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30 悪役令嬢(仮) 会合

「なるほど~、古文書って日本語の日記のことだったんですね」



今日は『いにしえの古文書解読研究会』の活動日だ。と言っても、ネイサン先生が仕事で参加出来ないとのことなので、売店で買ってきたお菓子と飲み物を囲み、部室でダラダラと喋っているだけである。森さんの歓迎会みたいなものだ。


「うん、前半は大した事は書かれていなかったけど」

「あれはただの食いしん坊日記ね。ちょっとイラッとするし」

「でも不思議ですよねー。六十年も時間軸がズレてるなんて」

「そういえば、私と優さんの家名は日記に書かれていたんだけど、あなたのファニング家のことは書かれていなかった気がするわ」


私がそう言うと、お菓子をボリボリとかじりながら森さんが答える。


「六十年以上前の日記なら、そうでしょうね。うちはその頃はまだ平民です」

「そうなの!?」

「ええ、曽祖父の代に流行り病があって、うちの家が育てていた薬草を使ったら病が治まったとかで、その褒美として領地を賜り子爵に任ぜられたみたいです。ちょうど六十年前くらいですね」


そうなんだ、それで日記にファニング家の名前がなかったのね。


「今でも、うちの領地は魔法薬の材料の産地ですよ。色んな薬草を育てています」

「へえ〜知らなかったわ」

「ちなみに、なんの偶然か私の前世も薬剤師なんですよね」

「「おぉ〜!」」

「今回の生も、その知識を活かせたらなーなんて」

「「素晴らしいわ!」」パチパチパチパチ


森さんってば、私と違って全然ポンコツじゃないわ。そのうち、この世にない薬でも開発してくれるかも。


「この間も、解熱剤を調合しようとして、なぜか育毛剤を作っちゃったんですよね」

「ん? あれ? この子もちょっとポンコツかな?」

「いや、ある意味天才かも……」

「父が大々的に売り出すって張り切ってました」

「うん、凄く売れそう」


どこの世界でも、育毛剤は需要があるわよね。


「森さん、ご兄弟はいるの?」

「はい、兄と妹が。ほとんど領地にいますね」

「へ〜それは寂しいわね」

「みんな引きこもりなんで、一緒の家にいても好きにしてますよ」

「引きこもり?」

「三人とも研究が大好きなんです。だから、薬草畑にいるか部屋で薬の調合をしているかですね」

「あぁ、そういう意味か」

「ニッチな薬を作ってはそこそこ売れるので、うちは下位貴族ですけど割と裕福なんですよ」

「どんな薬か気になるわ」


そう優さんが尋ねると、ん〜と森さんは考え込んだ。


「ちょっとだけ顔色が悪くなる薬とか」

「それ何に使うのよ」

「仕事や学校をサボりたい時ですかね」

「お、おう」

「変な薬でも、意外と売れちゃうんですよねー。あ、もちろん安全なやつですよ?」


「他には?」

「一日だけセクシーなほくろができる薬とか」

「それは何のために……」

「ナンパを成功させたい日に塗るらしいです」

「なるほど?」


確かにニッチだわ。そんな変わった薬を作るなんて面白そうなご家族ね。


「もちろん、普通の治療薬もありますよ。風邪薬とか傷薬とか」

「それだけ売れてるんだったら、伯爵家と縁組なんか無理にしなくていいわよね」

「そうなんですよ。そもそもジェフリー様とは話が合わなくて」

「それはなんとなくわかるわ」

「私達も合わないもの」


私と優さんはうんうんと同意した。


「やっぱり、贈り物とかも独特なの?」

「私は産まれた時から婚約してますから……子供の頃はあちらのお母様が選んでくれていたのか、絵本とか人形とか髪飾りとか女の子が喜ぶ物を贈ってくれてましたね」

「最近は? やっぱり筋肉系のやつ? うちはダンベルよ」


優さんは興味津々だ。机に身を乗り出している。


「そっち系じゃないですけど、筋肉っちゃ筋肉かなぁー」

「なんなの?」

「上半身裸の写真パネル」


斜め上すぎるわ、そっちに行くのかよ!


「うん、いらんな」

「いりませんよね。置き場所に困ってて、とりあえず屋根裏部屋に放り込みました」


この世界にも、写真は存在している。だけどまだ写真館や新聞社がカメラを持っているくらいで、現代日本のように一般的には普及していない。


「わざわざ写真館で撮ってきたのかしら」

「でしょうね。こういう、ボディビルダーみたいなポーズのやつです」

「どこに飾れと?」



ハァとひとつため息をつくと、優さんが言った。


「あの人達、基本的に婚約者に興味がないんだろうね」

「本当それよ。別にこっちも好きじゃないからいいんだけど、筋肉を推してくるのは止めてほしい」

「そうそう、あと絡んでこないで欲しい」

「絡んでくるんですか?」

「うん、ちょっとめんどくさいよ」

「なるべく攻略対象とは関わらないようにはしてるんだけどね」


私も優さんもうんざり顔をして答えた。


「攻略対象といえば、なんであの方が顧問になってるんですか?」

「私達も予想外なのよ、ねぇ優さん」

「うん。てっきり言語学の先生が顧問になるかと思っていたら、まさかのご本人が立候補したらしいの」

「なんでまた、よりによってグリーングラス先生が」


森さんが疑問を投げかける。


「倶楽部の名前を見て面白そうだと思ったらしいわ」

「面白そうですかね!?」

「あ、その反応を待ってた」


だって、わざと面白く無さそうな名前にしたんだもの。


「今のところ何の問題もないわ。ヤンデレでもなさそうだし」

「そういえば、原作ゲームではヤンデレキャラでしたね。違うんですか?」

「バグってるのか、普通に爽やかな良い人よ。顔もいいし」

「確かに顔がいいわ」

「ええ、顔がいいですね」


みんなの意見は一致した。


優さんが少し眉を顰めて続ける。


「他の攻略対象も顔はいいけど、中身がヤバいもんね」

「そんなに? メイン攻略対象の王子もですか?」

「顔を合わせるたびに、すみれさんを罵倒しているわ」

「えぇ……そこまで。なんかイメージと違いますね。ヒロインにはあんなに優しかったのに」

「ゲームのような蕩ける甘々王子様スマイルは見た事がないわよ。婚約者の私だけかもしれないけど」

「ゲームに出てこない裏側って、案外そんなものかもしれませんね」


森さんの言葉に、私は深く考え込んだ。裏側か……たしかにゲームにはない事だらけだわ。

その時突然思い出したかのように、森さんがパッと顔を上げた。


「あ、そうだ! この学園って、魔法薬の倶楽部があるみたいなんですよ」

「たしかうちのクラスに部員がいたわよね、すみれさん」

「うん。兼部するなら、今度聞いといてあげるわよ。見学に行ってみる?」

「いいんですか! お願いします」


近々、森さんをクラスメイトへ紹介することに決まった。


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