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じわる絶望


「それにしても、あの白鳥裁判官がお前の父だったなんて、マジでショックなんだけど」

 あの人は贔屓なんてしないと思っていたのに。こんなとんでもない娘がいたなんて……。この世の摂理はどうなってんだ。

「今日もね、晴くんにお礼がしたいから住所と連絡先教えてほしいって言ったら、すぐに調べてくれたよ」

「偉大な白鳥裁判官を悪用しやがって。いや、待てよ。ちょっと待て。ということは、白鳥裁判官は既に俺の存在を認識している!?」

「そこ? 晴くん」

「お前は個人情報という言葉を覚えた方がいい」

「それならば私も言わせてもらおう。レディーファーストなのよ。この国は」

「答えになってねぇよ、バカタレが」

「そう怒らないでよ。それよりさ、晴くんって本当に彼女いないの?」

「余計なお世話だ。ほっとけ」

「合コンとかもないの?」

「ふん。合コンくらい俺にもある」

 どこまでもバカにできると思うなよ。

「それなら晴くんかっこいいんだし、女の子の一人や二人釣れそうな気がするけど」

 白鳥は不思議そうに首を傾げた。

「自己紹介でなにかやらかしたとか?」

 俺は脳内の大学生の頃の記憶の扉を開けた。

 たしか、あのときは……。

「自己紹介で友人の言う通りにしたら、なぜかドン引かれた」

「え、なに言ったの。めっちゃ気になるんだけど」

「そう。あれは大学二年のときのこと」

「お、なんか語り出した」

 

 あの頃の俺はまだ若かった。中学からの幼馴染に誘われ、人生初の合コンに参加した。

 最初、そういった話に興味のなかった俺は断ったが、

『何事も経験だろ? お前、女を知らないまま大学出る気か? 好きな女ができたときどうすんだよ。僕ちゃんなにも分かりませんじゃ女はドン引くぞ。俺がフォローしてやるからさ。お前は俺が用意した服を着て、恋人がいるか聞かれたら……』

 あれ、あのときアイツ、なんて言ったっけかな。

「なんて言ったの?」

 白鳥が急かす。白鳥の興味津々なその瞳に、俺はハッと思い出した。

「そうだ。もし恋人がいるかと聞かれたら、自分の恋人は『恋愛シミュレーションアプリ・マーメイドと秘密の恋』のセッカ姫ですって言えと」

『マーメイドと秘密の恋』のセッカ姫は、男性向け恋愛ゲームのキャラクターだとあとから聞いた。

「言われた通りに言ったら、女の子はみんなお前みたいな顔をしていた」

「だろうね」

 白鳥が大きく頷く。

「なぜだ? リアルな女ではなく、二次元に入れ込む人は最近の若者には多いと聞く」

「いや、普通のアニメのキャラクターならいいけど、それはさすがに」

「そうなのか?」

 アニメはどれも一緒な気がするのだが。

「私が言うのもなんだけどさ、その人とは友達やめた方がいいよ。晴くん、騙されてるよ」

 お前だけには言われたくない。

「いいように利用されてるじゃないの。てかなにセッカちゃんって。さすがの泉水ちゃんも引いたわ」

「そうなのか」

「つまるところ、あれね。晴くんは客寄せパンダにされたってとこだね」

「たとえがムカつく」

「だってそうなんだから仕方ないでしょ。で、その人とは今も仲良いの?」

「……この間も財布を忘れたからってうちに来て、五万貸したんだが」

「だから騙されてるって、それ」

 全力で否定したいところだが、少し不安になってきた。

「まぁ、私がいれば大丈夫よ! そんくらいのお金、すぐに取り返してやるわ!」

「いい、やめてくれ。俺はそんなこと望んでない。というか俺は騙されてない。ちゃんとそのうち、返しに来るさ」

 俺は例の友人へ電話をかける。

『――ツーツーツー……プツッ。おかけになった電話は、現在使われて……』

 ピッ。

「…………」

 嘘だろ。

「ほれみろ」

 俺は、スマホ画面に映る友人の名前を見つめて愕然とする。

 え、アイツ、いつの間にスマホの電話番号変えたの?


「……げ、元気出してよ。晴くんには私がいるじゃん」

「べ、べつに落ち込んでないし」

 白鳥はじっとりとした視線を向けてくる。

「……落ち込んでないし!」

「なにも言ってないよ?」


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