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48 ヒロインと生徒会

入学式から二週間ほどが経った。

ヒロインであるフローラは、原作ゲームと同じように生徒会に入ったと聞いた。今の生徒会は、バーナード様達と確執のあった先輩方は全員卒業し、バーナード様が生徒会長となった。


大体一学年に四、五人ほどの生徒が在席する生徒会だけれど、バーナード様の学年は三人のまま。原作ではヴァイオレットとユージェニーがいて五人だったんだけどね。二年生もモリーを含め四人いるはずだったけど、森さんも早々に逃げたため三人しかいない。一年生は予定通りフローラを含む五人が入ったようだ。


二年生はバーナード様達に感化されたのか、三人とも制服がパツパツになっている。来年はムキムキかもしれないな。そんな生徒会なので、もちろん仕事は先輩方がほとんどやっていたと言っても過言ではない。だけどその先輩方はもういない……体を鍛えることにしか興味がない二、三年生と、入ったばかりの一年生でやっていけるのか? と、少々心配になってしまった。

まあ、私達はこれまで通り生徒会に関わる気はないけどね。



フローラの事は、ジワジワと噂になり始めていた。生徒会の中で唯一の女子生徒だという事もあるけど、周りを王族や高位貴族の令息に囲まれた平民の少女というのは、いやでも目立つ。容姿が可愛らしい守ってあげたいタイプだというのも、理由としてあるかもしれない。

想像してみてほしい。ムキムキの男子達に囲まれた、可憐なピンク頭の少女を……ね? 目立つでしょ。


学年が違うにも関わらず、フローラはいつもバーナード様達と一緒に行動していた。一年生の役員達といるところはあまり見たことがない。原作でもそうだった。攻略対象達がどんどんフローラに惹かれてそばから離れなくなるのだ。

だけど実際に私が見かけたフローラは、あまり楽しそうには見えなかった。いつも困惑したような、または強張ったような表情をしている。原作ではあんなに無邪気な笑顔を振りまいていたのにどうしたんだろう。

原作とは違うムキムキの攻略対象達に困惑している? それとも三人の筋肉の圧が怖くて強張っている?



遠目に観察していると、フローラは時折りキョロキョロと辺りを見回していることに気が付いた。何かを探しているのかしら? あ、もうひとりの攻略対象であるネイサン・グリーングラス先生かな? そのことに思い至ると、なんだか少しモヤッとした。いやだ、なんでモヤッとなんかするのよ。攻略対象とはなるべく関わらないようにしようって決めてたじゃない。



もうひとつ原作とは違うところがあったんだった。なぜかネイサン先生が一年生の授業を担当していないのだ。ヒロインと攻略対象のネイサン先生は、授業中に魔力が暴走した生徒からヒロインをかばい小さな怪我をする。そこからアレコレが始まるのだけど、そもそも授業をしていないのならそんなイベントも起こりようがない。一年生の魔法学の先生は、定年後にまた講師として戻ってこられたベテランの先生だし。ネイサン先生が怪我をしたなんて話も聞いていない。



そんなわけで、バーナード様達三人が新入生の平民に夢中になっていると噂が立つまで、そう時間はかからなかった。



◇◇◇◇


今日はクラスメイト達とカフェテリアでランチをしている。同じテーブルについているのは、ジェシカさん、セーラさん、ミレナさんと優さんの五人だけど、周りのテーブルにもクラスメイト達がいるので、もはや『クラスメイト達とランチ』でいいわよね?


「ヴァイオレットさん、ユージェニーさん、あの噂聞きまして?」

「噂? どの噂かしら」


この前、授業中に私のお腹が鳴っちゃったことがバレてたのかしら? 『公爵令嬢のくせに、はしたなく腹を鳴らしてた』みたいな。しかもギョロロ〜って凄い音だったのよ。もう恥ずかしぃー!


「生徒会の人達のことよ」

「あっ、そっちね」

「他にもなにかあるのかしら?」

「ううん、なにも〜ホホホ」


ジェシカさんにツッコまれてしまった。笑ってごまかしちゃえ。


「殿下達三人があの新入生の女子に懸想しているって噂よ」

「「あ〜」」


優さんと私は思わず目を合わせ、苦笑いした。


「うん、知ってるけど……ね? ユージェニー」

「うん、それはそれで……私達は別に……」


歯切れが悪い私達に、クラスメイト達も察してくれたようだ。今や私が婚約者から嫌われているのは周知の事実だから。

それに、あれだけ絡まれて罵られているところを見られているんだもの。私達も婚約者の事が好きではないって事もわかっていると思う。


「いいんじゃねぇか? ヴァイオレットさん達になんの非もないことは、俺たちが知っている。なんかあったら証言するまでよ」

「そうだな、逆にあちらが好き勝手やってるのも証言できるしな」

「皆さん……」


私も優さんも何も言っていないのに、クラスのみんなにはいつか断罪される日が来るとわかっているのかしら。もはや誰も、私達がバーナード様やトレバー様と結婚するとは思ってなさそう。




「あ、あのっ!」


声をかけられ振り向いた私達は皆驚いた! 今話していた噂の新入生がすぐ近くまで来ていたからだ。


「私達になにか用かしら?」


セーラさんが立ち上がって答える。心なしか私と優さんの姿を隠そうとしているように見えた。


「突然話しかけてしまって、ごめんなさい。あの、そちらのヴァイオレット様とユージェニー様にお話が……」

「私達に? なにかしら」


セーラさんに『大丈夫よ』と安心させるように目線を送った。

なぜかヒロインが私達悪役令嬢(仮)に話しかけてきたわ。関わらないようにしていたのに、まさか向こうから近付いてくるなんて――


「えっと、私一年のフローラ・ハリスと言います」

「はじめまして、私はヴァイオレット・ヘザートンよ」

「私はユージェニー・グラントよ」


本当ははじめましてじゃないけどね。女子の姿で話すのは初めてだし、そう挨拶した。

フローラは自分から話しかけてきたのに、終始オドオドとしている。私の顔、そんなに怖いのかしら? 生まれつきの悪役令嬢顔だから、そこは許して。


「あのっ、私、私、決しておふたりの婚約者様に横恋慕などしてません! どうか誤解しないでください」

「「ふぇっ?」」


私も優さんも、思いもよらないフローラの発言に変な声が出てしまった。


「学園内で噂になっているのは知っています。だけど本当に何もしていないんです。私のせいで、おふたりと殿下達との仲がこじれるのが嫌で……」


フローラの目が、じわりと潤んできた。


「あなた、」

「おいっ! お前達フローラに何をしているんだ!」


私がフローラに話しかけようとしたその時、バーナード様の怒号が聞こえてきた。フローラの背後から筋肉三人組が駆け寄ってくるのが見える。


「大丈夫か、フローラ? 泣いているではないか! おいっヴァイオレット、お前何をした!」

「殿下、違います! ヴァイオレット様はなにも――」

「どうせお前が意地悪なことを言ったのであろう! フローラ大丈夫だからな」


あー相変わらずタイミングが悪いわね。フローラと話もまともにしていないのに、バーナード様の中では私が泣かせた事になっちゃってる。私は令嬢アルカイックスマイルを貼り付けて言った。


「バーナード様、私達はまだ自己紹介をしただけですわ」

「嘘を言うな! だったらフローラが泣いている事に説明がつかないではないか!」

「ユージェニー、本当なのかい?」

「ええ、まだ名前以外口に出しておりませんもの」


トレバー様も優さんに一応確かめるが、疑いの目で見ているのは確かだ。


「ヴァイオレット、フローラに手出しをするとわかっているだろうな? 全くこいつらと関わるとろくなことがない。行こうフローラ」

「いやっ、あのっ」


フローラはバーナード様に肩を抱かれ、後ろを振り返りながら何か言いたそうな顔で連れられて行った。


「なにあれ、めちゃくちゃね」

「殿下達って、人の話を全く聞かないんだな」

「ヴァイオレット様達は何もしていないのに」

「一方的に怒鳴って去っていくなんて、ありえないわ」


先程までシーンと静まりかえっていたが、カフェテリアにいた他の生徒達がザワザワとしだした。


「ヴァイオレットさん、ユージェニーさん、カフェテリアにいた生徒全員が証人だから! もし王家から言いがかりをつけられても私達が証言します!」


ミレナさんの大袈裟な言い方に思わず笑ってしまった。


「ふふっ、そんなことで王家から抗議なんてこないわ。心配してくれてありがとう」

「ユージェニーさんも、あんなに疑いの目で見られて悔しい!」

「大丈夫よ。何かあった時にはよろしくね」


優さんも嫌な雰囲気を振り払うために、わざとおどけたような言い方をした。


それにしても、あのヒロインって転生者なのよね? 日本語で呟いたのを聞いたから、それは確実。それなのに、攻略対象と悪役令嬢の仲を取り持とうしていたのはなぜかしら。あの顔は、私達を陥れようとして話しかけたようには見えなかったわ。本当に困ってそうだった。


「腹黒ヒロインではなさそうね」

「うん、あの子も何かわけがありそう」


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