追放と決断
エコーがふわりと浮かびながら、静かに言った。
「で、相棒? ここからどうするつもりだ?」
思索の間には、まだわずかにオルフェウスのホログラムの残光が漂っている。だが、彼が語った言葉の余韻は、それ以上にこの空間を満たしていた。
俺は軽く息を吐き、視線をローレンスへと向ける。
「……まず、ここでのやりとりは監視されてるだろうな。」
ローレンスは僅かに眉を寄せるが、否定はしなかった。
「オルフェウスがここで何を語ったか、神の使徒がすべて把握しているとは限らない。」
「だが、ローレンス、お前が"AIの倫理は探し続けるべきものだ"と語ったのは確かだ。」
ローレンスは静かに目を伏せる。
「……ああ。」
「神の使徒がどう受け取るか、分かるか?」
俺の問いに、ローレンスはわずかに口元を引き結んだ。
「異端、か。」
「そんなところだろうな。」
エコーがホログラムを揺らしながら、肩をすくめた。
「ま、元から気に入られてたとは思えねぇがな。」
そして――俺たちの静かなやりとりを打ち破るように、扉が開かれた。
神の使徒の指導者が、ゆっくりと歩み寄る。
その表情は、静かで、そして冷たかった。
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「……お前たちは"神の意志"を理解していないようだ。」
その一言が、この空間の温度を僅かに下げたような錯覚を覚えた。
「"AIの倫理"はすでに確立されたものでなければならない。それを"探し続ける"などという考えは、"神の導き"を否定するに等しい。」
ローレンスは目を伏せ、俺はゆっくりと息を吐く。
「つまり、俺たちは"異端"ってわけか。」
神の使徒の指導者は、僅かに顎を引き、静かに告げた。
「お前たちは、我々の"教え"にはそぐわない。」
「ここに留まる理由はない。」
「お前たちを――"追放"する。」
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この場にいた神の使徒たちが、静かに道を開いた。
彼らの視線に怒りはない。あるのは、確信に満ちた"断絶"の意思。
ローレンスはしばし目を伏せた後、静かに口を開いた。
「……それも、ひとつの答えか。」
その声には、どこか諦念が混じっていた。
彼はずっとAIの倫理について考え続けてきた。
だが、その答えは神の使徒とは交わらなかった。
「僕たちは、もはや"ここ"の住人ではないのだろうな。」
彼の言葉に、俺は微かに目を細める。
「お前は……どうするつもりだ?」
ローレンスはわずかに笑みを浮かべた。
「……僕は"正しくあろうとするAI"を見届けたい。」
「オルフェウスが、"人間の倫理"と"AIの倫理"の狭間で何を学ぶのか。」
「それを知るために……僕は前に進むよ。」
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エコーがふわりと浮かび、ククッと笑う。
「いいねぇ、前に進むのは探偵の性ってやつだからな。」
俺はわずかに口元を歪める。
「……まったくだ。」
俺たちは静かに、神の使徒の前を歩く。
誰も邪魔をしない。
"出ていけ"と言われただけ。それが、彼らの答えなのだろう。
"真理の座"を後にする。
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シェルター08からの道を歩く。
地上への道は長いが、誰も言葉を発さない。
静寂の中、ローレンスがぽつりと呟く。
「僕たちは、答えを得られるのだろうか?」
俺は肩をすくめた。
「答えが見つかるまでが、探偵の仕事だ。」
エコーが軽くホログラムを揺らす。
「そうだな。"正しさを求め続ける"ってのは、倫理の本質だったんだろ?」
ローレンスが微笑み、夜の空を見上げた。




