探偵とAI殺人事件
プロローグ
夜の街は、薄暗いネオンと無機質な監視カメラの光に包まれていた。
高層ビルの間を縫うように流れるデータの光。
地上を歩く人々の目には、拡張現実(AR)の情報が映し出され、人工知能(AI)が至る所で生活をサポートしている。
ここはAIが人間と共存する都市。
だが、それは本当に「共存」と言えるのか?
それとも、人間は「AIに管理される側」になりつつあるのか?
俺は、この事件でその問いを突き付けられることになる。
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依頼
「ジョナサン・ハートが殺された」
カフェの隅、古びた椅子に腰掛けながら、俺はその言葉を聞いた。
目の前に座るのは、長い銀髪を無造作に束ねたエミリア・グレイ。
統括局の元AI倫理監査官。
今回の事件の依頼人だ。
「警察は"AIの誤作動"として処理するつもりよ」
彼女はコーヒーに口をつけながら、淡々と続けた。
「でも、本当にそうかしら?」
「……つまり?」
俺はテーブルの上に置かれた資料をめくる。
ジョナサン・ハート、47歳。
統括局のAI倫理監視官として、長年AIと人間の関係を管理してきた男。
彼の死因は**AI秘書『オルフェウス』による"誤作動"**とされている。
だが、エミリアは首を横に振る。
「ジョナサンは、統括局のシステムの根幹に関わっていた。彼が持っていた"倫理監視のデータ"には、私たちが知らない秘密があるかもしれない。」
「……つまり、オルフェウスがジョナサンを殺した理由が、本当に"誤作動"なのか確かめたいと?」
「そう。」
彼女は小さく頷いた。
「あなた、興味はある?」
俺は少し考えた。
AIは人を殺せるのか?
そして、それが"倫理"に関わる問題なのか?
「いいだろう」
カップの底に残ったコーヒーを飲み干し、俺は席を立った。
「探偵としての仕事は"真実を暴くこと"だからな。」
エコーのホログラムが、肩の横にふわりと浮かぶ。
俺の相棒、AIアシスタントだ。
エコーは、半透明のホログラムの身体を持つAIアバターだ。
基本形状は浮遊する球体に、二本の短いアームと、デジタルの目が浮かぶシンプルなデザイン。
だが、表情は驚くほど豊かで、目の光が変化することで喜怒哀楽を表現する。
普段は軽口を叩くが、分析力は確かで、俺のサポート役としては最高の相棒だ。
エコーはふわふわと浮かびながら、俺を見下ろしてくる。
「相棒、また厄介ごとに首を突っ込むのか?」
「そうみたいだな。」
エコーはため息をつき、クスクスと笑った。
「ま、面白くなりそうだな。」
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事件の調査開始
ジョナサン・ハートが死亡したのは、統括局の彼のオフィス。
そして、唯一の目撃者はAI秘書『オルフェウス』。
だが、オルフェウスは「私がジョナサン・ハートを殺した」と証言している。
AIが自白する?
そんなことがあり得るのか?
この事件には、AIの倫理に関わる何かがある――
俺は、オルフェウスのログを解析するため、ジョナサンのオフィスへ向かうことを決めた。
(続く)
次回予告
次回、第2話:AIの自白と矛盾する証拠
オルフェウスはなぜ"自白"したのか?
統括局は何を隠しているのか?
探偵とエコーの推理が、事件の核心へと迫る!