15 魔法学実習 夏の雪
昼休みのいつもの中庭で、優さんと私はお弁当を広げている。
「ねえ優さん、今日の魔法学実習は大丈夫かしら」
「今日はそれぞれ得意な魔法で、自分を守るシールドを作るんだよね」
「前回はなんとかなったけど、今回私は絶望的だわ。だってかち割り氷しか出ないもの」
「こう、ババンと氷の板でも出せたらね」
「そんなデカいの無理……優さんこそ、ゴロッとした石を石垣みたいに積んだら良さそう」
「なるほどね、挑戦してみようかしら」
私達はお弁当を食べ終えると、中庭を出て教室へ荷物を置きに向かった。すると、数人のクラスメイトがあらわれ、声を掛けられた。
「ヴァイオレット様ユージェニー様、教室へ行かれるのですか? ご一緒しても?」
「ええ、もちろん。早く戻って魔法訓練場へ行かなきゃね」
あれ? 教室にもクラスメイト達が沢山いるわ。もしかして、待っててくれたのかしら。
「あの、皆さん。一緒に訓練場へ行きませんこと?」
「「「よろこんで!」」」
おぅ、声が揃ってるわ。私達は実習用のローブを羽織った。
皆でワイワイと、魔法学について話しながら訓練場へ急いだ。なぜか皆さんが、私達のへっぽこ魔法でも出来そうなシールドを一緒に考えて、口々にアイデアをくれるの。優しいわ……
だってもうポンコツだとバレているものね。クラスで私だけ出来なかったら皆さんの足を引っ張ってしまうし、精一杯頑張るわね!
◇◇◇◇
「全員そろったかい? では、魔法学実習を始めようか。今日も、自分の得意な魔法を使ってシールドを作る練習をする。自分の身は自分で守れるようにね」
「「「はいっ!」」」
今日も授業をするのはネイサン先生である。
「じゃあ手本を見せるよ」
先生がおもむろに両手を上げると、パリパリッと音がして先生の周りが六角形の小さなガラスの温室みたいな物で覆われた。
「みんな試しにこれを突き破ってみてくれ。できるかな?」
その言葉に、恐る恐る近づくクラスメイト達。ひとりの男子が握りこぶしで思い切りパンチした。
「いったぁ! 硬すぎるだろ」
え、まじで? と他の子達も叩いたり蹴ったりしだしたけど、『いったぁ!』で撃沈。
私も近付いてコンコンとノックしようとした瞬間、ふいに消えてしまったシールドにバランスを崩してしまい、そのまま勢いよくネイサン先生の方に突っ込んで行った。
「ひゃあ!」
「ほら、気を付けて」
ネイサン先生が私を抱きとめ、クスリと笑う。
「し、失礼しましたぁ」
転けなくて助かったけど、だ、抱きとめるとか、恥ずかしいぃーー! しかもちょっといい匂いがしたー! あと、顔が良すぎるのよ! こんな至近距離で見たらダメなやつ!
「ヴァイオレット、あなた顔が真っ赤よ」
なにこのデジャヴは! チクショー攻略対象め!
「みんなわかったかな。これくらい硬く作れると大抵の物は大丈夫だ。でも別にこれと同じ物じゃなくていいからね。では、そちらから順にやってみて」
お〜みんな凄いわ。あの透明の膜みたいなのなに? でっかいシャボン玉みたい。どうやったら出来るのよ。あの人はズドーンと土壁を作っちゃった! あれなら大抵のものは防げそう。いいなー。
「うん、みんないいね。では次、ユージェニー・グラント。前へ」
「はいっ」
「ユージェニー、いけるわ!」
「ユージェニー様、頑張って!」
「集中したらできる! 頑張れ!」
みんなもワイワイと応援しだした。最近、クラスの一体感があるわよね。
よしっと気合いを入れて、優さんが両手を前に出す。
「やーー!」
――ゴロゴロッゴロン
ゴロッとした石が沢山出てきた。あーでも惜しい! 石が中途半端なサイズだから石垣にすると崩れちゃう。
「うん、いい線行ってるんだけどね。真っ直ぐな壁を作るより、ドーム型の方がいいかもしれない。ちょっとイメージしてやってみて」
「はいっ」
優さんが構える。
「やーー!! きゃっ」
ありゃ、勢いがつきすぎて尻もちをついちゃった。だがその瞬間、両手が上に上がりゴロゴロッと石が積み上がっていった。
「わー! ドーム型になってる!」
「ユージェニー様出来てます!」
クラスメイト達は手を叩いて喜んだ。凄い、凄いわ優さん!
だけど待って、これどっかで見たことあるわ。ほら前世のやつ。
「あ、ピザ窯やん」
そう、オシャレな本格ピザ専門店とかにあるやつ! 陶芸の窯よりは背が低くて、小柄な人が尻もちをついたらちょうど入れそうなサイズのあれよ!
「ユージェニー、出られる?」
「なんとか……」
優さんはシールドの中から匍匐前進で出てきた。貴族令嬢なのに普通にすごいわ。
「こちらの方が崩れにくいみたいだ。ほら、叩いても大丈夫」
「はいっ、ありがとうございました!」
「凄いわユージェニー! ピザ窯作っちゃうなんて!」
「ピザ窯て言うな。でもなんとかできたわ」
やったわねーとふたりで喜び飛び跳ねた。
「最後、ヴァイオレット・ヘザートン。前へ」
「はいっ」
「ヴァイオレット、大丈夫よ!」
「ヴァイオレット様、いけるいける!」
「かっ飛ばして行こう!」
なんか野球の応援みたいになってきたわ。でも応援って嬉しいものね。いつもよりも力が出せそう! ふぅぅ、やるわ。やってやるわ!
「やーー!」
――カラカラカラカラ
あ、氷がいつもよりいっぱい出ました。砂場で子供が作ったお山くらい。
あれぇ? 氷の壁を作る気でやったのになぁ。
「君も、ドーム型をイメージしてみようか。もっと氷の粒を小さくして、それをギュッと固める感じで」
「やってみます」
ふぅぅ、氷の粒を小さく。ギュッと固めてドーム型に。よしっ。
「やーー!!」
――サラサラサラ、ググッ
思わず目をつぶっちゃった。できてる?
「ブフッ、かまくら」
優さんの声がした。え? かまくら?
私は、周りに囲まれた何かから外に出て振り返った。それは前世のテレビで見たことのある、紛うことなきかまくらだった。ほら、雪国とかで雪を固めて入口の穴を掘って作るやつ。中で餅とか焼いちゃって。こたつは置けなさそうだけど、二、三人は入れそう。
わーーー!っとクラスメイトの歓声が上がった。
「雪のドームができましたね!」
「ちゃんとシールドになってますよ!」
「私も入ってみたーい」
みんなが成功を喜んでくれてる。なんかホッとした。
でも、これ防御力あるの? 不安になってネイサン先生を見ると、かまくらをコンコンと叩いて
「結構丈夫そうだね。何人か同時に守ることも出来そうだ」
と、褒めてくれた。ネイサン先生はみんなを集めると、
「今日も全員クリアだ。もう少し強化したほうがいい生徒もいたが、一年生としては上出来だ。今日は夏休み前最後の実習の授業なので、あとは自由にしていいよ。解散!」
「「「ありがとうございました」」」
挨拶をした途端、クラスメイト達が私の方をいっせいに見た。え、なに? なんでそんな期待に満ちた目をしてるの?
「ヴァイオレット様、あのドームに入ってもいいですか?」
「ズルいわ! 私も入りたい!」
お、おう。他の人達が、俺も私もと騒いでいる。
「こんなのでよろしければ、どうぞ?」
「わー! 中は涼しい!」
「夏には最高ね!うちの中庭にもほしい」
「雪のドームなんてロマンチックよね〜」
順番待ちの列が出来ていたので、やーー! と、もう三個ほど作ってみた。慣れたら意外といける。
「まさか、異世界でかまくらに入るとは思わなかったわー。私、前世含めて初かまくらよ」
そう小声で話すのは、小さめのかまくらの中で体育座りをした優さん。
「私だって初めてだよ。中で餅とか焼いてみたい」
「だったらまず、もち米を探さないとね」
「たしかに」
みんな子供のようにはしゃいでいる。かまくら作って良かったーー!
「ね、今度あれでピザ焼こうよ」
「ピザ窯じゃないっての!」




