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20 ヘザートン公爵領 街歩き

今日は、邸からほど近く領地の中でも一番栄えている街へやってきた。ここなら王都と違って、デートしてても他の攻略対象達に会わないわよね。

あ、デートってフレデリックお兄様と優さんのね。ふたりをいい感じにしたいじゃない? 大っぴらにはまだ無理だけど、友達以上恋人未満くらいには持って行きたいところよ。

もちろん、万が一の為に私とロジャーも一緒よ。最悪、学校関係者や攻略対象関係者に会っても「みんなでお買い物」でどうにかなるしね。


「この辺りは、路面店もあるが小さな移動屋台も歩道に出ているんだ」

「まあ、本当ですわね。食べ物の屋台とか、お花屋さんとか」

「あ、ちょっと待ってて。ロジャーおいで」


お兄様はそう言うと、ふたりで花を売っている屋台の方へ小走りで行ってしまった。どうしたのかしら?ロジャーと楽しそうに話しているけど。


「はいこれ、ユージェニー嬢どうぞ」

「ヴァイオレットさん、どうぞ」

「「まあ!」」


お兄様は優さんへ、ロジャーは私へ花を一輪ずつ前に差し出した。


「茎を少し切ってもらったから、髪に挿してあげるよ」

「ヴァイオレットさんの髪飾りの色に合わせたんだよ」


キャー素敵! お兄様やるじゃない! 花束だと今から歩くのに荷物になっちゃうけど、髪に飾るなら問題ないもんね。

私も今日は誕生日に優さん達が作ってくれたリボンの髪飾りを着けているけど、それと一緒につけても違和感のない色合いを選んでくれたみたい。


「あ、ありがとうございます」


優さん、顔がほんのり赤いわ。私も天使のロジャーにキュンキュンする〜。


「ロジャーありがとう。とっても素敵だわ」

「えへへ」


私達はそれぞれ結び目の所に花を挿してもらった。お花って贈られると気分が上がるわ〜。


「さあ行こうか。人出も多いから、腕をどうぞ? ユージェニー嬢」

「ヴァイオレットさん、お手をどうぞ」

「ふふ、ありがとう」


お兄様と優さんが腕を組んで、私とロジャーが手を繋いで街を歩く。なかなかお似合いだと思うわ。


「みんな、気になる店があったら言ってくれ」

「「「はーい」」」


私達は目に付いた店をのぞいた。焼き菓子のお店ではクッキーを買ったし、紅茶専門店では色々なお茶を試飲してみた。


「あ、かわいい雑貨屋さん」

「ん? 気になるかい? 入ってみよう」


優さんが見つけたのは、色々な小物を扱う雑貨屋さん。インクやレターセットなどの文具から、ハンカチやポーチ、リボンなどの布製品もある。


「あ、これかわいい」


それはガラスで出来た、子供の手のひらサイズの小さな動物の置物だった。


「僕もこれほしいな」

「よし、じゃあみんなで今日の記念にひとつずつ買うのはどうだい?」

「いいねー!」


みんなそれぞれ好きな動物を選びだした。どれもかわいいから迷ってしまうわ。


「僕、この猫ちゃんにしようかな」

「いいわねロジャー、私はワンちゃんにしようかな」

「うん! ヴァイオレットさんのもかわいい! ベアトリス小母様にもウサギをお土産にしようっと」

「ウサギ……」


「私はこのクマちゃんにしよう」

「じゃあ俺も色違いのこれにしよう。買ってくるね」

「あの、いつも買ってもらうばかりじゃ申し訳ないですわ」

「そうかい? これくらい構わないんだが……それなら、お互いに買ってプレゼントしようか」

「ええ、それなら」


私達はそれぞれガラスの置物を買うと、私とロジャーがプレゼントしあい、お兄様と優さんがプレゼントしあった。


「ふふっ、ペアのクマちゃんだね」


あ、そういうことね。お兄様は優さんとペアになるように選んだんだ。いいじゃん、ペアのガラス細工。ペアのダンベルを超えたわ!



「あっちは市場のようだ。野菜や果物や肉なんかもありそうだな」

「私、見てみたいですわ! ね? ヴァイオレット」

「うん、いいわよー」


私達は、市場を見て歩いた。わー野菜がいっぱい。こっちは何のお店かしら。うん? この匂いは……


「「カレー!」」


沢山の種類のスパイスが並んだお店では、匂いが絶妙に混ざり合ってカレーの匂いがした。


「カレー食べたいよね」

「うん、完全にカレーの口になってる」

「「よし、買おう」」


私達はスパイスを物色し始めた。前世はカレールーしか使ったことがないけど、動物的な勘でカレーに入ってそうなスパイスをくんかくんかと嗅ぎながら選んでいく。


「ふたりとも急にどうしたんだい?」

「お兄様、カレーが私達を呼んでいるのよ!」

「おぉ、よくわからんが、そうか」


大人しくなったお兄様をよそに、スパイスを買った。


「たしか、バターと小麦粉を炒めてスパイスを入れたらルーっぽいのができるよね」

「うん、それで行けると思う。野菜と肉も買うか」

「おう!」


私達は完全にカレーに支配されていた。玉ねぎ、にんじん、じゃがいものオーソドックスな日本のカレーを目指す。その辺りの野菜は邸にもあるはず。あとは肉と……


「あら、この果物はなあに?」

「ああ、それがめんつゆの実だよ」

「こ、これが! まぼろしの麺つゆ!」


果物屋さんに、茶色いオレンジのようなものが山積みにされていた。興味津々の優さんに、すかさずお店の人が売り込む。


「お嬢さん、めんつゆの実は夏が旬なんだ。他の季節でも瓶詰めは手に入るが、フレッシュなめんつゆが手に入るのは夏だけだよ!」

「フレッシュな麺つゆ……ブフッ」


あ、ツボに入ったね。優さんはうつむいて肩を震わせ堪えている。


「それいただくわ。んぐ、フレッシュ……」



優さんは吹き出しそうになりながらも、ちゃっかりめんつゆの実を購入した。家に持って帰りたいらしい。あとは肉も手に入れ、私達は邸へと戻った。



◇◇◇◇


邸に戻ると、『夕食に、ご飯を使ったものを一品作りたいけど大丈夫か』と、料理長に聞いてみたら、二つ返事で了承してくれた。


「急にメニューを変えてしまってごめんね」

「まだ変更可能なので、気にしなくて大丈夫ですよ。なにか手伝うことはありますか?」

「そうね、みんなのまかないの分も作るから、野菜を切るのを手伝ってくれる?」

「分かりました!」


料理人達に、にんじん、じゃがいもは一口サイズに、玉ねぎは薄切りにしてもらった。結構大量ね!


「よし、玉ねぎを炒めるわよ」


なるべく玉ねぎはあめ色になるまで炒める。まぁ、そこまで厳密にやらなくてもいいや。お肉はすぐ柔らかくなりやすいチキンにしてみた。寸胴鍋にチキンとにんじん、じゃがいもを入れて炒める。お水を入れて煮る。分量は結構適当だ。


「ユージェニー、ルーを作ろうか」

「分かったわ」


料理人達に教えながらお米を研いでくれていた優さんを呼び、バターと小麦粉を炒めたら試行錯誤しながらスパイスを入れていく。


「これが何のスパイスかわからないけど、入れちゃえ。生姜があるわね、これもすりおろして入れちゃえ」


優さん、意外と大胆である。適当でもカレーっぽい匂いになるから不思議ね。


「トマトも潰して入れちゃえ」


ケチャップとか隠し味で入れたりするもんね。いけるいける、トマトカレーって美味いよね。


鍋の野菜が煮えたら、先程の玉ねぎとルーを入れた。


「はわ〜カレーの匂い」

「たぶん、成功?」

「これはなんという料理ですか? 見た目はビーフシチューに似てますが匂いが違う」


しっかりメモを取っていた料理長が尋ねる。


「「カレーライスよ」」

「カレーライス? 初めて聞きました」

「そう! ご飯にかけて食べるの」

「作り方は大体わかりましたが、スパイスは何種類くらい入れるんですか?」

「ん〜わかんないから適当。料理長の好みでいいわよ。こんな色と匂いになれば成功よ」

「そんな無茶な」

「カレーなんて、何を入れてもいいのよ。肉は牛肉や豚肉に代えてもいいし海老とかでもいけるわ。ゆで卵や目玉焼きを乗っけてもいいし、焼いた野菜を添えてもいいわ。キノコカレーも美味しいわよ」

「ふむ、研究しがいがありますな。付け合せはいかがいたしましょう」

「生野菜サラダはできる? あとはスープか卵料理とか」

「オムレツでもしますか」

「そうね、オムカレーも美味しいのよ」



カレーもみんなに好評だった。野菜をたっぷり入れたから、ロジャーでも辛くはなかったみたいでおかわりもしてくれたわ。使用人達にも好評だったようで、『二日目のカレー』は食べられなかったけど、喜んでもらえてよかった。


あ、街でお兄様と優さんをいい感じにする予定だったのに、最後カレーに引っ張られちゃってるわ。ごめん、お兄様。



◇◇◇◇


「もう帰っちゃうの? ずっといてもいいのよ? 小母様の家の子にならない?」

「それはお父様とお母様に叱られちゃう。僕も長男だから」

「あーん、ロジャーがいないと寂しいわぁー」


優さんとロジャーが帰る朝、お母様はガラスのウサギを握りしめて駄々をこねてる。


「ユージェニー嬢、一緒に過ごせて楽しかったよ。また王都でも遊びにきてくれ」

「はい、私もとても楽しかったですわ、フレデリック様」

「これ、大事にするよ」


お兄様がガラス細工のクマちゃんを大事そうに撫でた。


「ええ、私も部屋に飾りますわ」


優さんも大事そうにクマちゃんを撫でた。いい感じなので、放っておく。



「ロジャー坊っちゃん、これふりかけですよ」

「ボブ爺! ありがとう」

「また、ヘザートン公爵領に遊びにきてくだされ」

「うん、また一緒におにぎり食べようね」

「ロジャー坊っちゃん、約束ですぞ」


ボブ爺とロジャーもすっかり仲良くなったみたい。まるで孫とおじいちゃんね。



「名残り惜しいけど、あまり出発が遅くなると王都に着くのが遅れるわ」

「そうね、ヴァイオレットもありがとう。また学校でね」

「うん、私ももう少ししたら王都に戻るわ。気を付けて帰ってね」

「うん。皆さまお世話になりました。ありがとう!」


ふたりの乗った馬車は、公爵家の門を出ていった。

使用人総出でお客様をお見送りなんて、初めてね。みんなで手を振って別れを惜しんだ。


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― 新着の感想 ―
それはお父様とお母様に叱られちゃう。僕も長男だから うわーん!可愛いのにすでに嫡男としての心構えが出来てて可愛いのにかっこいい!お母様の駄々のこねっぷりも胴が入ってて対比が面白い。幸せ空間、ありがと…
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