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2 だって、めんどくさいじゃない

「ねぇすみれさん、あなたバーナード様の事は好きじゃないって言ったわね」

「えぇ、原作ではバーナード様に近付くヒロインに嫉妬して嫌がらせをする役だったけど、たぶんヒロインが現れても嫉妬なんかしないわ。むしろどーぞどーぞって感じ」

「私もよ。すっかり冷めきっているから、ヒロインにわざわざ嫌がらせなんかしないと思う」


「「だって、めんどくさいじゃない」」



そう、面倒くさいのである。嫉妬するのも疲れるし、わざわざ人が嫌がる事を考えるのも面倒なのだ。そもそもふたりの仲を邪魔する気はない。


「やりたくもないことをするって、精神的にもくるわよね」

「そうなのよ。別に私達がやらなくてもいいわよね?」

「うん、悪役令嬢やめちゃおう」


私達は早々に悪役から降りることに決めた。


「あっ、私そろそろ王子妃教育の時間だわ。王宮に行かなくちゃ」

「あなた変なところで真面目よね」

「まだ一応は王子の婚約者だもの、仕方ないわ。タダで習い事ができると思って行ってくる」

「そうでも思わないとやってらんないわね」

「えぇ、でも悪役令嬢から降りると決めたんだもの。婚約破棄までの辛抱よ」

「そうね、また明日話し合いましょう」


優さんことユージェニーと別れた私は、王宮まで馬車で急いだ。




◇◇◇◇


「はぁ……」

「朝からどうしたの?ヴァイオレット」

「あ、ユージェニーおはよう」


私達は幸運にも同じクラスになった。

ちなみに、バーナード様は隣のクラス。側近であるトレバー様とジェフリー様もバーナード様と同じクラスだ。


あまり人に聞かれたくないので、教室の隅っこでコソコソと小声で話す。


「よかったわ、学園まで同じクラスだったら気が滅入るところだった」

「昨日王宮で何かあったの?」

「聞いてよ〜、昨日はダンスのレッスンだったの」

「貴族の必須科目ね」

「そう。だけどあの筋肉バ、う゛うん、あのお方ったら私の足を踏んどいて『鍛えてないから足を踏まれても痛いんだ』なんて言うのよ」

「鍛えてても踏まれたら痛いでしょうよ」

「でしょう!?」


よかった、私が変なわけじゃなかった。あまりにも自信満々で言うから、こっちがおかしいのかと勘違いするところだったわ。


「自分がダンス苦手なのを棚に上げて、私のせいにするなっつうの!」

「ヴァイオレット、言葉遣いが乱れてますわよ」

「あら、失礼」

「でもさ、王子様なのにダンスが下手とは珍しいわね。子供の頃からやっているはずなのに」

「最近は筋トレばっかりして、ダンスのレッスンはサボってたから」

「あぁ……(納得)」


「みなさん、席についてちょうだい」


もう担任のキートン先生がいらしてしまったわ。


「ね、まだ大事な話があるの。昼休みに続きを話しましょう」

「わかったわ」


私達は午前の授業のため席に着いた。




◇◇◇◇


お昼休みになると、私達は中庭の隅っこの人気がまばらなベンチを陣取った。

それぞれ邸から持参したお弁当を食べながら話を始める。


「昨日ダンスの時にチラッとバーナード様が言っていたのだけど、生徒会の話よ」

「アッ!」

「そうよ。攻略対象と悪役令嬢、そしてヒロインが生徒会に集まったらアレコレとイベントが起きちゃうのよ」

「それはマズイわね。嫌がらせしたくないのに、強制的にイベントが起こったとしたら私達は破滅に近づいてしまうわ」

「ね、だからそれを回避する必要があるの」


この聖フォーサイス学園では、倶楽部活動が必修なのだ。前世の学校で言うところの、委員会や生徒会か、文系理系体育会系の部活動、そのどれかに所属すればオーケイだ。

原作のゲームでは、私達は生徒会役員になっていた。ヒロインが生徒会に入ると、悪役令嬢達でタッグを組み嫌がらせをするのだ。



「このままでは生徒会に入れられてしまうわ。でもそうなる前に他の倶楽部に所属してしまえばいいと思ったの。運動系はダメね。下手したら筋肉バ、あの方達も兼部してくるかもしれない」

「――すみれさん、私いい事を思いついたかもしれない。自分達で新しい部を作ればいいのよ。それもあの方達が絶対に入りそうにないやつを」

「優さんそれよ! あなた本当に冴えてるわ!」

「ふふん、もっと褒めていいわよ」


優さんがドヤ顔を決める。意外と調子に乗るタイプだ。


「でも何がいいかしら。小難しそうな理系か文系の倶楽部がいいかもね」

「フッフッフッ、そこも私にお任せあれ! 私、読書が好きでよく王立図書館に行くんだけど、そこである書物を見つけたのよ」

「どんな書物だったの?」

「この世界では見たことがない文字だったわ。司書さんが言うには、いにしえの日記のような過去を知る手掛かりになる古文書かもしれないと」

「ほうほう」

「だけどね、今思い返すとあれ日本語だわ! きっと私達のずっと前に転生した人がいるのよ」

「えぇー! びっくり! そんな人いるんだね、ちょっと読んでみたいかも」


私達以外の日本人がいたのなら、とても興味がある。いったい何が書いてあるんだろう。


「そこで倶楽部の話に戻します。『いにしえの古文書解読研究会』なんてどう?」

「優さんいいわね! そんな堅苦しい倶楽部、筋肉バカは絶対に近づかないわ」

「たしか、顧問がひとり付けば倶楽部として認められるはずよ。昼休みの間にさっそく申請しちゃおう」

「善は急げね。生徒会に誘われる前に動かなきゃ」





私達はお弁当をそそくさと食べ終え、職員室へと向かった。申請用紙に新しい倶楽部と私達の名前を記入し、担当の教師に提出した。


「真面目な研究を目的としているし、これならば恐らく許可されるだろう。顧問は先生方に聞いてみないと分からないから、誰か決まったら連絡するよ」


よかった、ひとまずホッとしたわ。これで生徒会に入らずに済む!


「教室に戻りましょうか」


そう言って廊下を歩き出した時、ゲェッ! 見覚えのある三人組が前から歩いてくる。


「おい、ヴァイオレット。随分探したんだぞ」

「ユージェニー、どこに行ってたんだ?」


『めんどくさい奴らが来たわね』


日本語で優さんが呟く。


「ん? なんか言ったか?」


もうひとりの攻略対象、騎士団長次男のジェフリー・ボールドウィン様が問う。

鮮やかな赤毛にグレーの瞳、ゲームと同じだわ。騎士の卵だけあって、身体は他のふたりよりひと回りもふた回りも大きい。王子の護衛も兼ねているから当然か。


「いいえ? 何か私達にご用がありましたの?」


優さんが令嬢モードで聞く。変わり身が早い。


「お前たち、当然生徒会に入るよな?」

「王族や高位貴族、成績優秀な平民などは生徒会に入る慣例だからね」

「もちろん君らもその対象に入るぞ」


キターーー! あっぶね、間一髪だったわ。


「いいえ、私達はもう別の倶楽部に入りましたの。ねぇ? ユージェニー」

「えぇ、ヴァイオレットと私は『いにしえの古文書解読研究会』に入りましたわ」

「なんだそれ、どこが鍛えられるんだ?」


ジェフリー様……こいつ正真正銘の脳筋だわ。ある意味、原作通りね。


「今では廃れてしまった、いにしえの言葉や呪文を解読するのですわ。とてもロマンがありますでしょう?」

「私達、放課後は図書館に通いますの。アーイソガシクナルワー」


ちょっ、優さん棒読みになってるよ。



「図書館などに行っても、どこも鍛えられないだろう」


王子のくせに、あんたはそれしかないんか!


「まぁそれは追々……生徒会は優秀なバーナード様達がおられるから、私達など居なくても大丈夫ですわ」

「まぁそれもそうだな。そんなおかしな名の倶楽部に入るなんて、本当に小賢しい女だ」


こいつ調子に乗りやがって! どうせ私なんか嫌いなくせに、体裁のために誘いに来なくて結構ですよーだ。私は心の中でべーっと舌を出してやった。顔の方はもちろん、十五年間鍛え上げた令嬢アルカイックスマイルだ。


「チッ、可愛げのない。行くぞ」

「「はい、殿下」」



『うわぁ、感じ悪ぅー』

『ね、好きになんかなれないでしょ?』


そんな私達を物陰から見つめている目があったことに、全く気付いていなかった。


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