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47 運命の四月

四月、私と優さんは三年生、森さんは二年生になった。


今日は入学式。それも乙女ゲーム『フローラ〜花の乙女とプリンスたち〜』のヒロインが入学してくる運命の日だ。『スチルが〜』とか『イベントを生で〜』とか、浮かれてる場合じゃない。悲惨な未来が待ち受けている悪役令嬢(仮)なんだから、徹底的にイベントは避けていくつもりだ。

去年と同様、生徒会役員以外の在校生はお休みだけど、私達は校門が見える場所にひっそりと佇んでいた。



「すみれさん、優さん、めちゃくちゃイケメンですね。乙女ゲームの攻略対象になれますよ」

「そんなもん、絶対にやりたくないわー。めんどくさいし」

「あら、森さんもかわいい系男子になってるわよ。攻略対象にいそうなタイプ」

「え〜そうですかね。でもめんどくさいからお断りしたいです」

「わかる〜私も」


皆さん、覚えておられるだろうか……去年の私の誕生日に、森さんとオルコットさんがプレゼントしてくれたオリジナルの薬、『一日だけ性別を変えられる薬』を。一体いつ使えばいいのかと思っていたけれど、とうとう役に立つ日が来たのだ! あの時の三錠を私と優さんと森さんがそれぞれ服用した。


水で薬を流し込むと、みるみる間に私達の髪は短くなり背も頭ひとつ分ほど伸びた。肩幅も広くなり、声変わりしたように声も少し低くなっている。何より不思議なことに、服装までも男子用の制服と靴に変わってしまったのだ!


「一年生の時の男装を思い出すわね。フレデリック様にも似ているわ」

「あの噂のクラス劇ですか? こんなにイケメンなら私も見たかったですよ」

「それは忘れて……」



なんせ私達三人は悪役令嬢(仮)。もしもヒロインが転生者だった場合、姿を見られると非常に不味いことになる。去年のようにバーナード様達に遭遇することも避けたい。何より、イベントを邪魔しては恋のアレコレに影響してしまうものね。



「ここからこっそりヒロインの様子を窺ってみましょう」

「そうね、転生者かどうか確認しないと」

「転生者なら校門をくぐった瞬間、前世を思い出すはずですよ」


私達三人もそうだったし、王立図書館の食いしん坊日記の主もそうだったから。


――その時だ。校門に向かって、ピンクの頭が近付いてきたのだ! 


「あれ、ヒロインじゃない?」

「間違いないわ! この世界でもピンク頭は相当珍しいもの」

「フローラ・ハリス。ヒロインで間違いないです」


私達は固唾を飲んで見守った。校門をくぐった瞬間、


『えっ! どういうこと?』


ピンクのツインテールにエメラルド色の瞳の少女が、日本語で呟いた。


「「「やっぱり」」」


その後もヒロインのフローラは、オロオロとうろたえたように周りを見渡している。


「どうしたのかしら」

「急に前世の記憶が流れ込んできたんだろうけど、ちょっと様子が変ね」

「あのゲームのオープニングみたいに、キラキラの笑顔で振り返ったりしないんですね」



ヒロインもバグってるのかしら。天真爛漫な平民の少女って設定だったはずなんだけど、どう見てもオドオドしている。あ、ちょっとふらついているわ。


「「「危ない!」」」


私達は、考えるよりも先に体が動いていた。足がもつれ倒れそうになったフローラを、三人で飛び出し間一髪で抱きとめた。森さんはカバンをキャッチしたようだ。


「あなた、大丈夫?」


私がフローラの顔色を確かめながら上から覗き込むと、少し青ざめていた少女はボンッと音がしたんじゃないかと思うほど、一瞬で真っ赤になった。


「だ、だ、だだ大丈夫ですぅ!」

「そう? 無理しちゃ駄目だよ」


優さんが優しく声をかけると、フローラはそちらを見てまたアワアワしだした。


「立てそうね。はいこれ、あなたのカバン」


森さんがフローラにカバンを手渡すと、


「あ、ありがとうございます!」


目をギュッと(つぶ)って、カバンを受け取った。


「あの、あの、私フローラと言います。助けてくださってありがとうございました」


ペコリと頭を下げる。なんかいい子そうだわ。さすがはヒロインね。


「気を付けてね。入学式のある講堂はあっちよ」

「はっはい!」


「おい、そこでなにを騒いでいる!」


うわ、ヤバイ。よりによってあの筋肉トリオが来てしまった!


「お前達は新入生か? 見慣れない奴らだな」

「えっ?」


そうだった! 今日は私達、男子生徒に変身してるんだったわ! よかった、バーナード様にもバレてないみたい。


「えーっと、そんな感じですかね?」

「え、ええ。ちょっと道に迷ってしまったんですの」

「ああ、あっちか。急ぎましょう!」


私達はさっさと逃げ出した。優さんは焦ってちょっとオネエっぽくなってたけど、そんなことも言っていられない。止められる前に部室へ逃げ込んだ。



◇◇◇◇


「ちょっと、なんであの三人に会うのよ!」


優さんはまだ息が上がっていたが、突然の筋肉トリオの登場にぷりぷりと怒っていた。


「もしかしたら、不味いことをしてしまったかもしれません」


森さんは苦笑いをしている。


「たしかに、男の姿を見られたのは不味かったかも」

「そっちじゃありませんよ」

「じゃあ、ヒロインに関わってしまったこと?」

「そっちもやや不味かったですけど」

「「じゃあなによ?」」


私も優さんもピンときていない。


「最初のイベントを潰してしまったみたいです」

「「あっ!」」


そうなのだ。校門を入ったところで、ヒロインは立ち止まり振り返る。そこがオープニング。

それからすぐに、攻略対象の王子達にぶつかり『君、大丈夫かい?』と顔を合わせ、恋のアレコレが始まるのだ。


「じゃあ、あの三人はイベントのためにあそこに現れたのね!」

「はい。ヒロインと最初に出会うのはあの三人のはずなのに、私達が先に出会ってしまいました」

「うわぁ、やっちゃったーー!」


私達は頭を抱え込んだ。女子の姿ならまだしも、男子の姿で出会っているのだ。しかもイベントっぽく、ふらついたところを助けている。


「さっきのあれ、イベントに換算されるかな?」

「どうだろう……あのフローラが前世を思い出したのなら、攻略対象はあの三人の方だってわかると思うわよ」

「そうですね。悪役令嬢(仮)ならまた違った反応があったでしょうけど、今の私達はいわばモブですからね」



そう、ゲームには絶対に出てこない男子生徒なんだから。しかも今日一日限定の姿なのだ、現実には存在していない生徒なのよ。


「よし、じゃあ何もなかったことにしよう」

「うん、それがいい。どうせ明日にはいなくなる生徒だもの」

「そうですね。それならまた絡まれないよう、式典をやっている間にさっさと帰りましょう」


私達は頷き合うと、誰にも見られないよう速やかに家路についたのだった。




◇◇◇◇


「お兄様ただいま〜」

「誰だ、馴れ馴れしい! 俺には妹しかいないが」

「やだ、私よー」

「その顔、赤の他人とは思えない……ハッ、まさか父上が母上を裏切るような行為を――」

「わーー違う、違うわよ! 私、ヴァイオレットよ!」

「うちのヴァイオレットはもっと華奢でかわいい! そんなにガッチリしてるはずがない!」

「魔法よ! 魔法で性別を変えてるの!」

「うちのヴァイオレットはポンコツだ! そんな高度な魔法は使えん!」

「ユージェニーの足のサイズは二十三・五センチ!」

「ユージェニー嬢の新情報! さては、ヴァイオレットか?」

「やっとわかってくれた……危うく家庭崩壊させるところだったわ……」


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― 新着の感想 ―
オーダーメイド品しか使わない分耳にする機会は多いんだろうけど、 妹の足のサイズの最新情報更新把握してる兄ってキモイな
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