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4 なぜあなたが、『いにしえの古文書解読研究会』の顧問に?

「あの〜、グリーングラス先生はどうしてこちらに?」


何かの手違いかもしれない。フィービー先生が来られなくなったから伝言を頼まれたとか。ほら、あとは私達が隣の部室と間違えたかもしれないし?

だから一応聞いてみたのだ。なのに――


「僕が『いにしえの古文書解読研究会』の顧問になったんだ。ふたりともよろしくね?」


ギャーーーやっぱりそうか! なんで? なんで?


「グリーングラス先生は魔法学がご専門ですよね? どうして古文書解読など専門外の倶楽部の顧問になられたんでしょうか。もしかして、他の先生方に押し付けられたとか……?」


魂が戻ってきた優さんが問う。


「そんなんじゃないよ、僕が立候補したんだ。面白そうだなーと思って」

「面白そう、ですかね……?」


他に部員が入ってこないような、できるだけ面白くなさそうなお堅い倶楽部名にしたのだ。面白そうとは、解せぬ。


「そんなに僕の専門外でもないんだ。古い魔法を解読しアレンジして、現代の魔法式に当てはめたりするからね。古い時代の魔法書もよく読むんだ」

「へ、へぇー」

「ね? 言語学のフィービー先生ほどじゃないけど、僕もアドバイスとかできると思うよ」

「ワーソレハタノモシイデスー」


また優さんがカタコトになってしまった。


私はグリーングラス先生を観察してみた。紺色のサラサラ髪は短く切り揃えられ清潔感がある。緑の虹彩が入ったようなグレーの瞳は、見たことのない不思議な色合いをしている。

攻略対象だけあって、とても整った顔をしてるな。ゲームが始まる二年後は二十四歳だったから、今は二十二歳かな。攻略対象の中ではひとりだけ大人だ。

ガリガリではないけど細身で背が高い。そういや、この人はマッチョじゃないな。バグってないのか?


「僕の顔に何かついてる?」


ヤバい、見すぎた! 先生がコテンと首をかしげて聞く。


「いいえ、なんでもありませんわ」


ここは得意の令嬢アルカイックスマイルで誤魔化そう。便利だわ〜。



「グリーングラス先生って長くて言いにくいでしょ? 僕のことはネイサンって呼んでよ」

「いえいえ、そんな恐れ多い。たかがいち生徒の分際で」


これ以上親しくなるのはマズイわ。名前呼びなんて馴れ馴れしすぎるわよ。


「二、三年生はネイサン先生って呼んでくれてるから、君たちも。ね?」

「はい……ネイサン先生」


押し切られてしまった。よそよそしくして壁を作る作戦失敗。チーン。


「それじゃあ、古文書を解読するのは明日からにしようか。気になる本や古文書があれば、図書館から借りておいてね」

「わかりました。よろしくお願いいたします」




関わるまいとしても関わってしまう。これもゲームの強制力なのかしら。

でも私達、ヒロインじゃなくて当て馬悪役令嬢(仮)なのにね?




◇◇◇◇


「人って見かけによらないよね」


ここはいつもの中庭のベンチ。昼休みに内緒話をするのが私達の定番になりつつある。だって教室じゃ話せないことばかりだから。さすがにねぇ、人前で婚約者のグチは言えないじゃない?


「ん? 優さん、誰のこと?」

「ネイサン先生よ。あの人凄く優しそうなのに、ゲームではヤンデレ枠だったよね?」

「そうだった! ネイサン先生だけ、他の攻略対象にはなかったバッドエンドがあったんだ」


ヒロインがネイサン先生ルートで攻略に失敗すると、邸に監禁されてしまうのだ。


「コワイコワイコワイ、すっかり忘れてたわ」


ちょっと鳥肌が立っちゃった。


「ここ数日話してみた限りでは、そんな事はしそうにないよね」

「そうだねぇ。普通に優しいし、話も面白いし」


ネイサン先生には婚約者がいないので、担当(?)の悪役令嬢はいない。


「あ、そうだ。もうひとつ私達が助かるルートがあったんだ」

「「ネイサン先生ルート!」」


ヒロインがネイサン先生ルートを行けば、私達はあまり出番がない。生徒会室でちょっと嫌味を言う程度なので、悪役令嬢達の断罪がないのだ。

ただ難易度も高くて、なかなか落ちない。しかも失敗すればバッドエンド。ヒロイン監禁である。


「あーでも失敗したらヒロインが可哀想かもね」

「うん。それに私達も婚約破棄出来なくて、ある意味バッドエンドよ」


せっかく思い出したのに、結局ダメかぁ……



「あ、そうだ。私も気になってた事があるの」

「なになに? すみれさん、言ってみなさいよ」

「ネイサン先生だけ、マッチョじゃない」

「ブッ、ブフフフフ。やだ、なにかと思ったら! プッヒヒッ」


いや、笑いすぎじゃない? ひーひー言いながらむせてるし。


「他の攻略対象達がバグって筋肉バカになったなら、ネイサン先生もバグってないと変じゃない?」

「んふふふ、たしかに一理あるわね。んふっ」

「優さん、淑女らしい笑い方をお忘れじゃなくって?」

「ごめっ、ツボに入っちゃって」


お茶を飲んで少し落ち着いたようだ。優さんがこんなに笑い上戸だったとは、新しい発見。


「はぁ~お腹痛い。じゃあ、ヤンデレじゃなくなったってバグなんじゃ?」

「なるほど? ただの爽やか好青年になっちゃったのか」

「まぁ、腹の中までは見えないから、断定はできないけど」

「うん、しばらく様子見だね」




古文書研究会の最初の活動日は、学校の図書館から借りて来た日記? 日誌? みたいなやつにした。これ明らかにこの世界の言語じゃなかったのよね。

私は「メルシー」と「カフェオレ」しか分からなかった。これ、フランス語よね?


だけど、地球の言語をひと単語でも私が読めたら不自然だから、なんじゃこりゃ?って顔をしといた。だって私達はただの貴族令嬢だもの。

ネイサン先生は、


「これは何かの業務日誌みたいなやつかな」


と言っていた。先生も読めなかったみたい。異世界の言語だもの、そりゃそうだ。

魔法の呪文でないことは確かなので、それ以上の深掘りはやめておいた。ついポロっと音読してしまったら怪しまれるし。


それにしても、なんで学校の図書館にフランス語の日誌があったのかしら。面白いわ。

生徒会から逃れるために作った隠れ蓑的な倶楽部だったけど、私は意外と楽しんでいる。


『○月○日

特に変わったことはなし。

今日、店長がバイト達にカフェオレを差し入れしてくれた。メルシー』

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