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3 ゲームではわからなかったこと

数日後の昼休み、すっかり定位置になったあまり人がいない中庭の片隅のベンチで昼食を摂る。


「そういえば、なんでバーナード様はヴァイオレットにあんな態度を取るのかしら」

「理由は簡単よ。私が全く好みのタイプじゃないんですって」

「はぁ? 王族のくせに、政略結婚ってものを理解してる?」

「どうかしらね。四年前の初めての顔合わせではっきり言われたのよ。『お前みたいな吊り目は好みじゃない』って」

「ヴァイオレットの目は吊り目じゃない! クリッとした大きな目に目尻がキュっと上がった猫目よ! わざとメイクで猫目を作る人だっているくらいなのに。その上好みじゃないとか、こんな美人に対して失礼すぎるわ」


優さんが自分のことのように怒ってくれてる。なんか嬉しい……


「ありがとう。でも、大人の事情ってやつ? そのまま婚約したわ。バーナード様は非常に不服そうだったけど。それから今までずっとあんな感じなの」

「いくら顔がいいからって限度があるわ! 子供かっ、あのクソヤローめ」

「優さん、言葉遣いが」

「あら、オホホホ」



「だからね、たぶん私と正反対のヒロインの顔が、好みのド真ん中なんじゃないの?」

「あ〜、なるほど。少し垂れ目で庇護欲そそるような」

「原作ゲームのスチルでしか知らないけど、ヒロインの前ではあんな優しくてとろけるような笑顔が出来るのよ。もうここまでくると別人よ、別人!」

「それは言えてる」

「だから私は婚約破棄されても全く悲しくないし、むしろ早くくっついてくんないかなと思ってる」


いやもう本当、早くヒロインに入学してきてほしいんだわ。あと二年、長すぎる。


「いやぁ、実際に会ってみないとわからないもんだね。まさかメイン攻略対象が、ここまでワガママで嫌なヤツだとは思わないじゃない? 無駄に顔だけはいいし、身分も王子様だし。絶対みんな悪役令嬢が悪いから素っ気なくされてて、自業自得と思ってるわよ」

「だよねー、私も前世でそう思ってたもの」


この猫目(バーナード様曰く吊り目)のせいで、気も強くてワガママだと思われてるよね。銀髪もちょっとクールで冷たそうだし。


「ゲームのヴァイオレットは私と違うだろうから、本当のところはわからないけどね」

「まあそうね。だけど今現在この世界はここにあるわけで、私達にとってはリセットできない現実よ。今のヴァイオレットの性格はあなたなんだから、そんなことで悪役だと誤解されるのは悔しいわ」


私をわかってくれている人がいる。それだけでも救われるわ。


「ありがとう、優さん。私負けないわ」

「そうよ! いつかギャフンと言わせてやりましょう」



「ところでさ、優さんはどうする?」

「トレバー様のこと? もちろん、婚約解消に持っていきたいわ。もう彼に気持ちはないし、将来的に浮気をして私を裏切る男(仮)なんて、こっちから捨ててやるわ」

「トレバー様ルートに行かなくても?」

「うん、行かなくてもヒロインに心奪われるのは変わらないでしょ。振られたからって私に戻ってくるとか図々しいわ」


そう、もしヒロインが他の攻略対象ルートに行けば、元々仲が良かったユージェニーとトレバー様は元サヤに収まるのだ。逆ハーエンドなら娼館落ちだが。


「というか、今の私達って原作と違って仲良くないじゃない? その場合も元サヤになるのかしら」

「ホントだ。どうなるんだろうね」


原作にないパターンは予測ができない。


「すみれさん、私娼館なんてもっと嫌だわ」

「私も絶対嫌。そこもなんとかしなくちゃね」

「ヒロインに近づかないのは徹底しよう。嫌がらせしていると言われても反論出来るように、証拠も固めないとね」

「たしかに、それで逆に浮気の証拠を握って、向こうの有責で婚約解消に持っていこう」


うん、前世も証拠って大事だったもの。


「攻略対象との距離もあけていきましょう。婚約者だけど」

「向こうも大して気にしないでしょ」

「それもそうね」

「だけど王子妃教育は真面目にやるわ。怠けただとか因縁つけられたら困るもの」

「あぁ、あの王子ならネチネチネチネチ言いそう」

「自分は筋トレしかしてないくせにね」

「言えてる。私もお茶会の誘いだとか手紙なんかは一応やっとくわ。ユージェニーのせいで冷めたから心変わりした、とか言われかねないもの」

「くっそ腹黒筋肉眼鏡め!」

「あら、すみれさんお言葉が」


まだ起きてもいない未来なのに腹が立つ!


「外へのアピールのため証拠作りのために、やらなきゃいけない最低限はやる。でも学園では接触を控えるってことで」

「ラジャー!」




◇◇◇◇


「『いにしえの古文書解読研究会』の顧問の先生が決まったそうよ」

「まぁ良かったわ! どなたかしら? 言語学のフィービー先生あたりだと予想したわ」

「だといいわね、優しそうだし。でもさすがのフィービー先生でも日本語は読めないだろうな」

「ふふっ、言えてる」


私達はあーでもないこーでもないと話しながら、『いにしえの古文書解読研究会』に割り当てられた部室へ向かった。


「鍵が開いてる。もう先生がいらしてるのかしら」

「失礼いたします」


私達はノックをして扉を開けた。

そしてそこにいた人物を見て、固まってしまったのだ。


「やあ、ふたりとも来たね」

「「グリーングラス先生?」」


私達はスンッとなって、扉を閉めた。


『ちょっとちょっと、どういうこと? なんで攻略対象がいるのよ!』

『いやわからん! 私も混乱してる』


「ふたりともどうしたー? 入っておいてよ」

「えぇ、はい、失礼いたします」


まさかの攻略対象、ネイサン・グリーングラス先生が部室にいる! 先程、攻略対象とは距離を取ると決めたばかりなのに。どういうこと?

完全に盲点だったわ。グリーングラス先生の授業は、影のように存在感を消していれば乗り越えられると思っていたのに。まさかまさか顧問として関わってくるなんて! 今すぐ逃げたいっ!


はっ、優さんは? 大丈夫かしら?

隣を見ると、魂が抜けたような顔で遠くを見つめる優さんがいた。


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