍋を使うなんて」


キートン先生は感心したように、私達の説明を聞かれていた。



「おーい、薪に火が移ったぞ」

「ありがとう、じゃあ炊いてみましょうか」


クラスメイト達がぞろぞろとかまどの周りに集まってきた。


「いいですか、まずは中火で鍋をかけます。沸騰するまで十分弱くらいかな」

「沸騰して湯気が上がってきたら少し火を落して、十二、三分ほどそのまま。火が強すぎると焦げてしまいますよ」

「ブクブクとした音が出なくなったら、かまどからはずして十分くらい蒸らします」

「蒸らすってなに?」

「要するに、蓋を開けずに放置ってこと」

「ここで開けるのはダメ絶対」

「へ〜」


みんな真剣にメモを取っている。誰でも炊けるようになれば、交代も可能だものね。


「もう大丈夫かしら。蓋を開けるわね」


優さんが土鍋の蓋を開けると、フワッと湯気が上がった。ツヤツヤとしたお米が立っている。


「わ〜、これがお米」

「お米を炊いたものは『ご飯』と言います」

「発酵がいらないなんて、パンより出来るのが早いわ」


そう言うのはミレナさん。さすがはパン屋さんの娘。目の付け所が違う。


「発酵はいらないけど、炊く前に浸水はしないといけないわ。三十分くらいかしら」

「ほほーそうなのね」


何でもかんでもメモっている。うん、浸水は大事。


「じゃあ、私達が『おにぎり』を作ってみせるわ」


手をよく洗い、手のひらに塩をつける。炊きたてはちょっと熱いけど、コロコロと手の中で回して三角のおにぎりを作り上げた。今日は人数が多いからひとつが小さめ。


「これがおにぎりです。今日は米の味を見てもらいたいからシンプルに塩だけよ」

「中に具を入れたり、周りにも海苔……はわかんないか。青紫蘇を巻いたりお肉を巻いてタレに絡めたり。あとはタレを塗って焼いたりとかね。色々とアレンジも可能よ」

「それはなかなか美味しそうだね」

「「「学園長先生!」」」


また匂いが漂っていたのかしら? もちろん学園長先生も試食にお誘いした。


「これがお米……私も初めてだよ」


学園長先生の口元に、皆の視線が集まる。


「おお! ふっくら柔らかいな。シンプルな塩味なのに、ほんのり甘さも感じる」

「うわー、俺もう我慢できない! 食べる!」


男子が手を伸ばしたのを合図に、僕も私もと皆が手を伸ばした。手で食べるのにも抵抗はないみたい。


「うん、美味いよこれ。たしかに塩だけでも甘みがある」

「パンとは全く違うわね! この食感初めて」

「美味いけど、小さすぎて足りないよ〜」


男子の嘆きに笑いが起こった。学園長先生が仰る。


「何回か練習するといい。誰か先生についてもらってね。誰もいなければ私がやるよ。試食もあるんだろう?」

「ええ、焼きおにぎりやカレーも試作しますわ」

「私も付き合うわ!」


キートン先生も食い気味に付き添い宣言をされた。次回からは鍋の数を増やさなくちゃね。


「もちろん、お米は魔石のコンロでも炊けますよ。うちではいつもそうしているわ」

「この土鍋じゃなくて、普通のお鍋でも出来るのよ。きっちり蓋ができるものなら大丈夫なの」


私達が言うと、口々に話しだした。


「普通のお鍋でいいなら、うちでもやってみたいわ」

「うん、家族も気に入ると思う」


「へえ、じゃあかまどが足りなかったら、魔石コンロも併用出来るってことか」

「そうね。あとカレーは魔石コンロでやろうと思ってるわ。ずっと保温しておきたいし」

「それがいいわね。ずっとかまどだと焦げちゃいそう」



みんなでワイワイと話し合いながら、また明日もご飯の炊き方の練習をすることに決まった。火の始末をしっかりとやり、今日は解散となった。




みんなが散り散りに帰り出した頃、私と優さんはアニーさんを呼び止めた。


「アニーさん、ちょっと話せるかしら?」

「ええ、もちろんよ。例の本のこと?」

「そうなの。良く分かったわね」


アニーは得意げに胸を反らした。


「そりゃあ分かるわよーそれで、売れ行きが気になってるんでしょ?」

「あなた、探偵になれそう」

「ふふっ、ただの推測。売れ行きは順調よ。試しに近所のお姉さんに売りつけたら、勝手に噂が広まっちゃって。回し読みでもいいかなと思ってたのよ? だけど、結局近所の若い子だけじゃなく、おばさん達までハマっちゃったみたいなのよ」

「それは凄いわね。なんか刺さるところがあったかしら?」

「ええ。おばさん達は、旦那に浮気をされた事を思い出したらしくて。浮気男が成敗されるのにスカッとしたんだって」


若い人だけじゃなく、意外な層に受けているみたいだわ。今どき貴族でも、政略結婚の妻を大事にしないと叩かれるもの。愛人なんて大っぴらに囲えなくなっている。最近は『真実の愛』を隠れ蓑にしている節はあったけれど、やっぱりみんなどこかで疑問に思っていたみたいね。


「ありがとう、それを聞いて安心したわ。受け入れられてるのが嬉しい」

「そうね。『やっぱり真実の愛じゃないと!』って言われたらどうしようかと思っていたわ」

「大丈夫よ。もう流行りは真実の愛じゃないわ! 今からは『浮気男は許すまじ!』よ」


最初に渡した二十冊はもう売り切れたらしい。アニーさんは追加で十冊持って帰ると張り切っていた。


「そうだ。このカレー屋の片隅に、うちの倶楽部のブースをひっそり作ることにしようかと……本を置くだけだから、大丈夫よね?」

「まだみんなには言ってないんだけど、出店許可はネイサン先生が取ってくれるって」

「そんなの、女子達みんなに本を貸してあげれば一発よ。一冊誰かに回してもいい?」

「ええ、それは構わないけど」

「じゃあその辺で誰か捕まえて渡しておくわ。クラス内で回し読みを推奨しとくね」


そう言うと、アニーさんは颯爽と去っていった。相変わらず仕事が早くて助かるわ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
アニーさん商売うまくない?? 目の付け所がいいというか、そんな感じがします…!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ