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49 お好きなだけどうぞ

「さあ、お好きなだけどうぞ」

「すごい! これ全部さくらんぼなの?」

「そうよ。ロジャーはさくらんぼ好き?」

「うん! だけど、自分で木から採るのは初めて」



今日は、優さんとロジャーを我が家へお招きしている。うちの庭にあるさくらんぼの木に沢山の実が生ったのだ。去年はほとんど鳥さんに食べられてしまったので、今年は庭師がネットを張ってさくらんぼを守ってくれていた。裏庭にある木だけど、毎年それは見事な花を咲かせてくれているの。


「わあ、おっきいな。ん、甘酸っぱくて美味しい!」


うちのは、クリーム色と赤色がグラデーションになったような日本のさくらんぼより大粒の、とても美味しいさくらんぼなのだ。大きさはアメリカンチェリーくらいかな。そのさくらんぼがまさに鈴なりになっている。


「去年ボブ爺が送ってくれたさくらんぼとは、色も味も全然違うんだね」

「そうね。領地のさくらんぼは黒っぽい品種だものね」


ボブ爺ったら、ちゃっかりロジャーとの仲を深めてるわね。ちょっと羨ましい。


「領地からも送ってくれているの。あとで食べ比べると面白いかもね」

「わー! フルーツ食べ放題だなんて、贅沢だわぁ」


優さん、裕福な侯爵令嬢なのに、ちょいちょい前世の庶民的なところが出てきて面白い。まあ、私もつい出ちゃう時があるけど。


「ロジャー、肩車をしてあげるよ。上の方にも沢山生っているよ」

「わ、わ、フレデリック兄様は背が高いから、ちょっと怖いな」


ロジャーはお兄様に肩車をされて、ビクビクしている。だけど、上の方の枝にも生っているのを見てはしゃぎだした。かわいいわぁ。



「ユージェニー、後で手伝ってほしいことがあるの」

「ん? いいわよ」


さくらんぼをぽいぽい口に放り込みながらも、優さんは了承してくれた。



「後でお土産の分のさくらんぼは採っておいてもらうから、今度はあっちへ行きましょう」

「まだ何かあるの?」

「フッフッフッ、ジャーン」

「い、いちごじゃない!」

「次はいちごの食べ放題よ〜」

「ひゃっほーい」


優さんがぴょんぴょん飛び上がって喜んでいる。庭の一角に棚を作り、いちごを植えたプランターを並べてもらったのだ。棚からは沢山のいちごがぶら下がっている。


「凄いわ! 真っ赤ないちごがこんなに沢山!」


お兄様に肩車をされたままで移動してきたロジャーも、地面に降ろしてもらうといちご棚に駆け寄ってきた。


「僕、いちごを採るのも初めて! フレデリック兄様達のお邸は凄いね!」

「ふふっ、そうか」


このロジャーの言葉に、庭師たちも誇らしげな表情を浮かべている。うん、みんなグッジョブ。ナイスないちご棚よ。あとで特別ボーナスをお父様に進言しておくわ。


「食べてもいいの?」

「もちろん! お好きなだけどうぞ」

「「わーい!」」

「あとでお菓子も用意してもらっているから、お腹を少しあけておいてね」

「「はーい!」」


やけに素直な姉弟だ。いちご棚にテンションが上がったらしい。あま~い、美味し〜といちごを食べている。


私もかごにいちごを摘むと、優さんに声を掛けた。


「ユージェニー、さっき言ってたお手伝いお願いね」

「ん、わはった」


優さん、あんたはリスか! 次々と真っ赤ないちごを口に放り込んでいる。本当にフルーツが好きなのね。



◇◇◇◇


私達は厨房に行くと、透明でシンプルなゴブレットグラスを前にエプロンをつけて準備をする。


「まさか、パフェでも作るの?」

「あたり〜! ロジャーは喜んでくれるかしら?」

「そりゃあ喜ぶわよ! だって見た事がないもの」


クリームやアイスなどは料理人達に頼んで作ってもらっていた。バニラアイスといちごアイスの二種類だ。


グラスの底にはいちごソースを入れる。真っ赤で甘酸っぱくて美味しいの! 


「これ、スライスして側面に貼ろうか」

「ユージェニー、それいいね!」


クリームを少し入れた上に、スライスしたいちごをグラスに貼り付けていく。前世のオシャレパフェのようだ。

アイスやクリームを彩りよく盛っていき、上にまたクリームを絞ると、そこにこれでもか! といちごとさくらんぼをトッピングしていった。最後に薄焼きクッキーとミントの葉を添えて出来上がり。


「できた! ユージェニーこれめちゃくちゃオシャレだね」

「うん、カフェが開けそう」


料理人達も感心したように見ていた。


「さあ、アイスが溶けないうちに運びましょ」


給仕のメイド達に手伝ってもらい、お茶や他のお菓子も運んでいった。



「みんなお待たせ!」

「待ってたわよ〜」


庭のテーブルには、ちゃっかりお母様も参加していた。


「ベアトリス小母さま! お久しぶりです」

「ユージェニーちゃん、よく来てくれたわ。私もみんなのお茶に入れてちょうだい」

「もちろん、嬉しいですわ」


テーブルの上にはお茶と、採ってきたばかりのいちごとさくらんぼ、領地から届いた黒っぽい品種のさくらんぼ、それに料理長特製のさくらんぼのクラフティが並んでいた。私達はパフェをロジャーの前に置いた。


「わあ! なにこれ! いちごとさくらんぼがいっぱい!」

「それはね、『フルーツパフェ』って言うのよ。ロジャーお誕生日おめでとう」

「嬉しい! ヴァイオレットさんありがとう」

「どういたしまして。ユージェニーも手伝ってくれたのよ」

「じゃあ私も食べるわ」「俺も食べる」


お母様もお兄様も、ユージェニーの名前を出した途端これだもの。どんだけ可愛いもの好きなんだ。


「はいはい。もちろん、作ってきましたよ」


お母様とお兄様の前にもパフェが置かれた。ふたりの目もキラキラしている。


「ん〜パフェって可愛いだけじゃないのね。美味しいわ」

「僕もこれ大好き! アイスも美味しいね」

「ユージェニー嬢が作ってくれたというだけで、美味さも倍増だよ」


そうですか。私も一緒に作ったんですけどね。まあいいけど。

優さんもニコニコとパフェを食べている。


「さくらんぼのクラフティを食べると、この季節がやってきたという気がするわね。料理長、今年も美味しいわ」


お母様の言葉に、料理人達も嬉しそうに頷いている。



「フルーツでお腹いっぱいって、なかなか無いわね」

「うん、ちょっと食べすぎたかも」


優さん、いっぱい食べてたものね……。


「ユージェニー嬢、図書室でゆっくりしないかい? 新しい本が入ったんだ」

「まあ、ぜひ。どんな本なんですの?」


お兄様は優さんを誘って図書室へ行った。行動が素早い。


「じゃあ、ロジャーは小母さまと遊んでくれる?」

「うん! 僕小母さまとお絵描きがいいな。小母さまの絵は面白くて好き」

「まあロジャー! なんてかわいいの。やっぱり小母さまのうちの子にならない?」

「お父様とお母様に叱られます」


お母様は性懲りもなく、ロジャーをうちの子にしようと目論んでいる。もはや挨拶代わりに勧誘していて、ロジャーが断る所までもお約束だ。


「あら、これはなあに? イソギンチ――」

「私が描いたユージェニーちゃんよぉ〜」

「オウ……」


てっきりイソギンチャクかと。もしくはメドゥーサ? 髪の毛が逆立っているわ。

お母様の画力は相変わらずだわね。


「ヴァイオレットさん、今日のフルーツ狩り本当に楽しかった! こんなに楽しい誕生日のプレゼントは初めてだ」

「まあ、ロジャーに喜んでもらえたなら私も嬉しいわ」


もう天使! ロジャーのために、数ヶ月前からせっせといちごの苗を植えて良かったーー!!


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