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分目の家~翌日 朝【7】

サバゲーを知り、レンタル品のAK-47を携えて定例会に参加する事になった分目は初めてのサバゲーフィールドで、参加登録、ゲーム準備、朝礼などを経て人生初のサバゲーを体験する。

初めて尽くしで、パニックに近い状況に陥りつつも山寺やフィールドで出会ったししょー、おっちゃんの助けを受けながら立派に防衛戦を戦い抜いた。様々な思い、考えを頭の中で巡らせながら定例会は終了したのである。

 分目の家PM9:00


 選んだ服を着てキッチンに立って簡単に朝ご飯を作ってダイニングのテーブルに座り、食べていく

 「ただいまー」

 玄関の鍵を開け、ドアを開けるタイミングで孤独の暗闇に向けて自分に声を掛ける。時刻は、夜の8時玄関口の明かりをつけて長方形のガンケースを傷つけないように丁寧に運び入れ、玄関口の壁に置く。スニーカーの靴ひもを解き、ベットを欲している体に鞭を打ち、玄関の内鍵を掛けてから靴を脱いで、靴箱の上に色々な鍵が入っている黒のキーケースと携帯を靴箱の上に置いて家へと上がる。

 ものすげぇ疲れたな。

 そのまま、風呂場へ向かい、スターウォーズのロゴが入った黒地のパーカーやジーパンを脱ぎ、上下スウェットの部屋着に着替え、風呂場のバスタブに栓をしてお湯を貯める為、浴槽にある操作盤の給湯ボタンを押す。軽快な電子音が鳴った後に機械音声が給湯を始めたのを知らせると、浴槽に蓋をして、風呂場から立ち去った。リビングのドアを開け、キッチンに向かう。冷蔵庫のドアを開け空腹を満たすための食材を探す、冷蔵室、冷凍室、野菜室。何回もドアを開けては閉めてを繰り返し、品定めをするが、自炊する気が起きない自堕落な自分を肯定したのちに冷凍食品のチャーハンを台所に出す。皿を戸棚から適当なのを見繕い目の前に置き、冷凍のチャーハンの中身を皿に出し、ラップを掛け、電子レンジの起動させる。電子レンジをじっと見て、ふと、腹の中の妖精が俺に語り掛ける。

 貴様は、それで足りるのか?

 なんとも横柄な妖精だ。そんな妖精の一言に自然と体が動き出し、冷凍庫のドアを開け、目の前にあったギョーザと対面する。

最近の冷凍ギョーザはものすごくうまいぞ。疲れた体には肉だろう。類よ。ギョ………

 バタン。

 冷凍ギョーザを調理するのもめんどくさい。腹より、調理のめんどくささが勝り、腹の妖精を冷凍庫に閉じ込めた。続けて、冷蔵庫に手を伸ばし、作り置きした麦茶が入ったボトルに手を伸ばす。冷蔵庫を閉め、ボトルと一緒にキッチンに向かい、適当なガラスのコップを水切り場から向かい入れるとそのまま麦茶を注ぎコップを持つ、両手をコップとボトルに塞がれたままテーブルに向かい適当に置く。我

慢できず、置いたコップを再度手に持ち一口だけ含み飲み込んだ。飲んだ分またボトルからコップに継ぎ足して電子レンジ向かう。マイクロウェーブを可視化するかのような橙色のライトに照らされて、皿を覆ったラップがラバースーツのようにチャーハンと皿に張り付きライトの色になって艶めかしさを醸し出す。その色気はすぐに食欲に変わり、口の中に唾液が溜まり自然とそれを飲み込む。思わず、電子レンジの時間表示の液晶を見る。残り、1分20秒からカウントダウンが始まり出す。腹が減っているからか、この1分弱が永遠に思える程長く思え、思わずその場を離れて冷蔵庫の前に向かい何気なく冷蔵庫のドアを開いた。

 冷気が顔に当たる。少し気持ちが良い。

 棚に目を配る。豆腐、卵、沢庵の一本付け、ベーコンやウィンナーを見つめドア側のポケットを見る。なにも入れてない卵ポケット、乱雑に放り込まれた調味料、炭酸水。そして、350mlキリンラガービール。

 急に頭の中で妖精が主張する。

 ビ………

 聞く前に身体が動き、350mlの缶を手に取り、制御しきれない力で思い切り冷蔵庫を閉めると、そのままプルタブに手を持って来ては、栓を開け、瞬時に立ちあがるホップの香りが鼻の中に飛び込んでくると理性が飛んでそのまま口に持って来て、喉の奥へと流し込む。

 まろやかな口当たりの中にホップの香りが優しく口の中に広がり、炭酸が舌を突きながら喉に来る激しい刺激が、ビールを飲んでいる今が至福だと言うことを思い知らして来た。最初の一口を終え、口から缶を離すと同時に、身が悶えながら幸せが口から大きく漏れる。

 「くぅーーーッ!!!」

 旨い。唯々、旨い。

 結露で汗をかいた缶ビールを眺めて、味とアルコールを噛みしめていると電子レンジが夕飯の時間を告げくる。テーブルの上に置いてある麦茶入りのコップの横に缶ビールを置き、電子レンジに向かい夕飯のチャーハンを迎えに行く。

 熱された皿にやけどしないように鍋掴みを使って取って、落とさないように、テーブルに置いて鍋掴みを横に置き、熱された皿に引っ付いたラップを四苦八苦しながら取り除く。チャーハンを食うのに必要なスプーンが無い事に気付いて、キッチンの戸棚に取りに行き、適当な大きさのスプーンを見つけ手に取る。

 食いしん坊な子供のような状態でテーブルに着席すると、湯気を出し食べ頃なチャーハンを掬い、口に運ぶ。そのまま口を開きチャーハンを迎え入れるが、あまりの熱さに口の中で火事が起こり騒然となる。

 鎮火する為に、冷えたビールを飲み、一旦落ち着くと、次からは、掬ったスプーンの上にあるチャーハンに息を吹きかけ冷ましながら食べ続けていく。

 チャーハンを食べては、ビールを飲む。油にコーティングされた米に、細かく刻まれたチャーシューや野菜たちが様々な調味料で味付けし、香ばしくニンニクが効いたパンチのある味がまたビールに合う。

 あっという間に食べ終え、最後に飲みほそうとしたビールが空になっている事に気付きた時には冷蔵庫に向かっていて冷蔵庫の中の最後の一本の缶ビールに手を出し、気付いたら座って二杯目を吞んでいた。

 アルコールも程よく効いて来る。

 何気なくテーブルから見る窓の外の景色は、一軒家が軒を連ねる住宅街の営みの明かりと街頭が道路の両端に列をなし、その場では、飲み屋やコンビニの看板が発奮するように賑わいを見せる。駅周辺のロータリーを利用する車のライト達が道路事情を知らせていた。

 田舎にある中心街の素朴な夜景。

 ありふれた表現になるが、モノクロだった景色に色が付くような気がして、ビール片手に窓の近くまで行き引き戸に手を掛けそのままベランダに出る。

 本格的な夏が来る前の独特なこの時期に感じられる心地よい涼しさの風を体全体で感じて、正面の手すり壁に両肘を掛けて、ビールをぐびりと飲んだ。

 「こんな夜もいいもんだな。。。」

 ぼそりと自分に言い聞かし、視線をそのまま降ろす。

 そこには、駐車場があり、自分の車の頭が見える。

 「返すのは、今週の土曜日か。」

 その一言で、夕方帰り際にあったフィールドでの出来事が再生される。


 写真を撮り終えた俺達は、少し談笑してからそれぞれの休憩所に戻り、最後の帰り支度をしていた。

 俺は、ガクさんの片付けを手伝っていた。

 エアガンを3丁。ゲームに使うベストやベルト、それに付随するポーチや入れ物の数々。それらを時には容量40L程のスーツケースや大きめのトートバッグや2つあるガンケースに入れて整理整頓していく。

 「ガクさん。こんなに荷物あって大変じゃないんですか?」

 「うーん。大変ですよ。」

 「え?じゃあ減らせばいいんじゃないんですか?今日だって使ってないエアガンあったじゃないですか。」

 「これでも、自分からしてみたら必要最低限なんです。今日は、エアガンは一丁しか使ってないですけど、普段は、交互に使ってるんですよ。一丁はサブにしてメインのハニバの部品消耗を少しでも抑えようとしてるんです。3丁目はメイン、サブが故障した時の予備だったり気分転換の時に使ったりしてるんです。だから、まぁ。そのぉ。大事なんです。」

 「じゃあ、今日なんで使わなかったんですか?サブ。」

 「うーん。」

 ガクさんは、そう唸ると

 「直感ですかね。朝一番のゲーム終わった時に今日は、ハニバで一日遊ぼうって決めました。実際、使い倒して楽しかったですし。」

 ガクさん顔を下に向け整理しながら横顔の口元が少し緩む。

 「そうっすか。」

 緩んだ口元を見て俺の口元も少し緩む。

 整理し終えてスーツケースを閉じ、ファスナーでロックを掛けたガクさんが俺に顔を向けこう聞いて来る。

 「ワンメさんは、楽しかったですか?忖度無しで大丈夫です。」

 不安をかき消すような精一杯なガクさんの笑顔を見る。考えるまでもなく、俺は口を開いた。

 「楽しかったです。とても。」

 と、伝えると、ガクさんが一瞬ホッとしたのが見えた。

 でも、と言葉を続けると、ガクさんの顔に微かに陰るのを見て、続きの言葉を言う。

 「体が、悲鳴を上げてますけど。」

 その言葉を聞いたガクさんは、小さく噴き出すと口元を手で隠して笑い出すとその笑いは徐々に大きくなって体を少しのけ反って笑う。

 俺は、その笑いを見て少し恥ずかしくなり照れてしまう。

 「運動不足なのを実感します。」

 ガクさんの笑いは徐々に落ち着いて緩んだ顔を引き締めるように掌で顔を拭う仕草をした後に自信に満ちたような笑顔で謝罪から入って来る。

 「ごめんなさい。他意は無いんです。初めてサバゲーした時の俺と同じような事言ってるなと思うとなんか無性におかしくって笑っちゃいました。明日。全身筋肉痛ですから。気をつけて下さい。」


 2時間ぐらい前の時から現在時刻の自宅ベランダに意識が戻って来る。

 明日筋肉痛かぁ。

 ぐびり、また一口ビールを喉に通すと近くにある工場地帯の明かりで一切見えない星空を眺めがら夜風とおしとやかな夜の喧騒をつまみにビールを飲み続ける。あと少しで、飲み干すところで、微かな電子音が家の中からガラス越しに聞こえた。

 あ、風呂。沸かしてたんだっけ。酒飲んじまったなぁ。

 頭が酒で浮ついた状態で、名残惜しく感じながらベランダから部屋を通って風呂場へと向かい、脱衣所に入る。洗濯物が溜まっている選択籠の存在感を引け目に感じながら体の汚れがべた付いているのを感じると、意を決して入浴することを決意する。

 酒も入ってるし、長風呂は良くないな。

 服を脱ぎ、洗濯籠の山をさらに築くと、全身生まれた時の姿になり風呂場へと入って行く。

 バスチェアと風呂桶を一緒に引き釣り出して、バスタブの上に敷いた風呂ふたを少しどかして、風呂桶でお湯を掬い体を清め始める。頭を洗い、体を洗い付いた石鹸の泡をお湯を掬った風呂桶で流して、清め終えると、風呂ふたを完全に取り除き浴室の端に立てかけ、綺麗な体に極上の天国へと足からゆっくり腰、体と沈めていく酒が入っているからか体が浸かっていく度に出たため息の音が大きくなり、肩まで浸かる頃には、ため息ではなく、はっきりと、気持ちぃー!と声を出していた。

 湯船を手で掬い顔にかける。

 これだけの行為なのにこれ以上の無い至福に感じる。しばらく無心で何もない白地のパネルで出来た天井を見上げていた。体を湯船に任せていると、頭の中で今日一日の記憶が再生され、当時の興奮が体を再度駆け巡り、天井に向けて指で銃を模して虚空に狙いを定める。

 記憶が最後に差し掛かるとそこで一時停止が掛かる。

 あれ?そう言えば………。


 帰る直前、AMATERASUに電話をしてレンタル品の返却について聞いた時だった。

 「はい。お電話ありがとうございます。エアーソフトショップAMATERASUでございます。」

 店長の少し声を高くした声が受話器部分のスピーカーから流れてくる。

 「お世話なっています。本日エアガンのレンタルをさせて頂いた分目と申します。」

 「あぁー分目クン?そっか、今日アヴァオペだったっけ?どうだった?」

 「楽しませて頂きました。レンタルさせて頂きまして改めてありがとうございました。」

 「いいの。いいの。これもまた販売促進だから。だけど、あんまり人に言わないでね。」

 直近で話してしまった事を思い出し、背筋に冷たい汗が滴っていくのを感じる。

 もしもーし。

 オーナーさんの声でハッとする。

 「もしかして、もう喋っちゃった?」

 正直に言うしかない。

 「あのぉーまぁ。すみません。喋っちゃいました。」

 「あらー。最初に言っとけば良かったなぁ。まぁ、いいか。くれぐれも今後はお願いします。」

 「はい!気を付けます。」

 「あ、それで、本題は、レンタル品の返却でしょ?」

 「あ、そうです。お返しに行こうと思いまして。」

 「今から?」

 「はい。お邪魔じゃなければ。」

 「次の土曜日の営業中でもいい?ちょっと仕事が立て込んでてさ。レンタル品のチェック出来なさそうなんだよね。」

 「わかりました。じゃ、じゃぁ土曜日に持って行きます。」

 「なんだったら、家で構えたりして遊んでてもいいからね。弾だけ発射しなければ問題ないから。」

 「あ、ありがとうございます。少し遊ばせてもらいます。」

 「ん。じゃあ。明日、筋肉痛頑張ってね。今日は、お風呂でも入って疲れとるんだよ。」

 「え!?」

 「ん?どうしたの?」

 「いや、ガクさんにも同じこと言われたんで。驚きました。」

 「あ、そう。ガクさんが言ってたって事は、相当に暴れたね。」

 オーナーは、フフッと受話器越しに笑った後に続けて言葉を紡ぐ

 「それは、それは。楽しんだようで良かった。なら尚更今日返さなくていいよ。疲れてるでしょ?」

 「ありがとうございます。お言葉に甘えさせてもらいます。」

 「はい。それじゃあ次の土曜日よろしくね。」

 「はい。よろしくお願いします。」

 互いに別れの言葉を交わして電話を切った。


 虚空を狙った指は、何をするわけでもなく天井を狙い定め続け、記憶だけが再生されている。

 筋肉痛ねぇ。そんなに体は疲れてる様子も無いんだけどな。

 湯船の中に指の銃を収め、体全体をそのまま湯船に沈めて息を止めては、直ぐに我慢できなくなって空気を求めて顔を水面上に思いっきりだしては、空気の大事さを知る。無限と思える湯の滴りを顔に感じて拭うように上にかきあげて視界を鮮明にして再度ゆっくりと湯船を楽しむ。湯船に浸かった腕、腿、脹脛などを軽く揉んでは明日の筋肉痛の訪れを半信半疑になりながら眺めていると、急に頭がグラつく違和感を覚えた。

 あ、俺。酒飲んでるんだった。

 急な微睡みの気配を感じると、振り払うように両手でバスタブを掴み腕に力を入れて立ち上がる。

 兎に角、風呂場から出よう。

 転ばないように慎重に体をバスタブから出すと、滑らないように床のタイルに気を使いながらドアへと近付き、ドアを開け、脱衣所へと出る。

 温まった体に心地よい室温が少し微睡みから遠ざかるのを感じると、そこからは勢いに任せて洗濯機の上の戸棚に入れているバスタオル入れから一枚取り出し、寝ないようにゴシゴシと力を入れて体を拭き髪の毛も適当に水気を取って、寝間着のスウェットとTシャツを取り出して着ると、再度風呂場に入ってバスタブの水を抜き、風呂ふたの立て方を確認してその場を後にした。

 風呂場と脱衣所の明かりを消して、そのまま寝室へと向かいベットに潜り込む。

 携帯で目覚ましをセットしようと枕元に手をかざして探すが見つからず、上半身を起こして目視で探すと靴箱の上に置いてあることを思い出し、深いため息をついてから重い体に鞭を打ってベットから上がると玄関へと足を進める。

 携帯の明かりが玄関で仄かに周りを照らし何か知らせが届いているのを見つけると廊下の明かりを点けて玄関に近づき、靴箱の上を見ると黒のキーケースと仲睦まじく並ぶ携帯を見つけた。携帯に手を伸ばし液晶を見ると、見知らぬアイコンで「ヤマデラ」と言う人物からメッセージが届いていた。

 ヤマデラ。。。誰だ?

 その場で、メッセージを確認する。

 ヤマデラの個人メッセージ部屋に飛ぶ。アイコンから吹き出しが出ている。


今日は、お疲れ様でした。ゆっくり休んでください。またワンメさんとサバゲー行ける事を楽しみにしてます。


 このメッセージを見て「ヤマデラ」と言う人物は、ガクさんだと言うことがわかる。

 すぐに、フリック入力で返信を送る。


今日は、ありがとうございました!楽しかったです。また、よろしくお願いします!!


 送信ボタンを押すと、自分のアイコンと共に吹き出しが出てメッセージが送られる。

 吹き出しの横に小さく表示されている送信時間の上すぐ既読と表示され、かわいらしいサムズアップした兎のスタンプが送られてきて、数秒後に


もちろんです。こちらこそよろしくお願いします。おやすみなさい。


 と、メッセージが添えられた。

 兎のスタンプに少し癒され顔が綻ぶのを感じながら、携帯をスリープモードにし廊下の明かりを消して寝室に向かい、心地好い暗闇に包まれた寝室の中にあるベッドに再度潜り込んで、枕に頭を預けながら携帯のアラームをセットして改めて微睡みに身を委ねた。


翌日 朝


 その日の出勤は苛烈を極めた。

 首、腕、腹、太もも、体の動きを制御するはずの筋肉が悲鳴を上げ今まで感じた事の無い痛みが体を支配している中、シャワーを浴び着替える。朝ご飯を食べる気など毛頭なく、いつもは距離の間隔すら感じない程慣れた通勤路は家のドアを開けた瞬間裸足でガラスの破片だらけの道を歩くが如く辛く長く感じる。階段の段差を一つ降りる度に激痛が走り、生まれたての小鹿のように壁に寄りかかりながら足を震わせゆっくりと降りていく、6階から1階へ。普段会った事の無い登校する黄色い帽子を被りランドセルを背負った小学生ぐらいの子が次々と降りて来ては、俺に奇異の目を向け、普段会った事の無い大人達は、不思議そうに見ては俺を軽々と追い越して下の階へと消えていく、時たま心配して声を掛けてくれる人もいたが、

 「筋肉痛なだけですので、気にしないでください。ありがとうございます。」

 と、精一杯の笑顔で返すもその一言に何とも言えない引きつった顔をされては、

 「そうですか。がんばってください。」

 と、言われそそくさと俺を追い抜いていく。

 車に辿り着き、車に乗り、エンジンを掛ける。体は少し痛むが、階段の時に比べたら天国のような状態で一番幸せな時間を過ごすことが出来たが、2~30分でそれは終わり、駐車場から、会社のビルまで錆びたブリキ人形のように一人ぎこちなく歩き続け、エレベーターに乗り、職場へと向かう事がなんとか出来た。

 出勤の時にすでに満身創痍な俺の姿を見た課長が立ち上がり、俺の傍へと駆け寄ってくる。

 「ちょ、ちょっと!ワ、分目くん。ど、どうしたの!?」

 俺の体が椅子を以上に欲していた為、課長の言葉を無視して自分のデスクに精一杯の力を込めて近づいていく、自分の問いかけに反応が無いことに心配をさらに募らせたのか、課長は俺の前に回り込んできては

 「肩貸すから、ホラ摑まって。」

 とか、

 「無理しないでいいから休んでいいんだよ。」

と言ってくれるが初めての全身筋肉痛に余裕がなかった俺は、

 「大丈夫です。」

 の一言で押し切り、自分のデスクの椅子に座り込んだ。

 「なんで、そんな状態で出勤してきたの。体が資本なんだから。いつも言ってるでしょう?」

 座れた事への安堵で少し平静を取り戻した俺は改めて何故か背中を丸めて傍に立って困った顔をしている課長へ顔を向ける余裕が出来た。

 「ホント大丈夫ですから。心配して頂いてありがとうございます。」

 課長の疑った顔が徐々に近づき視界一杯に疑った課長でいっぱいになる。

 「ほんとぉーにー?」

 若く綺麗な女性に近づかれるならまだしも、40過ぎたおっさんの何気にケアされてる肌を見せられても何も嬉しくない。

 「本当です!もう、顔近すぎです!離れてください!」

 近付く顔をどかす為に課長の両肩を押す。

 しかし、その一挙手一投足の動きに激痛が走るが、奥歯を思いっきり嚙み殺して表情が変わらないように我慢する。

 「そっかー。でも、無理して仕事しないでよ。頼むから。」

 小動物が何かをおやつを欲しがるような顔する。いちいち止めて欲しい。

 「ありがとうございます。でも、なんでそんなに休ませたがるんですか?今までそんなこと言わなかったじゃないですか?」

 何かを言いたげに手を組んで左右の親指を回転させながら言葉を詰まらす課長。

 「どうかしたんですか?」

 「さ・・・ぃ」

 課長の口が急にごもって目が左右に泳ぐ。

 「え?」

 筋肉痛の痛さも相まって心に余裕が持てず思わず口調がきつい一文字が俺と課長の間を駆け巡る。

 「査定!」

 舌の滑走路で加速された三文字が、最高速度で飛び立つ。

 「さてい?なんかあったんですか?」

 「さっきメール確認してたんだけどね。最近の社会の情勢がなんちゃかんちゃらでぽんぽんぽんだから部下の健康管理も評価査定に加わるってことで体調崩した部下を無理に出社させると査定にマイナス評価が付くって連絡があったんだよ。」

 課長は、腕を組んで難しい顔で首を傾げながら説明する。

 「課長。」

 「ん?」

 俺の声に反応する課長を見てると少し、可哀そうに思えてくると自然と口が開いてしまう。

 「大変っすね。」

 「そうなんだよー………って、上司に対して口調キツ過ぎない!?もうちょっとさ、労ってくれてもいいじゃん!」

 40近いおっさんが頭真っ赤にしてその場で変な動きをしているのを見ているとこの人はどうして出世出来たのか思うと、この会社の行き先が不安になる。その場を取り繕う心無い台詞が自然と出てくる。

 「まぁ、そこはあのーすみません。筋肉痛がひどくて心に余裕が…。」

 「やっぱ体調悪いんじゃん!」

 次々と取り繕うだけの台詞の羅列がペラペラと出てくる。

 「でも、風邪引いてる訳じゃないですよ。うちの部署、会議とかある訳じゃないし。筋肉痛なら大丈夫じゃないですか?」

 「………じゃぁあいいか。」

 いいんかい。ん?

 クスクスと笑いを応える女性の声が俺の横の席から聞こえ、釣られるようにその笑い声の主を確認する。

 そこには、グレーのノーカラージャケットとパンツであわせたセットアップで身を包んだ同期の本城灯が、気付かぬうちに出社し、自分のデスクに座り目を細め、手で口を隠しながら体全体を小刻みに震わせている。

 「本城さーん。笑ってないで何とか言って。」

 課長は俺を挟んで反対側にいる本城に声を掛ける。

 小刻みに震え、今だに口元を手で隠しながら、本城は言った。

 「筋肉痛だったら、冷やした方がいいですよ。」

 本城の震えは未だに収まる気配はない。

 課長は、思った答えが返って来なかったのかあからさまに落胆してあげてた両手は下にだらりと下がり頭は垂れている。

 「そうじゃなくてぇー。」

 震えながら本城は、目に少し浮かんだ涙を左手の人差し指の第二関節辺りで拭うと、深い深呼吸を何度か繰り返し、次第に震えが収まっていき最後に深呼吸をし長く息を吐き出すとボソッと

 あー面白かった。

 と、呟くと。続けて口を開く。

 「お風呂とかマッサージも効き目あるみたいですから、試してみるといいですよ。」

 本城は俺の目を見て伝えてくる。

 随分、詳しいんだな。俺は、素直にそう思った。

 仕事が始まる合図の爽やかで軽快なメロディが流れ始め、そのメロディから少し遅れる形で入り口から先輩が、出勤の挨拶と共に現れた。俺と本城が先輩に挨拶を返す。項垂れている課長は、そんなのお構いなしで子供のように何かに凹んでいた。先輩は、この光景を見て、

 「何かあったんですか?」

 と、課長に聞くが、課長にはその言葉が耳に届いていないのか、大きなため息をついた。

 「もはや、無視。コミュニケーションって難しい…。」

 先輩は見るからに大きく肩を下げる。

 キーン、コーン、カーン、コーン。

 俺は、始業のメロディが流れている事を課長に伝え、促した。

 「課長。チャイム鳴ってますよ。朝礼。始めましょう。」

 ロボットのように自席へと戻る課長と首を傾げながら自らのデスクに向かう先輩を見て、本城だけに伝わるように小声でお礼を言う。

 「本城さん。ありがとう。助かったよ。筋肉痛の事も帰ったら試してみる。」

 「いえいえ、朝から笑わせてもらいました。私も運動するんで、知ってるだけです。」

 そう本城は言うと、少し優しく微笑えんだ。

 それから、朝礼は始まり、業務連絡や本日の業務内容の共有をして5分程度で朝礼は終わり、今日の一日が始まった。

 基本、デスクでのPCの入力作業がメインで立ち上がったり、歩き回る事も無いがそれでも紙資料の確認や領収書の確認で立ち上がる事もある。その度に、本城や先輩が代わりに取ってくれたりしてフォローしてくれた。都度、感謝の言葉を投げかけ、心が感謝の気持ちで溢れていく。

 そうして、午前の業務は終わりお昼の時間となる。

 先輩が、飯買ってこようか?と言ってくれたがそこまで迷惑になるのも申し訳なく思い、丁重にお断りさせて貰い。食堂へとガチガチの体に鞭打って歩いて行く。部屋を出ようとした時、課長が俺の背中に声を掛けて来た。

 「ゆっくり食べていいからね。遅刻してもいいからちゃんと休むんだよ。」

 俺は、体を少しでも楽させる為ドアの戸当たりを掴みながら、半身だけ課長の方に振り向くと

 「ありがとうございます。お昼行ってきます。」

 と言葉を置いて行き、食堂へと向かう。10階建てのテナントビルの上位5階が俺が働いている会社が入っており、その一番下5階は、元々飲食店用に作られたスペースだったが、社長が借入れし、他の階に入っている他会社の人も使える共同食堂として使用されている。味、値段も良いことから評判も良くいつも賑わっている。8時~19時まで食堂としては珍しくフルタイムで営業しており時間帯によってメニューも違うなど力の入り方が尋常でないのも特徴だった。

 行列に並び、食券を買う。

 今日は、焼き魚定食でもするか。

 そのまま列は牛歩のように遅いが確実に進む人の頭の列をただぼんやりとみていると、昨日の弾速測定の事を思い出す。弾速を上げるってどうやるんだろう。ドリルとか使って色々やるのかな?などと思いふけっていると、いつの間にか、ご飯とお味噌汁。主菜のサバの塩焼きに、副菜の蕨お漬物とグリーンサラダの小鉢がお盆の上に置かれ、列から出ていた。ガチガチの体を何とか制御してお昼ご飯を零さないように慎重に慎重を重ね、運よく空いた一人掛けの窓際の席に着席し、ご飯を食べる。

 食べながら携帯を手に持ち、行儀が悪いがユーチューブのアプリを開いて何か見れる動画が無いか調べていく、映画品評、歴史、バラエティ番組の切り抜き、芸人chなどSNSのタイムラインのように下から上へ気になる動画を探す為にスライドさせていく。

 何回か親指でスライドさせていくと英語のタイトルで何が書いているかわからないが、どこかの建物の屋上で、画面の3分の1を埋める程の鉄の塊を持った一人称視点で左上にパチンコ玉程の大きさの傷を複数負った腕が痛々しく挿入され「OUCH」と書かれたサムネイルが目に止まる。

 何気なくタップして動画を再生する。

 英語のナレーションが流れる中、Y字の建物が映され突然画面が暗くなる。その暗闇に目が吸い込まれながら、おかずに箸を伸ばし口に運んでいく。暗闇にライトの光が照らされ、廊下が現れるが、わかるのはそこまでですぐ光は闇に溶け込んでいた。

 箸を思わず止めて画面に食い入る。

 突然カウントダウンが始まり、本場の発音で「Zero」と言うと耳をつんざく爆撃音のような音が物凄い速さで鳴り続ける。びっくりして、箸を落とし、音量を下げ、周りの人に軽い謝罪をしたのちに携帯を持ち直し動画を見る。本物の戦争の動画かと思ったが、見続けていくとどうも違う。ストロボのような光量をしたライトが点滅し闇のさらに奥まで一瞬見える。そこには手を挙げた人がうっすら立っていて、どんどん先に進んでいく、また爆撃音が鳴って、暗闇の中、光の線が闇に向かって伸びていく。言葉の意味もどういう内容かもわからないままご飯を食べるのを忘れて流れる映像に釘付けになっていた。

 暗闇を抜け、眩しいぐらいの緑がみえる出口に向かって走り込みそのまま外へ出る。突如現れた迷彩服を着て談笑している男たちに向かって、持ってる鉄の塊を左から右へ薙ぎ払うように爆音を轟かしながら振ると、驚き身を縮こませながら兎の耳のように手をあげていく。映像の下段にはテロップで「HIT!HIT!HIT!」と書かれていた。この時点で初めてこの鉄の塊はエアガンと言うことが分かって海外のサバゲー動画と言うのが分かった。それから、お昼ご飯の事が頭からすっぽり抜けて、両手で携帯を握り、映像に没頭する。

 一人称の視点で取られた映像と言う事もあってか頭の中で映像の動きと自分の動きがリンクする。敵を探す為に走り込み、敵の背面を突く為に忍び足で近付き、敵の正面に立ってエアガンを乱射する。ヒットしたら声を上げて手を挙げてアピールもした。

 最後にもう一度英語のアナウンスが流れて動画は終わる。

 気付いたら、おすすめされた似たような動画をタップしていた。

 すげぇ、海外のサバゲーってこんなアクティブなんだ。日本でも出来んのかな?

 なんて事をふと考える。

 今度レンタル品返す時店長さんに聞いて見よ。

 そう頭によぎった後にお昼ご飯の四文字が浮かび上がり、再生中の動画を停止させ、時間を確認する。

 12:50

 昼休憩終了10分前。

 まずい!そう思った俺は、急いで動画視聴をやめて、ほぼ手付かずの焼き魚定食を頑張って胃袋に流すように食う。

 なんとか、5分で食い終わる事が出来たが一斉に胃の中に詰め込んだ事で、腹がもたつくような感覚を覚えながら、また、全身筋肉痛のボロボロの体を引きずって職場へ戻って仕事を開始した。

 午後の仕事が始まる。

 デスクに座り、パソコンで作業を始める。データ入力をしながら昼見た動画が何回も再生され、何度も自分に置き換えながら仕事を続ける。その行為があまりにも楽しくて時折、片方の口角が上がってしまうのが自分でもわかった。

 いつしか就業を終えるチャイムが鳴り響く。

 翌日特に何もなければ終礼ミーティングは無い為、部下三人家に帰り支度を始め、課長も三人の動向を見守ったのち追いかけるように身支度を始めた。

 そして、苦難の道のりは始まり、何とかして自宅マンションの駐車場まで辿り着いたのだが、エベレストと化した自分の家に続く階段を車から降りてすぐ見上げる。

 山の頂上である自分の家の玄関まで目を持って行く。

 あそこまで、果たして俺は上り切れるのだろうか。いや、上らなければならない。何故なら、そこが俺の家なのだから。朝からちっとも治ってない全身の筋肉の痛みに耐えながら階段の前まで進む。普段なら元気よく夕飯の事など考えながらもろともせず日常の一部としてスラスラと登る事が出来るが今日は違う。意を決して左足を上げ階段の一段目を踏もうとするが、そもそも太ももが痛くて上がり切らない。激痛が走って足踏みするような形でその上げた足を静かに降ろす。深く深呼吸をして、両手で手すりを掴む。しかし、この時も左右上腕の筋肉が悲鳴を上げてくる。しかし、この悲鳴に必死に耐えながら階段ギリギリまで足を上げ痛みに耐えながら栄光への一歩を踏み出した。始めたからにはやらなければならない。厳しい山登りが始まった。

 一段一段上り階を重ねていく。時折後ろから聞こえる子供たちの声が近づいてきてすぐ後ろまで来たこと思うとすぐ、子供が不思議そうな顔を俺に向けながら追い越していく。元気な足音だけが上階に向かって伸びていく。

 その足音を追うように確実に一歩づつ階段を上がっていく。しばらくして半分の3階まで上がって来た時廊下の方向から子供の声が聞こえ、複数の足音と共に近づいて来るのを感じた。何かあったんだろうか?と思いながら後半戦に向けて気合をもう一度入れているところだった。

 「こっち。こっち。お母さん。」

 丁度、3階の階段踊り場に着いた瞬間に先程すれ違った子供と子供に手を引かれ連れて来られた母親が目の前に現れる。

 母親と目が合った俺は、軽く会釈をする。

 「こんばんわ。」

 情けない姿を見られたので恥ずかしさがそうさせたのか精一杯の笑顔をしたような気がする。その挨拶を聞いた母親は明らかに怪訝を通り越して不審者を見るような表情をしていた。

 あ、まずい。

 その顔を見て俺はすぐさま弁明を始める。

 「初めまして。私、6階に住んでいる分目類と申します。ご迷惑をお掛けしてます。」

 「あ……はい。」

 母親は眉間に皺を寄せるのをやめ、視線を下に降ろし黒目がきょろきょろと動き出す。

 「変でしょう?お母さん?」

 母親の袖を引っ張り気を引きながら母親に語り掛けるその無邪気さが一層俺の胸を鋭く貫く。そして、母親は、すぐに子供の頭をポンと軽くはたく

 「失礼でしょ。体壊してる人に。ごめんなさいして。」

 母親の言葉を聞いて俺はすぐに口を開いた。

 「いえ、いいんです。子供から見れば変なのは、間違いないですから。お気になさらないでください。」

 俺は、この場から逃げるように一礼して鞭を打った体にさらに鞭を打って、出来る限りの最高速で階段を上がっていく。

 後ろで、お大事になさってください。と声をが聞こえ、子供との会話が聞こえる。

 それを、勝手に応援歌と思い、後半部分を駆け上がった。

 その後、時間帯もあってか何度か、人とすれ違って好奇の目に晒されながら恥を忍んで自宅へと辿り着き、鍵を開け、玄関に靴を脱がずにそのまま座り込む。こうして家に辿り着くことが出来た。階段を登るだけでここまで時間がかかるとは。

 駐車場から自分の家までの道のりがこれ程辛い日もそうそうないだろう。

 手荷物もすべて放り投げて上半身を廊下に委ねて大の字になる。

 廊下の先にあるドアから差す微かな外の夕焼けが廊下を照らす。

 薄暗い天井をただ見ながら風呂に入りたいと切に願った。

 「マッサージしなきゃいけないしな。」

 ぽつりと漏れた言葉と共にゆっくりと体を起こし、靴を脱ぐ、立ち上がりたくなかったので四つん

這いの状態で赤ん坊のように這って風呂場に行った。苦労して風呂を沸かし、リビングへ赴き冷凍庫の中からハンバーグ定食の冷凍食品を取ってレンジにかけ、簡単に食事を取って食事が終わって動画サイトで昼に見た海外のサバゲー動画を見ていたら風呂が湧いたチャイム音が鳴ったので、また赤ん坊のように這って入浴に行き湯船に浸かって体全体をマッサージしていく、初めてやる事なので勝手が分からなかったが、筋肉を柔らかくするイメージで揉んでいった。

 一通りマッサージを終え足を延ばして全身浴で癒されていると疲れがどっと出始め急な睡魔に襲われ、そのまま風呂を出て体を拭き、寝間着に着替えケータイとコップ一杯の水を持って寝室に行った。そのままナイトテーブルに目覚まし時計と充電器が一緒に置いてあるコースターにコップを置き、ベットの中に潜り込み、照明を消して暗闇の中俺の顔をケータイの光が照らしてる中ネットサーフィンを始める。一通り波乗りを楽しんだ後に、アヴァランチオペレーションのサイトに辿り着いた。

 サイト内のメニューバナーの中から「GALLERY」と書かれたバナーをタップする。一番最初に出てきたのは、昨日、定例会で最後に撮って貰ったガクさん達との集合写真だった。下には昨日の日付と定例会と書かれている。そこをタップするとグーグルフォトのアプリが起動し無数の写真データが閲覧できるようになっていた。

 適当にスライドさせるとししょーとおっちゃんのツーショットの写真が出てくる。思わず、タップして見る。二人ともエアガンを構え互いに左右に狙いを付けて今にも歩き出そうとしている写真に心臓の鼓動がスキップし始める。

 自分の写真は無いかと思って昨日来ていた服を思い浮かべながら次々とスライドさせていく。眼球をフルで動かして自分の姿を探していく、生涯ここまで必死になって自分の姿を探すことになるとは子供の時には想像も出来なかっただろう。

 そして、一枚の写真に辿り着く。すぐにタップして画像を拡大する。

 エアガンを構え敵に撃ってる味方が大勢いる中一人だけエアガンを持って前傾姿勢で敵陣に突っ込む俺を横から撮った写真が画面いっぱいに出てくる。

 たぶん一番最初のゲームの時の写真だろうと記憶を辿る。

 「あん時は、無我夢中だったなぁ。」

 自然と一人でニヤついてしまう。ひとしきり堪能した後、その写真を気に入った俺は画像を保存して、残りの写真を適当にスライドして見ていく。

 そして最後の写真へと辿り着く。それは、最後に撮った4人の集合写真。

 タップして、画面いっぱいに拡大してじっくりと見ていく。

 アヴァランチオペレーションの看板をバックに横一列に並んだ構図で、4人がそれぞれ好き勝手にエアガンを構えてキメ顔をした一枚。

 おっちゃんは、エアガンを右手で持って左手でピースをし。

 ししょーは、右腰部分に固定させたエアガンを台座のようにして右腕を置き左手を腰に当ててぎこ

ちない笑顔になり。

 ガクさんは、真正面を向いて肩幅に足を開き、両手でしっかりとエアガンを下に向けて構えて、俺

は、両手の手の平にエアガンを置いてカメラに見せびらかす様に持ちながら満面の笑みでカメラに向

かっている。

 写真なんて滅多に撮らねぇから無理してら。

 自分を鼻で笑った後、その集合写真を自分のケータイに保存してケータイで目覚ましを掛けてナイトテーブルに置くと眠りについた。

 サバゲー後の筋肉痛に苛まれた一日はこうして幕を閉じた。

 翌日から、少し筋肉痛はマシになり痛みに耐えながら通常通り生活できるようになっていた。

 煙草を吸ってる時間やお昼ご飯など暇潰しの動画はサバゲー関係の物が多くなっていく。

 そして、筋肉痛の症状が和らぐと共に、動画から、エアガンのメーカーやエアガン専門のネットショップを見る事が多くなって行き、次の土曜日AMATERASUにレンタル品を返しに行くだけだったのが次第と何のエアガンを買おうに変っていった。

 ワクワクが止まらない一週間だった。仕事している際中も色んなエアガンの事を考え、本城さんに声を掛けられたにも拘らず気付かずにすこぶる怒られる事も何度もあった。

 それぐらい、俺は浮かれていた。

 とある日の昼休み、いつも通り一人でサバゲー動画見ながら昼ご飯を食べていると先輩に声を掛けられた。

 「最近、オマエ楽しそうだな。なんかあったのか?」

 俺って、そんな態度に出る人間だったのか?なんて自問自答しながら先輩に日曜日に行ったサバゲーの事を話すと

 「そっか。オマエにそんな趣味があるなんてな。てっきりインドア派かなって思ってたからさ。」

 先輩は、少し驚いた顔をしながら答えてた。

 そんなことがありながらサバゲー漬けの日々を過ごし、土曜日の朝を迎える事になる。

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