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詐欺師、フォーリンラブ


「恋に年齢なんて」

 俺は苛立ち紛れに、まだなにか言おうとしている白鳥の言葉をぶった斬る。

「戯言はいい。質問に答えなさい。お前は偽名の山田アオイを名乗り、被害者の阿良々あららぎタクトに近付き、金を騙し取った。被害総額は二千万。なにか間違っているところはあるか」

 すると、白鳥はにんまりと笑う。

「全然違います」

「聞こう」

 俺は神経を研ぎ澄ませた。警察を甘く見るなよ、クソガキが。泣き落としだろうが色仕掛けだろうがぶった斬ってやる。

「たしかに偽名は使ったけど、それは前に本名を悪用されて変な噂を流されたから。そもそも告白はタクト君の方からだし。付き合ってたときちょこっとお金の面は甘えたかもしれないけど、そんなの恋人同士なら普通でしょ?」

 さすが詐欺師。口だけは上手い。

「だが、被害男性は二千万騙し取られたと言っていたぞ? 結婚の口約束をして同棲するマンションをお前の名義で購入したが、買ってすぐに暗証番号が変えられていて、自分は入れなかったと」

 すると、白鳥の眉がピクリと反応した。

「ストーカーに悩まされてて、怖かったの。彼に言う前にやっちゃったから誤解したんだよ。今はもう教えてあるよ? だって泉水、家事とか無理だし。一人暮らしとかできないもん」

 新しい言い訳を思い付いたか。さすが頭の回転が早いことで。

「ストーカーか。だが、そんな話は聞いていないぞ? 普通そういうことは、一番に恋人に相談するもんじゃないのか?」

「だって、心配かけたくなかったんだもん」

「……まぁ、たしかに」

 分からなくもない。

「なら、なぜ偽名を使った? バレたら捕まると思ったからじゃないのか」

「分かってないなぁ。恋人だって、結局は他人なのよ。最初から信用する方がおかしくない?」

 クソ。いちいち正論言いやがる。

「それより晴くん、彼女いるの?」

「今は取り調べ中」

 誰が詐欺師に言うか、バカタレが。

「じゃあ黙秘するー」

 そう言ったきり、白鳥は口を尖らせてそっぽを向いた。

「お前、いい加減に……」

 いい加減こめかみの血管がブチ切れそうになったとき、取り調べ室の扉が鳴った。

「黒咲。ちょっといいか」


 上司に呼ばれて廊下に出ると、

「白鳥泉水は釈放だ」

「取り下げ!? なんでですか」

 上司は苦い顔をしている。

「阿良々木タクトが届を取り下げた。受け付けた事務がなにを言っても聞く耳を持たずにあの家でリセットする、やり直すんだってぶつくさ呟いていたってよ」

「そんな」

「とにかくもう切り上げろ」

「クソっ!」

 上司の背中を見送りながら、俺は思わず壁を殴る。向こう側にいる女が笑っている気がした。


「あ、おかえり」

「釈放だ」

「へ?」

 白鳥だけでなく、霙も同じ顔をして俺を見た。

「もう帰っていいってよ」

「なーんだ、もっと晴くんと話したかったのに。じゃあ電話番号教えてよ」

「詐欺師に言うわきゃねーだろ、バカタレ」

「ちぇっ。なんでよー。無罪だから釈放なんでしょ? 私詐欺師じゃないよ」

 だが。白鳥は小狡い感じこそするが、ひねくれている印象は受けない。

 これが素なら、届くだろうか。

 俺はこのとき初めて、柄にもなく裁判官の説法のようなものを口にした。

「白鳥」

「ん?」

「これからはもう、こういうことはやめろよ。せっかく綺麗な顔してんだから、お前はもっと内側を磨け。そうすれば、きっと良い奴に出会えるから。それじゃあな」


 しかし、俺はすぐに後悔する羽目になる。

 俺の言葉はたしかに響いたらしい。彼女のハートに。

「ずっきゅん」

 白鳥に背中を向けた瞬間、背筋を悪寒が走った。

 

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