ザ・サードエンカウンター【8】
サバゲーを知り、定例会を経験した分目。
エアガンで走り回り、撃ち合いを経て初めてのヒットを取り、体に無理しない様に
休みながらゲームを参加する。
その間に、ししょーとおっちゃんと出会い様々なエアガンの知識を教わって山寺を含めた4人で写真撮影を撮って定例会は終わった。
翌日の筋肉痛の洗礼を受け、地獄のような出社、退勤を経験する。
そして、よいよAMATERASUへ行く日になる。
ザ・サードエンカウンター
スマートフォンの目覚まし機能で音が暗闇の中で鳴り響く。何もない黒い空間から聞きなれた音が鳴ると門を開くようにゆっくりと瞼が上がっていく。そこには、陽の光が温かい部屋に差し込み部屋を温かく照らしていた。
目覚ましアプリを止めてスヌーズ機能を切って背を伸ばして起き上がる。
待ちに待った土曜日の朝がやって来た。
ベッドから飛び起き、風呂場に行ってシャワーを浴びて、一緒に歯磨きや洗顔も済ます。自然と鼻歌なんかも出てくる。朝からテンションが高いのが自分でもわかる。
シャワーを浴び終えてドライヤーで髪を乾かしてジーパンと適当なTシャツを着て、朝ご飯を作る。
そうだ。久しぶりに音楽でも流すか。
スマートフォンで音楽アプリを開いて検索欄に「I Re」と打ち込む。すぐに検索結果が出てくる。検索の二番目の曲をタップする。
「I Really Want to Stay at Your House」
洋楽はあまり聞かないが、この曲は聞いた時あまりの綺麗さに聞き惚れてしまったのもあり、気分が良い時は決まってこれを流してしていた。体全体でリズムを取りながら、目玉焼きを失敗しないようにフライパンとフライ返しを扱う。食パンをトースターで二枚焼き、電気ケトルでお湯を沸かしてマグカップを用意し、コーヒーを用意する。もちろんインスタントだ。出来た目玉焼きを用意した皿に置き、テーブルに持って行き出来上がった2枚のパンにバターを塗って皿に置いてテーブルに持って行き。出来たコーヒーを片手に朝食の前に座る。
リピート再生でご機嫌な曲を聴きながら朝食を平らげ、残ったコーヒーを嗜むようにゆっくり味わった。目の前の窓の外のベランダ越しの青空を見て、イヤホンを用意して耳に付けてスマートフォンに連動させてコーヒーをお供にベランダに出て、朝日と凪を直接感じながら景色を肴にコーヒーを飲みだす。遠くの空には飛ぶ名も知らぬ鳥。下を覗けばランニングしているおじいちゃんや犬の散歩をしている子供がすれ違い様に挨拶を交わしている。
平和な日々とAMATERASUの事を思うとワクワクが止まらなくなる。
コーヒーを飲み終え、部屋の中に戻り、朝ご飯の後片付けをしてテーブルの上に置いてあった財布の中身を再度確認する。
諭吉さんが10人。
昨日帰宅時に、晩酌用の総菜とか買い出ししている途中で使う事の無かった貯金から思い切って10万引き下ろしたのだ。
良し!
財布を勢いよく閉じてテーブルにまた置き、隣のスマートフォンに軽く触れる。
ロック画面が表示され現在の時刻が表示される。
AM 7:13
AMATERASUの開店時間まで2時間以上ある事に身体が疼き始め、無性に体を動かしたくなった。気付いたら、普段しない時間に洗濯機を回し始め、掃除も始めてしまう。
キッチン、リビング、廊下、寝室。すべてに掃除機を掛けて窓ガラスを拭き、寝室のレイアウトも少し変える。そうやってはやる気持ちを別の事に逸らしているといつの間にか9時半を過ぎている事に気付いた。
もう、準備してもいいだろう。
ハードリピートしていた曲も止め、イヤホンを外し充電ケースに仕舞いガンケースを廊下に取りに行きリビングで開いて返却品の確認を指差しで行っていく。
「エアガン、マガジン二本、充電器、バッテリー、BB弾。全部揃ってるな。」
ガンケースを閉めて、左右のロックを掛ける。最後にテーブルに置いてあるスマホを取って時間を確認する。
9時39分。
ヨシ。行こう。
着ていたTシャツをその場で脱ぎ、風呂場にある洗濯籠に入れ、寝室のクローゼットから胸元に一本の太く淡い青のストライブが横に入ったTシャツを取り出し、首を通し、ハンガーに掛けてあったネイビーの少し薄手のカーディガンを羽織った。テーブルの上にあるスマホと財布をジーパンのポケットに入れて、玄関に向かい家の鍵と車の鍵を束ねたキーケースについてるリングをジーパンのベルトループに引っ掛け、靴を履いて、ガンケースを手に持ち家を出る。
6階から見るいつもの空が異常に輝いて見えて楽しくて仕方がない。心持ちでここまで違うものかと階段を華麗に降りながら自分の車へと向かう。駐車場に辿り着き、車のキーレス昨日で遠隔開錠して、トランクを開けガンケースを丁寧に入れトランクを閉め。運転席に向かい。財布とスマホを一旦ポケットから取り出し。助手席に放り出したの後に運転席へと乗り込む。
シートベルトを着けて車のキーを差し込みエンジンに火を灯す。
一羽の鳥がマンションの屋上から、今、飛びだった。
鳥が飛びながら地上を見ると緑色の車が、駐車場から出て道路に出る様を目撃する。
興味の無い鳥は、ゆっくりと正面の空を見据え羽ばたきながら次の目的地に向かって進みだした。
そこは住宅地の外れの森の手前にある土地に建つ金属の一枚のプレートに「AMATERASU」と打ち込まれた看板とテラス付きのログハウス。奥には、不自然に横に50m程伸びたコンクリートの壁があり、建物の横には大きめの砂利で舗装された駐車場が併設されている。
程なくして一台のコンパクトカーがやって来て、男が車から降りる。肩ぐらいありそうな髪は寝ぐせで暴れまくり、髭もそらず、ちゃんと寝れなかったのか眠そうに眼を擦りながら欠伸をしながらログハウスへと向かい開錠と警報装置を解除して中に入って行った。
時間が経って太陽が天辺を目指している頃に、先程来た男が髪の毛を後ろに束ね髭を剃って身なりを整えた状態で玄関から出てくると大きく体を伸ばし軽い体操をすると再度ログハウスの中に戻り、「Close」と書かれた看板がクルリと回転すると「Open」の文字へと変化した。
その数分後、緑色の軽自動車がゆっくりとログハウスの前を通り、砂利の駐車場に止める。車から降りた男は、そのままトランクを開けて、ガンケースを取り出し、トランクを閉めるとキーレスで鍵を閉めて玄関へ近づき、Openの看板を確認したのちにノブを捻ってゆっくりと中に入って行った。
「こんにちわー。」
「いらっしゃいませー。」
レジの奥から声が聞こえて、店長が出てくる。
俺を確認するとレジから出て来て近づいて来た。
「いらっしゃい。レンタル品、預かるよ。」
店長が右手を差し出してくる。
俺はその右手にガンケースを手渡す。
「サバゲーお疲れ様。レンタル品の状態確認したいからレジまで来てくれる?」
「はい。わかりました。」
店長がレジに向かう後姿を追ってレジに向かう。
通常の小売店より広いレジにガンケースを置き、その場で開けて中身を確認する。
エアガンを手に持ち角度を変えながら念入りにチェックしていく店長の姿を見ると自分でもわからない傷が見つからないか不安で緊張してしまう。チェックを終えた店長はエアガンをケースに入れ直し、ケースを閉じる。
「大事に使ってくれたみたいでありがとうね。」
店長はレジに置いたガンケースを軽く撫でながら嬉しそうにしている。
「傷ついてない様で良かったです。」
スタッフとししょー達の会話を思い出す。
『そこの店のオーナーだいぶ太っ腹ですね。自分、聞いたことないですよ。そんなレンタルの仕方。』
お礼を言わなければ
「お安く貸し出してくださってありがとうございました。」
俺は、頭を下げてお礼を言った。
「頭上げてよ。岳さんから話聞いたの?」
「いや、ガクさんからではなくて定例会でお会いした方にお聞きしました。」
「あ、そうなんだ。」
軽く頭を掻きながらバツが悪そうに肩眉を上げながらうーん。と唸った後に申し訳なさそうに
「分目さん。電話でも言ったけど、そのぉ。内緒でお願いします。」
念押しに改めて小さい針が心に刺さる。
「気を付けます。」
「まぁ、俺が念押ししなかったのが原因なんで、分目さんは悪くないんだけどね。」
俺の謝罪が通じたのか、店長は頬を軽く掻きながら申し訳なさそうに目線を落とす。
俺と店長の間に流れたどよんとした空気が流れるのを感じて急いで口を開ける。
「で、でも。店長が貸してくれたおかげで楽しい時間を過ごせました。改めて、ありがとうございました。」
「こっちのほうこそ、サバゲー楽しめたみたいで良かったよ。貸した甲斐があったってもんよ。」
店長は、俺の言葉に笑顔が戻った店長は、仕切り直す様にガンケースを持ってレジの奥に消えていく。消えた先から声だけが聞こえてくる。
「そー言えば、定例会大活躍だったらしいじゃない!」
ギリギリ聞こえるその声に俺も声を張って答える。
「そんな事ないですよ!ガクさんや他の人達の方がすごかったですって!」
「まぁーたまたー。」
声の出所が近づいてきて手を軽くはたきながら店長は戻って来た。
「岳さんから聞いたよー。写真も見せてもらったし。」
レジに立った店長は、肩幅ぐらいに開いて手をついてニヤけながら意地が悪そうに俺の反応を待っている。
俺は、言葉にせず只恥ずかしくなって店長の目を見る事が出来ず視線を斜め下へと逃がす。
そんな俺の態度に店長はお構いなしに話を進めていく。
「あの走り出してる写真。あれは、お世辞抜きでいい写真だね。一人だけ敵陣に風穴開ける!って感じでさ。あの後のプレイ次第でそのゲーム終わったら帰ってもいいぐらいに躍動感とライブ感を感じたね。」
さらに追い打ちを掛けられた俺の視線はさらに下がっていく。
「それに、あの4人の集合写真も良かったなぁ。戦場を駆け抜けたッって感じでさ。」
そう店長の口撃を床見ながら耐えていると急に何も聞こえなくなる。不思議に思い。床に向けていた視線を徐々に上げていくレジの壁を越え、天板に差し掛かり店長の両肘と頭が見えた。その時点で頭に「?」が浮かび、完全に視線を上げ店長を直視するとレジ台に突っ伏している店長がいる。
「え?店長さん。え?ん?」
俺は、動揺のあまり店長を呼ぶことしか出来なかったが、読んだと同時に顔をゆっくりと店長は上げ元の立ち姿に戻った。
「あぁーごめん。ごめん。ちょっと立ち眩み。しちゃって。」
店長は恥ずかしそうに笑う。
「大丈夫ですか?」
「大丈夫。大丈夫。」
心配から出た言葉に店長は少し乾いた笑顔で応えてくると続けて
「サバゲー。分目さんに合いそう?」
と、切り出してきた。俺は、この一週間言いたかった言葉を口にする。
「はい。定例会楽しかったですし、もう少し続けてみようかなと思いました。またお店に甘える訳にもいかないし、思い切って自分のエアガン買ってみようと思って。」
「そっか。そっか。それは、個人的にも売上的にも嬉しい言葉だね。それで、何かお目当てのエアガンはあるの?」
「サイトで色んな銃を見て大体の当たりを付けようとしたんですが、どれもカッコよくて結局決まらなくて。」
「そっか。じゃあ、うちの商品を紹介しよう。」
「いや、お仕事の邪魔をするのは申し訳ないです。」
俺が、困惑している様子を気にせず、店長は、レジから出て来て俺の前に立つ。
「いいのよ。開店直後は他のお客さんあまり来ないし。暇だから購入のお手伝いをさせて貰うよ。」
店長はそう言うと有無も言わさず歩き出す。俺は、それに引っ張られるように付いて行く。2~3秒歩くと壁に幾つも展示されているエアガンの場所へと辿り着く。
壁の一番上には、看板のようなものが飾られ、その下にエアガンが左右交互に向い合せるような形で壁掛けされていた。
その中では、この一週間で見たサイトの中で見た事あるロゴもいくつかある。
離れてしか見たことしかなく、初めて近くまで来たがエアガンのフォルムと言い数と言いその圧倒的な重圧のようなものを受け、匂いなど嗅いだことなどないが、銃の匂いが鼻腔の奥を刺激するように思えた。そんな俺の気持ちを知ってか知らずか店長は、何事も無かったかのように話し始める。
「まずは一番おすすめの国内メーカー。東京マルイ。」
エアガンに向かって手を広げ紹介する店長、俺はその手に誘導されるように東京マルイの陳列壁の真ん中へと吸い寄せられる。
「東京マルイの良い所は何と言っても安心、安全の国産品。耐久性、精度ももちろん文句なし。もし壊れても全国どこからでもメーカーに送ることで修理可能。もちろん、ウチでも修理は承ってるからその辺は好きな方を選んでね。」
様々なエアガンがPOPと共に展示されているのを上から下へじっくりと見ていく。MP5A5、マーク46モッドゼロ、MP7A1ブラック、マック10、AK-47……etc。ライフル系からハンドガンまで幅広く揃えている。値段と共にエアガンの名称と共に表記されている為、俺みたいな初心者には大変助かる。
「あ、AK-47。」
「お、そこにやっぱ反応したか。」
店長は、ニヤリとする。
「レンタルしたのはこのAK-47だよ。うちは、次世代電動ガンシリーズとコンパクトマシンガンシリーズの厳選したものを置いてるんだ。まぁ、全部オススメってこと。」
全部オススメ。聞こえはいいけど指針となる言葉が無いのが逆に迷いが激しくなっていく。
「まぁ、うちはもちろんマルイだけじゃないから次のメーカーを見てみようか。」
店長は少し横にずれて隣のコーナーへと移り俺もまたそれに付いて行く
次の看板には、4つのマークが描かれていた。
「ここは、マルシン工業、ウェスタンアームズ、KTW、クラウンモデル………」
店長は一度空気を吸い込んで話し続ける。
「マルイ以外の国産メーカーの商品を集めてるコーナーで、ガスを動力源としたエアガンをメインに撮り揃ってる。」
M1911、ベレッタ、マテバリボルバー……似たようなハンドガンが幾つも飾られている中にリボルバーや変わった形のエアガンが飾られているさらに視点を下げていくと長物と言われるライフルもあるがその中一際異彩を放つエアガンがあった。
その異常に長い銃身は、歴史を感じさせる重厚な黒色を帯び、銃口はラッパのように少し広がってその下には現代銃で言うところのハンドガードロアレシーバーの役割を果たす台木は、一本の木から削り出されたかのような滑らかでニスで保護した時に出る特有の黒光りを発する芸術品のようであり、それを外れないように二本の金色の金具で固定されトリガー、機関部分は学校の教科書でも見た事あるレトロでシンプルな機構がむき出しになっていた。
「これって……火縄銃。ですか?」
思わず呟く。
「ん?」
店長は、聞き返そうとするが、俺の姿を見て察してくれたのか答えを聞く前に喋り出した。
「そうだよ。商品名はタネガシマ。KTWっていうメーカーが作ってるんだけどコレクター用なんていう人もいるが意外と性能良いしサバゲーでも使えるんだぜ。」
そう、店長は言い切る。
へぇー。そうなんだ。コレクター用と言うのも頷ける。
美しいとさえ感じるフォルムに本物なんじゃないかと錯覚してしまうほどの圧をこのエアガンから感じていた。
「でもね。分目さん。値段見て見な。」
店長の言葉通り、POPに書いてある値段に目を通す。その値段に頭の中の脳が内部爆発するような衝撃が体全体を駆け巡り、思わず後ろにたじろいだ。
「じゅ!じゅーいちまん!はっせっんえん!」
あまりの金額に俺の心臓は早く鼓動を打ち、呼吸も乱れる。
「税込み129800円だね。」
店長のあっけらかんとしている。
「コレクター用の意味が分かったかい?」
「こ、これは怖くて使えませんよ。ホントにゲームで使う人なんているんですか?」
「うん。いるよ。多くは無いけど。」
いるんだ。サバゲーの世界ってすごいな。
「買う?」
「か、買えませんよ!こんな高級品!」
「高級品と来たか。確かに、10万以上するおもちゃを持って遊ぶのは勇気いるよなぁ。」
「ほ、他はないんですかッ?」
逃げる様に店長に質問する。
顎に手を置き空を見ている店長は俺の質問に気付いて、現実に戻って来ては一瞬ハッとしたような顔をするとすぐに笑顔になった。
「もちろんあるよ。次からは海外製だ。」
タネガシマを一瞥しながら胸を撫で下ろし、店長の後ろに付いて隣の棚へと向かう。
「ここは、アレスっていう海外メーカーのコーナーだ。」
ギリシャ神話の神の名前を冠したメーカーの看板は、ギリシャ時代コリント式兜と槍が目立つロゴに力強い赤でARESと書かれている。その下にあるエアガンのラインナップはどれもM4と言われるアサルトライフルに似たような形をしておりどれも同じに見えた。
「このメーカーは、M4とかSR-15のライフルをメインに商品を展開していてEFCSって言う電子トリガーを採用しているのが特徴なんだ。」
ふーん。カラ返事気味に店長の話を聞きながらエアガンのラインナップを眺めていると一番下に、黒いハニーバジャー、ガクさんの持っている色違いのエアガンに目が留まる。
「トリガーを電子制御にすることでセミオート時のキレを良くしてセミオートでもストレスなく連射出来るようにしてるんだ。」
「店長さん。これ、ガクさんが持ってるエアガンですよね?」
ハニーバジャーを指差して店長に聞く。
「そう。実銃はAACハニーバジャー。AR-15をベースとしたPDW。エアガンだとARES AMOEBA AM-013 ハニーバジャー。ハンドガードがショートバージョンのやつもあるけどこれは、巷ではロングって言われてたりするバージョンだね。岳さんが持ってるのは、色違いのタンカラーでそのエアガンにちょっと手を加えてあるやつだね。」
このエアガンもカッコいいなぁとは思ったけど、ガクさんと丸被りするのは避けたいな。
じっとハニーバジャーを見る。
「気になる?」
店長の問いかけに難色を示す。
「いや、丸被りなのはちょっと申し訳ないような気がするので。」
「そっか、まぁ、個人店にしては品数揃えてるからじっくり見ていくといいよ。」
さらりと俺の言葉を流す様に店長は言うと続けて
「それに、次のメーカーは持ってる人少ない印象が強いから。まぁ、被ることは少ないと思うよ。付いて来て。」
と言い、足音が少し遠ざかっていくのが聞こえる。
「ここはね。BOLTって言うメーカー。」
ハニーバジャーを見ながらこの言葉を聞いた時に初めて店長が隣のコーナーに行っている事に気付いて、速足で店長に追いつく。
店長は、俺が追いついたのを確認すると説明の続きを始めだす。
「BOLTの特徴は、何と言ってもハードリコイルだね。東京マルイの次世代電動ガンのリコイルよりあって射撃感が強いから撃ってて楽しいね。部品も耐久性がいいの使ってるから一度直せばノーメンテで長く使えるのもいいね。」
BOLTの棚もM4系統の商品が多く並び、全長が短い物から長い物まで色んなM4系統エアガンが飾られている事に、他メーカーも扱っているのを散々見せつけられた事もあり、本当にM4って人気なんだなと思い知らされる。
しかし、その中で一つだけ違和感を漂わせるエアガンがあった。
そのエアガンは、M4系統でありながらマガジンの差込口が通常より長く斜めに作られており、バナナのようなAK-47で使っていたマガジンに酷似している。
M4なのか?AK-47なのか?このエアガンなんだ?
エアガンのPOPを確認する。
BOLT SR47 ELITE SD B.R.S.S. 42500円(税込)
「えすあーるよんなな………」
俺の呟きに店長は即座に反応した。
「お目が高いね。SR-47に目が止まるとは。」
「え?このエアガンそんなにすごいんですか?」
「うーん。すごいというか、俺の趣味かな。M4の操作性でAKと同じ弾を使うようにするっていうコンセプトで作られた幻の銃なんだけど、フォルムも好きだし、M4でAKマグチェンジが出来るのが好きなところなんだよね。」
ふーん。店長おすすめのエアガンって事か。
一通りエアガンを見たけど、主に置いてあるのはM4系、AK-47、その他には、サブマシンガンとかぴーでぃーだぶりゅう?と言われている短いエアガンやタネガシマみたいな時代物など色々ありすぎて何にしようか正直迷う。こんな時は、一回考えを纏めよう。
俺は自然と人差し指を顎の先で頬杖をして腕を組んでいた。
「時間もあるからじっくり悩むと良いよ。」
顔を店長の方に向けてありがとうございます。と一礼すると棚と睨めっこしてまた頬杖をして考え込む。頭の中で初めてサバゲーを知ってから今までの光景が次々と16mmフィルムの早回し映像のように映し出されては、時々気になるシーンを巻き戻して見直す。さながら、思い出の編集作業を行っていた。
「だいぶ、考えてるね。………る?」
店長の声で現実へと引き戻された。
「あ、すみません。考え込んでしまいました。早めに決めちゃいますね。」
時間をこれ以上かけれない。少し焦った俺は、東京マルイの棚へと足を進めた。
「違う。違う。決めちゃダメだって。」
しかし、店長の一言で足が止まる。
「え?」
「大事な1挺目なんだからしっかり悩んだ方がいいって。あれだったら、手伝うから。」
「いいんですか?邪魔じゃないですか?」
「あのねぇ。俺は小売店の店長よ。接客も仕事の内でしょうよ。」
で、あれば甘えさせてもらおう。
「そういうことなら、手伝ってもらってもいいですか?」
「OK。じゃあ、確認したいことがあるんだけど、好きな銃とかある?」
「ありません。」
「映画を見てこの銃カッコいいなって思ったことは?」
「少しはあります。」
「映画のガンアクションとかで俺もこういう風になりたいとか思ったことは?」
「まぁ、多少は。」
「印象的なシーンもあんまり無い?」
「あー。一番は、マトリックス一作目のエントランスでの銃撃シーンですね。あれは、とても印象に残ってます。」
「他には?」
「ジョンウィック一作目のクラブ内での戦闘シーンはカッコいいと思います。」
「他には?」
「少し、マニアックかもしれないですけど、キャットシットワンって知ってますか?」
「知ってる。知ってる。兎のやつでしょ?」
「そうです。そうです。もちろん実際に銃なんか触ったことないし、戦争に行ったことも無いんですけど妙にあの戦闘シーンってリアルさを感じるんですよ。短いからリピート鑑賞しやすいし。」
「むしろ、良く知ってるね。あーでも、ユーチューブに無料公開されてた時期もあったから知っててもおかしくはないか。」
「あ、いえ。実家暮らしをしてた時に、うちの父親がDVDを買って来たんです。」
「父親が?」
「ある日。面白そうな映画を見つけたって言って持って来て見ようって誘われたんです。」
「いい趣味してるじゃない。」
店長は腕を組んだ状態で下あごを触りながらニヤリとする。
「俺は、アクション映画好きだったからガンアクションとか見れたんですけど、父親は、もっとこうギャグチックな話だと思ってたらしくて、少し残念な顔してましたよ。ジャケ買いミスったーって嘆いてました。パッキーもボタスキーも見た目はかわいいですからね。」
「見た目はね。」
店長は、意地悪な笑みを浮かべる。
その後に、さてと。と仕切り直すと、棚に身体を向けて考え込む。
「分目さんの今の話を聞いて最初に案内するエアガンを決めていきます。先にレジに行ってて貰っていいですか?」
わかりました。と店長に伝えると一人レジに向かう。レジに付き少し離れた所から店長さんを見ていると、一つ目のエアガンを取って、棚から商品を取り、レジに持って行く。それを後二回繰り返してレジの中に入りレジの上に置かれた三挺のエアガンの前に立つ。
「ウェルカーム。」
店長の言葉より並べられた3挺のエアガンに目が行ってしまう。
一つはあからさまに短く他の2挺より形が全く違うエアガン。
そして、残りの二つはM4の面影が色濃く残る異なるエアガン。
どんなものを紹介してくれるのか今から楽しみでしょうがなくなってくる。
店長が咳払いをする。
俺は、店長の顔を窺うように顔を上げた。
何故か少し恥ずかしそうにしている店長は、もう一度咳ばらいをして仕切り直す。
「じゃあ、俺のおすすめをとりあえず3挺紹介しよう。」
一番左に置かれた短いエアガンを俺の前に持って来た。
短い銃口5角形に切り出されたハンドガードの上に出ている特徴的なチャージングハンドル。細く、少し左曲がりのマガジンにセレクターにはいくつも連なった弾丸が赤で描かれており発射数を表しているのか上から下へ向けて少なくなっていき一番下は白で斜線が引かれ、細長いストックが生えている。
「これは、東京マルイから出てる次世代電動ガンシリーズのMP5A5。最近出た最新型。次世代電動ガン特有のリコイルにオートストップ機能はもちろん電子式のトリガーシステムFETが搭載されたモデルだね。純正マガジンの最大装填数は72発、ニッケル水素、Li―Poバッテリー使用可能。段は税別59800円。手に持って確かめてみて。」
店長の言葉にすっとMP5に手が伸びていく。
見た目よりずっしりとした重さに金属と樹脂の塊が如何にも銃だと言う事を主張してくる。
ハンドガードとグリップを握って感触を確かめる。
樹脂にしては滑ることは無く掌との密着を素材の力が保持してくれているようだ。ストックの位置を確認する。エアガン本体にくっついている。この状態で肩付けするとなると窮屈になりそうだ。と思いながら構えようと挑戦してみるが、自分の体を一生懸命丸めてエアガンを構えようとしてもあまりにもストックが短すぎて真っ直ぐ構える事が出来ない。
「ストックはね、根元にレバーが出てるでしょ?それを横に押しながらストックを引くと展開できるよ。」
店長の言う通り、ハンドガードから手を離し、ストック根元にあるレバー押してストックを引っ張るのに少し格闘してようやくストックを引っ張る事が出来る。二本の細長い棒がエアガン本体から現れすべて展開するとカチンと言う音と共にレバーが軽く左右に跳ねてストックが固定された。AK-47の全長と比較するとあまりにも短い。しかし、ストックは長い。この長さなら肩付けしやすいだろう。
改めてストックを肩に付けて構えてみる。少し、体が窮屈な感じもするが、その分しっかりと構えられているような気がする。
「それは、展示品だからチャージングハンドルを弾いて上に引っかけてごらん。」
店長の言葉通り、ハンドガードの左上に出ているチャージングハンドルをゆっくり引いて引き切った所で上に上げる。
「このまま手を離していいですか?」
壊すわけにはいかない。店長に問うてみる。
「うん。大丈夫だよ。離してごらん。手を。」
ゆっくり話すとチャージングハンドルが左上向き、怒り眉のようになった。
「そのまま、ストックを脇に挟んで、チャージングハンドルを叩いてごらん。」
「え?叩くんですか?」
思わず、構えを解いて店長の顔を見合わせる。
「そう。叩くの。HKスラップって言って実際の銃でもリロード際に行われる事のある動作なんだ。」
「大丈夫ですか?」
「大丈夫、大丈夫。心配なら軽くでいいからやってみると良いよ。」
そ、それなら。ストックを脇に挟む。この時、AK-47でも似たような動作やったな。と、刹那、定例会の時の緊張感ある光景が頭を過り、目の前の敵が今俺を攻撃しているように思えた。体が勝手に動き、MP5のチャージングハンドルを叩き、そのままストックを肩に付けエアガンを構える。カシュン?カション?エアガンと言うか銃の独特の動作音と共にチャージングハンドルが溜まったバネの力と共に前に押し出され、それに呼応するように脇からストックを離し肩に付け頬付けしてカッコよく決めるつもりが、肩にストックの下が刺さり銃口が舌を向きストックの支える棒に頬が吸い付くようにちぐはぐな構えになってしまった。
現実は、そううまくはいかない。
「分目さん。練習あるのみ。」
タハハ。ちぐはぐの構えを解いて後ろ頭を掻いてみる。
「気持ちはわかるけど、しっかり構えて感触確かめてみな。」
ゆっくりと非日常の塊のエアガンを包み込むようにストックを肩に付けてハンドガードを握り、グリップを軽く握る。AK-47と比較する。
台形に似た丸みを帯びたハンドガードのMP5。
対して、AK-47は丸みを帯びた四角のハンドガード。
形の違いもあるが、AK-47の方が手が滑るような気がしているが、握りの収まりがいいのはAK-47だ。
グリップは、どちらも似たような感覚で握れる。
しかし、ハンドガードを握った時、AK-47は左の肘が伸びてMP5は肘が曲がる。
何度も構え直してAK-47との違いを探していく。
「何か気になる?」
店長の一言に構えながら答える。
「AK-47との違いを探したくて。」
店長が軽く手を叩くと
「それなら、セレクターが一番違うよ。」
MP5を斜めに傾けて先ほど見た弾丸の絵とホイッスルのような形をした部品を見つけた。
「弾丸がいっぱい描かれてるでしょ。それが、セレクターだよ。AK-47がスライド式って名付けるなら上下に動かす事で射撃モード変える事の出来るMP5は、クリック式。角度を変える事で射撃モードを変えるんだ。試しにクリックしてごらん。グリップを握ったまま親指で下に弾いてみな。」
言われた通りに弾いてみる。
カチリと機械仕掛けの時計の秒針が動く時に似た音色を立ててセレクターが下に動く。
「それで、セミオート。もっかい動かすと」
店長の声と連動して親指が勝手にセレクターを弾く。
「フルオート。セミやセーフティに入れる時はそこから下に弾けば行ける。」
今度はセレクター下に弾いた。
「グリップを握ったまま、効率的にそして直感的にモードの変更が出来る。主に、M4を代表とする西側の国の銃とかに多い機構なんだ。逆に東側はAK系が多くて、貸したAK-47みたいに上下にスライドさせるタイプのセレクターが多い。この違いは、本当に慣れだから、気に入った方を買えばいいと思う。」
と言っても今回紹介するエアガンは全部西側なんだけど、と店長は最後に付け加えた。
「試しに撃ってみなよ。」
店長の声に身体が過敏に反応した。
「え?いいんですか?」
「なるべく情報を仕入れて貰って出来るだけ納得してもらって買って貰うのがこの店の信条だからね。」
そう言うと店長は後ろを向いてレジの奥へと歩を進め、壁に向かうと何やら何かを弄りだす。
そのまま、腕をいっぱいに広げた。
広げたと同時に暗かったレジの奥の風景に光が差し込むのと同時に土の香りが微かに鼻へと届く。
観音開きの窓を開けた店長の後姿は、屋根裏部屋のような時代を感じるレジ奥の風景がどこか、懐かしさを感じる。
店長が窓の傍からレジに戻って来る。
「今、準備するか少し待っててね。」
いつの間にかに準備してしていたバッテリーとマガジン、BB弾とローダーを置いて、MP5の射撃準備をしていく。
手慣れた手つきであっという間に準備が完了し、エアガンを持ったまままた窓の外へと遠ざかっていき、立ち止まったところで俺の方に振り向き窓の先の景色を見せる様に横にずれて、こっちおいで。と手を招く。俺は、その声に釣られるように足が勝手にレジの奥へと進む。店のバックヤードの中に足を踏み入れるなんて初めての経験で歩きがいつもよりぎこちなく、なんなら初めての経験で色んな所に目が行ってしまう。
様々な工具がぶら下がっている壁に、作業台と思しき机に高めのスツール。机の周りにある見た事の無い工業工作用と思われるゴツイ機械に、鉄で出来た棚には、色んなエアガンの箱や段ボールが綺麗に整頓されていて、ハンガーラックには数多い衣類や装備品がハンガーで整頓されいるのがうっすらと見えるのを堪能する。
「珍しい?」
見ているだけでも自分が悪い事をしているようで、声を掛けられた時一瞬体が硬直してしまった。
それを見た店長が、微笑みながら続けて喋る。
「別に見られて困るものはないから、そんな警戒しないでいいよ。」
釣られるように、ハハ。と短く申し訳なさが口から洩れる。
「窓の前に。」
店長の言葉通りに窓の前に立つ。
初めてここに来た時に見たシューティングレンジに繋がっていて、自分から見て丁度正面に金属製の平たい標的が一本の長い杭で支えられて立っている。
「撃ち感も試してご覧。」
片手で持ったMP5が俺の目の前に現れる。そのまま、MP5を手に取ると
何かが擦れる音と共に無数の透明な平べったい何かが俺と店長を囲うように上から降りてくる。
「え!?」
思わず声を上げる俺に意に介さず窓の外にある標的を見ていた。
「大体目標までの距離は15mぐらいかな。狙って撃ってみな。」
自分とのテンションの差に頭が一瞬混乱しながら、店長の言葉通りにエアガンを構え標的を狙う。
「MP5のアイアンでの狙うコツは、正面の穴の真ん中らへんに奥の棒のてっぺんを合わす。」
ストックを展開して、エアガンを構え、右目を目の前の穴に合わせ、奥の棒を標的の真ん中辺りに据えた。
「セレクターは一番上にしてフルオートで撃ってみな。AK-47と同じ肩に衝撃があるから注意して」
セレクターを下に弾いて一番上に合わし、グリップとハンドガードを握る手に力を入れて肩に当てる。
トリガーを引く。
ドガガガガガと言う言葉がぴったりな発射音と共に鋭い反動の衝撃が肩に伝わり体を揺らす。
その事で、照準はズレ真ん中に据える事が難しくなる。
しばらくしてトリガーから指を外すと標的に当たったことを知らせる着弾音が虚しくカカンと二回鳴った。間髪入れて店長の指示が飛んでくる。
「セレクターを一段下げてバースト射撃に。三発連続発射だからブレにくく狙いやすくなるはず。」
セレクターを一つ弾いてバースト射撃に。
狙いを定め、グリップとハンドガードをいつも以上に力を入れて、トリガーを引く。
ドガガ。カカン。ドガガ。カカカン。ドガガ。カカン。
手と腕の力でなんとかリコイルを抑え込む事が出来たのかさっきよりは当たるようになっているのが少し嬉しい。
「セレクターをもう一度下に。セミオートに。撃つ時に脇を締めて肩にエアガンを押さえ付ける様に構えてみな。」
店長の指示通りに身体を操作する。少し、窮屈な格好のような気もするが、この状態で狙いを付けてトリガーを引く。
ドガン。カン。ドガン。カン。
ん?撃ちやすいような気がする。試す様に、もう3発撃って感触を確かめる。
セミオートは元々狙いやすいという印象がある。であれば、試してみたくなる。でも、フルオートは申し訳………あ、バースト。
「店長。バースト射撃で撃ってみてもいいですか?」
「モチロン。」
店長の嬉しそうな声を聴くとセレクターを弾いてバースト射撃に合わし、脇を締め、肩に押さえつけるように構え、体の感触がセミの時と同じのを確認したのち、トリガーを引いた。
ドガガ。カカカン。
やっぱりだ。
ドガガ。カカカン。
全然狙いやすい。
ドガガ。カカカン。
構えでここまで変わるのか。
「気に入った?」
「構え方でここまで当たりやすくなるんですね。」
構えを解いて撃ったMP5を眺めた。
「そっちなのね。」
まぁ、いいかぁ。店長が小さくため息をつく。
「じゃあ、次のエアガンを触ってみようか。」
店長の延ばされた手にMP5を渡す。
店長が、エアガンを持ってレジへと戻り、次のエアガン持ってくる。
両手で広げる様に黒い2挺目のエアガンを持って俺に見せながら説明を始めた。
「DOUBLE BELLから出てるHK416A5って言うエアガン。これは、ジョンウィックではCA-415っていうのを使ってるんだけど、その銃の元ネタのHK416をモデルにしたエアガンなんだ。H&Kっていう銃器メーカーがM4の改修を依頼したことで開発された独自改良版なんだ。これは、その、5回目のバージョンアップをしたものがこのHK416A5。日本のサバゲーマーの中でも好きな人が多い人気のエアガンの一つでもある。構えて撃ってご覧。」
言われた通り構える。
「これは、リコイル無いから狙いやすいと思うよ。」
トリガーを引く。
スン。!?。カン。
あまりの静かさに身体が硬直してしまい、構えを解いてエアガンを凝視してしまった。
「驚いた?」
「こんなに静かな物なんですか?」
「うちの海外製のエアガンは売る前に中身を弄ってるのは話したっけ?」
「あー」
頭のどのストレージの中を漁ってもそんな話の情報は引き出せない。
「改造してるってことですか?」
「改造まで行かないけど、動作しやすいように中身を清掃したりしてるんだけど、そのエアガンはあまり手を入れてないんだ。一か所だけ少し調整しただけなんだ。それで、ここまで静かになったのよ。」
また構えて試すようにトリガーを三回引く。
スン。スン。カン。スン。カン。カン。
「値段は、34000円。調整してるからその分の値段が上乗せされてるよ。」
「これ、定価はいくらになるんですか?」
「26800円だね。上乗せ分が7200円。ここが、他の店と違うところだね、初めて買うし、エアガンの値段事情も分からないだろうし、自分の金銭感覚で考えた方がいいね。」
「これ、サバゲーやってる人ならこの値段どう思うんですか?」
「うーん。そうだなぁ。人それぞれだけど、普通?」
「普通って。」
判断材料にならない言葉に少し悪態をつく。
「言葉通りだよ。高くも無ければ安くも無い。けど、弄ってるから新品ではなくてカスタム品として販売しているから人によっては余計な事されてるから高いと思う人もいるね。そう言う人は、事前に新品ありますか?って聞いて来るね。」
「全部の商品カスタムしてるんですか?」
「いや、海外製だけ。」
店長さんが、両手を差し出してHK415を戻す様に優しく催促する。
俺はHK415を渡す。
手慣れた手つきでマガジンを取り出し、外に向けて2発撃つと、流れる様にセイフティにセレクターを入れるとレジに向かいながら店長は話を続ける。
「国産品は新品。海外製品は性能にムラがあるんだ、高いお金を出して新品が残念性能だと凹むでしょ?それが、初めて買うエアガンなら尚更。それを少しでも無くしたいと思ってね。直す箇所が多ければ多い程値段が吊り上がっていくのが玉に瑕なんだけどね。」
店長は、エアガンをレジに置き、軽く作業をした後3挺目のエアガンとマガジンを持って戻って来た。
「さて。これが3挺目のエアガン。」
受け取った瞬間にずっしりと感じる重さ。先端には、ちょうど手のひらぐらいの大きさのサプレッサーが付いて丸みを帯びているハンドガードに直角三角形のフロントサイト上下左右の摘まみを回す事で調整できるリアサイトが20mmマウントレールに固定されている。マガジンを挿入する所が斜めに切り出されているのがとても特徴的でそれ以外は先程のHK416とM4に非常に似ている。そして、この形状に何か既視感のようなものをひしひしと感じていた。
「気になる?」
店長は、顎を触りにやけながら聞いて来る。
「なんか、見た事あるような。無いような。」
そう、おぼろげな記憶を辿っていると、店長の後ろに隠されていたマガジンが俺の前に出て来た。
「この形見て何か思いださない?」
AK-47と同じバナナ型のマガジン。
あ………。
「パッキーだ。」
「そう!ご名答!!」
指を鳴らした店長が何故か嬉しそうに語り出す。
「キャットシットワンを見たことがあるって言ってただろう?丁度、うちにBOLTのBR-47があると思ってね。こいつは、米軍が民間企業に要請して作られた珍銃と言われているタイプのライフルでね。M4と同じ操作性でAK-47でも使われている7.62mm×39弾を使用したアメリカ製の銃をモデルにしたエアガンなんだ。販売元はBOLT。商品名は、SR47 ELITE SD B.R.S.S小売価格は37000円!!」
パッキーが使っていた銃をエアガンとは言え持てる日が来るとは考えもしなかった。
「しかも、こいつはアタリ個体と言われているやつでね。ほとんど手を加えていないからほぼ市場価格そのままAMATERASUではだいぶ珍しい一品だよ。」
徐にSR-47のストックを展開し、肩に当ててしっかりと構えるハンドガードを握り肩に押しつけ、頬をストックに押せて窓の外に見えるマンターゲットにリアサイトと通して狙いを付ける。
「マガジンの付け方はAK-47と同じだよ。固定音が鳴ったら装填完了だから気を付けてね。」
マガジンを差してない事に気付いて、すぐに構えを解いて店長から差し出されたマガジンを手に入れ、早速マガジンを装填しようとするが、うまくいかない。何度かトライをしてようやく固定音が鳴り、確認の為に軽く前後にマガジンを動かしてみる。少し遊びがあるのが少し不安が残る。
心配になりながら、もう一度エアガンを構えマンターゲット目掛けてトリガーを引いた。左手が揺れ、エアガン自体が激しく揺れ、右手が揺れる。
その揺れは肩と頬に伝わり、抑え付ける事など出来ようもない。上半身に響く程のリコイルが俺を襲った。
一発のBB弾がマンターゲットに当たったことを知らせる特有の甲高い着弾音は鳴らない。
今一度、左手と右手で肩に力強く押さえつけながらトリガーを引く。
ズガン。カン。
今度は、マンターゲットに当たったようだ。
「フルオートにして撃ってみな。狙うコツとしては、リコイルを無理に押さえつけないように後ろに逃がようにして体全体で受け止めるイメージをするのがコツだよ。」
セレクターをセミからフルに変えて店長のアドバイス通りに構えた時に左右の手で肩に押さえつけ、二本の足を肩幅に広げ、リコイルを受け止められるように構え、トリガーを引く。抑え込もうとしても抑えきれない程の衝撃が連続してくる、狙いが定まっているのかすら途中で分からなくなり、必死に真ん中に寄せようと苦闘する。トリガーを離し、苦闘の終了を自らに知らせると、どっと疲れが出たのと同時に沸き上がる感情が爆発しそうになる。
何だコレ!クッソ楽しい!!
右手の親指が勝手にセレクターをフルオートからセミオートに変えた。
今まで感じた事の無い激しいリコイルを噛みしめるように、一回、一回丁寧にトリガーを引いて行く。たまにフルオートにしてリコイルの変化を楽しみながらどんどんBB弾をマンターゲットに向けて放っていった。
「………。」
店長に何か声を掛けられ右肩を軽く手を置かれる。反射反応に近い形で「うっす。」と言うと無心で
SR-47を撃ち続けていく中、セミオートとフルオートを時に変えながら、時間の感覚が少しづつ薄れ、リコイルの衝撃と射撃音と着弾音が世界を覆っていった。
その世界が消えて現実に戻って来るきっかけになったのは、発砲音が2~3音高く鳴った時に弾切れだと気付いた時だった。SR-47からマガジンを抜き、上下に軽く振る。無音が鳴り響き妙に軽いマガジンが手の中にある。
何かが霧散したように、今まで狙って撃っていたマンターゲットを眺めていると後ろから店長の声が聞こえる。
「終わった?こっち戻っておいでー。」
その声に再度現実に戻ってくると振り向いて
「はっ、はい!」
と待たせたのではないかと言う一抹の不安に少しどもりながら返事を返すと、SR-47を落とさないように大事に抱えながら小走りでレジに向かう。無言で差し出された店長の両手にSR-47を渡し、ありがとうございました。と一礼し、バックルームから店内へといそいそと戻る。
店長が、SR-47に目を運ぶと何かに気付き戻っている途中の俺に声を掛けて来た。
「分目さん。セレクター。セーフティに入れないと。」
撃つのに夢中でセーフティの存在を忘れていた事に気付き店内に戻りレジの前に立って
「すみません。夢中で忘れていました。気を付けます。」
と深々と頭を下げた。
手慣れた手つきでSR-47からバッテリーを抜き元に戻して、エアガンが二本並べてあるレジに並べて置くと、
「他に何か見たいのはあるかい?」
手を広げて聞いて来る。
もう、見る必要はない。
俺の目の中にはSR-47だけが映り込んでいる。
自信を持って店長に向けて言い放つ。
「もう。大丈夫です。」
「まぁ、そうだよね。じゃあ、最後の判断材料の提示と行こう。」
「いや、店長俺もう決…」
店長は、俺の目の前に掌を出して言葉を遮る。
「言いたいことはわかる。だけど、この話だけは絶対しなきゃいけないんだ。」
掌がゆっくりと左にずれると店長がぬるりと現れる。
「話。聞いてくれるよね?」
黙らすような柔らかい微笑みに、俺は、追い詰められたような気がして思わず、はい。と答えてしまう。店長の掌が目の前から無くなり、レジに店長の両腕が思い切りピンと立つと店長は往々にして喋り出す。
「分目さんは、今回が初めてのエアガン購入で、サバゲーを今後もやっていく意思がある。それは、間違いないよね?」
「はい…間違いないです。」
「そうなると、エアガン本体の他にも初期投資として買わなきゃいけないものがある。最低限買わなきゃいけないものが、バッテリー、充電器、BB弾のみっつになる。そこを加味して、エアガンの購入を考えて欲しい。」
レジに並べられた3挺のエアガン達が少し遠くに行ったような感覚になるが、財布の中の10人の諭吉さんを思い出して、遠くに見える3挺を急いでこちらに引っ張り込む。
「その三つってそんなに高いんですか?」
「それじゃあ説明していこう。」
店長は、バッテリーの説明をエアガンごとに手を添えながら丁寧に説明してくれる。
「まず、東京マルイのMP5。これは、専用バッテリーが定価7800円。充電器が、12800円。DOUBLE BELLのHK416A5。これのバッテリーが3500円。充電器が、3600円。BOLTのSR-47。バッテリーが4300円。充電器が3600円。BB弾は全部共通だから、0.25g4000発2500円。これを纏めていくと………ちょっと待ってね。」
レジから少し離れた店長は、しばらくすると電卓を持って戻って来る。金額を呟きながら電卓を叩き、順番に俺に提示してくれた。
「MP5の場合追加で23100円。HK416A5は、9500円。SR-47は、10400円になって、これにエアガン本体の値段が追加するから。」
レジ下からメモ用紙とボールペンを出して、さらに電卓を叩いて最終金額を計算してそこに書き出していく。
「ちょーっと待っててねー。」
しばらくすると、電卓とボールペンを置き、書き出したメモをその場で向きを変えると俺の目の前に滑るように差し出してくれた。
俺は、そのメモを取り上げて内容を確認する。
☆MP5 82900円(税込み91190円)
HK416A5 36400円(税込み48840円)
☆SR-47 47900円(税込み52690円)
「この☆マークってなんですか?」
「それはね、売り出し前のメンテナンスしてない物を表してるんだよ。東京マルイ以外は基本現品限りでやってるし、試射もして貰ってるから、新古品扱いで販売してるからね。」
「それでも、SR-47って一番安いって訳じゃないんですね。」
「そそそ、国内、国外。メーカー。バッテリーの違いで値段ががらりと変わるんだ。慎重に考えた方が良いよ。」
値段と3挺のエアガンを何回か見比べていく。
金額を見た俺は思わずため息をついた。手持ちで間に合う。
今まで趣味と言う趣味を持たず、大きな買い物と言えば、生活必需品の車か電化製品だった俺が初めて趣味の物を買う。金額も安い金額ではない。改めて提示された金額にたじろいでしまうのではないかと思ったが、自分が思っていたよりサバゲーには前のめりらしく、逆に心が躍っている自分がいる。安心した理由も手持ちで事足りる。お金を降ろしに近くのコンビニ行かなくて済むからだ。サバゲーに出会うまでの自分と今の自分を比べてみるとこんな能動的な力があるのかと冷静になった途端に笑みが零れてしまう。
「ん?分目さんどうかした?」
「いや、なんでもないです。」
自分の内面を店長に悟られないように言葉の壁を築いて
「買うの決めました!」
と、とあるエアガンを指差した。
「これにします!」
店長の目線が俺の指の先を見ると顎をさすりながらニヤリと口角を緩ませる。
「SR-47………」
ま、そうなるよね。
店長が続けてボソッと最後に呟く。
「わかるもんですか?」
「あ、ごめん。聞こえてたね。わかるもなにも、多弾マグ空にするほど試射しといてコレにしてなかったらSR-47が逆に可哀そうでしょ。」
この言葉を聞いて初めて商品を使い倒していた事に気付いて一瞬血の気が引く。
「す、すみません!商品を撃ちまくってしまって。」
「いいの。いいの。買ってくれるんだったら問題無しよ。大事に使ってあげて。」
店長は、SR-47を我が子のように優しく撫でた後に俺に太陽のような笑みを向けてくる。
「はい!大事に使わせて頂きます!」
「じゃあ、他の商品とかも用意するからタバコでも吸って待ってて。終わったら声掛けるから。」
「よろしくお願いします。」
一礼してレジ奥に行く店長の後姿を見届け、喫煙所に向かおうと顔を上げるとガクさんが手を振っているのが見える。喫煙所に向かい透明なドアを開ける。
「いらしてたんですね。」
「うん。熱心に試射してましたね。その感じだと買うエアガン決めたんですか?」
「はい。SR-47にしました。」
ガクさんは、煙草を取り出しジッポーで火を付け紫煙を吐き出す。
「また、マニアックなもんを選んだんですね。でも、嫌いじゃないです。買う決め手はなんなんですか?」
「キャットシットワンを見た事があったのとリコイルです。」
「え!?キャットシットワン見た事あるんですか!?」
「え?えぇ………まぁ。」
「俺も好きなんですよ!ボタスキーが最後助けに来てからのバディ戦闘。カッコいいですよね、ピークして敵を現認してからの射撃。相手をダウンした後に念押しの2タップ目の追撃で確実に相手の動きを止める。プロの動き!って感じがして好きなんですよ。いやー分目さんがまさかキャットシットワン見た事あるなんて嬉しッ………」
怒涛の感想ラッシュに圧倒されているとガクさんが口が止まり
「あ。」
俺と目が合う。
「すみません。スイッチが入っちゃったみたいです。」
続けて、咳払い。仕切り直す。
「リコイルでしたっけ?」
急な切り返しに戸惑いながら、そうです。と返す。
「AK-47も気に入ってた感じでしたもんね。」
俺も煙草を取り出して、グローのスタートボタンを押して吸う準備をしていく
「撃った感じがあるのがいいみたいです。SR-47のガツンと来るリコイルが楽しいです。」
「そっかぁ。初めてのエアガンを買った感想はどうですか?」
「これで、自分のエアガンでサバゲーに行けます。」
グローのバイブレーターが吸い始めのタイミングを告げのを手の中で感じるとそのまま口に持って行って煙を楽しむ。体に悪いはずの煙草の煙が口から肺に入って歓喜の感情と共に外に吐き出される。
「早速、来週でも一緒に行きますか?」
思いがけない誘いに俺の心の扉はいとも簡単に扉を開く
「行きます!よろしくお願いします!」
ガクさんが紫煙を吐き出して嬉しそうに歯を見せると
「今度、連絡しますね。」
と、灰皿に積もった灰を人差し指で軽く叩いて落とした。
心の扉の先にある太陽の光にときめきながら俺は、煙草の味を噛みしめる。
ガチャリと喫煙所の扉が開く。
「分目さん準備出来たよー。」
グローの2回目のバイブレーションが無い事に戸惑っていると、店長がなだめる様に掌を俺に見せる。
「吸い終わったらでいいよ。ゆっくり吸いな。」
そう言うと壁に寄りかかって俺の煙草を吸い終わるのを待つ。妙なプレッシャーを感じながら
「ありがとうございます。」
と、早く終わらないかなと思いながら煙草を吸う事になった。
静寂の中、煙草を何度か吸ってると店長が、そうだ。と店長が声を掛けて来て、俺は、店長に顔を向ける。
「次サバゲー行ったらレシートか領収書貰って来て、一度SR-47持ってきな。うちのサービスで一回だけ中身開けて悪いところないか見てあげてるから。まぁ、品質には自信あるんだけど、100%ってことは無いから念の為ね。」
「了解です。もらえない場合はどうしたらいいですか?」
「うーん。大体貰えるとは思うけど、貰えなかった場合は、写真とかで確認はしてるようにしてるよ。」
「写真は得意じゃないから、頑張ってレシート貰ってきます。」
「ウン。頑張って。」
2回目のバイブレーションを手の中で感じた俺は、直ぐに煙草を抜き出し灰皿に捨てる。
「お待たせしました。」
「じゃあレジに来てー」
壁に寄りかかった店長は体を起こし、喫煙所から出ていく。俺もその背中に続いて行く。さらにその後ろをガクさんがひっそりとついて来る。レジの中の店長が、揃った商品を一つづつ照らし合わせていく。
「SR-47、BOLTの純正バッテリー、充電器とBB弾。これで全部。OK?」
「はい。よろしくお願いします。」
「全部で金額は、税込み52690円。」
俺は、無言で、財布を取り出して中身の10万に躊躇いなく手を突っ込み6枚の諭吉を取り出すと、俺の前に置かれたトレイにスッと置く。
「これでお願いします。」
「はい。頂戴します。」
金額を確認し、
「6万円頂きます。御釣りは、7310円になります。」
レジを操作して釣りの準備をする。
トレイに綺麗に置かれた札と小銭とレシートが俺の前に出される。
出された物を財布に仕舞っていると、がさこそ音が鳴る。
「小物は、紙袋に入れておくね。」
「ありがとうございます。」
財布にすべてを仕舞い終え、モノクロを基調とした二人の兵士が描かれたクールな箱にSR-47の文字のデカい箱が目の前に自分のものとして存在する。無意識に箱を撫でていた。
「初めてのエアガン。撃っていく?」
「え?いいんですか?」
「もちろん。」
再度レジ奥に向かってすぐ戻って来る。
店長の手の中には、この店に初めて来たときにガクさんが手に持っていた取っ手が丸く細い真鍮製のスケルトンキーが持たれていて、石のチャームが繋がれていた。
「はい。これ。」
出された鍵をおもむろに受け取る。
「これってあそこの鍵ですよね?」
空いてる手の人差し指で隣にある本棚を指した。
「そう。会員制のシューティングレンジの入り口の鍵。分目さん専用のだよ。チャームの板の所にローマ字でWANMEって書いてあるでしょ?」
そう言われてチャームをよく見る。石を中心に地球儀のように半円の金属の板に小さいながら俺の名前が彫られているのが確認できる。
「ホントだ。」
「シューティングレンジを使う時はレジに来て俺に声を掛けてくれれば奥から持ってくるから、それ使って外に出てね。」
「俺、まだ3回しか来てないんですけどいいんですか?」
「3回も来てくれてるし、俺が認めた人しか渡してないから他の人には内緒にしてね。」
「はい。大事に使わせてもらいます。」
「じゃあ、使用時のルールを説明するね。
1.使用料は一日1000円
2.使用料を払った日は再度利用も可能
3.他の使用者が現れた場合、一時間以上利用の際は15分後に退場。利用時一時間未満の場合1時間なった時点から15分後に退場。その際は、設置されている内線電話にて連絡
4.同行者は1名まで
5.このサービス、施設に関しての他言無用の徹底
6.以上のルールを守れなかった場合会員権はく奪の上店を出禁
と、言う感じ。わかった?」
「わかりました。」
「今回は、エアガン購入特典でシューティングレンジの料金はタダだから、気にせず撃ってきな。」
「はい!」
鍵を握る力に力が入る。ふとチャームの石に目が行く、月の石のような灰色に青白く光る不思議な石に目が奪われる。
「あぁ。珍しい石でしょ。趣味でそう言うの作っててね。ラブラドライトって言う石なんだ。人によってチャームの石、変えてるんだよ。まぁ、この店における会員のパーソナルストーンみたいな感じ。」
店長が、照れくさそうに鼻の頭を親指で軽く掻いていた。
「ワンメさん。もし良かったら俺もその試射、見せて貰ってもいい?」
横に居たガクさんが、俺の肩に触れる、俺はその問いにガクさんの顔を見ながら拳を握って力強く
「モチロンです!もし、良ければそのまま射撃フォームとか教えてもらえると嬉しいです。」
俺の言葉に一瞬びっくりした後に満面の笑みなったガクさんがサムズアップで応えた。
「嬉しいこと言ってくれるねぇ。その要望にお応えしましょう!!サッ、そうと来ればすぐ行こう、今行こう」
駆け足で俺より先に隠し扉の本棚に行ってしまった。
「ガクさん。分目さん可哀そうでしょ。小物ぐらい持ってあげなって。」
店長が身を乗り出してガクさんに声を掛けると、ガクさんはすぐにレジに戻って来て小物が入った紙袋を持ってまた行ってしまう。
「ったく。落ち着きなって。」
店長が、腕を組んで呆れながら小言を言うと
「分目さん。楽しんできてね。」
と俺に向かって笑顔で送り出してくれる。
俺は、元気よく返事を返すとデカいSR-47の箱を左わき腹に抱えて右手にアンティークキーを持って本棚へと向かう。ガクさんに教わりながら、鍵穴を見つけてそこに鍵を差し込み左に回す。カチリと音がすると本棚全体が横に静かにスライドし、シューティングレンジに続く隠し通路が姿を現す。
自分のエアガンを撃てる楽しみを噛みしめるように一歩一歩大事に通路へ歩き出す。
ドアのガラスから洩れる陽の光がまた一段と眩しくてエアガンを撃つ事のワクワクが歩みを早くなっていった。ドアノブをしっかりと握って捻ると同時に外に押し出す。相変わらず整備されたシューティングレンジにはやる気持ちを抑えきれなくてさらにスピードを上げて一番奥のテーブルにSR-47を置くとすぐに開封をして初めて手にしたエアガンが目の前に現れた。
ガクさんと会話をしながら、撃つ準備をし終えると、マガジンを装填し、ストックを肩に付けハンドガード握り、エアガンを肩に押し付けて後にセレクターをセミオートに入れる。
「ワンメさん。まずは、10mから狙ってみましょう。」
「はい!」
俺の目はエアガンのアイアンサイトを通してマンターゲットを見据える。
今まで感じた事の無い高揚感の中、思いを込めてトリガーを引くと、福音の鐘の音は一人の男の門出を祝い、銃声の拍手が、師匠と弟子の二人の練習風景を彩ったのだった。
深層意識のはらっぱ END
これにて、「深層意識のはらっぱ」は終わりになります。
サバゲーを始めた時のワクワク感やサバゲー初参加した時の感情をうまく表現出来たかなぁ。
と、今でも思っていますが、今自分が持てるすべての文章筋肉を総動員をして書かさせて頂きました。
「ここまで見て頂けた方に最大の感謝を」
次作品でまたお会いできることを楽しみにしております。
改めて、ここまで見て頂き誠にありがとうございました。