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25 クラス劇後の意外な影響

学園祭から一週間が経った。学園内を歩いていると、『男装素敵でした!』とか先生からも『面白かったよ』なんて声を掛けられることも増えた。


あのクラス劇の後、素早く撤収した私達は教室に集まり、担任のキートン先生が差し入れしてくれたお菓子とネイサン先生が差し入れしてくれた飲み物で、軽い打ち上げをした。さらにみんなも打ち解けてくれた気がするわ。この際だから、敬語や様付けで呼ぶのもやめてもらうようお願いした。だって同級生なのに、前世の感覚では落ち着かないのよ。

こういうのなんかいいわよね。クラスで何かをやり遂げるって、青春って感じ! 中身アラサーだけど!



今日はいつものジェシカさん、セーラさん、ミレナさんと優さんと私の五人でカフェテリアに来ている。


「そういえば、あのポスターが大人気で増刷したらしいわ」

「美術部の子が言ってたけど、劇の直後に『あのポスターはどこで手に入る?』と聞かれたから『もう終わったから剥がしていいですよ』って言ったらしいの」

「そうしたら貼った分が全部無くなってたんだって。『回収する手間が省けたわー』なんてのんきに言ってたけど。それじゃ終わらなくて、自分も欲しいって問い合わせが殺到したらしいの」

「とうとう増刷することになって、その分は販売することになったらしいわ」

「おお、たしかに上手かったものね」



美術部からも正式に販売することは聞いている。もちろん、描いたのは彼女達なので私達に異論はない。ほぼ印刷代くらいの安価で販売だが、もし少しでも利益が出たら部費にすると喜んでいた。

何を隠そう、我が家もお兄様に頼まれて三枚予約済だ。


「お兄様、三枚も買ってどうするの?」

「額に入れて飾る用と、保存用とその予備だ」

「額……三枚目は布教用ではなくて?」

「布教なんてするわけがないだろう! ユージェニー嬢にこれ以上変な虫がついたらどうする!」

「そ、そうね」


今ついてる変な虫って、トレバー様のことかしら。




「うちのクラスの後に合唱をしたクラスも喜んでいたわよ」

「観客がだいぶ残ってくれたみたいで、沢山の人に聴いてもらえたって」


おー、思わぬ効果があったようね。


「そうそう、あのヴァイオレットさんが着た衣装も好評だったらしいわ」

「まあ、それは当然よ! とてもオシャレだったし、動きやすくて着心地もとてもよかったのよ」


私も全力でお兄様におすすめしたのだ。早速、邸に来てもらうよう予約をしているという。


「先生方も何人か、彼女のテーラーへ行ったんですって」

「あの衣装も、上手く出来てるからってお父さんが店内に飾ってくれてるらしいわ」

「おかげで、お客様が増えたって喜んでいたわよ」


あの仕上がりですもの。たとえ私が衣装にしなくても、人気が出るのは時間の問題だったわね。彼女は将来きっといい紳士服のデザイナーになるわ。



「ハーランド役の彼も演劇部に勧誘されているって」

「それは納得よ、本当に憎らしくなるほど演技が上手かったわ」

「でも俺、そんなガラじゃないし。むしろモノマネしただけなのに」


おっと、ご本人が近くにいたようね。


「あなた本当に上手かったわよ! 私も思わずお芝居を忘れて言い返しちゃったもの」


優さん、あれはみんな少し焦ったわよ。そこで優さんが何か思い出したかのように、しゅんとなった。


「三人とも、あなた達の書いた台本のセリフを勝手に変えてしまって、ごめんなさい」

「いいんですよ! 却って面白くなったわ」

「あの一言がスカッとしたって、あとから感想を言われたくらいだもの」

「本当? 他のキャストも合わせてくれて助かったわ」

「なんの、あれくらい。俺もスカッとした」


「また来年もやって欲しいって声があったわよ」

「無理です〜! 次もあるなら裏方でお手伝いするわ」


きっぱりとお断りしとかないとね。優さんも、コクコクと首を縦に振っている。聖フォーサイス学園は、基本的に三年間クラス替えがないのだ。来年もこのメンバーで何かをすることになるけど、もう主要キャストは勘弁願いたい。かき氷器役なら率先してやらせてもらうけど!




「そういえば、ダンスタイムの話は聞いた?」

「なあに? 私知らないわ」


劇の撤収でバタバタしたのと、そのまま教室で打ち上げになだれ込んだから、うちのクラスは誰もホールには近付いていないのだ。


「俺も聞いたぞ。殿下のあの講堂での言動のせいで大ひんしゅくを買ったってな」

「そうらしいの。毎年それなりにホールも盛況らしいんだけど、今年は殿下とお近付きになりたいっていう野心でギラギラ系の女子が数人いただけだって」

「そもそも他の生徒会役員達も、ダンスタイムは殿下の仕切りだからってお任せして、劇の方に来ていたらしいわ」

「マジかよ!」

「二、三年生の役員達も、何か思うところがあったみたい。最近は一年生役員と溝があるって噂よ」



生徒会室はトレーニングルームにして、仕事もあまりしてなさそうだったしね。その気持ち、わからんでもないわ。

だけど原作のゲームでは、攻略対象達は生徒会役員として全校生徒から尊敬され憧れの存在だったのよ。一年生の時点でこんな感じだったら、三年生の時はどうなってるの? まさかゲームが始まらないなんてことはないわよね? それはそれで困るわ。予定通り浮気をして婚約破棄はしてもらいたい。



「実はあれ、わざと同じ時間になるよう申請をしたのよね」

「えっ、そうだったの?」

「だって、同じ時間にクラス劇をやれば、おふたりはダンスを踊らなくて済むでしょ?」

「まあ、私達のために……ありがとう」


三人ともドヤ顔をしている。そこまで考えてくれていたなんて、嬉しくて泣きそうだわ。




◇◇◇◇


「ネイサン先生、先日の学園祭ではお世話になりました」

「お陰さまで、怪我もなく無事に終えることができましたわ」


今日は久しぶりの『いにしえの古文書解読研究会』の活動日である。約一か月お休みしていたものね。ネイサン先生とは、ほぼ毎日放課後練習で顔を合わせていたけれど。


「ああ、職員室でも大評判だったよ。あんなに人が集まった出し物も初めてだって」

「ありがたいことですわ。てっきり観客は身内だけかと思っていましたもの。ね、ヴァイオレット」

「ええ。だから余計に、最後あんな騒ぎになってしまって申し訳なかったですわ」

「君達のせいじゃないって、皆もわかっている。一年生担当の先生は薄々気付いていたけれど、二、三年生担当の先生は殿下の暴挙に驚いていたよ。第一王子が人格者だっただけに、そのイメージがあるみたいで。君達に対していつもあの調子だったら、いくら外面が良くても遅かれ早かれ周りにも気付かれていただろう」


先生方も、沢山あの講堂にいらしたものね。噂ではなく、自分の目で見たものは疑わないだろうし。


「君達も気を付けなさい。逆恨みされないとも限らないから」

「逆恨み……」

「ユージェニー、たしかに当たりは前よりもっとキツくなるかもしれないわね」

「何かあったら相談するんだよ、その時は僕も剣で挑んでみようかな」

「まあ! その時はお願いしますわ。ふふ」


ネイサン先生は劇中のヒーロー、ナイジェルを倣って言っているのね。先生ってば意外とノリがいいのよ。



「ところで先生、それはなんですの? 魔道具かしら」

「ああ、ちょっと作ってみたけどまだ試作段階だよ。そのうちお披露目するよ」

「そうですか、楽しみにしております」


ネイサン先生は小さな箱のような物をいじりながら、ふわりと笑った。


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― 新着の感想 ―
青春の残火(*´∇`*) なんちゃってすみません、言ってみたかっただけです。
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