13 クラスメイトが一致団結
なんだか最近、今まであまり話したことのなかったクラスメイト達が、話しかけてくれるようになったの。ほら私って、吊り目の悪役令嬢顔だし、近寄りがたいって遠巻きにされていたのに。あの魔法学の実習で私達がポンコツだとバレて、あまり怖くなくなったのかしら?
移動教室もね、前は優さんとふたりで移動してたの。そうしたらまあ、三バカ筋肉達に遭遇してよく絡まれていたわ。ジェシカさん、セーラさん、ミレナさん達と仲良くなってからは五人で移動していた。
それがね、最近は他のクラスメイト達も一緒に行くことが増えたの。一緒にというか、みんなで固まって? というか。私達五人の前後に、他の女子グループ。そのまた前後に男子グループが付かず離れず歩いているの。
時々、『今日は天気がいいので、中庭を通って行きましょう』なんて、声も掛けてくれてね。ただの移動教室でも、ちょっとしたお散歩気分で楽しいわね。
週に一、二度カフェテリアへ行く日も、クラスメイト達が『ヴァイオレット様、こちらの席が空いてますよ』なんて教えてくれるの。皆さん本当に親切な方ばかりよね。ありがたく座らせていただいているわ。
それにね、最近は廊下などで三バカ筋肉達に絡まれることが無くなった気がする。そういえば、カフェテリアでも絡まれていないわね……あの人達ちゃんと学園に来ているのかしら? 王宮でも会わないから、よくわからないわ。まあ、いっか。平和なのが一番よね。
◇◇◇◇
俺達は、ヴァイオレット・ヘザートン様とユージェニー・グラント様のクラスメイトだ。俺達にとってこのおふたりは高嶺の花だ。なんせ、高位貴族のご令嬢だし、第二王子とその側近の婚約者でもあるから。
おまけにおふたりとも美人ときている。近付くだけでも緊張する。
そんなおふたりの見方が変わったのは、ある授業でのこと。
魔法学の実習で、その日はそれぞれの得意な魔法を使って的に当てるというものだった。そんなに高度な魔法でもなかったので、俺達は特に難しいこともなくこなしていた。そこでユージェニー様の順番になった。彼女は『えいっ』とかけ声を上げると、手からゴロッとした中途半端なサイズの石を出した。全然飛んでねぇ……
俺達はちょっとざわついた。あの完璧令嬢のユージェニー様が? まさか魔法が苦手なのか?
その後、ネイサン先生のアドバイスで方向転換し、火の玉を命中させることができた時には、皆が手を握りしめていた。無意識に力が入ってしまったのだ。
よかった、成功したと皆がホッとしていると、ヴァイオレット様とおふたりで、ぴょんぴょん跳ねて喜び合っているではないか! なんだこれ、尊い……
次にヴァイオレット様が呼ばれて、魔法を使われた。まさかの、かち割り氷がカラカラと地面に落下。一ミリも飛んでねぇ……
俺達は固唾を呑んで見守った。一瞬も見逃せねぇぞ!
先生のアドバイスにより、次は一メートルほど飛んだ。よし、いける! 頑張れ! 誰もがそう心で叫んでいたと思う。
最後は先生が後ろからヴァイオレット様の腕を支えるようにして、力の入れどころを指導された。近い。ちょっと羨ましい……ち、違う! そんな邪なことは考えていない! 純粋に応援しているんだ!
顔を真っ赤にして『えいっ』とかけ声を上げると、かち割り氷が的へ飛んで行った。当たった!
ヴァイオレット様も驚いているが、あんなに顔を真っ赤にするほど力を入れて頑張ったんだ。成功してよかった!!
俺達クラスメイトは、完璧令嬢だと思い込んでいたヴァイオレット様とユージェニー様の可愛らしい姿にやられた。なんだあの『えいっ』って。かわいすぎるだろ。これがギャップ萌えというやつか。
俺達も段々とおふたりに親近感を持つようになっていった。他の女子生徒達とも仲良くされているようだ。そんなある日のこと。カフェテリアで、ヴァイオレット様達がお茶を楽しまれていた。周りにいた俺達も、女子達がキャッキャする姿に和むわぁと思っていた時に、それは起こった。
ヴァイオレット様の婚約者である、バーナード第二王子殿下が声を掛けられたのだ。
だが、状況は想像とは違った方向へ向かって行った。殿下がおふたりを叱責され始めたのだ。だけどはっきり言ってあんなのただの言いがかり、ヴァイオレット様達へ嫌がらせをしたかっただけだろう。しかし、ヴァイオレット様とユージェニー様は、友人達を庇うように立ち上がり毅然とした態度で言葉を返されたのだ。
いやぁ、あれは格好良かったね! 殿下の器の小ささが浮き彫りになっただけだった。しかもだ。周りにいた俺達にまで、気遣いを見せてくださったのだ。おふたりは何も悪くないのに!
目撃者達は殿下への見る目が変わった。噂では、ヴァイオレット様が至らなくて殿下に疎まれていると言われていたが、ありゃ違うね。殿下は外面がいいだけの、最低クソ野郎だ。表立っては言えないけど。普段学園の生徒達に見せる、あの王族スマイルはなんだったんだ?
女子達も『顔だけ良くても、あんなに裏表がある男は最低ね』と怒り心頭だった。『婚約者のユージェニー様が罵られているのに、何もしないあの男もありえない』とも。カフェテリア事件は瞬く間に、学園中に広がった。
そして俺達クラスメイトは心に誓ったんだ。あのクソ王子からヴァイオレット様達が嫌がらせをされないよう、みんなで守ろうと。
誰が言い出したわけでもない、自然とそうなった。教室を移動する時によく絡まれているとジェシカ達に聞いて、ヴァイオレット様達がクソ王子に見つからないよう、前後を固めた。直ぐ側には女子達が、その周りに男子が来るよう配置した。そして、クソ王子がいると目で合図を送り、前の男子達が盾となりお姿を見えないようにし、その隙に後ろの部隊が別の経路へと誘導した。
練習したわけでもないのに、完璧な布陣だった。見事回避に成功した瞬間、皆の心はひとつになってたね。よっしゃー! って。
カフェテリアでのヴァイオレット様達のキャッキャウフフは、俺達の癒やしだ。絶対に途絶えさせてはならない! いつも人目につきにくい席に誘導し、ヴァイオレット様達のお顔が入口から見えないよう座ってもらう。そこは仲良しのジェシカ達にお任せだ。しかも俺達に『まあ、ご親切にありがとう』なんて言葉までくださるんだぞ。もしクソ王子に見つかりそうな気配があれば、男子達がさり気なく立ってお姿を隠した。
ヴァイオレット様もユージェニー様も、大事なクラスメイトだ。みんな、あんなつらい場面はもう見たくないと思っている。
だからこれからも、おふたりが平穏に過ごせるよう陰ながら見守っていきたい。
◇◇◇◇
『いにしえの古文書解読研究会』の日、ネイサン先生から妙なことを言われたわ。
「君たち、最近は護衛がついているんだって?」
はて? なんのこと?
「この学園は強い結界で守られているのでしょう? 王族であれ貴族であれ専属の護衛は付かないはずですわ」
あの殿下に侍る筋肉バカ達も一応は側近兼護衛だけど、建前はクラスメイトだもの。プロの護衛はいない。
「もちろん、私達も護衛は連れてきていませんよ」
「そうかい? ふふっ」
ネイサン先生は、なんだか楽しそうに笑った。