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27 女の子だから異世界でも飾りたい

もうすぐ三月。優さんの誕生日が近付いているわ。

私の誕生日には、手作りの髪飾りと耳飾りを贈ってくれた優さん。だから今、私もせっせとプレゼントを作製中。


「ヴァイオレット、何をしているんだい?」

「あらお兄様、ユージェニーの誕生日プレゼントを作ってるのよ」

「なにっ? そういう事は早く言いなさい!」

「あれ〜? 言ってなかったっけ」

「一度も聞いたことがないぞ! それで、いつなんだ」

「三月三日よ」

「あと一週間しかないじゃないか! どうしよう、何を贈れば……」


あ、なんかブツブツ言い出したわ。そうだ!


「お兄様、今からでも間に合いそうなオーダーメイドの物があるんだけど――」

「なんだそれは! すぐに注文しよう!」

「あ、でも職人さんの所に行ってみないとわからないのよね」

「ならすぐにいこう! 今すぐ!」

「はいはい、わかりました」


私はお兄様に引き摺られるようにして、馬車へと乗り込んだ。



◇◇◇◇


着いたところは、木工細工のお店。裏に工房が併設されていて、職人さんと直接会ってオーダーすることも可能なのだ。


「ヴァイオレット、木工細工で何を作ってもらうんだ?」

「本で読んだ調理器具よ」

「調理器具? たしかにユージェニー嬢は料理に興味があるようだけど、もっとこうアクセサリーとかの方が女性は喜ぶんじゃないのかい?」

「いいえ、他の人との差をつけるにはこれしかないわ! 他の誰とも被らない、世界にひとつしかないプレゼントよ。絶対に喜ぶから、私を信じて!」

「お、おう。凄い熱量だね。わかったよ。どんなものなのか職人に説明してくれるかい?」

「任せてよ!」


私は職人さんに詳しい形状を説明した。イラスト付きだ。


「ここだけ色を塗るみたいだが、何色がいいですかい?」

「お兄様、ここはお兄様の瞳の色にしましょうか」

「いや、それはまだ早いな。彼女が疑われるようなことはよそう」

「わかったわ。では、パステルブルーとパステルピンクはどう?」

「いいな、彼女の柔らかい雰囲気に合っている」


たしかにね。誰かに見せるわけではないけれど、揚げ足取りされたら嫌だものね。


「親方、どれくらいで出来そう?」

「そうですな、初めて作るものですから五日ほどいただければ」

「良かった、間に合いそうだな。急で申し訳ないが、頼んだよ」

「はい、精一杯やらせてもらいます」




◇◇◇◇


三月三日、私とお兄様はグラント侯爵家へ向かう馬車の中。もちろん先触れも出して了承してもらっている。


「ヴァイオレット、本当にプレゼントはこれで良かったのだろうか」

「大丈夫よー、自信を持って!」

「だがなぁ、ちょっと地味じゃないか?」

「お兄様が選んだ本もお花もあるでしょ、きっと喜ぶわ」

「この花もなぁ……もっと華やかなのじゃなくて本当に大丈夫か? もっと時間さえあれば……クッ」


お兄様はずっとこの調子だ。ちょっとこの世界の常識からは外れてるかもしれないけれど、本人が喜ぶ物を贈る方が良くない? 私なら、使いもしないお高い宝石よりこっちの方が嬉しいよ。



「フレデリック様、ヴァイオレット、ようこそおいでくださいました。どうぞこちらへ」


私達は応接室へと案内され、メイド達がお茶を出してくれる。


「ユージェニー嬢、お誕生日おめでとうございます」

「まあ、もしかして私のお祝いのためにわざわざ来てくださったの?」

「もちろんよ。お祝いするって約束したじゃない!」

「覚えててくれて嬉しい! ありがとうヴァイオレット」


優さんったら、感動してうるうるしてる。


「はい、これは私からのプレゼントよ。十六歳のお誕生日おめでとう」

「これは俺からだ。気に入ってもらえるといいのだが」

「おふたりともありが――」


その時、ドタドタという足音がして突然ドアがバンッと開けられた。


「ユージェニー!」

「え? トレバー様?」


後ろから慌てた様子の執事が追いかけてきている。あぁ、案内も待てなかったのね。


「今日はお約束しておりましたかしら? 見ての通り来客中なのですが」

「あぁすまない。だが僕は婚約者だ、いつ来てもいいだろう」


いや、駄目だろう。予定を確認しないから、来客中に乱入なんておかしなことになるんだよ。


「ベイリー卿。俺達だったから良かったものの、入室の許可くらいは取ったほうがいいぞ」

「あっ、ヘザートン卿もいらしたのですか。執事がヘザートン様と言うから、てっきりヴァイオレット嬢だけかと……」

「ヴァイオレットだけでも、入室の許可は取ってくださいませね」


こいつはどこまで失礼なのよ。客が私だけなら乱入してもいいって言うの?


「次からはそうする。君の誕生日プレゼントを持ってきたんだ。ほら見てくれ!」


トレバー様は優さんの隣に座ると、グイグイとプレゼントを押し付けた。


「お、重っ!」

「さあ開けてみて! ほらっ早く」


こいつも空気が読めないな。私達がプレゼントを渡していたのに、突然乱入して自分のプレゼントを先に押し付けるなんて。


「えぇ……」


優さんは仕方なく先にトレバー様のプレゼントを開けた。


「これは、何ですの」


優さんがスンっとなってしまった。


「ペアのリストバンドさ! 君のは一キロのウエイトにしてある。ちょっと軽すぎたかな?」


それは、オーダーメイドだと思われる、片方が黒でもう片方が翡翠色をしたリストバンドだった。こいつまたかよ! しかもなんで得意げなんだ!


「僕の分もお揃いだよ。ほらっ」


袖を捲くって見せるトレバー様。いや、カフスボタンが留まってないじゃん。

優さんも、お兄様も、メイド達もドン引きしている。


「あ、ありがとうございました」

「いいんだよ、婚約者のためだもの。ところで、おふたりはなぜここにいらっしゃるんですか?」

「私達も誕生日のお祝いに……」

「ええ、プレゼントをいただいたところだったの」

「プレゼント? 何をもらったんだい?」


あんたがぶち壊しにしてくれたから、まだ開けてないんだよっ!!


「ヴァイオレット、開けてみても?」

「ええ、どうぞ見てちょうだい」


優さんは私からのプレゼントを丁寧に開封した。


「まあ! これってもしかして!」

「そう、ひな人形よ! クマちゃんだけど!」


私がプレゼントしたのは、二十センチ程の色違いのクマのぬいぐるみに十二単っぽいのと束帯っぽいのを着せたひな人形だ。


「クマはお店で買ったんだけど、着物は私が縫ったのよ。うろ覚えでちょっと違うかもしれないけど」

「ううん! とってもかわいいわ! 毎年この季節になったら飾るわね」

「この花も良かったら一緒に飾って」

「これ、桃の花かしら。お雛さまにピッタリね! 嬉しい」


そう、うちの庭に生えている桃の木から枝を少し切ってきたのだ。まだほとんど蕾だけれど、暖かい部屋に飾ったらそのうち開くでしょう。


「なんだ、ただの人形か」

「「「は?」」」


この筋肉眼鏡、めちゃくちゃ失礼な事言わなかった? あんた、自分のプレゼントの時と優さんのリアクションの違いがわからんのか?


「んんっ、ヴァイオレットありがとう。すぅっっっごく嬉しい!」


あ、もう筋肉眼鏡はスルーする方向みたい。


「うん、かわいがってね」

「ええ! フレデリック様のプレゼントも開けてみても?」

「もちろん」


優さんは一つ目の包みを開けた。


「まあ、詩集ね! これって、あの時話した――」

「そうだ。うちの図書室で、読んでみたい詩集があると言っていただろう?」

「覚えていてくださったのね! ありがとう! こちらも本? にしては細長いわ」


優さんが二つ目の包みをあけて、固まった。


「なんだ、変な木の棒が四本。フッ」


こいつ鼻で笑いやがった! くっそー!


「うそ〜〜〜! なんで? なんで菜箸があるの?」

「それは、ヴァイオレットからアドバイスをもらって、工房で作ってもらったんだ。どうかな?」

「嬉しい! だってどこにも売ってないんですもの! 本当に嬉しいわ!!」


それは、あの木工細工の工房で作ってもらった、三十センチほどの菜箸だ。持ち手の所はパステルブルーとパステルピンクに塗ってある。並んでるとちょっと夫婦箸みたいだな。


菜箸を見た優さんのテンションも爆上がりである。ほらね? お兄様。

隣をチラッと見ると、お兄様もびっくりしていた。


「まさかそんなに喜んでもらえるとは」

「ええ! これで色んな料理を作りますわ! フレデリック様、ありがとうございます!」


優さんは菜箸が入った箱を抱きしめて、お兄様にお礼を言った。


「まあ、僕のプレゼントには敵わないかな。僕の瞳の色とユージェニーの瞳の色のペアだし」

「俺は友人としてプレゼントしたんだ。俺の瞳の色が入っていたらおかしいだろう。誤解を招くようなことを言わないでくれないか。ユージェニー嬢にも失礼だ」


トレバー様が変な対抗心を燃やしているけど、優さんが疑われないようお兄様がきっちりと否定した。


「そうですか、ならいいんですが。ユージェニー、僕は殿下の補佐に行くから失礼するよ」

「わかりました。わざわざありがとうございました」


優さん、めっちゃ塩対応。トレバー様はそのまま執事に案内されて帰っていった。


「なにあれ。殿下の補佐って、筋トレよ。この間王宮で見たもの」

「なんでもいいわ、帰ってくれるなら。おふたりとも、ごめんなさいね」

「大丈夫だよ」




その時、執事がノックをして入室の許可を求めた。


「失礼するわね、ちょっとご挨拶にきたの」


そう言って入ってきたのは、ソフィアお姉様だ。


「ソフィアお姉様、ごきげんよう」

「ソフィア嬢、お邪魔しております」

「フレデリック様、ヴァイオレットちゃん、いらっしゃいませ」


優さんが先程のことを、ソフィアお姉様に掻い摘んで話した。


「いやいや、リストバンドって。おっも! 何キロあるのよこれ」

「片方が一キロ、両方着けると二キロね」

「ユージェニーをゴリラみたいにしたいのかしら。いくらなんでも貴族の娘のプレゼントにこれはないわぁー。せめて花でも贈ればいいのに」


ソフィアお姉様もドン引きである。


「こうやって見ると、どちらがユージェニーの事を思って選んでくれたかわかるわ。あれは独りよがりって言うのよ」

「ええ、私ヴァイオレットとフレデリック様のお心が本当に嬉しいの。私の事を思ってくれたのが伝わってくるわ」


後ろのメイド達も、うんうんと頷いている。だってね、結局あの男『おめでとう』の一言すらなかったのよ。終始プレゼントの事しか言ってなかった。



「早く赤の他人にしてあげたいわ……そうだ、私の婚約者は第一王子殿下の側近だと話したわよね?」

「たしか、ハーディング公爵子息だったか。俺も社交の場でよく話をさせてもらっているよ」

「そうなんですの。その彼との縁で、第一王子殿下のお妃様とも縁ができましてね」

「まあ! オリヴィア妃殿下と!?」



第一王子殿下とオリヴィア妃殿下は最近結婚したばかり。そのオリヴィア様がどうなさったのかしら。


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