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21 新学期と学園祭

優さん達が帰った一週間後に私も王都へと戻った。


その帰るまでの一週間、厨房でお米を使った料理をいくつかレクチャーしておいた。ネギとハムと玉子のシンプルなチャーハン。誰かが体調を崩した時にピッタリな玉子雑炊。めんつゆの果汁を使った親子丼。

鶏肉、にんじん、キノコを入れめんつゆの果汁で味付けした炊き込みご飯は、おにぎりにしたらまかないにいいわね。

『こんなものは食べたことがない!』と料理人達は驚いていたけど、またアレンジして色々作ってくれたらいいな。



そうそう、執事のホートンの働きで、正式にグラント侯爵家からお米を仕入れることが出来たらしい。隣国から直接の輸入はできないので、ツテのある侯爵家から分けてもらうという方法でね。ちゃんと適正価格での取引よ。これでうちも好きな時にご飯が食べられるわー。




◇◇◇◇


今日から新学期。クラスメイト達と会うのも久しぶりね。そうそう朝のホームルームで、担任のキートン先生からお話があったの。


「一か月後に学園祭があります。クラスごとにお店や出し物をすることができますので、午後の話し合いの時間までにアイデアを出しておいてください」





「学園祭ですって」


昼休み、久々に再会したジェシカさん、セーラさん、ミレナさん達と一緒にランチをしている。


「いつもはどんなお店や出し物があるのかしら」

「食べ物を売るお店や、教室で生徒が給仕をするカフェなんかもあるらしいわ」

「合唱や演劇を披露するクラスもあるそうよ」

「やる気のないクラスは、椅子を並べて『休憩所』にするって聞いたわ」


三人が情報をくれる。なかなか詳しいわね。そういえば二年後の学園祭で、ヒロインが攻略対象とオバケ屋敷に入るとかいう、ベタなイベントがあったなー。



「そういえば、ダンスタイムもありましたね」

「「ゲエッ」」

「おふたりともどうされました? ご気分でも悪いの?」

「いえ、それって婚約者がいたらその人と踊るやつよね?」

「あっ……」


察してもらえたようだわ。昼間のホールでお遊び的にやるダンスタイムなので、服も制服のまま。だけど参加するとしたら、やはり婚約者持ちはその人をパートナーとするのが慣例だから……


「まあ、呼びに来ないかもしれないわ」

「それもそうね、生徒会役員の仕事が忙しいでしょうし」


トレバー様はわからないが、バグでバーナード様はダンスが苦手になったんだもの。わざわざ人前で嫌いな婚約者と踊ったりしないはず。


「そろそろ教室へ戻りましょうか。うちのクラスの出し物も決めなくちゃね」




午後の話し合いは、皆から色々な案が出たわ。私も何かお手伝い出来ればとかき氷屋さんを提案したのだけれど、一か月後は少し寒いということで票が入らなかったの。残念。


「では、多数決でうちのクラスは演劇ということに決定しました!」

「「「わーー!」」」パチパチパチパチ



すごいわ、演劇ですって。うちのクラスはやる気のある生徒が多そうね。まあ、私は元々脇役の悪役令嬢(仮)ですし? 裏方の大道具さんや照明さんでもやらせてもらいましょ。



「脚本を書ける人はいますか?」

「「「はいっ!」」」


おお、ジェシカさん、セーラさん、ミレナさん達が立候補してる。物語を書く才能まであるなんて、三人とも素晴らしいわ!うんうん、応援しよう。


「衣装が作れる人は?」

「はいっ、うちテーラーなの。ミシン使えます。半端なあまり布も使わせてもらえると思うわ」


まあ、服が作れるなんて素晴らしいわ。うちのクラスは才能あふれる人が多いのね。


「では、脚本ができ次第キャスティングとその他の役割分担をしましょう。大道具や衣装を作らないといけないから、脚本はなるべく早く上げてくれるとありがたいです」

「「「任せて!」」」



どんな演劇になるのかしら。楽しみね! 

こういう学校行事って本当に懐かしいわ。前世アラサーだったから、もう一度こういうことが出来るなんて思ってなかったの。なんだかとってもワクワクするわ!




◇◇◇◇



――で、どうしてこうなった。


「劇のタイトルは『フォーサイスの華』三十分程度の短いお話です」

「婚約者に虐げられるヒロイン役はユージェニーさん、それを助けるヒーロー役はヴァイオレットさんでお願いします!」

「「は?」」


隣の優さんも呆然としているが、ハッと気付くと手を上げた。


「あのジェシカさん? 私、岩とか馬の脚役とかでいいわよ?」


うんうん、私も出るならその辺りがいいわ。


「いいえ! これはおふたりをイメージして書いたの」

「おかげで熱が入って三日で出来上がったわ。他の人には演じきれません!」

「みんな、異議はないわよね?」


「「「異議なーーし!」」」パチパチパチパチ


「演劇部の方はいないの?」

「「「うちのクラスにはいませーん」」」


ちょっと三人とも、何やってくれてるのよ。



「あの、私は一応女子ですから、ヒーロー役は無理がないかしら? 男子にお任せしたほうが……」


一応私も提案してみた。前世でも女性が男性役をする劇団はあったけれども、素人の私では無理なんじゃ……


「何を仰るんですか! 俺達に麗しい貴公子役なんて出来るわけがないでしょう」

「その代わり、筋肉クソ野郎な婚約者と取り巻きの役は任せてください」

「一か月で身体を仕上げてきます」


いや、頑張る方向が変よ。てか、婚約者は筋肉なの?

どうしよう、クラスメイトが満場一致なのがつらいわね。演技なんかしたこともないのに。



「とりあえず、台本を読んでみるわ」


ええと、なになに。ヒロインのマーガレットは学園に通う伯爵令嬢。婚約者の侯爵子息ハーランドから疎まれている。ある日カフェテリアで婚約者から罵倒され、辱められるマーガレット。そこにそっと駆け寄ってきてくれたのは、臨時講師で公爵家子息のナイジェル。それ以来、付かず離れず見守ってくれる。その後も、マーガレットを蔑ろにして他の女性をダンスに誘うハーランド。


とうとう卒業式の日に、ハーランドが別の女性をエスコートしてきた姿を見て、ナイジェルが切れた。「君が大事にしないのなら、マーガレットは私がもらう」そう言って、ハーランドに剣の対決を申し込む。筋肉質で自信満々なハーランドは鼻で笑っていたが、ナイジェルからコテンパンにやられその場で婚約破棄される。マーガレットにプロポーズをするナイジェル。ふたりは抱き合ってメデタシメデタシ。


「えっと、カフェテリアのくだりいる?」

「「「絶対に必要!」」」


微妙に事実も混ざってるし、卒業式で事件が起こるのは予言かな?


「せめて婚約者の名前は変えない?」

「じゃあバーナ――」

「今のままでいいわ」


これ大丈夫かしら? 見る人が見たら、前半は私とバーナード様っぽいと思うわよね。ヒーローみたいな臨時講師はいないけど。


「不敬にならない?」

「あら、どなたに不敬になりますの?」

「こんな酷いことをする男なんかいた?」

「現実にいたらクソ野郎だよ」

「てことで、大丈夫でーす。あくまでもフィクションです」


おぅ、それならいいけど。


「心配しなくて大丈夫! 私がポスターに『この物語はフィクションです』ってちゃんと入れときますから」


美術部の子がポスターまで描いてくれるのね。はぁ、ちょっと不安だけど……腹を括ったわ。


「分かりました、やりましょう」

「「「わーーー!」」」


「私もやるわ」

「ユージェニー様! ありがとうございます!」

「裏方は任せてください! 絶対に成功させましょう!」


本番まで一か月弱。倶楽部活動はお休みして、お稽古を頑張らないとね。



◇◇◇◇


「ネイサン先生、実はカクカクシカジカ」


先生にしばらく倶楽部活動が出来ない理由を説明した。カクカクシカジカって便利な呪文ね。


「そうなんだ。それはかまわないけど、ちょっと僕もその台本が見たいな」

「他の人には内緒にしてくださいよ?」


台本を渡すと、先生がパラリと台本をめくり読み始めた。あら、なんか難しい顔をされてるけど、やっぱりマズかった?


「この、ヒーローの臨時講師役は誰がやるの?」

「私です」

「は?」


やっぱり変だよねー。本当は悪役令嬢(仮)だし、ヒーローって柄じゃないもの。


「じゃあ、このヒロインのマーガレット役は?」

「私です」


うん、優さんはかわいいからヒロインでも納得よね。


「くくっ、なるほどね」

「ネイサン先生?」

「話の内容からして、てっきりヘザートンさんがマーガレット役だと思ったんだ。で、ヒーロー役は他の男子生徒がするのかと」

「女の私がヒーロー役なんて変ですよね?」

「いや、これはいい。きっと面白いものになるよ。僕も楽しみにしてるよ」


やだー! 恥ずかしいから観に来ないでください!


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