22 魔法学実習 特別アドバイザー
私達は、学園祭で披露するクラス劇『フォーサイスの華』の稽古を始めた。放課後の教室に残り、半分はキャストとして劇のセリフや動きを合わせて練習。半分は裏方として、セットの書割を美術部員指導の元、描いていく。申請すれば予算も出るので、その範囲内で出来ることをしている。
「これはカフェテリアの書割ね。下描きはしといたから、色塗りをお願い」
「「「ラジャー!」」」
チームワークが凄いわ。絵もとても上手いの。さすがは美術部ね。
「学園モノだったから、思ったより衣装がいらないわね」
「ほとんどの登場人物は生徒だから、制服のままでいける。ナイジェル役の分くらいかな」
「よしっ、その一着に全力投球するわ!」
いや、普通の服で十分ですよ……やけに細かい所のサイズまで測られたんですけど。
「音楽はピアノの生演奏で。あなたピアノが得意だったわね」
「ええ、やるわ! シーンに合わせた曲をその場のフィーリングで弾いてもいいかしら」
「任せた!」
えっ、そんな感じでいいの? というか、逆にそれが出来るのがすごいわ。
「ヴァイオレットさん、殺陣の練習をしましょう」
そうだった! 私とクソ婚約者との剣の対決シーンがあるんだ。
「私、剣の経験がないド素人だけど大丈夫かしら」
「最初から動きを決めておけば、闇雲に剣を振り回さなくていい。ダンスの振り付けみたいなもんですよ」
「なるほど、たしかにそうね」
私達は決められた動きを覚えるように、何度も何度も繰り返した。それを見ていたジェシカさんが、顎に手を当てう〜んと考え込んだ。
「もうちょっと、動きに迫力がほしいわね。高くジャンプして剣をキーンと合わせるみたいな」
「やってみようか」
はい、なんでも言われた通りにやりますよ。ジャ~ンプ! スカッ――あれ? 剣が当たらないわ。
「ヴァイオレットさん、ジャンプ力が……っく」
ちょっと、なんでみんな肩を震わせてるのよ!
「えいっ!」
ほら、ちゃんとジャンプできるわ! あれ? なんでみんなしゃがみこんだの?
「全然、飛べてない、ブフッ」
「え〜〜ウソッ」
自分では結構飛べた気でいたけど、全然高さがなかったらしい。しかも相手は男子だから、身長差もある。相当高く飛ばないと、格好が付かないわね。
「えいっ! えいっ!」
「ブフッ、ピョコピョコしてる。うくくっ」
駄目だわ、飛ぶたびにみんなが笑いの渦に巻き込まれていく。これコメディになっちゃわない?
「ちょっとそこはどうにか考えてみましょう」
「なんかごめん……」
だって私、ポンコツなのよ。今さらよね?
「あとさ、剣が金属に見えるよう模造した木剣だから、こう火花が散ったりしないじゃない? そういう迫力もほしいわね。カキンって音とか」
どんどん求められるクオリティが上がっている。大丈夫か? 私……
◇◇◇◇
魔法学実習の日、私達は授業が始まる前にも魔法訓練場で殺陣の練習をしていた。
剣の動きはマスターしたけど、ジャンプの高さがどうしても出ないの! どうすりゃいいのさ!
「剣を振り回してどうしたの?」
「「「ネイサン先生!」」」
「すみません、すぐ授業の準備を――」
「あぁ、もしかしてクラス劇の練習かい?」
「そうなんです。でも上手くいかないところがあって」
私達は、ジャンプが上手くいかないことや、剣の火花がほしいことなどを先生に話した。
「ふむ、じゃあこんなのはどう?」
ネイサン先生は片手をふわりと私の方に向けると、
「ほら、浮くからバランス取って」
と言った途端、私の体が宙に浮いた。
「わっ、なにこれ!」
「風魔法の応用だよ。これで剣を振れば高く飛んだように見えない?」
「すごい! これならいけるな!」
「ああ、いける! 先生、俺もジャンプして剣を合わせていいですか?」
「タイミングを合わせよう。せーの!」
カンッ! 剣が当たった!
「わ、できた!」
「できたな!」
私と婚約者役の男子は、剣をカンカン当てて喜んだ。
「あー、あとは金属が当たる時の火花だっけ? その剣を合わせてみて」
カンッ! バチッ
「「「おお〜〜」」」
みんなが感心している。
「小さな花火をそこに散らしたんだ。このクラスに花火が出せる子いたよね?」
「はいっ、僕出せます」
「魔力量を調整して、なるべく小さな花火を出してみて」
「こうですか?」パチッ
その男子生徒の手のひらに、小さな花火が散った。
「そうそう、そんな感じ。じゃあそれを剣に向かって飛ばす」
「はいっ」
カンッ! パチッ
「いいね。だけど遠くのお客さんには見えないかもしれない。そのあたりを確認しながら大きさを調整したほうがいいね」
「ありがとうございます!」
「ヴァイオレットさんを浮かす風魔法は、誰がやる?」
「あ、俺が――」
「僕がやろう。人を浮かすのは危険が伴う。もし浮かしすぎたり、途中で落としたりしたら危ないだろう?」
食い気味に立候補したわね、先生。まあ、一理あるけど。私もバランスを崩して落ちたら怖いわ。
「でも、先生に手伝ってもらっていいんですか?」
「あぁ、僕はクラス担任を持っていないから、自分のクラスの出し物もないしね。顧問をしている倶楽部もしばらくお休みだから、放課後の練習にも付き合えるよ」
そう言って、パチンと私と優さんにウィンクした。たしかに。
「あとは何がほしい? クソな婚約者に雷でも打ち込むか?」
「ネイサン先生〜俺はただの婚約者役ですよ? 雷は勘弁してくださいよ」
みんながドッと笑って、和やかな雰囲気に包まれた。
結局、ネイサン先生にはうちのクラス劇の特別アドバイザーとして、稽古から本番まで関わってもらうことになった。
キーンという音は、魔石を使って音が出るよう魔法式を組んでもらった。なにげに普通の剣を使うより手間が掛かっているわ。
「ネイサン先生、結局毎日稽古に付き合わせてしまって、倶楽部よりも忙しくてすみません」
「いいんだ、僕も楽しんでいるし」
「そうですか、ありがとうございます」
攻略対象とはあまり関わらないつもりだったのに、ガッツリ関わってしまっているわ。
まだゲームは開始していないけれど、ちょっとマズイわよね……?




