攻防戦(表)~攻防戦(裏)【6】
動画サイトを通じてサバゲーを知った日の翌日エアガンショップで出会った店長と山寺岳にエアガンの楽しさを教えてもらいサバゲーの定例会に参加する事になった分目。
レンタル品のAK-47を手に初サバゲーを体験する。
様々なゲームを経験しながら、新たな出会いを得て、エアガンの深さを知ることになる。
ラストゲーム 攻防戦(表)黄色防衛側Aフラッグ「アルファ」赤色攻撃側Eフラッグ「エコウ」
陽の光は少し傾いていた。
太陽の温かさが少しづつ失いつつあり、さっきから少し涼しさを感じる。
凪より少し強い風が草木を揺らし、大小多種多様な足の音が一つの場所に向けて川のように鳴り響く。
その川の中に俺とガクさんは巻き込まれていた。川の流れに身を任せ、流れの行先のAフラッグ、スタート地点へと到着する。水たちは、ダムの放流を待つかのように心を躍らせ、各々に好き勝手に話しては気持ちを作っている。攻防戦。ガクさんから話を聞くと今まで遊んだルールとは全く違うゲームだと言う。今回自分たちは、防衛側に回りフラッグを取る為に攻めてくる赤チームをゲーム終了まで食い止めるというルールらしい、攻撃側は無限に復活が出来るが、防衛側は復活は無い。その代わり、防衛側はフルオート使用可で攻撃側はセミオートのみと互いに制限を掛けられているらしい。
攻撃側の方が有利じゃないですか?そうガクさんに聞くと、基本的には攻撃側が勝つルール設定なのだそうだ。表裏で攻守交代をして、クリアタイムを競うゲーム。それが攻防戦だと言った。最後にガクさんは、
「それでも、防衛側が守り切ることが極稀にあるんです。守り切った時の安堵感と言ったらもう癖になるぐらいです。」
Aフラッグは、平野ゾーンの最南西地点に存在し、大人が3人ほど隠れることができるバリケードと盛り土をフラッグ側凹型にくり抜き、土嚢で内部を強化し、上半身をさらけ出すことになるが1m程の高さから見下ろせる一人用防御拠点が3つ、Aフラッグの盾として斜めに一列設置されている。いくら、平野ゾーンには大小数多のバリケードが設置されているとしても見晴らしは良く、お世辞にも守ることが難しいように思える。
「なんか、守るの難しそうだな。」
ふと漏れた言葉にガクさんは反応する。
「なんでそう思うんですか?」
不意の質問に心臓を槍で突き刺すような感覚に襲われる。初心者の俺が口出しするようで口をつぐみかけたが、勇気を出して口を開いた。
「初心者の意見なんで、あれ、なんですけど。3つの防御拠点があるんですけど、見た目、守れそうに見えるんですけど、IフラッグとBフラッグがこっからでも丸見えなんですよ。見晴らしが良すぎるなって思って。」
俺の言葉を聞いてガクさんは、含みのあるため息を吐く。それを見て俺は的外れな事言ったと思った。
「い、いや!ホラ!初心者の言う事ですから。真に受けな…」
俺の言葉を遮ってガクさんの言葉が乗っかって来る。
「ワンメさん………。本当に初心者ですか?」
思ったリアクションより真逆の物が返って来て面を食らう。
「めちゃめちゃ周り見てんじゃん…。」
ギリギリ聞こえる声量でガクさんは言うと、
「そうなんです。ここは、フラッグの前にでかいバリケと3つのトーチカもどきがあって強そうに見えるんですが、決定的な弱点が2つあるんです。それが、ワンメさんがさっき言った通りBフラッグとIフラッグが丸見え。侵攻ルートが見えすぎるんです。それと、ここのフラッグより後ろに何もない事です。隠れる所もバリケも。まぁ、ギリースーツでもあれば、ネット際に生えてる草むらに隠れることは出来るんでしょうけど、まぁバレますね。つまり、最終防衛ラインが手薄になってしまう。この二つがまぁ、致命的です。じゃあ、このフラッグを守るにはどうしたらいいか。前に出るしかないんです。前に出て少なくても防衛ラインをここ入れて3つは作らないといけない。しかも広範囲に。守る場所が少ないようで多いんです。今日の人数的に広さはカバー出来るかもしれませんが、守りの壁はどうしても薄くなってしまうでしょう。そこをどう補っていくか、これが今回の攻防戦の要になります。初動がかなり大事になってきますね。スタートコール直後に如何に早くフロントラインを遠くに形成できるか。しかも、敵はエコーフラッグから来ます。スタート位置からして展開は非常にしやすい。Cフラッグを通ってB、そしてAに行く最南のセーフティネット際ルート。F、G、H、I、Aと最北のネット際を通るルート。最短距離のE、Aの正面突破ルート。向こうに連携できる人が多ければ、主力を…」
ガクさんは親指ぐらいの大きさに見える一際目立つ双子のような標高4m程の山を指を差す。
「あれが、見えますか?」
そこには6番と5番の看板が掲げられている。
「主力部隊があそこの5、6番の山に集結。そこから兵力を分散3方向から囲むようにして部隊を展開すれば、こちらの防衛ラインは大きく後退させられます。そうしたらもう打つ手はありません。速攻で落ちるでしょう。」
ガクさんは、一度大きく息を吸い、吐いた後何かを言いかけて言葉に詰まる。
少し、目が泳いだ後に頭をの後ろに右手を持ってくると乾いた笑いをしながら申し訳なさそうに
「すみません。ちょっとスイッチ入ってしまったみたいで。すみません。」
軽く頭を前に倒す。
そして、今一度鋭く息を吸い込むと仕切り直してこう言った。
「まぁ、なんて言うか…目の付け所がシャープですね!」
サムズアップでこの場をごまかそうとしていた。
どの世界でもそうだが、自分の好きなことになると途端に饒舌に捲し立てて自分の思いや考えを話す事に夢中になってしまう人がいる。今まで生きてきた中でそんな人と話したりしたことは多々あった。その度に、目を見開き輝かせ、如何にすごいのか、如何に素晴らしいかを俺に伝えてくれる。
俺は、その夢中になってる姿を見ると少し羨ましく思う。
そして、相手が何かに気が付くと、申し訳なさそうにしながらガクさんみたいに謝って来てその直後から流れる少し気まずい雰囲気が流れるのはお決まりだった。そういう時、俺は、いつも笑顔を作って相手の話に合わせ相手が何を求めてるかを探りながら会話を進めていた。
雰囲気に流され、そのまま言われた通りに動いたり、見たりするが、敷かれたレールを歩いてるようで興味が一気に削がれ、やる気も気失せていく。
しかし、この今だけは違った。素直に口が勝手に動く。
「どう、守りますか?二人で。」
え?ガクさんは、キツネに摘ままれたような顔をした後すぐに口角を少しだけ上げると一言
「2番です。」
5番6番の二子山の手前にある小さい丘のてっぺんに設置された「2」と書かれた看板を指差した。
「2番で守るって事ですか?」
「そうです。あの位置からなら5、6の牽制も出来ますし、Bフラッグから回ろうとする敵を抑えることができる。Bフラッグ自体は手前のバリケで抑えることは十分ですし、恐らく守りやすいからだれか行くでしょう。あの地点を抑える事が出来れば2方向からの侵攻を抑えることは可能です。」
真後ろから誰かの気配を感じたと同時に声が聞こえて来くる。
「あのーすみません。」
俺と、ガクさんは同タイミングで後ろを振り向く。
そこには、完全武装したおっちゃんとししょーが立っていた。
ガクさんは、はい、なんですか?と言う。
「もし良かったら、俺ら二人もその案に乗ってもいいですか?」
「人数多い方がおもしれぇじゃん。」
ゴーグル越しのおっちゃん目は、優しく笑っている。
ガクさんは、少し戸惑いながら聞き返す。
「それはいいんですけど、開始直後にダッシュして最前線に行くんで、すぐヒットされる可能性もありますけど、大丈夫ですか?」
ししょーは、おっちゃんとししょーを交互に指を差しながら
「大丈夫っす。最後の2ゲーム全力出そうって話してたし、作戦も同じの立ててたんである程度連携取れると思いますよ。」
と、言うと
「俺達二人が左翼、Bフラ方面に展開して守り固めるんで、反対方向そちらのお二人にお任せするって感じでどうです?」
提案してきた。
ガクさんは、二つ返事で言葉を返す。
「いいですよ。それで行きましょう。」
「了解です。じゃあ、このゲームよろしくお願いします。」
「ま、俺がぁ来たからには百発百中よ。」
ししょーは深くお辞儀し、おっちゃんは銃を構えて撃つ真似をする。おっちゃんが構えた銃がさっきと違いガクさんに似た銃を持っていた。おっちゃんの銃に少し近付き観察するように眺める。
「さっきと違うエアガンですよね?これ。」
「あ?コレ?M4だね。」
「これも、カスタム?してるんですか?」
「ん?してるよ。」
「それでは、間もなくゲームを開始します!」
スタッフのアナウンスを聞くとししょーとガクさんが軽く言葉を交わしあうと互いにバディに声を掛ける。
「ワンメさん。前に行きましょうか。」
「おっちゃん。前行きますか。」
俺は短く、ハイ。と答え。
おっちゃんは、ん?前行くの?
と、不思議な顔をしながらいそいそと最前線へ出る。
「おっちゃん。そりゃ、そうでしょ。前に出ないと前線出れないでしょ。」
抜けた顔をしながら、あ、そうか。とおっちゃんはししょーの横に並び、俺もガクさんの横に並んで4人で、列を作る。
「それでは、ゲームを開始します!ゲーム開始まで、5秒前!」
スタッフがカウントを始め、緊張感が高まっていく。
「5、4、3、2、1…」
4人が一斉に左足のつま先に力を籠め、前傾姿勢になる。
「スタート!」
スタッフの高らかに上げた声が空気を震わせると、俺達4人の力を込めた左足が、全力で地面を蹴り上げ、それに呼応するように、後ろにいた味方達も続いて来るのを感じる。それを置いて行くように俺達4人は、我先に最前線を確保するべくただ前を見て目標の二子山の手前にある2番と書かれた地点へと風を切っていく。3つ並んだ防衛拠点を越え、無数のバリケードを越える。ここで二手に分かれ、俺とガクさんは二つの丘の間を通って草むらが生い茂る迷路へと入り、ししょーとおっちゃんは、迷路の外側を通るように左に進路を取って行った。
俺は、走りながらふと前方の丘と草むらの隙間から蟻のように見える人影が、右から左に列を作って走って行くのが見えた。ガクさんの後ろに付いて右に一回曲がり、少し開けた場所に出るとまた左に曲がる。目の前に「2」の看板が見える。
「ワンメさん!左側警戒お願いします!俺は、右を見ます!」
ガクさんの指示に従い2番の丘の奥から2~3人こちらに向かってくる人影が一瞬見えて、目の前の二子山奥に消えていくのを確認した。2番の丘に辿り着き、急いで露出していた体を丘に寄り添わせ、飛んでくるであろうBB弾に備えると、同時に敵側Bフラッグ方面からの発砲が爆竹のように激しく鳴り始めた。
「ワンメさん!前から敵がこっちに来るの見ました!」
「了解!何人かわかりますか?」
「見えたのは2~3人です!」
「了解!ワンメさんはそのまま2番に上って建物の中に入らずに入り口付近で敵を見張ってください!」
この時点で、二子山を正面に2番の丘の右端に岳が位置取りし、敵と接敵交戦を開始する。
分目は、岳の指示通り2番の丘に設置された建物の手前で膝をつき左側前方を警戒。おっちゃんは、2番の丘左前方の丘を凹型に切り出した防衛地形の凹部分に入り、分目と射線をクロスする形で二子山方面をフォローし見える敵の足止めを始め、ししょーはおっちゃんの位置から10m程離れた丘と丘の間にある茂みの中に位置を取り二子山を直接狙っていく。
岳とししょーで二子山を直接狙い、状況によって敵が側面を狙って来た時の防御の役割を担い、分目とおっちゃんで、2番丘を左周りで攻略しようとする敵の足止め役を担うことになる。この位置取りで、Bフラッグから2番の丘左側まで防衛ラインを築くことに成功した。その頃には前線の敵もBフラッグから二子山にかけてのラインで4人に相対する形で攻め上がり、後続の味方も前線を中心に各々好きに散らばっていく。Bフラッグ付近のバリケードが群生するゾーンに多くの味方が固まり、おっちゃん、分目、岳とフィールド中央に寄るほど味方の配備が薄くなっていく。
斯くして、敵味方のBB弾が飛び、交じり合い攻防戦の序盤戦が始まった。
この時敵の赤チームは、Eフラッグ正面二子山を経由する最短距離を目指す一団とCフラッグを経由しセーフティーネット側Bフラッグを目指す一団とF、H、Iフラッグの順番に一番奥のネット際側から遠回りする一団の三方向から攻めあがる形を取っていた。
この動きは、2番丘より奥のネット側の味方が発砲したことで、岳が気付く。そして、そこから岳の側面を付くように敵がこっちに向かってきていると予感し、舌打ちをする。岳はすでに二子山より前に出て来た敵と交戦を始めており、何人か敵を捌きながら右側に注意を送る。少数の味方がネット際側にも展開していたらしく動きを止めようと抵抗をしているの音で感じ取ることが出来たが、敵が居ると思われる方向からの発砲音と味方がいる側面後方からの音の数を比べると敵の方が人数が多いように聞こえたのを感じると敵のBB弾から隠れる為の丘の影からネット際側をちょくちょく確認してはリズムを刻むように相手に顔を出させないように撃ち込んでいく。
一方分目は、少し高い位置にいるということもあってBフラッグからCフラッグにかけて広く状況を見渡すことが出来ていた。
恐らく、10人以上が走ってCフラッグに向かいバリケードに隠れつつ上手く飛んでくるBB弾を回避しながら確実に歩みを進める敵チームの動きが見えていた。それと同時に少人数が分目のいる2番丘に向かって走って来るの確認。分目は、その一団に向かってフルオートを撃ち込む。3人の内2人は走る足を止め近くの物陰に隠れた。一人はヒットコールは聞こえはしないものの手を挙げて自陣のフラッグへと走って帰っていく。
人の殺気を肌に感じる度にエアガンを構えたまま黒目だけを動かし周囲を警戒していく。
おっちゃんは、静かに凹型にくり抜かれた丘の壁から身を少し出しつつ、岳の側面をフォローする形で一人づつ確実に足止め、相手を警戒させていた。
そしてししょーは、おっちゃんの側面を守る為に凹型にくり抜かれた横の道からやって来る敵を足止めしつつ、激戦区であるBフラッグ周辺の様子を見ながら狙える敵はピンポイントに狙っていきヒットを取ることで足止めをしていった。
敵の中央侵攻ルートを真っ向から抑える様に2番の丘からBフラッグ近辺までを横一列4人が配置されたことで、敵はこちらの防衛線の張るスピードも早かったのと分目のフルオート射撃も相まって敵の侵攻は完全に足止めすることに成功した。
しかし、敵も起死回生を狙う為遠回りルートから外れ、2番の丘を目指そうとした敵が岳の側面を狙うが、岳の制圧射撃と別の場所に展開していた味方からの支援射撃の2面攻撃によりこれも足止めに成功する。防衛戦初戦は、圧倒的な展開力により分目、岳がいる黄色チームに軍配が上がった。
しかし、この射撃で岳は中央ルートから来る敵と遠回りのルートから来る敵を同時に相手しなければならない枷を負う事になる。
その間分目は敵チームの放つ殺気が肌に纏わりついてくるのを喉を鳴らすことで跳ねのけようとしながら、グリップを握る手に余計な力が入いっていた。息は荒くなり、口から零れる熱気はフェイスマスクの隙間から保護ゴーグルの内側に入り、目の周りを嫌な熱気が包み込む。ふと、遮蔽物の上に黒い何かが見えたような気がして、なりふり構わずトリガーを巻き込むように引いた。連続で発射されるBB弾は、黒い何かの周辺に飛んでいく。草木に当たり揺らいだ瞬間、黒い何かは遮蔽物に引っ込んでいく。
その様子が見えた瞬間敵がそこに居ると確信した。
次は外すまいとしっかりと狙いを定める。
永遠に思えるほどに短い数秒。興奮しているのか心臓が早く、殴りつける様に鼓動する。血が滾り始め、視界が狭まりかけようとした時にぼやける何かが動いたのが見え、そこに焦点を合わした。
何かがエアガンを構え、体をさらけ出している。
その銃口に思わず視線は吸い込まれていく。
自分でも何を見てるのかわからなくなり頭が真っ白になっていた。
何年も使っていない工場のブレーカーが上がり何年間ぶりに稼働したように頭が正常に動き出すとそれが敵が構えているエアガンの銃口だと気付いた瞬間に、避けなければと頭が指令を出す。しかし、あまりの急な指令に脳はパニックになり体は石のように硬直した。頭の中で、体よ動けと叫ぶ事しか出来なかった。
分目の体は遮蔽物に身を半身出し、銃を構えた状態から氷のように固まっている。
相手からすれば良い的だろう。
やられる!と覚悟した時に今日一日よく聞いたエアガンの発砲音が一発だけけたたましく鳴る、同時に左側から一際目立つ別の発砲音が鳴ると、ほぼ同時に敵が手を挙げ、目の前の遮蔽物にパツンというBB弾が当たる音が耳に届き、敵のヒットコールが聞こえる。
そこで、初めて体が動き始め、銃を遮蔽物に当てながら体を遮蔽物の中に隠した。
自分が生き残っている事が理解できず、ただ興奮している体を抑える様に背中を丘の斜面の道に預けながら、肩を上下に激しく揺らし呼吸をする。
「アブな…か……た。」
すると、笑い声と共に聞き覚えのある声が響いてくる。
「おほほほ!やっりぃ。ワンキルゲットだぜッ!」
おっちゃんだ。その声に釣られてか違う音の発砲音が交互になり
「アブネ!」
と、おっちゃんは叫ぶ。
その声を聴いて体が勝手に反応し、斜面から立ち上がり、翻す様に上半身を遮蔽物から出し、新たにエアガンを構える。さっきに見た黒い何かが居た場所に全身黒い服装赤いマーカーを腕に巻いた人間が、おっちゃんの声をした方向に向かって撃ち込んでいたのが見えた。
そのまま狙いを定め、トリガーを引きフルオート射撃を叩き込む。
敵は、俺の発砲音に気が付きこっちを見るが、顔を守るように左腕で顔を覆う。
「ヒットォ!」
俺は、トリガーから指を離す。敵は、体から力が抜けたようにエアガンを持ちながら手を下げ、俺を一瞥すると後ろに振り返りエアガンを両手に持ち空高く上げ
「ヒット通ぉーりまーす。」
と、言いながら二子山の方へ歩いて行く。
その後ろ姿を見ながら徐々に視界を人から風景へとシフトチェンジしていった。二子山の天辺辺りまで視界を広げると、二子山にある建物から肩から上へさらけ出した二人が誰かと交戦しているのを見ると、エアガンをなぞる様に敵の頭へ持って行き狙いを定め、引き金を引こうとした瞬間二子山の反対側から、敵が山を登って来ては、俺らの攻撃など気にしせずに一直線に山を下りこちらに向かってきた。
「進めぇ!!!攻めろォ!」
一人の敵が雄たけびを上げるとそれに続くように一人、二人、と増え、三人並んで一目散に降りてくる。急いで、目標を切り替え、今、走って迫りくる眼前の敵の動きに合わせ、照準を即座に合わすとフルオートで敵を迎え撃つ。
狙いは定まっているはずが発射されるBB弾の中を掻い潜って降りてくる眼前の敵は、ヒットコールをすることなく走り向かってくる。一人目、二人目、三人目降りてくる敵に見境なくエアガンを振り、当たってくれと神頼みをしながら撃ち続けるが、敵に当たる事はなかった。
そして、エアガンが突如また止まる。
また、壊れたか!?
緊張の汗とは違う凍るような汗が背中から一筋背骨を伝う。
その瞬間、初めて射撃場でエアガンを撃った時のことを思い出した。
『この銃は、オートストップ機能があって、弾が無くなると撃てなくなるようになるんですよ。ホンモノみたいでしょ?』
弾が切れたか?
焦った分目はその場でマガジンを交換しようとエアガンを上に上げマガジンに手を掛ける。戦闘中の興奮もあってか下の方を掴み前へ押し出そうとするがマガジンはロックされていて取り外す事が出来ない。イメージとは違う現実に少しパニックになりもう一度マガジンを前へ押し出す。
ここで再度記憶がフラッシュバックする。
『マガジン交換やってみましょう。まず、マガジンの手前に下に伸びている金具があるのわかりますか?』
そうか!
エアガンの根本とリリースパドルを掴み、エアガンの前へ突き出す様に前へ出す。勢いよくマガジンは外れる。そのタイミングを見計らったかのように自分のいる少し前の壁にBB弾が当たる音がバチンと響くと、分目は、空のマガジンを持ったまま急いでしゃがみ体を丘に隠した。
急いでジーパンの空きポケットに空マガジンを捻じ込み、全弾装填済みのマガジンを反対側のポケットから引きずり出す。
次に脳内の中ですぐに岳の言葉が再生される。
『マガジンの下の方を持ってください。』
マガジンを握った手を見ると、偶然にも下の方を握っていた。
『マガジンの上の方にコの字の部分があると思います。それを先に銃の中に入れて前に押し付けて、引っ掛けてください。』
マガジンの先のコの字の部分を見てエアガンを縦にして脇に抱える様に持つとマガジンキャッチの先端にコの字の部分を引っ掛けたのを確認して
『そうしたら、前部分を引っ掛けながら後ろを銃に入れてみてください。』
引っ掛けたコの字から起点にして円を描くようにマガジンキャッチに入れる。入ったのを確認せずエアガンを構えると、マガジンは音を立てずに重力に引かれて落ちていった。分目は気付かないままマガジンは装填出来てるものとして敵の迎撃に備えようとチャージングハンドルを引いて立ち上がり、狙いを定めずにとにかくトリガーを引く。
東京マルイのAK-47次世代電動ガンは実銃の動きを再現しているエアガンのシリーズの一つで特定の所作をしなければマガジン無しの状態で可動することは無い。
その事を思い出した俺は、体を敵に晒してエアガンが動いていないのを実感した時に初めてマガジンが装填されていない事に気付いた。
マガジンが無い!!?
マガジンに気を取られた俺は、前の方から発砲音が耳に届くとすぐ顔を上げた。
さっきまで走っていた敵の三人組が各々別の位置から一斉に銃を構えて撃ってるのが目に入った瞬間血の気が引くの同時に身体を屈ませ丘の後ろへと隠した。
連続して起こるアクシデントに頭が混乱し、何が起きているのか理解しようとも頭の中がシチューのようにぐちゃぐちゃになって焦りが体を支配する。
そうだ。マガジン。
この四文字を思い出す。
すぐさま無くなったマガジンを探す為に地面に目を向ける。
足元に入ってたはずのマガジンを急いで拾い、マガジンの先をマガジンキャッチに引っ掛けて円を描くように再度装填する。
カチン。
聞いたことがあるマガジンが装填される音が自分の耳に確かに届いたのを確認し、ちゃんと装填できているかマガジンを持って力を入れて前後に振る。
岳は、珍しく2本目のマガジンに手を伸ばしていた。
普段は使うことが無いフルオートを多用して、二子山方面と側面の二面に対して牽制、交戦を行っている為である。二子山からの敵襲の凄まじさは舌を巻くほどで、常に多方面からの集中攻撃を食らって中々敵に対して有効打を与えられず防戦一方を強いられていた。
普段だったら楽しいんだけど、ワンメさんの事を考えると途中退場は出来ないよなぁ。
初心者が最前線で一人残される心細さを経験した事ある岳にとって、一番の心配事は分目の心情だ。少しでも、サバゲーを楽しんで貰いたい。その為に全力でサバゲーの楽しさを伝える事。良い所を濃密に経験してもらい、極力嫌な思いをさせないようにする。
それが、岳の今日一日の目標であり目的だった。
正に接待をしている。そんな気持ち。
岳が防戦で考えた台本はこうだ。
前線に出て防衛戦を張り、ある程度防戦したのちに早めに分目がヒットし戻ってきたところで前線を交代。チーム全体でほぼ同タイミングでヒットを取られて、仲良く帰る。防衛戦では、敵が無限に復活して攻撃に参加して来る為攻撃が止むことは無い。従って、時間が経てば経つほど味方の数が少なくなって行く為に敵の攻撃は右肩上がりに激しくなって行く。
早めにヒットしてもらえば一緒に為の調整がしやすくもある。しかし、そんな思惑も簡単にぶち壊してくれるのもサバゲーだ。
二子山の天辺にある建物に二人、壁に開けられた穴からエアガンと顔を出して一心不乱に撃ち込んでくる。俺に顔を出させない気だ。余裕があればその穴に向けて弾を叩き込むことは容易だが、こう弾幕が濃いと狙って撃つことは出来ない。反応射撃に近い形で、遮蔽物替わりの丘から顔とエアガンを瞬時に上半身だけ出して撃っては顔をすぐ引っ込める。
射撃の合間を縫って何度か撃ち合いをし、相手の射撃のテンポが遅れるのを肌で感じると、ここぞとばかり体の半身を丘から出し、姿を現している穴に向けてフルオート射撃を叩き込む。
ある程度撃ち込むと顔を引っ込める敵の姿確認して、引き金から指を離し、敵の頭が壁の穴から出てくるタイミングを見計らって3連射を繰り返す。
横目で、側面の敵の動向を軽く確認しながら二子山の壁の後ろにいる二人にも牽制を掛ける。
場が膠着して少し時間が経った後ろの方から声がした。
「こっち、どんな状況ですか?」
岳は、敵に対しての警戒を怠らずに現状を説明する。
「4人でBフラッグからここまで横に前線を広げてます。正面の山に二人いるのは確定です。側面の方は、敵はこっちの存在に気が付いてますが、他の味方が上手く抑えてくれてて今の所問題ないです。」
「りょーかいです。後ろから側面方面見てますね。」
後ろの気配が大きく安心感が増していく。この人なら任しても大丈夫そうだ。
「おねが…」
と、声の主に答えようとした瞬間。二子山の穴から敵の二人が顔を同時に出してきたのが見え、咄嗟に、左の顔に向けてドットサイトの照準を合わせ3連射を叩き込む。
それと同時に身体を丘の後ろに隠す。
敵の反撃と共に微かにヒットコールが聞こえた。安心していた矢先に、
「進めぇ!!!攻めろォ!」
と、敵の掛け声が二子山から響いて来る。急激な不安に駆られ顔を草と草の間から敵からばれない位置からで二子山の様子を確認すると、壁の穴から覗く二本の銃口の他に人一人の影が山を左方向、分目の担当するエリア方向に下っていくように見えた。
すでに、一人ヒット取ったが、臆せず攻めてくる敵の勢いを見ると、岳が思っている以上の人数の敵が二子山に展開していると考えを改めた。
これ以上分目の負担を増やさない為にも、自分に敵をもっと注目させないといけない必要性が出てくる。上半身を出し、フルオートで撃ち続ける。敵に頭を出させずにこっちの注目を集めさせる。
2~3秒撃ち続けると発砲音が少し高くなったことに気付く、弾切れのサインだ。何ともタイミングが悪い。岳は、舌打ちをして身を丘に隠す。
「リロードします。」
と言うと、目の前にタイフォン迷彩のコンバットシャツにカーゴパンツにカイデックスマグポーチ2つと黒のダンプポーチを腰に装備したコンバットベルトを着けた味方が、脇を締め、少し前傾姿勢でウィーバースタンスを保ちエアガンを構えドットサイトにショートフォアグリップと言うシンプルなガスブローバックのM4を一発一発丁寧に且つ素早く撃っていた。
「フォローします。」
味方の返答を聞いた岳はもう半歩横にずれて安全を確保すると、味方は、岳が居た位置に一瞬で付き、二子山へ牽制射撃を始める。
分目は、チェストリグに装備した予備弾倉を一つ取ると、そのままエアガンに装填されている空の弾倉と一緒握ると、マガジンキャッチボタンをグリップ握っている手の人差し指で器用に押し、弾倉を抜き、新しい弾倉をスライドさせるように装填させ、空の弾倉を腰の辺りに付けているダンプポーチにそのまま放る。
分目の顔が脳裏に一瞬過る。
「すみません。仲間の様子を見たいので少しここをお願いしてもいいですか。」
「了解。それまでお留守番してますよ。」
「戻ったら、肩叩いて合図します。」
岳は発砲音とヒットコールが飛び交う最前線の中、念の為前方を警戒しつつ分目の元に向かう。
2番の丘まで5m、すぐに辿り着く。
丘上の防御地点に入る手前で分目が肩で息をしながら装填されたマガジンを前後に動かしていた。
「分目さん。大丈夫ですか?」
分目の傍まで行き、正面を警戒する。
「危な…かった時もあ……まし…たけど…なんとか…」
時折呼吸と生唾を呑みながら絶え絶えに喋ってくる。
「マガジンそれ最後ですか?」
分目は深呼吸をして息をある程度整えた後に、
「はい。。。ラストです。」
確か、ワンメさんマガジン二本しかなかったよな。
念の為周りを警戒しながら岳は分目に対して口を開く。
「撃つ時は一気に撃つんじゃなくて3連射がおすすめです。撃ちっぱより長持ちします。」
「わかりました。」
分目は最後に深く、そして長く息を吐いて心と体を落ち着かせた。
「ダダダダダではなく、タタタン。タタタン。と、リズミカルにやると効果的です。がんばりましょう。俺は、他の二人を見てきます。」
「了解です。がんばります!」
体を落ち着かせた分目は、エアガンを改めて握り直し、敵に相対するために立ち上がり、すぐ撃てる
ように中腰の態勢を取る。やる気満々。そんな背中を見ながら岳は、2番丘からBフラッグ方面にいるししょーの元へ足を動かしていく。
Bフラッグ近くの左翼防衛ポイントへ川にある飛び石を飛んで対岸に行くように点在している丘を障害物にして遠回りをしていく、丘と丘の間を通る際は、一度立ち止まり、間の道をチラリと確認し、敵が居ない事を確認して用心深くそして素早く通っていく。
2つ目と3つ目の丘を渡る際に敵の確認を行うと左翼中間地点を守るおっちゃんが、分目に敵を近づけさせないように膝立ちでエアガンを構えているのを見る、無事を確認してから、再度警戒態勢を取りつつ先程同じように丘と丘の間を抜けていく、Bフラッグに近づく程に激しくなっていく発砲音と弾着音が空気に熱と殺気を帯びていく。
3つ目の丘の裏。防衛ライン最端真後ろに辿り着く。
正面から発せられる音圧に心臓の高鳴りは強くなっていく心地よさに酔いしれながら丘の障害物からゆっくりと顔を出し、正面の状況を確認していく。左翼最端はBフラッグを挟んでの敵味方の攻防の中最前線を一人だけの味方が抑えていた。一枚のバリケードの上右左と三方向からタイミングをずらしては顔を出し、隙を見ては単発で相手に向かって撃っていく後姿は孤高の戦士のようにも見える。
視界を広げ周りを見ていく。
右側はおっちゃんが守っているから心配はいらない。
ししょーに近づく為に何も守る所が無い場所を走って行かなければならない為激戦区のBフラッグがある左側を注意して見ていく。丘に生えた草むらは思った以上に視界を阻む、その向こう側は地面の色と空の色がチラついた。
だが、自然とは似つかわしくない赤色がはっきりと見えた。
敵だ。
その場で組んだチームのもう片割れのバディは右翼へと走って行くのを眼球の動きのみで軽く確認して、ししょーは左翼の最前線へと向かう途中走り際にBフラッグの奥に恐らく敵であろう赤い姿を確認すると、左翼の最前線のさらに奥へ走り込み、草むらと丘のエリアを抜け、Bフラッグ周辺のバリケードが乱立している処へと姿をさらけ出す。
素早く左右を確認する。
左、自陣フラッグから走り込んでくる味方が10人以上いる状態。
右、遠回りしてきた敵が7~8人走り込んでくるのが見えた。丁度中間の位置に自分が居る事を認識すると、撃てと言わんばかり体を曝け出し走って来る遠くの敵に対して横一線にフルオートで掃射する。敵に当てる必要は無く、近くの地形、障害物に当てて相手にプレッシャーを与え動きを止めるのが目的だ。ロングレンジカスタムを施したこのHK416ならヒットは取れなくても近場に弾を運ぶことは出来るはず。
飛んでいく小さい6mmのBB弾は視界から消え、風景に溶け込んでいく。
自分の目では当たったかどうか確認は出来ないが、敵の何人かは何かにBB弾が当たった音に気付いたのか近くのバリケードに隠れた。隠れた周辺に線を描くようにトリガーを引いたままエアガンを動かし音で漢字の一の文字を描いて行く。ししょーに気付いた敵の一人がカウンターショットを決めようとエアガンを構えた瞬間。
ししょーの横で色んな発砲音がけたたましく鳴り響くと、エアガンを構えていた敵が、驚いてすぐに顔をバリケードに引っ込めた。
ししょーは横を見る。
後ろから走って来ていた味方が追い付き、ししょーの射撃に呼応するような形でにフルオートを叩き込んでいた。その後ろからさらに味方が2~3人走って来て、さらに先のバリケードに行かんと決死の行動に出ていた。射撃で初動を止められた敵は何も出来ず、この決死の行動を許してしまうことになる。ししょーは、その一連の流れを見て自分の役目を果たしたと判断し、本来の左翼防衛に向かう為草むらと丘のエリアに走って戻り、中腰の状態で、敵を警戒しながら素早くバリケードと遮蔽物を経由して自分の行く先を敵に悟られないように進んでいく。
3~4秒程でおっちゃんの後方10mぐらいに付く。おっちゃんが警戒している2番方面に敵影は見当たらない。ししょーの開幕ダッシュからの制圧射撃により敵の動きは一瞬鈍化し、その隙を突くように味方が前線をかなり上げた為に味方の壁によってししょーの守る位置は、守りやすくなっていた。
膝立ちして大きい体を一生懸命丸めてエアガンを構えた男の後姿に声を掛ける。
「おっちゃん。こっちどんな感じ?」
「ルーキーウマくてよぉ。敵が来ないのよー。」
首だけくるりとまわして横目でししょーを確認したおっちゃんは、白髪のひげと一緒に口角を上げる。
「おっちゃんのラインまで来られてたら前線崩壊してるでしょうよ。」
「やっぱりぃ?」
「このラインで一番踏ん張らなきゃいけないのはたぶん俺らだしね。」
「じゃぁ、ちょっとちょっかい出してくるかな。」
よいしょ、イタタタ…。とおっちゃんはさび付いたブリキ人形のようにぎこちなく立ち上がる。
「あんま、前出すぎんなよ。おっちゃん。すぐ後ろの丘裏いるからなんかあったら伝える。」
「あいよ。」
ししょーは、一応の警戒をしながらも悠々と持ち場に着く。
左右端2本の支柱に1mの長さの杉の板を何枚も重ねて作られたバリケードに左右にそびえる1mぐらいの丘、道は前と後ろだけ、警戒すべきは敵がやって来る前方のみ。
Bフラッグ付近の味方の壁のお陰で、後方に回り込まれる心配も無く、この上なく守りやすい地形となっていた。
ししょーは、バリケードの杉の木の間に1~2mmの隙間が空いているところが幾つかあるのを見つけ、そこに目を近づける。鼻に土と砂埃と少しのカビ臭さを感じながら微かに見えるバリケードの先を嘗め回す様に観察していった。
敵は、5人。
こちらに気付く様子も無くセーフティ側Bフラッグを挟んで味方と撃ち合っている。バリケードから目を離しバリケードに身体をこすりつける様に左耳を押し付け二子山を見る。発砲音こそ聞こえはするが敵の姿は見えない。音色の質が違う幾つか違和感を聞き取る。敵は、二人ほどいるように感じる。
確認出来ないところに無理に攻撃せず、Bフラッグと正面にそびえ立つ丘の草むらの先の時折見える向こう側に注意しながら防衛線を張ることにした。
今一度バリケードの間の隙間から敵の動向を覗いていく。
見られている事に気付かず応戦している姿をしばらく眺めて、敵の戦力を探っていく。敵は、味方の攻撃の一瞬の隙を見つけては一歩一歩確実に歩を進め前線を上げている。チームで動いているのか、敵の連携の練度も高く、味方はどちらかと言うと押され気味の状況だ。味方側からちらほらとヒットコールも聞こえ始める。
少しづつ敵が近づいて来る。
人の形が徐々に見え始め、エアガンの外装や人間の表情までもが鮮明に見えてきた。
バリケードから覗く二つの目玉は獲物の狩り時を見定める。
次第に声まではっきり聞こえてくる。
「前方Bフラッグ敵が二人。フロントマン!さらにその奥にうじゃうじゃいるぞ!弾幕に気を付けて!!」
そうはっきり聞こえると、眼前に敵は姿は現す。
他の敵に気を取られ、ししょーに気付いていない。
ししょーは、バリケードから目を離さずに静かにバリケード左側に身体を寄せてタイミングを計る。敵が、開けた所に足を進め、完全に首をししょーとは逆のBフラッグ側に振った瞬間。ぬるりとすべる様に銃と体を一緒に出して、ダットサイトの光点を敵の体に定めてセミオートで一回だけ発砲し、すぐに体を引っ込めた。
「ヒット!!」
敵のヒットコールを聞きながら、再度バリケードの間から目を覗かせる。突然の攻撃に目を丸くし棒立ちになった敵は、瞬時に何かに気付き走ってきた道を戻って行った。
「射線ッ射線ッッ!戻れ戻れ!!」
後続の何人かが先頭のヒットを受け、叫び、攻撃を受けないようにと、でたらめに撃ちながら下がっていく。ししょーは、板越しに頭に響く着弾音を浴びる様に聞きながらバリケードの間から目を覗かせる。
これで、ここはある程度大丈夫だろう。
軽くため息をつきバリケードに身体を寄せながら片膝をついてHK416を構え、二子山方面に向けて銃口を静かに突き出した。
二子山の頂上から敵が二人顔を出し、どこかに向けて撃ち下ろす形で攻撃を行っている。
初心者の子がいる2番の丘上の防衛陣地を見て、地形に動きが無いのを確認する。
と、なると…もう一人のお兄さんとやりあってるのか。
自身のHK416の三倍固定のスコープを覗く。
肘から上を出して攻撃しては、すぐ遮蔽物に隠れてはまたすぐに体を出して攻撃している何とせわしない敵の姿が、凹凸レンズの小さい面積に赤く発光した十字のレクティルと一緒に映し出されれると、セーフティを外しセミオートにセレクターを入れ、ゆっくりと呼吸をし始める。
スコープの中の敵は、相変わらず上下に身体を忙しなく動かしている。
トリガーに指を掛け、撃つタイミングを計る。
1、2、1、2、1………。
敵の上下運動は一定のリズムを刻んでいる。
1、2、1、2、1!
敵がしゃがんだタイミングで、立ち上がった時にいるであろう人影の頭に向けてトリガーを引いた。
スコープの中の誰もいない景色に下から現れる敵。
立ち上がる敵に向かって吸い込まれるように白いBB弾が飛んでいく。
当たった!
弾道、発射タイミング、敵の立ち位置、3つの当たる条件が結果を見る前に確信を覚える。BB弾が見えなくなった刹那、敵が手を挙げヒットコールを上げると敵陣地へ帰っていく。
スコープから目を離し、エアガンを降ろして敵が居た場所を広く見る。
すでに、他の敵が同じ位置に立ち、エアガンを構え、別方向に対して撃ち込み始める。ししょーの存在に気付かずひたすらに一方向に向けてBB弾を撃ち込んでいる。時折来る反撃に身を逸らし、時折フェイントを入れながら障害の排除をしようと躍起になっていた。
気付いていないなら、それでいい。
ししょーは、それ以上の撃ち込みをやめて、再度バリケードの隙間から敵の動向をさぐる。多数の敵が、各所に存在するバリケードを利用して、Bフラッグを挟んで交戦している中、3人ほどこちらを警戒して戦闘態勢のままじっとこちらを警戒していた。
「迂闊に顔出せんな。」
ししょーは、ぼそぼそと自分に言い聞かす。
ま、このまま警戒して足を止めてくれればこっちのもんか…少し様子見と行きますか。
二子山方面への警戒を解き、バリケードから睨みを利かす。
「おほほほ!やっりぃ。おっちゃん。ワンキルGETだぜッ!」
丘を挟んで内側からやけに陽気な声が耳に届く。
おっちゃん楽しんでやがるな。あんま調子乗るとやられるぞー。
ししょーの頭の中でおっちゃんが笑顔で指を鳴らすと、敵をバリケ越しに見ながら鼻で笑うと口元の片方がゆっくりと上がった。
「アブネ!」
間髪入れずにおっちゃんの声が聞こえる、不要に声を出した為位置がバレたんだろう。
撃ち込まれる姿を想像すると両方の口角がぐんと上がった。
「思った通りじゃねーか。」
小声で注意する。
バリケードの向こう側に動きが出る。警戒していた3人が迷いを断ち切ったかのようにゆっくりと行動し始めたのだ。一人がししょーがいるバリケードを警戒しながら進むと、少し距離を開けて二人目が警戒しながら射線を遮らない様にししょーから見て一人目の右後ろに位置を取る。二本の直線で上下の射線を潰す作戦だろう。一人目がBフラッグの方向を上半身を乗り出す様に警戒する。それをフォローするように右後ろにいる二人目はししょーのいるバリケードの警戒し続ける。さらに、3人目がバリケードから出てきて二人目の肩に手を置くと、二人目は右にスライドするように動き二子山方向を警戒し始め、三人目は二人目と同じ態勢を取り、ししょーのいるバリケードに対して警戒態勢を取り、そして、Bフラッグ方面を警戒していた一人が、警戒を解き、改めてししょーのいるバリケードにエアガン向ける。
三人は二等辺三角形を作る形で、正面右の二方面を警戒しているのをししょーは心の中で舌打ちを打ちながら見る。
どのタイミングで撃ち込んでいくか頭の中でシュミレーションをする。
バリケードのどの位置から体を出し、どこまで引き付けて撃って、どの順番で撃ち込んでいくか。なるべく、敵に自分の位置を知らせず、再度警戒してもらえるような撃ち込み方。あまり時間が残されていない中、経験と知識をフル導入して答えを導き出す。敵は3人、ほぼ直線で陣形を組んでいる二人の敵と二子山方面を警戒している敵で構成された二等辺三角形。先頭の敵とは10m以内、超が付くほどの近距離戦を求められる。
相手からしたら遭遇戦になるだろう。
なら、得意だ。
戦略が組みあがる。ししょーは、敵3人の位置を把握し、ばれない様にゆっくりと先頭の敵の正面に立ち上れるように位置をずらし、右の腰に付けたカイデックスホルスターに装着した黒のコルトガバメントに手をかけると一気に立ち上がるのと同時にコルトガバメントを抜き、顔に付いてしまうぐらい近づけてに構えると、顔とエアガンが出た瞬間に、エアガンの銃口をバリケードより前に突き出しながら後ろに下がりつつ3発、出て来たししょーに驚いている先頭の敵に叩き込む。ヒットコールを確認する前に、二子山方面を警戒していた敵がこっちに銃口を向ける前にエアガンを向けて再度三発叩き込む。
撃ち漏らした敵が、横からぬるりと射撃体勢を取りながら出てくるのを確認すると、ししょー自身も横に素早く動きながら、出てきた敵にヒットコールを言うまで何度も撃ち続ける。
敵のBB弾は、その場に居たはずのししょーの残影に吸い込まれ、ししょーの発射したBB弾は、先頭でヒットコールを宣言しようと手を挙げている途中の敵を巻き込みながら何発もその後ろの敵目掛けて飛んで行き、何発目かでヒットし、数十秒で、事は終わった。
三人が、手を挙げて仲良くヒットコールを宣言しながら自陣のフラッグへと戻っていくしかし、すぐさま違う敵が後ろから現れ、奥のバリケードから発砲して来てた。
ししょーは、すぐさまバリケードに身を隠し、構えてたコルトガバメントをカイデックスホルスターにしまい、少しバリケードから距離を取った後にHK416を構えると、左側から片膝をついた状態で右半身を出す。
道を挟んで、バリケードを使用した1on1が始まった。
程よくして敵は、バリケード左側から同じように銃を構えて臨戦態勢のまま半身を出し、ししょーを確認すると、即発砲してきた。ししょーは、発砲音と同時に露にした半身をバリケードへ戻し、右足を前に出して左膝に全体重を掛ける様に体を前に倒してエアガンを構え直し、半身を傾ける事でバリケードから頭とエアガンだけが出るようにして応戦した。
それから先は、敵二人とししょーの1対1の状態で、もぐら叩きの様に互いに体を出しては引っ込め、一瞬のタイミングを捉える戦いが繰り広げられる。
何回か撃ち合えばおのずと相手の強さと言うのはわかるもので、相対する敵の強さは、大体ししょーと同じぐらいもしくは少し上というのは感じていた。
先ほど倒した敵もあと1~2分で確実に戻って来る。と、言う状況で自分に出来る事は、なるべく早く倒して、自分に有利の状態をキープし続けるかの勝負になった。
追い詰められている。
そう、思うと俄然やる気が出てくる。
息を思い切り吸い込み、吐き捨てる様に一気に噴き出す。
どこまで、出来るかやってやろうじゃないか!
弾がまだ入っているマガジンを抜き、腰に付いてるダンプポーチに放り込み、新しいマガジンを装填する。バリケードの隙間から覗き込んで敵の位置を掴むとバリケード左側から先ほどと同じように低い体勢を取り顔とエアガンだけを出す様にして、攻撃を開始した。敵とししょーが撃ち合う弾は、中々当たらず、時間だけが過ぎていく、敵が攻めあぐねていた時、一つだった発砲音が二つに増えた。それを聞いたししょーは、すぐに発砲音の発生位置を突き止める為にバリケードの隙間から覗き込む。先程、先頭でヒットコールして帰った敵が体全体を曝け出しゆっくりと歩きながらバリケードに一定のリズ
ムで撃ち込みながら一直線に攻めてくる。
それを見た二人の敵もバリケードから体を出して撃ち込んでくるのが見えた。
三種の発砲音が息を尽かせず畳みかけて鳴り響き、バリケードに激しくBB弾がぶつかり続ける。
ここで、ししょーが身を出して反撃に出たとしても無様にやられて犬死するのがオチだ、守りが無くなっ場所から敵が流れ込み、他の場所を守ってる味方の死角に回り込まれ防衛線が総崩れになるのが目に見える。今いる場所から下がって少し後ろで防衛線を張りなおしたとしてもおっちゃんの側面を取られる事になる。
ここまでかぁーまぁ、よくやった方か。
ししょーは、その場に留まりゼロ距離射撃による相打ちを選び、どのタイミングで出るか窺っていた最中、岳は、バリケードに多人数からの射撃で張り付けられたししょーとバリケード向こうに悠々と撃ちながら近づいて来る敵を視認した。
岳は、すぐさまエアガンをハイレディ状態からすぐさま射撃体勢へと変え、ドットサイトの赤点をししょーに釘付けで岳に気付いていない敵に合わせると迷いなくトリガーをツータップする。
周りの発砲音にかき消されながら飛んでいく岳の弾は、警戒外からの攻撃に対応できるはずも無く、易々と敵の右肩と首に着弾した。
敵は、いきなりのヒットに驚き思わず大きく情けない声で左手を空高く伸ばし続けてヒットコールしながら、エアガンを構えた岳を見ると、そのまま振り返って二度目の退場をしていく。
岳は、ししょーがいたバリケードから聞こえる着弾音の多さと音が鳴る間隔の無さに最低でも、もう一人敵は確実に居ると判断した。エアガンを構えたまま上半身を動かさずに下半身だけで素早く足をクロスさせ右にスライド移動して周辺にいる敵を索敵を行うと、左奥にエアガンを構えた敵を見つけ、再度ドットサイトの赤点と敵を重ねると右足に力を入れ急ブレーキを掛け移動を無理やり止めながら今度はトリガーを3タップした。無理やり止まった影響でドットサイトの赤点は暴れ狙いから離れようとするが、エムロックハンドガードを握り込んだ左手を体に引き込むように力を入れ肩にしっかりと固定させ、体の中心に一本の棒が入ったイメージで上半身固定させる事で無理やり留まらせた。
その状態で発射された3発は大方狙い通り狙いの左奥の敵に目掛け飛んでいき、一発は相手の右肩の少し上を通り遥か後方に飛んでいくが、2発は丁度、胸の辺りに纏めて当たった。
二人目の敵も片腕を上げ声高らかにヒットを宣言する。
ここで敵の攻撃が止み、岳はドットサイトを覗きながらすぐ反撃に移れるように両目を開けて索敵をしながら、適当に撃ち込みながらししょーの元へと進んでいく、バリケードにいるししょーの元まであと少しと言うところで視界の右端にある草むらの先で何かが動いたのを確かに見ると、すぐさまその動いた先に向けて何度もトリガーを弾く、草に当たりほとんどの弾が草に弾かれ左右上下あらぬ方向に弾が飛び散って行くが一発だけ奇跡的に幾重にも重なった草のカーテンの隙間に出来た光の先に針の穴を通す様に無音で駆け抜け、その先にある何かに着弾する。
岳は、そのまま滑るようにバリケードに隠れていたししょーの隣に片肘をついて座った。
「…助かりました。」
ししょーは、相変わらずバリケードの隙間から相手の動向を探りながら深く深呼吸をする。
間一髪の状況に出くわした岳は、左翼が落ちるのは時間の問題と感じ、手短く話し始めた。
「ここ、ヤバそうですか?」
「ヤバいですね。」
岳は、自然と舌打ちをしていた。その直後溢れた感情の発露を反省する。
「すみません。貴方が悪いわけでは…。」
「いや、俺もファッキューって感じなんで気持ちわかりますよ。Bフラ前線が崩れてます。フロントラインは俺でしょうね。」
岳は、先程ヒットを取った敵の悠々と歩いている姿を思い出す。
「前線を後退させましょう。Bフラライン(Bフラッグ直線上)の味方がいる所まで」
「今すぐって事でいいですよね?」
ししょーは、マガジンの残弾を確認しながらそう答えた。
「むしろ、退がるなら今が絶好のチャンスです。」
ししょーは、岳に顔を向けると力強く頷いた。
岳は、それに応える様に右肩を軽く握りこぶしで小突くと全力で敵に背中を見せて走り出す。
それと同時に、ししょーはバリケードから体を出して敵がいる正面に向けてフルオートで連射する。
「おっちゃん!!」
近くで潜んでいるおっちゃんを大声で叫ぶ。
「なぁに?」
と、ぼけたようなおっちゃんの声が聞こえる。続けて
「ししょー?」
そう言うと、エアガンを二子山に向けしゃがんで構えた状態で、ふと頭を90度横に振ると全力で走る岳と目が合った。
岳は、走りながらおっちゃんと目が合う。親指を立てて自陣フラッグに向かえとジェスチャーをするとそのままその場を走り抜け、分目が布陣している2番の丘の後ろに戻り、防衛をお願いしたタイフォン迷彩の味方に乱れた息使いの中懸命に声を掛けた。
「防衛ありがとうございます。遅くなりました。左翼が瓦解しました。俺達はここから下がりますけど一緒に退がりますか?」
「リロード。」
タイフォン迷彩の男は、静かにそう言うと2番丘に隠れる。
交差するように岳が、エアガンを構え二子山へ体を半分曝け出す。
敵影発見できず。肩を上下に揺らすのを抑えるように心臓の鼓動の速さとは逆にゆっくりと震えながら息を吸っては吐きを繰り返しながら二子山の敵陣地を警戒する。
リロードを終えたタイフォン迷彩の男が
「俺が殿を務めますよ。だから、退却が完了したら肩を叩いてください。」
「了解です。」
岳は短く答えると、すぐに踵を返し、タイフォン迷彩の男と位置をスイッチすると、2番丘の分目の元に向かう。
指示通りに3タップで交戦している分目の後姿と隠れている遮蔽物に途切れずに弾ける着弾音が激しい戦場であることを示していた。
「ワンメさん!大丈夫ですか!?」
岳は、少し声量を上げて分目に問いかける。
分目が体を屈めて遮蔽物に背中を預け岳を見つめる。
「な、なんとか…。」
今日初めてサバゲーをやった男が、恐らく複数人を相手にヒットを取られずに一人でこの場を抑えた事に、岳は報告することを忘れ、驚きのあまり思考が一瞬止まる。
「ど、どうかしました?」
分目のその一言で我に返り、口を動かす。
「退却をしたいんですけど、出来そうですか?」
思わず、経験者に問いかけるように判断を仰いでしまう。
分目はその問いにどう答えたら一瞬戸惑ったが、着弾音の激しさに本能で答える。
「あー。多分。無理だと思います。」
その言葉に岳は、矢継ぎ早に喋り出す。
「敵は何人でどこら辺にいるかわかりますか?」
その言葉は分目の脳内を駆けずり回り、先程まで撃ち合っていた状況を鮮明に映し出す。
真正面の丘の右端に一人。
その真正面の丘から少し前の左側にあるもう一つの丘の頂点に一人。
手前にある土嚢の壁が設置されてる丘の後ろ左側に一人。
合計三人。
人数が分かった所で次はどう伝えようかと考える。
着弾音が鳴り響く中この壁から顔を出せばすぐにハチの巣にされるし、悠長に説明している時間も無い。頭で考えるより体が勝手に反応した。
「3人です。」
グリップを握っていた右手を外し、人差し指で左後ろ、真後ろ、右後ろと頭に浮かんだ映像の方向を指差した。
岳は力強く頷く。
「ワンメさん。頭を極力低くして、降りて来れますか?」
「やってみます。」
「エアガン預かりますよ。」
岳から分目に差し出された手に分目のAK-47が差し出され、岳が受け取ると、AK-47を構えて2番丘の側面の道から索敵を始める。二人ほど逃げようとしている分目の遮蔽物に対して撃ち込む姿を確認すると、左手にAK-47を持ち代えると空いた右手でガバメントをホルスターから抜いて左足を後ろに引き体を開くとガバメントを突き出し弓を引くような態勢で、見えた敵に対して弾切れするまで撃ちまくった。岳の姿に気付いた敵二人が、釣れた魚のように狙ってた遮蔽物から岳へと狙い代えて撃ち込み始める。岳は、直ぐに体を引くと、敵に聞こえないように声量に気を付けながら岳に声をかける。
「ワンメさん!」
分目は、納まった着弾音と岳の声と同時に、思い切って、丘を駆け降りた。
「大丈夫ですか!?」
「ありがとうございます!」
岳から差し出されたAK-47は分目へと返される。
「退却しましょう。あの二人も撤退を始めてます!」
分目の後ろから走り込んでくる。ししょーが見える。
「おっちゃん!!」
ししょーがそう叫ぶと、逃げてきた方向に向けて無造作にエアガンを乱発する。
「えぇえぁ?」
不思議な叫び声と共に、ししょーと分目の間から片足を庇うように跳ね走りながらおっちゃんが姿を現した。
「ワンメさんは、あの二人と一緒に退がって下さい。後から追いかけます。」
分目の返事を待たずして自分が受け持っていた2番丘の右端へと向かい、分目は、ししょーとおっちゃんに合流する為に走り出した。
タイフォン迷彩の男は、何度も来るBB弾を冷静に捌きながらその場を死守していた。
その男の後ろに近づき左肩に手を乗せ、感覚が残る程度に力を入れて肩を握ると。
「退却完了です。」
と、男に伝える。
男が、軽く頷いて返事を返すと、岳と同タイミングで向きを変え、その場から走って逃げだした。誰もいない道を走っていく、走りながら3人のヒットコールが聞こえなかった事に安堵しつつ、ししょーが逃げる際中撃ち込んでいた事を思い出し、恐らく敵が来るであろう場所に走りながらエアガンを構え、大きく揺れる照準の赤点謎気にせずその周辺にBB弾を送り込んだ。
敵の姿は見えずとも少しでも時間を稼げればそれでいい。
後ろはタイフォン迷彩の味方に任せて、エアガンの銃口を空に向けストック部分を脇に挟むようにして構え直しハイレディの状態にすると、全速力でその場を離れていく。
「黄色!黄色!黄色通るよ!」
丘の障害物を抜ける度に誤射されないように大声で自分のチームカラーを叫び、息を切らしながら走り抜いて行く。ここらへんで一番でかい防衛拠点の1番丘を左の視界に捉えながら頭の中で自分の位置と退却地点の予測を立てていく。恐らく、ここら辺で構えているはず。
一番丘を真横に丘と丘を挟んだ小さい谷をチームカラーを叫びながら走りそのまま勢いよく出て、右側を振り向く。敵らしき存在は見受けられないが、いきなり出て来た岳に驚き4~5人程の味方がこっちにエアガンを向け殺意を放ってくる。驚いた岳は空いてる左手の掌を見せて自分の前に持ってくると、止まりながら自分が黄色だという事を必死にアピールする。それを見た何人かは、向けたエアガンの引き金を瞬間的に止める者もいれば、反射的に引いてしまう者もいた。
岳は、音を聞いて当たらない事を瞬時に祈る。
体中の神経を研ぎ澄ませ少しでもBB弾が当たる感覚を察知する。
「ごめんなさい!」
発砲音がして一間置いて誰かが叫ぶ。
岳は、当たってない事を確認して、
「大丈夫です!」
と、サムズアップして叫んだ誰かに無事な事を報告した。
「ガクさん!」
聞きなれた分目の声が聞こえ、声の方向に顔を向けるとすぐ横で丘に身体を隠しながら片膝ついて座っている分目がいた。岳は、反対側の丘に取り敢えず身を隠す。
「全員います?」
「はい。後ろに、おっちゃんとししょーさんが見張ってくれてます。」
分目の頭先に、二人の姿は見当たらない。
少し、体を横にずらして丘の先を見ると、二人で引っ付くような形でおっちゃんとししょーが敵が来るのを見張っている。ししょーが、おもむろに振り返り岳の姿を確認すると、改めて敵の侵攻ラインを警戒する。敵の姿が見えない事を確認すると
「おっちゃん。ちょっと作戦会議してくる。」
小声で伝え、おっちゃんも同じように小声で、あいよ。と呟いた。
少し、腰を落として静かに分目と岳に合流した。
「良く、撤退出来ましたね。正直無理かと思いましたよ。」
ししょーは言う。
「殿を名乗り出てくれた味方がいたので、なんとか、その人のお陰で進行速度も少しは遅れてるみたいです。」
岳は、残して来た味方が戦っているであろう方向に視線を向ける。
丘に生えた草が目の前を覆いつくす先に耐えていてくれているタイフォン姿の味方の勇姿が目に浮かんだ。聞きなれた電動ガンの発砲の音の中に一つだけ重く、力強い金属の作動音とガスブローバック特有の少しくぐもった破裂音が鳴り響き続いていた。
その音は、岳やししょーを始め、他の二人にも届いている。
「ガスブロでやってるなんてだいぶエグいっすね。」
ししょーは、好奇心を抑えきれず、少し丘から顔を出して発砲音の出先を探してしまう。
「あの人ならもう少し耐えてくれると思いますよ。それまでに、この二つの丘を両側カバーして、4人でまたラインを敷きましょう。」
音の出所が見つからず諦めたししょーは、顔を出すのを辞め、岳を見て頷いた。
「じゃあ…こっち側は、俺とおっちゃんで守ります。そっちは、お兄さんたちでお願いできますか?」
岳は考えていた作戦と配置が全く同じな事に少々驚きを感じながら、頷き返し、分目に目を落とす。
「ワンメさん。こっち側に来てもらってこの中央の道を守ってもらえますか?」
分目も頷いた。
分目の返答を見た岳は、丘から顔を出し、敵の射線が通ってない事を確認し、敵が現れてもすぐに対応できるようにエアガンを構え戦闘態勢を取りながら分目にこちら側に来るように促す。
「今、大丈夫ですから、こっち側に来ちゃってください。」
この言葉を聞いて分目は首を横に傾け、谷の道から見える景色の中に敵がいないのを確認すると素早く岳がいる丘へと移る。移ったのを確認した岳は続けて分目に指示を出した。
「ここからこの道の防衛をお願いします。」
「了解しました。」
分目は、静かにそう答えると思い出したように口を開く
「ガクさんはどこを?」
「俺は、反対側からこの丘を守ります。もし俺がやられたら、俺の守ってるところに入ってください。」
「了解です。」
再度、分目は応対し頷くと、岳は、お願いします。と一言残し、この場を去り自分の持ち場へと向かった。タコの触手のように4つの丘で出来た3つの道を中央の道を、分目とししょー。その後ろに陣取った岳とおっちゃんが左右の道を守る陣形を取り、すぐ来るであろう敵を迎え撃つ準備を整える。
道を挟んで、分目は、ししょーと相対する。
たかが、5~8分ぐらいしか一緒に戦っていないのに歴戦の戦友のような安心感が芽生え始めていた。
「えーと。このタイミングで聞くのもなんなんだけど。お兄さんの事なんて言えばいいかな。」
まさか、名前を聞かれるとは思わなかった分目は、余裕がある人は違うな。と、関心しながら
「分目です。分目類って言います。よろしくお願いします。」
自然と首が垂れる。
「これは、ご丁寧に。自分は山本です。山本昴。まぁ、ししょーとかヤマさんとかすばるとか、呼ばれてます。まぁ、好きなように呼んで頂ければ…。」
ししょーも言葉に続いて首が垂れた。
頭を同じタイミングで上げた二人。目が合った瞬間ししょーが喋り出す。
「じゃあワンメさん。そっから右側を見てて貰えますか?俺は、左側見ます。射線を重ねる事で無理なく防衛出来たらないいなと思っております。」
分目の頭の中で説明された状況を絵に描いて確認する。
「丘から顔を出して正面見てればいいって事ですよね?」
「まぁ、そんな感じです。お願いできますか?」
「了解です。」
互いの死角をフォローしつつ防衛に当たる。
四方八方からがなり立てるように鳴り続ける発砲音とヒットコールの中、分目とししょーは静かに敵の来訪を今かと待っていいた。どのくらいの時間が経っただろうか、エアガンを構え続けた事で肩から腕にかけての疲れはピークに達し、徐々に構えが解かれていく。その度に降ろし、一息ついてはまた構え直してを繰り返しながら索敵を続ける。しかし、先程の激戦と比べると静かでこの場所だけの静寂が変な違和感を漂わせていた。
「分目さん。敵、見えますか?」
「いや、見えないです。」
ここだけ異常な程の静寂が続く、岳もおっちゃんも動きは見えない。
分目から見た正面の景色は絵画の様に切り取られたように変化は起きず、遠い所でがなり立てるように音が至る所で鳴っている。
集中が時折切れては、短く息を吐いて集中しなおす事を繰り返しながら自分なりに最大限の警戒をしている際中、左耳にある男のヒットコールが入って来る。
「ナイスヒットー」
誰かが、どこかでやられた。それだけの事。
「GO!GO!!GO!!!GO!!!!」
ヒットコールの後に、感情のダムが決壊したような怒号が防衛ラインを築く4人の耳に届き、人数が特定できないぐらいの色んな声が混じった叫び声が津波のように押し寄せた。その瞬間小さい声で、ウソだろ。と、呟いたのが確かに聞こえた。その声の先にいたししょーのエアガンを構える手、腕、肩に力が込められるのを感じる。
「分目さん。覚悟した方がいいですよ。」
と、何かを覚悟するように口を開いたししょーは、迷いなく引き金を引いてマガジンに入ってる弾をすべて放出するかの如く引き続けた。その、姿に驚いた分目は一瞬思考が止まる。視界の左端の絵画のような風景に激しく映り込む何かにハッとなり構えたエアガンの方に目線を戻すと、人が、走りながらおっちゃんの方に向けて雪崩れ込んでくるのが見える。今まで、姿を隠しながら戦って来た敵とは真反対の捨て身の攻撃に開いた口が塞がらず、正直何が起きているか理解するのに時間がかかる。そこから、引き金を引くには、奥にいるおっちゃんが反撃したBB弾が一番先頭の敵に当てた瞬間まで驚き続ける事になった。
発砲音をかき消すぐらいの敵の雄たけびに似た叫び声はフィールド全体を覆っていた。
幾人もの人が通れる場所を探して走り込んでくる。
その姿を観戦台で見ていたスタッフの一人は、フィールドの半分手前側、分目達が守るエリアを攻める敵たちが一斉に走り出し、一人のプレイヤーの号令で人の津波となって黄色チームを飲み込みだす光景を目の前にして軽く苦笑いを浮かべた。
いきなりの転調に対応しきれない黄色チームは、一番手前セーフティ側Bフラッグを守る味方から徐々に他の場所を守る黄色チームを人の津波が飲み込んでいく。その状況に、トラブル発生するかもという一抹の不安に喉を鳴らし、手摺りを握る手に力が自然と入りながら士気が最高潮に上がった赤チームの暴走が起こらないよう大きな声で注意勧告を行う。
それぐらいしか出来ない事態が起こっていた。
耳に付けたイヤホンからインカムの受信した声が届く。
「残り、5分です。」
その言葉を聞くとTシャツに付けたピンマイクを口に近付け
「アナウンスはしなくていいよ。残り1分になったらアナウンスして。」
「了解です。」
ノイズ交じりの返答の後、近付けたピンマイクに再度声を当てる。
「フィールド内のスタッフ。出来るだけ大声でオーバーキルしないよう注意喚起を続けて。」
津波の中で鳴り続ける発砲音とヒットコールと雄たけびに似た叫び声の中に微かに響く必死の注意喚起をするスタッフの声が追加された。
分目達4人は、人の津波の防波堤となり、必死の抵抗を続けていた。
イノシシの様に突っ込んでくる敵に対してフルオートで迎え撃っている分目が感じたのは、恐怖と違和感だった。今までなら撃たれた敵は、隠れたり逃げたりしていたが、今は、体中に怒りに似た何かを発しながら一直線に自分に向かって突っ込んでくるし、狙って撃ってるはずなのに弾が全然当たらないのだ。
必死の突撃が近づいてくる中、分目は今までと違う敵の動きが理解できず頭が真っ白になりながら向かってくる敵に対して引き金を引き事しか出来ない。しかし、依然、ヒットコールは響くことは無く、走りながら撃ち込んでくる敵の姿だけが肉迫してくる。
頭に血が上りかけていた時、ししょーの怒号が耳を突き抜ける。
「分目さん!無理してヒットを狙わないようにしてくださいッ!狙うなら顔でお願いします!」
ししょーの動きが激しく弥次郎兵衛のように左右に身体を揺らしながら弾を避けつつ、攻めてくる敵にBB弾を叩き込み続ける。怒号が耳を突き抜けて、少し冷静さを取り戻した分目は必死の抵抗をするししょーの姿を見る。
目が合った。ような気がした。でも、それで十分だった。
「了解!!」
分目は、AK-47のセレクター一番下にしてセミオートに合わすと先頭の敵に銃口を向け、引き金を一回また一回。丁寧に引いていく。今日一日狙いの付け方もわからず、敵のいる方向に狙って撃っていた分目が、仕留められる距離はおよそ5m程であり一撃で仕留めるなんて芸当は出来るはずも無い。しかし、今日一日サバゲーを体験していくうちに目が慣れて撃ったBB弾が少し見えるようになっていた。自分がピンポイントで狙えないと理解しながらもヒットを取れたのは、偶然取れたというのが大半だが、見えた球筋を想像し、着弾点を見つけ、2発目、3発目と着弾点を修正していきヒットを取る手法を自然と身に着けていたからに他ならない。
分目が放った一発目は、先頭の敵の腹から右に親指一つ分ぐらい離れた所を飛んでいくように見え、二発目を発射する前に銃口を左に寄せ、上に大幅に動かして発射。さらに近づき装備や相手の異常にカルトじみた目をしたのがはっきり見える先頭の敵の右肩付近に飛んでいき、敵の反撃の弾が空を切る音が自分の体付近に鳴りやまない中、銃口をさらに左に少し修正し、引き金を引く。飛んでいったBB弾は迫りくる敵のおでこの中心に吸い込まれていき、薄い皮膚を波立たせ、痛みは、神経を通じ大脳へ光の速さで伝達され、皮膚の先の頭蓋骨に鈍い打撃音を反響し、否応にヒットと言う事を知らしめされる。
先頭の敵は、あまりの痛さにおでこを抑え、大きくヒットコールを叫ぶ。
その後ろから、もう一人の敵が右から出て来て分目に向かってエアガンを構えるが、何故か一瞬撃つのを躊躇った。
分目は、撃たれる前に先制を嚙まそうとエアガンの先を出てきた敵に向ける。
エアガンと銃口が重なった瞬間。真下から、自分とは違う発砲音が一発聞こえると、出て来た敵もおでこを抑えヒットコールを悔しそうに叫んだ。
「分目さん!後ろに下がって!!」
分目はエアガンから顔を離し、下を向くと、正面にしゃがんでエアガンを構えたししょーがそこにいた。
「へ?は!?はい!」
見える残りの二人の敵に銃撃を浴びせながら後退していく。
分目が完全に丘に隠れる頃には、ししょーは分目が元々いた場所にスイッチする形でしゃがんで敵と交戦している。その時、激しく響く色んな声や音が交じり合った喧騒の中に薄いが確かにとある声が聞こえる。
「オーバーキルに気をつけて下さーい。オーバーキル注意でーす。」
分目はその声を聴いて戒めと撃ち方に気を付けなきゃと身を引き締めたが、ししょーは舌打ちをした後、怒りと憎しみが混じった声で叫んだ。
「おっちゃん!分目さん!!退却!退却!!」
ししょーは、中腰の態勢になるとバスケ選手のように右足を軸にしてぐるっと回り走り始めた。その合図に一瞬戸惑うが、すぐさまししょーの、早く!の一言に引っ張られ、後ろを向きししょーに付いて
行こうとするが、2~3歩先で足を止めてエアガンを構えようとするししょーがそこに居た。
ししょーがエアガンを構えようとした先には敵が雪崩の様に走り込んできていた。
敵の一人が、分目達に気付き指を差す。
「あそこにも敵がいるぞぉ!!!」
敵は分目達に向かって走り込んでいく。
複数人がエアガンを乱射しながら自分たちに向かって走ってくる姿に思わずエアガンを構え、応戦するが止まる気配は一切ない、程なくしてその乱射の餌食にししょーは食われ、ししょーを狙って外れた弾が分目の右肩に虚しく当たった。
ほぼ同時に二人はヒットを宣言し、両手を上げる。
ししょーの声を聴いた岳が、何かに押し出されるような形で後退りながらししょーと分目の前に現れ、巻き込まれる形で流れ弾が当たり、少し遅れる形でヒットの宣言して片手を挙げる。岳が出て来たところからまた人が押し寄せ、走り込み、ヒットコールをした3人を確認しながら次から次へと敵が目標フラッグ向けて突撃していく。
そこからは電光石火でフラッグ周りの味方を蹴散らし、エアーホーンの甲高い音が汽笛となってフィールドに響き、マイクアナウンスが激戦の終了を告げた。
「ゲーム終了。ゲーム終了。マガジンを抜き、セレクターをセーフティにして、残弾処理後、フィールドから退場ください。」
繰り返し、何度も終了のアナウンスを聞きながら、勝利をもぎ取った赤チームの喜びと疲弊が混ざった笑顔を交わしながら分目の前を何人も途切れずに通り過ぎていく。ヒット宣言で上げた手をゆっくり降ろし、湿り気のある熱い息をゆっくりと吐き出しながら、いまさら溢れ出した高揚感と全身がバラバラになるような達成感を潰さないようゆっくりと優しく包むように手を握り込む。
遊びは、終わった。
岳やおっちゃんが分目の元に駆け付ける。
一番近くにいたししょーが分目異変に気付き顔を覗き込みながら、
「大丈夫ですか?」
駆け付けた二人も分目の異変に気付き、おっちゃんはに不思議な踊りのように首だけを左右に動かし、岳は、優しく肩に手を置いた。
「ワンメさん。」
岳の手にハッとし、岳の顔を見る分目。
一言も言わずに黙ってマスクやゴーグルの下で満面の笑みを輝かせながら、サムズアップで応える。
分目は、一言。
「お疲れ様でした。」
と、短く、優しく、伝える。
岳は、分目の横に来ると2度軽く背中をポン。ポン。と叩くと
「お疲れ様でした。」
と、返し
「セーフティ。戻りましょうか。」
と、言うと
「はい。」
と、分目は答え。4人仲良く歩きだす。
ししょーは
「いやー。最後の最後で楽しいゲーム出来ました。ありがとうございます。お二人とも。」
と言い。
「いやー初めてのにぃちゃん。ホント、初めて?」
おっちゃんもにやけ顔に近い笑顔でそう言うと、ふぇ、ふぇ、ふぇ。と奇怪な笑いをした後に
「すごかったもんなぁ。最初なんて、俺の獲物取っ手ちゃうんだもの。」
と言う。
「まだ、ラストゲームありますよ?防衛側で。参加しないんですか?お二人は。」
そう、岳が言うと。
「おっちゃんどうする?」
と、ししょーはおっちゃんに振り向きながら聞くと
「いやー俺は満足だなぁー。腹減った。」
と出ている腹をさすりながら満足そうにおっちゃんは応える。
「ワンメさん。どうします?最後参加するなら付き合いますよ。」
分目の横で岳が言った。
やるなら、4人で。
そう思ったら分目の口は自然と開くいていた。
「自分も疲れました。遠慮しときます。すみません。」
岳は、それを聞いてこう返した。
「4人が同じ意見ってのも珍しいですね。」
岳はクスリと笑うと前を向いて歩き出し、何気ない会話を交わしながら4人はフィールドを後にした。
ラストゲーム 攻防戦(裏)黄色攻撃側Eフラッグ「エコウ」赤色攻撃側Aフラッグ「アルファ」
気のある熱い息をゆっくりと吐き出しながら、いまさら溢れ出した高揚感と全身がバラバラになるような達成感を感じながらセーフティゾーンに入り即席チームの四人は、満足しながら二手に分かれ互いの休憩場所に戻っていく。
俺とガクさんは、最後のゲームに参加しないことを決め、帰り支度を始めた。
持ってきたAK-47からバッテリーを抜き、借りたガンケースにマガジンと共に収めていく。荷物が少ない俺に比べて、ガクさんの荷物の量が倍以上にあり、エアガンとマガジンの他に、ベストやら色んな小物や装備を持ってきたキャリーケースやでかめのトートバックに入れる作業をやっている。待たされるている状況に手持ち無沙汰なってしまい思わず声を掛けてしまった。
「何か手伝えることありますか?」
その声に気付き片付けの手を止めて顔を上げたガクさんの顔は笑顔で満足げだ。
「自分の装備ですから。お気持ちだけ頂きます。もう少しで終わるんで、あれだったら煙草吸ってゆっくり体を休めてください。これから運転して帰るんですから。今のうちに体力回復です。」
まだ体が温まっているからか、疲れを感じてはいないが、これから高速乗って帰ることを考えると素直に言う事を聞く事にした。
「すみません。それじゃあお先に煙草を吸わせて頂きますね。」
煙草を持っていそいそとその場から喫煙所へ向けて歩いてく。
「後で、追いかけますからーごゆっくりー」
背中に届くガクさんの声に一度振り返り軽く会釈し、再び歩き出す。
途中、ペットボトルのスポーツドリンクを買いに自販機に寄る。
取り出し口から出て来たスポーツドリンクを取り出して手を伸ばしたまま喫煙所の方を何となく見ると、短髪で中肉中背の男といがぐり頭のレスラー体形の男が用意された椅子に座り煙草を嗜み、控えめに少し離れた所に立ちながら煙草を吸っている首からカメラを提げた男性スタッフの3人利用していた。何やら楽しく会話をしているように見える。
スポーツドリンクについた結露と一緒に握ると掌がひんやりとし心地良さにホッとする。喉が思い出したように渇き出し、その場でキャップを開けて一口中の液体を含むとそのままごくりと飲み干し、キャップを閉めて改めて喫煙所へ向かった。
喫煙所には、ししょーとおっちゃんとカメラを持ったスタッフが煙草を吸って談笑していたところに声をかけた。
「先程は、ありがとうございました。」
声に気付き振り返るししょーとおっちゃん。二人は笑顔で俺を迎えてくれた。
「分目さん。お疲れ様。」
「お、さっきのあんちゃん。」
二人の目を見て順番に見ながら会釈をする。
「お邪魔してもいいですか?」
ししょーは、空いてる席を掌で指して、
「もちろん。座ってください。」
と、促してくれる。
「それじゃあ、失礼します。」
座ろうとした時に、スタッフが、申し訳なさそうに声を掛けて来た。
「お疲れ様です。お客さん、初めてなのにさっきの防衛線すごかったですね。」
想定外の褒められた事に少し驚きながら、座り、思わず動揺しながら口を開く。
「そ、そうですか?」
スタッフは、一口紫煙を口の中に含み、煙を吐き出しながら自分の事のように嬉しそうに微笑みながら、興奮気味に喋り出す。
「そりゃあ、もう!朝の一発目からすでに初心者とは思えないムーブでしたけど、最後の防衛時の2番丘での敵の抑え込み。カッコよかったですよ!!」
その一言で、おっちゃんがニヤつくような2枚目役者ぶったニヒルな笑みを浮かべて割り込んでくる。
「俺がさぁ。守ってやる!って思って勇んでさ、構えてたら敵が全然来ねぇなぁって思ってふと、丘の方見たらよ?このあんちゃんが、バシィバシィって俺の獲物取って行くからさ。やることなかったもんな。」
エアガンを構えるジェスチャーを織り込みながらその時の感情を吐露する。
「だから、前に出るしかなかったもんよ。なぁ、あんちゃん。」
俺に向けられた顔は、ガタガタの歯を無邪気に見せながら息子でも見守るように優しい笑顔を変わっている。褒められすぎて感情の行き処を失った俺は、返す言葉が見つからず、感情の整理がつかない顔を見せないよう俯いたまま、ただただ生返事をするしかなかった。
「やめてあげなよ。おっちゃん。返答に困ってるじゃんか。」
ししょーの助け舟が聞こえると、煙草を吸いに来たことを突然思い出し、感情をかき消すように煙草の準備に逃げる。煙草の箱と加熱器を取り出し、加熱器に煙草をセットしてスタートボタンを長押しする。バイブレーションが自分だけに開始の合図をコッソリと告げると徐に顔を上げて平気でござい。と顔を作った。
「そんな、感じでもないんでね?」
また、下心があるようなニヤニヤした顔つきで俺の顔を覗き込むようにおっちゃんが顔を前に出す。
流石の攻撃に、また生返事で乾いた笑いで取り繕う。
ししょーは、ヤレヤレと言う感じでため息をつくと仕切り直す様に俺に質問を投げかけてくる。
「そーいえば、分目さんが持ってるAK。あれ、レンタルじゃないですよね?自分で買ったんですか?」
ししょーの問いかけに、加熱しきった煙草の煙を肺まで入れて流れを断ち切るように深く紫煙を吐き出しながら、気持ちを落ち着かせるために一拍間を置いてこう切り返す。
「いや、レンタル品です。」
「え?」
ししょーは、驚きながら、一緒に煙草を吸っていたスタッフに顔を向けた。
「ココのレンタルってG&GのM4ですよね?」
スタッフも驚いた様子で、
「AKなんて貸出してないっすよ。」
首を横に振って否定をする。
ししょーは、その返事を聞くと再び俺の方に顔を戻し、不思議そうに聞いて来る。
「友達から借りたって事?」
「あ、いや。お店から借りました。」
「お店?」
「はい…。」
「エアガンショップ?」
「はい。」
「そんな事ある?」
俺とししょーとのやり取りにスタッフもおっちゃんも興味津々だ。
俺は、AMATERASUで起きた出来事を話した。
ガクさんのエアガンを撃たせて貰った事。店長さんとの会話。定例会に来た経緯。
その流れで、お店の人からAK-47を始めとした付属品やBB弾など諸々含めて1000円で借りた事を説明する。
俺の話で納得してくれた3人だが驚きを隠せなかったみたいだ。
一番最初に口を開いたのは、スタッフの人だった。
「そこの店のオーナーだいぶ太っ腹ですね。自分、聞いたことないですよ。そんなレンタルの仕方。だって、BB弾まで付けてくれたんですよね?」
今話を聞いて薄々感じてはいたが、AMATERASUのAK-47のレンタルは破格だとという事を思い知らされる。そして、妙な緊張感が自分の内から浮かんでくるのを感じ、疑問を投げかける。
「スタッフさん。因みにフィールドで同じレンタル内容で貸し出すならお幾らになりますか?」
少し、困った顔をしながら、オーナーではないので…と前置きした後にこう言う。
「エアガンのレンタルで2500円。うちはBB弾は別売りになるんで、4000発入りの0.25(g)弾3000円。合計5500円ですね。そこから消費税が入ります。」
5倍以上の金額を提示されて開いた口が塞がらなかった。
本当に何も知らずに手ぶらで遊びに来たとすると今日俺は8500円を最低でも払う事になっていた。それが、4000円で済んだことを考えると、今ショップで働いている店長さんに拝まずにはいられず、思わず話の途中スタッフに背を向けて向けて拝んでしまう。
スタッフは、突然の参拝に笑ってるような困っているような不可思議な顔をしながら言葉に詰まっていると、すかさずおっちゃんがカッカッカと笑い始め
「あんちゃん仏教徒?」
おっちゃんの一言で、慌てて手合わせた手を解いて釈明をする。
「いやいやそう言うのじゃなくて、お店の店長さんに感謝しかしかないなって、思って」
拝んだ理由の意味がわかると苦笑いから笑顔に変わったスタッフを尻目にししょーは紫煙を細く噴き出した。
「分目さんは、エアガン買う予定あったりするんですか?」
エアガンを買う予定。その言葉に心が躍る自分がいる。
「今日やってて買ってみようかなと思いました。」
その言葉の釣り針は大きかったのか、おっちゃんがはちきれんばかりの笑顔で体を乗り出してくる。
「あんちゃん。なに買うかもう決めてんの?」
「あまり、エアガンの事詳しくないんで良く分かってないのが現状です。」
頭の中で見た事あるエアガンを思い浮かべる。AK-47、ハニーバジャー、長い単発式のヤツ。それにM4?と呼ばれているエアガン。M4に限っては形が上手く思い出せない。吸い切った煙草のを灰皿に放り込んだししょーが、椅子のひじ掛けに両手を押して深く座り直す。
「他の参加者の持ってるエアガンとか見てて気になったヤツとかありました?」
ししょーに言われ再度頭の中を探っていくが、初めてのサバゲーに必死になっていた為か様々なシチュエーションは思い出す事は出来るが、人の身に着けている物まで思い出すことが出来ずにいる。
「正直、記憶が無くて…」
ししょーは、俺の答えに小さく唸り始め、親指と人差し指で顎を挟んで虚空を見て少し時間が経つと何か気付いたのか、虚空を見るのを辞めた。
「それなら、エアガンショップでじっくり見て自分の気に入った物を買うのが一番いいかもですね。」
AMATERASUの壁にエアガンがずらりと飾ってある店内レイアウトを思い出す。
ししょーが、続けて口を開く
「一つだけエアガン買う時のアドバイスを。」
アドバイス?何かあるんだろうか?
「最初に買うなら国産メーカーをお勧めします。似ている形のエアガンが多いですが、壊れにくいし、高品質。いざとなったらメーカーに郵送修理もやってもらえます。」
言い方がどうしても気になってしまう。
「国産メーカー以外にもあるんですか?」
「ありますよ。海外メーカー。」
実銃が撃てる国が多いのに海外でもエアガンが売られている事に意外だなと思う。
「海外メーカーは色々な種類のエアガンの形が販売されてて、魅力的なエアガンでいっぱいです。分目さんも気に入るエアガンもあるとは思いますが、如何せん品質が安定しません。」
安定しない商品が出回ってるなんてあまり想像が出来ない。そこら辺のスーパーでも不良品は、新品と取り換えてくれる。
「不良品なら、取り換えて貰えばいいじゃないですか、メーカーに頼んで。」
ししょーは、俺の言葉を聞くと苦笑いをしながら頭を掻いた。
間を割るような形でおっちゃんが代わりに答えだした。
「それは、そぉなんだけどさ。日本に拠点がある訳じゃないからねぇ。やってくれるメーカーもあるって話だけど、オレは見た事ねぇ。」
含み笑いをした後おっちゃんは話を続ける。
「けどさ、それがまた面白いのよ。箱出しで50mフラットでキレーに飛ぶものをあれば、ロケットみたいに真上に飛んでくのもあるのよ。」
おっちゃんは、楽しそうに掌をロケットに見立てて空高く飛ぶさまを表現しながら楽しそうにしている。話の腰を折られたししょーは何事も無かったかのように話を紡いでいく。
「手間暇がかかるので愛着は湧きますけどね。」
愛着かぁ。
どんな、エアガンにするか物思いにふけっていると、スタッフが自分のスマホを持って分目に近づいて来る。
「お客さん。もし、エアガン買うの検討しているなら、スマホで『アサルトライフル 一覧』で画像検索してみてください。」
スタッフは、分目の目の前に様々な銃の画像が乗った検索エンジンの結果を表示しながら指でスクロールしていくと写真、CG、アニメの切り抜き、イラストなど色々な銃の画像が下から上へ流していく。
「いっぱいあるんですね。」
様々な銃の画像が目の中に入ってきた情報に、少し心が躍っているのが自分でも理解できる。
「この中から、自分が気に入ったデザインを探してそこからエアガンで検索かけると、エアガン化さ
れてるかどうかもわかるんでおすすめですよ。」
一つの銃の写真に目が留まった。
「時間がある時その方法で調べてみますね。」
他人のスマホを占有するのは良くないと思い、その気になった銃の写真を出来るだけ目に焼き付けた後にスタッフに出来るだけ笑顔でお礼を言う。
「いい銃が見つかるといいですね。」
スタッフの男は、自前のスマホを自分の手元に戻し、操作をしてスリープ状態にすると改めて優しい笑顔で応えてくれる。
「ありがとうございます。」
自分のケータイをポケットから取り出し、アプリを起動して、「アサルトライフル 一覧」と検索し、結果が出た時点ですぐにバックグラウンド起動状態にして形態をスリープモードしてポケットに戻した。
「一番最初にエアガンを買う時、ワクワクしたなぁ。自分で、調べてさ、妄想なんかして、子供に戻ったみてぇでよ。あんちゃん。一番楽しい時だね。」
お茶目にサムズアップしてくるおっちゃんが妙にさみしく見えた。
「今は、楽しくないんですか?買うの?」
「ん?エアガンを?楽しぃよぉ。買うの。けどさ、初めてのワクワクって今のワクワクに勝てないのよ。」
おっちゃんの言葉の使い方に違和感を覚える。何で?と言う言葉が頭を過ってく。
「おっちゃん。」
ししょーが、苦笑いしながらうれしそうにめんどくさがりながら口を挟んできた。
「それじゃあ、伝わらんて。」
「そう?けど、ししょーも違うでしょ?」
「違うけど、初めての人にそれ言っても頭にハテナマーク浮かぶだけでしょうに。」
二人の会話を理解しようにも頭の中に靄がかかる。
「あれぇ?わかんない?」
「ん…まぁ。初めても二本目も新しい物を手に入れて試したいってのは変わらないような…。」
一回も二回も同じような物だ。おっちゃんの言いたい事から疑問符は外れない。
「うーん。こればっかりは言葉で説明するの難しいなぁ…初鰹?いや違うなぁ。なんて言えばいいんだろ…」
言葉に詰まり悩み始めたししょーの視線が、ふと左に持ってかれた。俺も釣られて同じ方向に顔を向けるとガクさんが煙草を吸おうとししょーの横に立っていた。
ガクさんは、軽く頭を下げて無言で挨拶をすると、煙草を咥えて火を付けて一服を始めると掌で寧寧に扇いでししょーに話の続きを催促する。ししょーは、催促を確認すると軽く会釈をして、ガクさんが開いてる適当な椅子に座るのを確認すると目線を俺に戻し、咳ばらいをしたのちに話を続けた。
「知識や技術のレベルアップの感情と未知に挑戦する感情は違うって事かな………。そういうこと?おっちゃん?」
最後におっちゃんに話を振ると、俺とししょーを何度も見返して
「たぶん。そう。」
と、一度だけゆっくりと頷いた。
そこに、もう一人話に入って来る。
「何の話をしてたんですか?」
ガクさんだ。
「最初に買う時の興奮と2本目以降の興奮って違いますよね。って話です。」
少し身を乗り出し俺の挟んで言葉の橋をししょーはガクさんに架けていく
「あー。なるほど。サバゲー本当に好きなんですねぇ。」
その橋を受け取ったガクさんも少し身を乗り出し言葉を返す。
「いやー肯定的に捉えてくれてうれしいです。たまにこの話すると、分かんない。って言われる事あるんで。」
俺は、二人の間でただ楽しそうに喋る二人をじっと見ながら、少し不安が混じった羨望に囚われる。
「自分の技術が上がって行くのが実感できるのがいいんですよね。」
俺も、サバゲーやったらこーやって話せるようになるんだろうか。
「ハンドガン一つでも手に馴染むの探したりととかで何丁も買ったり」
仲間が出来るんだろうか?
「スナイピングする為にVSR買ってみたりね。」
出来たら、楽しいだろうな。
「そうそう。」
そんな魅力がサバゲーにはあるんだ。
「結局、肌に合わなくて、ボルトアクションの近距離使用にしちゃったり」
楽しそうに、喋る二人の会話を叩き切るように聞きなれない何かを切るような機械の作動音が喫煙スペースを支配する。
その場にいた4人が作動音に目を持って行かれる。
そこには、カメラを構えたスタッフが居てファインダー越しに目が合ったのか気まずそうにゆっくりとカメラを降ろし、そのご尊顔を露わにする。
「あのー。なんかいい感じだったので、一枚頂きました。」
ぐるりと4人の顔を申し訳なさそうに見回す。
「あーまずかったですか?」
ししょーが、口火を切った。
「まずかないんですけど。せっかくだから記念写真撮って欲しいなと。」
ししょーは岳さんに顔を見て同意を促す。
「ねぇ?」
ガクさんは、微笑みながら承諾した。
「そうですね。何かの縁ですし。4人で取りますか。」
二人の会話を聞いてスタッフは答える。
「どうします?ここで取ります?それとも、あそこで取ります?エアガンでも構えて。」
スタッフは、あそこに顔を向けて場所を示す。
そこは、黒で白に縁取りされたAvalanche Operationの文字に雪崩のように崩れ落ちるビル群が描かれている壁がある。
ししょーは、4人に均等に見ながら、
「折角だし、エアガン持って写真撮ってもらいます?」
と、聞くとガクさんは立ち上がって、
「そうしましょうか。分目さん。撮りましょう。」
と、俺を見下ろしながら無邪気な笑顔を降り注ぐガクさんに引っ張られて思わず、了承してしまう。
「ほら!おっちゃんも、準備、準備。」
ししょーは、おっちゃんを無理やり立ち上がらせ、エアガンを取りに自分の休憩スペースに無理やり連れていく。ガクさんと共に喫煙所から休憩スペースに戻り、閉まったばかりのガンケースからエアガンとマガジンを取り出す。
ガクさんもガンケースからエアガンだけを取り出す。
「それじゃ…」
準備も早々に撮影場所に向かう為に俺に声掛けをしようとしたガクさんが一瞬言葉を詰まらせた。
「あー。ワンメさん。マガジンいらないですよ。写真撮るだけだから。」
俺が手にしたマガジンを指差し、マガジンが不用意な物だと教えてくれる。
「あーすみません。」
俺は、慌ててマガジンをガンケースにマガジンを突っ込んで、ガンケースを閉め顔を上げると休憩スペースをすでに出て駐車場に立っているガクさんが振り返りながら俺に手を挙げている姿がそこにあった。
「行きましょー。ワンメさーん。」
「はーい。」
少し駆け足で分目さんに駆け寄りながら撮影場所を見るとすでに着いていたししょーとおっちゃんが立っていて、少し離れた場所にカメラを携えたスタッフが立っていた。ししょーが手を挙げておいでおいでをしている。
「フラッグダウン。ゲーム終了!ゲーム終了!マガジンを抜いて残弾処理をしてフィールドアウトをお願いします。」
ゲーム終了のマイクアナウンスがフィールド全体に響き、アナウンスに従い参加者が戻って来て、何人かがゲーム参加せずに片付けをしている中、最後のゲームを堪能した人がセーフティエリアで混ざり合い一日の終わりが近づいている事をフィールド全体の人々に知らせ、心地よい寂寥感がフィールドに漂い始めるのを感じる。この写真を撮り終えたら本当に終わってしまうのか。幼い頃の夏祭りが終わるような感覚に襲われた。
少し足取りが遅くなる。
感情の機微を感じ取ったのかガクさんの声が聞こえる。
「嫌なら、無理に写真撮らなくてもいいですよ。」
エアガンを左手で上の部分を腰の所で掴み、振り返ったガクさんが心配そうに俺を見る。
「いや。そう言う事じゃなくて、終わっちゃうんだな。と思うと少し悲しくなっちゃって。」
その言葉を聞いたガクさんの目元が細くなり、少し嬉しそうに微笑むと、
「そしたら、また遊びに来ればいいですよ。俺で良ければ、また付き合いますから。」
と言ってくれた。その言葉が俺の背中を軽く叩いてくれる。
「その時は、よろしくお願いします。」
俺は、ガクさんと後ろに映るししょーとおっちゃんとスタッフさんに向けて微笑んだ。