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翌朝 自宅 出発~ゲーム開始10分前(3)

サバゲーとの出会い、エアガンとの出会いを受けてエアガンショップAMATERASUで山寺岳との出会い定例会に参加することになった分目は店を後にする。

非日常を楽しんだ分目は翌日から他愛の無い日常に戻る。

定例会前日、仕事終わりにAMATERASUに向かい東京マルイ次世代電動ガンAK-47をレンタルする。色々なレクチャーを受けて翌日の定例会に向けて床に就くのだった。

翌朝 自宅 出発


 ケータイの目覚ましアラームで目が覚めた。

 いつもの休日とは違う。妙に体が動く。頭も冴えている。シャワーを浴び、身支度を整え、昨日選んだ服を着てキッチンに立って簡単に朝ご飯を作ってダイニングのテーブルに座り、食べていく。食べながら今日の目的地のサバゲーフィールド「アヴァランチオペレーション」をナビアプリに位置登録する。

 朝ご飯を食べ終わり、シンクに食器を水を貯めて置いて、現在時間をスマホで確認する。今から家を出ると待ち合わせ時間より30分早く着く時間ではあるが、もう出てしまおう。

 はやる気持ちを押さえずに、荷物の最終確認を行い、そのすべて詰まったガンケースを持ち上げ、そのまま家を出た。

 雲一つ無い快晴。

 これから始まるだろう初めてのサバゲーを祝福するかのような日差しを浴びながら階段を降りて駐車場へ。

 車のトランクにガンケースを積み込み、車に乗り込む。財布やら煙草やらを所定の位置に置いて

最後にスマホをホルダーに固定してナビアプリを起動しナビを開始する。

 到着予定時間は1時間後。シートベルトを着け車を発進させた。

 通勤路をそれなり走るとナビは高速に乗るように指示してくる。

 この車が日常から殻を破る瞬間がやって来た。今まで職場と自宅を行ったり来たりが主な使い道で、たまにスーパーに買い物に行くことしかなかった車が先週は、サバゲーショップに、そして今は、高速に乗ってサバゲーフィールドに向かっている。

 自然と顔が笑顔になった。

 ETCのレーンを通って京葉道路を走る。朝の高速道路は、どこかすがすがしい。適当に流していたラジオからディスクジョッキーがこれから曲を流そうかと聴取者に問いかけている。

 「桜が、咲き始めようとしているこの季節。何かが、始まる時期ですよね。学校や職場。趣味に出会い。貴方はどんな始まりが、待っていますか?今日のファーストソングは朝には似つかわしくない曲かもしれませんがこれから何かが始まる。そんな蛹のような状態を表すそんな一曲です。bonobosでCruisinCruisin。」

 柔らかいギターとキーボードの旋律が心地よいベースに乗ってドライブをより良く彩を飾っていく、体が自然と左右にリズミカルに動きながら全身で味わっているとあっという間に終わってしまう。名残惜しい気持ちをディスクジョッキーがその場をトークで繋いでいく。

 次の音楽を楽しみにしながら、アクセルを操作している右足をもう少し踏み込んで、フィールドへとその距離を縮めていった。

 目的地近くの降り口の手前で到着時間を確認する。

 待ち合わせの30分前に着くことを示している。時間通りに来てることを確認すると、ナビ通りに高速を降り、料金所でETCの出口レーンをスピードを落として降りて、高速横に並走している一般道を通り森の中へ、坂を上り十字路にたどり着き、信号で一時停止していると、右手向かい側にコンビニが見えた。

 一人で待ってるのも心細いし、待ち合わせ時間までここで時間でも潰すか。

 信号が、赤から青に変わる。方向指示器を右に点滅させ右折し、コンビニ入るためにすぐ左折をしてコンビニの駐車場に入る。そのまま車を停め、サイドブレーキを引いて車を止めた。

 コーヒーでも飲んで、のんびりするか。

 財布とケータイを持ってコンビニへ、軽く店先を見てみると駐車場の隅に銀色の灰皿がポツンと肩を落とす様に立っている。その様子を見て徐に煙草を手に取ってポケットに突っ込むと車から出て店内に入りホットコーヒーを買う。店内にあるドリップマシンで抽出するタイプのコーヒーは味が濃くてちょうどいい苦みが好みで、コンビニに寄る時はよく買って飲んでいたりもする。

 マシンの抽出完了の合図が鳴ると、扉を開け、蓋を取り、カップに蓋をする。

 コーヒーを片手に持ちながら、コンビニを出て、先ほど見つけた灰皿に向かい早速煙草を吸い始める。コーヒーと煙草を交互に楽しみながら、目の前を行き交う車を見ながら、初めての土地の風景を楽しんで、ふと空を見る。

 それにしても良く晴れたなぁ。今から一時間後ぐらいにはサバゲーやってんだよなぁ。

 そう思った瞬間、強く心臓が鳴る。

 緊張してんのかなぁ。自分でも理解できない体の反応に少し戸惑う。

 なんとか平常にしようと深呼吸をするが、鼓動の強さは変わらず、コーヒーを飲むスピードが速くなってしまう。

 コーヒーを啜る音に集中していると徐々に頭を空っぽになっていき、周りの音が次第に聞こえずらくなり、目の焦点が合わなくなっていく時に遠くから自分の名前を呼ぶ声が、かすかに聞こえた。

 何だと思って声の方向を振り向く。

 黒のキャップに幾つもの濃藍色系のチェックのネルシャツに同じく濃藍色のジーパン姿のガクさんが手を挙げて駐車場に立っていた。

 一気に現実に戻って来る。

 「ガクさん、おはようございます!」

 軽く会釈をする。

 「おはようございます!あ、コーヒー飲んでる。俺も買ってこよ。ちょっと待ってて。」

 両手で、待った。をした後に、コンビニ消えたガクさんは、しばらくするとレジ袋2つと俺と同じコーヒーを持って現れた。

 一旦レジ袋を車に置きに行き、小走りでこちらに向かってくる。

 「おはようございます。ワンメさん。」

 改めて挨拶をしてきたガクさんは、早速煙草を吸い始め、大きく煙を吐く。

 「おはようございます。」

 俺は、もう一度軽い会釈を添えた。

 「随分早いですね。もしかして、寝れなかったりしました?」

 ガクさんは、コーヒーを一口飲んで会話を始める。

 「いや、寝れたんですけど、なんかじっとしてられなくて、早く車出しちゃいました。」

 「もしかして緊張してます?」

 ガクさんは、軽い感じで煙草を吹かす。

 「初めてですし、緊張はしてるかもです。」

 「わかりますよー。俺も初めての時は緊張したもんです。」

 そう言うとガクさんは、ニコリと笑う。

 「やっぱそんなもんですか。」

 「そんなもんです。俺の時は、一人で参加したんで心細さマックスでした。わからない事も聞けずじまいでね。でも、初心者だって気付いてくれたベテランの人が、一緒に動いてくれたんです。あの時は助かったなぁ。」

 ガクさんは、空を眺めながら思い出す様に目を細めている。

 「だから、不安な事、わからない事あったら何でも聞いてくださいね。答えますよ!」

 ガクさんは、そう言うと歯を見せてニカッと笑うとサムズアップをしてくれる。

 「今日は、よろしくお願いします。」

 「良かったー怖がってたらどうしようかと思っちゃいました。」

 「一週間この日の為に仕事頑張って来たんで、怖いなぁとかは無いんですけど、不安があったのは本当です。」

 その答えを聞いたガクさんは、文字通り胸を撫で下ろし、両膝に両手を添えて突っ伏すと

 「よかったッー!」

 と、言うと体を戻して、咥えてた煙草を右手で取って

 「びびってたらどうしようって心配でしょうがなかったんですよ。今日は、楽しみましょう!!」

 再度煙草を咥えると強く頬を引っ込ませると灰の中に煙を入れ煙を外に吐き出す。解き放たれた煙は、見る見るうちに霧散していった。

 「改めて、今日は、よろしくお願いします!」

 俺は、ガクさんの言葉で顔が崩れ、口角が自然と上がると深々と頭を下げた。

 あ、そうだ。とガクさんは、何かを、思い出した。

 「今日のお昼ご飯なんですけど、フィールドでお弁当頼めるんですけどどうしますか?もし、コンビニで買いたいのであれば今うちに買っておいた方が楽でいいですよ。」

 そう言うとガクさんは、喉を潤す様に少し長めにコーヒーを流し込んだ。

 「お弁当ってどんなのが頼めるんです?」

 「から揚げ弁当ですね。」

 ハッとした表情をすると矢継ぎ早に喋りだす。

 「それと、受付でカップ麺売ってます。もちろん、お湯もありますよ。」

 まぁ、せっかくだから…。

 「じゃあ、お弁当にします。」

 「了解です!」

 そう言うとガクさんはスマホを取り出し、時間を確認する。

 ちょっと早いですけど。と、ガクさんが、煙草の火を消し、俺に少しニヤついた顔で俺に話しかける。

 「じゃあ準備はいいですか?」

 俺は、ちょうど吸い切った煙草を灰皿に投げ込む。

 「大丈夫です。」

 「忘れ物は?」

 「大丈夫です。」

 「楽しむ準備は?」

 息を強く吸い込む。これまでの一週間我慢してきたものをかみしめる様に言葉と同時に言葉を発する。

 「OKです!」

 「っしゃー!じゃぁ行きましょう!初めてのサバゲーに!」

 ガクさんの握り込んだ右こぶしが俺の前に現れる。

 それに呼応するように右手でこぶしを作りガクさんのこぶしに合わせた。

 心の奥底に燻っていた火種が強く赤黒く光り、熱を持つ。その火種はやがて熱で小さな火となる。

 「じゃあ俺が先導しますから、ついてきてください。」

 「了解しました!」

 心に宿した熱い小さな火が車のエンジンをかける。

 自動的についたラジオからギターとドラムが聞こえる。ロックのようなノリノリな音楽に合わせてアクセルを踏む。

 ガクさんの車の後ろに車を付けてガクさんについていく。曲がり角を二回ほど曲がると細い砂利道に入っていった。

 入ったことのない道にドキドキしながらもガクさんについていく。

 こんな道通ったこと無いぞ。どんな場所にあるんだフィールドって。

 もう一度曲がると、車一台がギリギリ通れる道の左側に5~6mある高さのネットが永遠と続いている。異様な道をゆっくりと進んでいくと、ひどく急なカーブを曲がる。すると、横幅4m程ありそうな大きな看板が出てきた。

 大きくそこには、Avalanche Operationと書いてある。とうとう着いた。この

時が来たのだ。

 なだらかな砂利の坂道をガクさんに続けて登っていく。


到着


 地面の砂利の先には大きな森をバックにいくつかのコンテナハウスが点在している中にキャンプの

管理棟のような小屋には日よけの屋根が長く伸び、その軒下には、机とゴミ箱が日陰で休憩を取って

いる。小屋の右手には、長屋のような長方形の屋根が見え、その先にはネットに囲われた原っぱが広

がる。ガクさん車が広い砂利の駐車場の一角に止まるのを見えると、なめる様にハンドルを切り、その横に止める。

 エンジンを止め、改めてフロントガラス越しの風景を見る。

 一家族が囲んでも余るぐらいの大きさのテーブルが陽の光に晒されている。高さは腰ぐらいある。それが、横一列にいくつも均等に並んでいた。その奥には、鉄管の柱とトタンの屋根が、100m程長方形に伸びていて、その下に、テーブルが等間隔に幾つも設置され、椅子がそのテーブルに上げられている。

 開園時間から30分経っているからか、数人が自ら椅子を下ろし、エアガンや道具を広げて準備している様が見える。その先に道路で見たおそらく同じタイプの青いネットが万里の長城の様にそびえ立って妙な威圧感を感じる。

 異様というか異世界というか兎に角目の前に広がる光景は、非現実的だ。

 そのまま、貴重品等をとりあえず持てるだけ持ち車から降りた。

 車から降りたガクさんが、俺の傍にやってくる。

 「ようこそ。サバイバルゲームの世界へ。ここが、サバゲーフィールド、アヴァランチオペレーションです。どうですか?見たことない施設でしょ?」

 「なんか………空気が違うっていうか、普、段感じたことのない空気を感じます。」

 妙な雰囲気に口と頭が回らない。

 そんな俺を無視するように得意げな顔をしたガクさんは、一度手を鳴らすと、さぁ、自分達も行きましょうか。と、俺を手招きした。

 はい。と短く返事すると、早速トランクに向かいガンケースを取り出す。色んなものが入ってる借りた黒いガンケースを両手で持ち、車に当てないように慎重に足を踏み出しながら、自分達の車の間を抜けていく。

 ガクさんの後ろを歩きながら、砂利の地面を進み、ネットの壁に近づいて行く。一番手前にある横に並べられた日光浴をしているテーブルの前までに来ると持っていたガンケースをテーブルの上に置くガクさんの後姿を見ると、真似するようにその横にガンケースを気付付けないように、そっと置く。

 そのまま鉄管の柱で作られた屋根下に入る。

 おもむろに周りを見渡してみると、細長いと思われていた屋根下は奥行きは15m程あり、柱も鉄幹と言え、耐久性も考えられていくつもの柱が、立たされ所々にたこ足コンセントや業務用の扇風機がいくつも吊るされていた。

 思った以上に立派な休憩スペースだった。迷彩服を着た人や全身黒ずくめの服を着た人やガクさんみたいな恰好をしている人が各々が、準備している。周り見ていると、他にも喫煙所でタバコを吸っている人はジムのトレーニングウェアの姿をしているし、自販機で買い物している人は、俺と似たような普通の格好をしている。

 物珍しく見ていると、視線に気づいたのか一人の男性がこちらを振り向く、バッチリ視線が合うと笑顔で挨拶をしてきた。

 「おはようございます。」

 「おはようございます。」

 社会人の性だろうか、挨拶をすると自然と体が動く。

 いつの間にか、体を九の字に曲げ会社の上司に挨拶していた。

 頭を下げ、地面を見た時ふと我に返り慌てて体を起こす。少し、気恥ずかしい。いそいそと体を起こすと。

 「今日は、よろしくお願いします。」

 相手は、そんなこと知ってか知らずか軽く会釈をしてそんなことを言ってくる。

 「こちらこそ、お願いします。」

 挨拶が返ってくるのが妙に気持ちいい。そんなことを考えながら笑顔で返事をした。

 ガクさんが、おはようございます。続いて声を掛け、挨拶の交換を終えると、俺の方を向いてこう聞いてきた。

 「座る場所ここにしましょうか。車からも近いし。俺まだ荷物あるから先に座る場所取っといてもらえますか?」

 はい。わかりました。と、答えると荷物を置いたテーブルに一番近い場所を確保し、互いに座った時、対面になるように椅子を降ろした。

 何気なく並べられたテーブルの先に目を向ける。

 青いネット越しの風景は整備がされていない寂れた公園の原っぱに見えるが、所々胸ぐらいまでの高さの木で出来た壁のようなものが幾つも設置され、奥には、人一人が座って隠れられるぐらいの盛り土をこの字にくり抜き、くり抜いた盛り土の壁の高さを上げるために土嚢が詰まれている。それを覆うように生えきった草叢がそよ風を受けて気持ちよさそうに揺らいでいる。この光景を見ているとドックランでもちゃんと整備してるのに、ここは何も手入れすらしていないのか。と、管理人の不手際に心の中で毒ついた。

 「ワンメさん。先に受付済ましちゃいましょうか。」

 ガクさんの声が聞こえ、振り向くと、小さめのキャリーケースと大きめのトートバックがテーブルの上に増えていて、いつの間にかガクさんは、黒いキャップを被っていた。すでに歩き出していたガクさんは、振り返って俺に二回手招きをする。

 気持ち小走りでガクさんに追いつくと、ガクさんは、俺に合わせて歩幅を合わせながら受付に向かって歩き出した。

 横に並び、二人で砂利の地面を歩いて、管理棟らしき建物に近づいていく。ふと、振り返って荷物が置いてあるテーブルの上を見ると、俺が持ってきたケースの他に、2つの似たようなケースが重ねて置いてあるのに目が行く。

 「ガクさん。2つケース重ねてありますけど、あれって、ガクさんのですか?」

 ガクさんは、帽子の鍔を曲げる様に、両端を押さえて真ん中を膨らませながら答える。

 「そうですよ。今日は、3丁持ってきました。ワンメさんが見たことないやつもあるんで、良かったら後で見てみます?」

 「いいんですか?」

 「もちろん。」

 どこか、ガクさんは嬉しそうだ。

 どんなエアガンを持っているんだろうとワクワクしていると、ここで一つの疑問が出てくる。

 「ガクさんってエアガンって結構持ってるんですか?」

 えぇーと。と、時折目線を空に向けて指を折って数える。

 5本の指を折り終えたと思ったら、折り返して指が上がっていく。一往復して2往復目の4本目で止まる。数えてた指を下げ、俺に顔を向けると。

 「長物が9挺。ハンドガンが5挺。の合計14挺ですね。」

 「じゅーよん。………それっていくらぐらいかかってるんですか?」

 そうなると、気になるのは金額である。

 「えーっと、安い中古の車が買えるぐらいはかけてるかな?たぶん。」

 「え!?」

 二桁は確実にいってるよねそれ?

 「いやぁ。まぁ、でも、俺でも少ない方ですよー。」

 ガクさんは、何故か照れている。

 サバゲーってすげぇなぁ。

 歩く度に聞こえる砂利の音が止まる。駐車場に入るときに見えた屋根付きの管理棟に着く。日差しから逃れる様に軒下に入った。

 二つの木製テーブルが窓を囲うようにL字に設置しており、その上に電子レンジやポットが置かれて、インスタントのコーヒーや紅茶、スープや味噌汁とバラエティ豊かに用意され、サラダ味の煎餅やうまい棒なども置かれていた。これだけでちょっとしたお茶会が出来そうだ。コンビニ前でガクさんが言ってたカップ麺も置いある。良くスーパーで見るごつ盛りシリーズだ。

 金がない時は良くお世話になっている。

 管理棟はコンテナハウス出来ており、ガラスの引き戸の中には、券売機が押し込まれ、その真横に窓があり、その中から従業員が顔出し、元気よく俺達に挨拶をしてくれる。

 ガクさんは、券売機の前で財布を取り出し、千円札を3枚入れていく。

 「お客様本日の定例会予約されていますか?」

 横の窓から体を乗り出した店員が優しく聞いてくれた。

 「はい。山寺で2名予約してます。」

 「では、券売機で参加費3000円を押して受付へお持ちください。後ろのお客様も3000円でよろしくお願い致します。」

 ガクさんが発券されたチケットを取ると、そのまま受付へスライドする。

 受付で何かを書き始めていた。

 今度は、俺が券売機の前に来る。

 ラーメン屋でもよく見る大きめの券売機。発券ボタンには手書きで見たことないメニュー差し込まれている。

 一番左上から3500円、3000円、2500円、2000円と値段だけが書かれたメニューが、どのボタンも何とも言えない愛くるしい手書きの動物が添えられている。

 店員が、声を掛けてくる。声の先にはまだ体を乗り出した店員がいた。その態勢を続けるの少し辛そうだ。

 「お客様、一番左から2番目の3000円券をご購入し、こちらにお持ちください。」

 店員の指示通り、千円札を三枚、券売機に入れて、発券ボタンを押すと。発券口からチケットが出てくる。3000円券、と、印字されたチケットを持って隣の窓口にスライドする。続けて、店員矢継ぎ早に口を開く。

 「お二方ともお弁当はどうされますか?」

 「俺は、大丈夫です。」

 ガクさんは俺に方に振り向いてくる。

 「ワンメさんはお弁当どうしますか?」

 俺は、その問いに「はい」と答えると、店員は右手を出し、指を揃え添える様に券売機を指すと

 「でしたら、お連れのお客様は、参加費3000円のチケットの他にお弁当のカツカレーを購入ください。大盛もございます。その際は別途で大盛券を購入ください。」

 と、一生懸命な笑顔で案内してくれる。

 俺は、券売機に戻って、カツカレーのチケットを購入し、出てきたものをそのまま手に持ち店員に渡した。

 店員は、手慣れた手つきでチケットを受け取り、確認をすると目の前に置かれていた名簿のようなものを右手で指してくる。

 「本日は、アヴァランチオペレーションへお越しくださいまして誠にありがとうございます。チケットの確認が出来ましたので、こちらの名簿にお名前をご記入し、予約の欄に丸をお付けください。」

 言葉と共にボールペンを渡され、言われた通りに名前と丸を付ける。

 「これで大丈夫ですか?」

 確認を取るために名前を書いたところを指差す。

 店員は、何かを準備しているようで、体を受付の窓から外しカウンター横の室内のとある部分を探しているようだった。

 「あ、申し訳ありません。少々お待ちください。」

 何かを見つけ、あったあった。と、体を戻すと手には、細長い蛍光色の紙を持っている。

 そのまま名簿を確認する。

 「はい。大丈夫です。こちら受付終了を意味するリストバンドになります。今この場で見えるところにお付けください。無くされた場合再発行できませんのでお気を付けください。」

 リストバンドを手渡され、何もわからず受け取る。いつの間にか後ろにいたガクさんが顔を出してきた。

 「ワンメさん。つけ方わかりますか?」

 「いやぁ、ちょっとわからないです。」

 「色がついてる面の端にギザギザの部分があるんですけど、そこが、テープの粘着部分になります。」

 言われた通りにギザギザの部分を取る。あっさりと取れる。

 「そこを剝がして、腕に巻き付けて止めれば完成。」

 落とさないように、右手首にリストバンドを持って行き、体で挟むとぐるっと回し粘着部分に張り付けた。

 「ゴミはそこにゴミ箱があるので、そこで捨てていきましょう。」

 「わかりました。」

 ゴミ箱に剝がしたテープをゴミ箱に投げ入れる。

 ガクさんは、店員に対して会釈をし、今日はよろしくお願いします。と、丁寧に挨拶をする。

 釣られて、俺も会釈をして、よろしくおねがいします。と伝えた。

 「はーい。よろしくお願いします。」

 店員の挨拶も心地が良い。改めて思うが、サバゲーに関わる人は良く挨拶をを交わしてくれる。それが、気持ち良くて、心が少し軽くなる。

 ガクさんが、先に歩き出しているのに気づき、急いで駆け足で追いついて、横に並び、歩き始める。

 「ワンメさん。まだゲームまで時間ありますけど、色々準備しちゃいましょう。」

 「準備ですか?」

 「エアガンの準備とか、サバゲー出来るように服を着替えたり、弾込めしたりとか、時間が来たら弾速チェックもしないとですね。」

 結構、遊ぶまでにやることあるんだな。

 「一緒に確認しながら準備しましょう。」

 一つ、思ったことがある。

 「でも、一時間後ぐらいにゲーム始まるんですよね?」

 ガクさんは立ち止まる。不思議そうな顔で俺を見る。

 「そうですねぇ。一時間半後ぐらいですかね?」

 ポケットの中に入れてたスマホを取り出し、時間を確認する。

 8時30分。

 「準備って時間かかるんですねぇ。」

 遊ぶだけなのにどんだけ時間かけるんだよ。

 「人によっては30分ぐらいで出来たりしますけど、今回はゆっくりワンメさんに説明しながら、やってみたいと思ってるので、少し余裕を持ってやりたいなと思いまして。」


戦闘準備


 自分達の席に戻った俺達は、ガンケースが置いてあるテーブルの前に横並びで立つと、ガクさんが、まずはエアガンの準備をしましょう。と、言ってガンケースに手を伸ばした。それを見て俺も借りたガンケースに手を伸ばす。

 4つの留め金を取って、ガンケースを開くと、エアガンは、太陽の光を反射し、おもちゃとは思えない重厚感を放つ。ガクさんは、さらに、別に持ってきたキャリーケースの中から、バッテリーのセーフティケースを取り出し、慣れた手つきでバッテリーを2つ取り出した。

 俺も、ガンケース内に入れたセーフティケースからバッテリーを取り出し、手元に持ってくる。

 「まずは、バッテリーをエアガンに接続して蓋をしましょう。」

 ガクさんが、そう言って動き始める。俺も、昨日教わった通り、前の木目調の部品を外し、バッテリーと配線を部品で噛まないように向きを慎重に決め、そっと部品を閉じる。これだけなのに、何度も失敗を繰り返す。

 配線を部品で噛んでは、配線の位置を手直しして閉め直す。

 何度目かのトライで、バッテリー縦鼻が終わる頃には、ガクさんは、バッテリーを繋ぎ終えて俺の作業を見ていることに気づいた。

 「次は、弾込めでもしましょうか。」

 続いて、ガクさんの手は、マガジンを取り出し、弾込めする道具に連結させ、マガジンを下向きにすると、そのまま内蔵されてるハンドルを外側に展開させ、グルグルと回し、カリ、カリ、カリ。と、子気味いい駆動音が鳴らしながら、弾込めを始めた。

 それを見て、俺は、BB弾とBB弾ローダーをガンケースから取り出し、マガジンを右手に持つ。弾込めの仕方を思い出す。まずは、ローダーにBB弾を入れるなければいけない。持ったマガジンをガンケースに手放し、BB弾ローダーを持ちBB弾が入ってるボトルを手に取り、蓋を取ると、蜂蜜が入ってる容器の注ぎ口をBB弾ローダーに突っ込み、BB弾が流れる様にボトルを上にすると、軽く上下に振りながら、BB弾ローダーにBB弾を入れていく、満タンまで入れてローダーの蓋を閉め、BB弾のボトルをテーブルに置き、左手でマガジンを持ち、ローダー右手に持つと給弾口に宛がう。

 そして、ローダーの飛び出た部分を押し込むと、ガクさんが、鳴らした子気味いい音がカリ、カリ、

と、俺の持つマガジンからも鳴り始める。押し込めなくなるまで、何度も親指で押す。子気味いい音が、俺の耳に届かなくなり、親指の力で入らなくなるのを確認すると、1本目のマガジンから2本目へと変える。2本目も同じ工程を繰り返し、弾込めは終わった。

 そして、作業を終える頃にはガクさんは俺の作業を見ている。

 「あとは、着替えですね。ワンメさんは着替え大丈夫ですか?」

 「自分は、大丈夫です。この服装で行きます。」

 俺からの答えを聞いたガクさんは、大きめのトートバックから色々と取り出し、テーブルの上に置いていく。

 ベストのようなものから、色々着いた物々しいベルト、膝当て、大きめのストールやきんちゃく袋のようなものが並べられる。

 「ちょっと装備品をいくつかつけるので、ちょっと待ってください。」

 置いていったものを手慣れた手つきで身に着けていく、きんちゃく袋をベルトに通して、服の上から物々しいベルトを着け、太もも辺りに垂れたあて布のようなものをベルクロで止めた後、二つのバックルでさらに固定してさらにバックルから伸びたベルトを引き、さらに締め付けた。

 次に、ベストをエプロンを着る様に首から通し、両腕を通す。ベストからぶら下がったベルトを手繰り寄せ、背中に回して反対側のバックルで止める。胸から腹にかけて様々なポケットが付いている。釣り人みたいと思ったが、それにしては物々しい雰囲気を醸し出している。恐らく、右上に大小様々なワッペンが、ベルクロで張り付けられているのが、その雰囲気を作っているのだろう。

 最後にメガネケースを取り出し、中から迷彩色のフレームに薄いグレーのレンズの固定バンド付きのサングラスを取り出し、つけてた眼鏡と取り換えた。完全装備のガクさんは、トラッキングをするような恰好から戦士へとその姿を変えていた。まさに歴戦の兵士と言う言葉が、似あう佇まいの姿に、思わず息をのむ。

 「ガクさん。装備品を付けるとイメージ変わりますね…。」

 そう言うと、口元から歯を見せながら、ありがとうございます。と、照れている。

 ガクさんはそれから手慣れた手つきで、マガジンをベストのポケットに差し込んでいく。すべてのポケットにマガジンが入り、ベストに添えつけられていたウェストポーチに財布と携帯を詰め込む。

 「すみませんお待たせしました。」

 「ストールとかは付けないんですか?」

 「ゲームの前に着けますよ。今は、大丈夫です。」

 丈夫そうな紐を左右両方バツを作る形で肩から掛けると、ガクさんは、先端についてたフックにガンケースから取り出したエアガンを付けていく。

 以前、撃たせてもらったエアガンが、二つ左右にぶら下がる。めんどくさそうに口元を歪ませていた。

 「ガクさんどうしたんですか急に。」

 「これから、弾速測定を受けるんですけど、ここから結構歩くので一気に持って行こうと思って。」

 「どこで受けるんですか?」

 「それは、向かいながら説明しましょう。ワンメさんもエアガンとマガジン。ゴーグルを装着して付いてきてください。」

 わかりました。と答え、ガンケースからゴーグルを取り出して掛ける。今まで準備していたエアガンを手に取り、マガジンをポケットにねじ込んだ。


弾速測定


 ガクさんの後ろに付いて行く、受付の小屋方面に向かって歩き出し、小屋から徐々に左にずれて行く。

 「ワンメさん。目の前に屋根がある建物が見えますか?」

 ガクさんが指差した先に目線を動かす。

 「なんか、AMATERASUのシューティングレンジに似てる建物?ですか?」

 ゴルフの打ちっぱなしのような屋根だけの建物の中に屋根と同じ長さのテーブルが置かれ、エアガンを持った二人が手前の方で列を作って何かを待っている。

 「そうです。今、2人ほど並んでると思うんですけど、そこで弾速測定を受けます。」

 良く見ると、先頭の人が、何かの機械に向かってエアガンを撃っている。機械を覗き込み何かを確認すると、エアガンに何かを張る姿が見えた。

 「ワンメさん。弾速測定ってなんでやるんですか?」

 「エアガンって法律で威力が決められてて、それを超えると警察に捕まっちゃうんです。だから、違法じゃないかあの機械で調べるんです。適法と判断した場合のみ、サバゲーを遊ぶことができます。」

 なんか、物々しくなってきたな。いくら怪我するって言っても警察って…。

 「もし、違法な威力だった場合どうなるんです?」

 俺達は、弾速測定待ちの最後尾にたどり着いて、そのままガクさんを先頭にして並んだ。発砲音が定期的になり続ける中、俺たちの会話は続く。

 「フィールドによって対応は違いますけど、通報されることもあれば、一日エアガンをフィールド側が没収することもありますし、そのまま今日一日ゲーム禁止を言い渡されることもあるみたいです。」

 「その、弾速ってどれぐらいで違法になっちゃうんですか?」

 一人が弾速測定を終え、列は一人分前へ動く。

 「うーん。少しマニアックな話になっちゃうんですが、0.98ジュール以下です。」

 「ジュール?」

 「確か、エネルギーを表す単位だったと思うんですけど、初速で言うと、BB弾0.2gを使用した場合99.0m/ミリパーセカンド、0.25gのBB弾は、88.55m/sってことになります。」

 「はぁー。ワンメさん頭いいんですね。すぐ計算できる。」

 「いやいや、勘違いです。丸暗記ですよ。他のグラムは覚えてませんし、必要な場合はネットで調べます。」

 列はまた一人分前に動いた。

 「でも、計測するって事は、弾速が越えてしまう事があるってことですか?」

 「そうなんです。海外メーカーのエアガンとか、海外仕様で弾速オーバーの状態で輸入されたりすることもあるし、プレイヤーが使いやすいようにエアガンをカスタムしたりするんで」

 会話をしている内にスタッフの呼び声が聞こえ、その声を聴いてガクさんの弾速測定が始まる。なんとなく、エアガンを見たくて、それとなく側面に回り込んだ。

 その姿を見たスタッフと目が合う。

 「お客様、弾速測定されます?」

 「あ、はい。」

 俺の返事を聞いて列の様子を見る。俺が最後尾なのを確認すると。

 「了解です。他のお客様が並ばれる際は、列を作って頂けますか?」

 「わかりました。」

 俺は、頷いた。

 こうして、ワンメさんの弾速測定が始まった。

 二つのエアガンを代わる代わる構えては機械に向けて3回撃って合格を貰う。

 黄土色のスマートな直線型のエアガンとワンメさんのAK-47に第一関節ぐらいのシールが、数えきれないぐらいトリガー付近に貼ってあのが見える。

 最後に腿の辺りからピストルを出して、ベストの差し込んだポケットからマガジン取り出してピストルの底から装填すると、ピストルの上部を引いて手を離す。ガシャンと金属的な作動音が鳴る。

 「ハンドガン慣れてないんでちゃんと測れるかな?」

 ハニカミながらガクさんは言うと、ピストルを弾速を測る機械に差し込む。

 「もう少し、銃口を寝かせて。。。行きすぎです。少し、上。」

 スタッフが、ピストルの向きと角度を確認しながら慎重な口調で誘導する。ヨシ、とスタッフが頷くと。

 「それで、行けると思います。撃ってみてください。」

 ガクさんは、動かさないようにゆっくりトリガーを引いて行く、引き切ったと同時に、今まで聞いた発砲音とは違う甲高く、突き刺すような金属音とガスの爆発音のような音が、同時に鳴り、一瞬でピストルの上部が後ろに下がり、元の位置に戻る。

 俺は見惚れてしまい、ピストルに釘付けとなる。

 スタッフは、もう一度お願いします。と言うと、人差し指を立てる。

 もう一度、ガクさんがトリガーを引いてまた同じ音と共にピストルの上部が後ろに下がり、元の位置に戻る。その時、AK-47より、撃つたびに手首が少し大げさに、ぶれているのが分かる。

 反動がでかいように見えるな…。

 スタッフは、弾速OKでーす。と言うと、どこからかシールを取り出す。

 「シール貼りますね。どこか、希望の場所ありますか?」

 台紙から一枚剥がした。

 「じゃあ、スライドにお願いします。」

 ガクさんがそう言うと、ピストルの上部の真ん中にシールを貼った。

 「長物はどこに貼ります?」

 「じゃあ、ココと、ココに、お願いします。」

 指定場所は、似たようなシールが沢山張ってあるトリガー付近。スタッフは、二つのエアガンにそれぞれ張る。

 「それじゃあ。次の方お待たせ致しました。」

 ガクさんが離れた場所にそのままスライドして弾速測定の機会の前に立つ。

 「よろしくお願いします。」

 目の前の広がる風景は、左手に森を背負い、長いカウンターテーブルに目線の高さに置かれた穴が開いてる機械、それ越しに見える青いネットに囲まれた縦に狭い草原が広がる。

 大小遠近様々な的があり、一番手前の左手に一つの正方形の枠の中に9つの的がある。のAMATERASUのシューティングレンジより開放的な印象が強い。

 スタッフは、笑顔で、おはようございます。と挨拶してくる。

 「よろしくお願いします。」

 軽く会釈をする。

 「弾速測定で大丈夫ですね?」

 「はい。そうです。」

 「弾の重さは、いくつですか?」

 弾の重さ?重さなんだっけ?

 「彼の弾は0.25です。一緒に準備してたので間違いないですよ。」

 記憶を辿っている俺に横で見ていたガクさんが颯爽と助け舟を出してくれる。

 「了解です。もし、異常を感じたら、何度か弾速測り直してもらいますね。」

 「よろしくお願いします。」

 俺は、そう言うと、AK-47を構える。

 失礼します。スタッフは、軽く一礼し、俺の持ってたAK-47の銃口にそっと手にかけ、穴が開いてる装置に持って行く。

 これで弾速を測るのか、意外とこじんまりとしてるな。

 「それでは、弾速測定を始めます。エアガンにマガジンを装填して、セレクターをセミオートにして弾速計と並行に銃を構えてください。」

 指示通りに、エアガンにマガジンを差し込み、せれくたーをせみおーと?

 エアガンを見て頭がクエスチョンマークで埋まったのを感じてか、ガクさんが二度目の助け舟を出してくる。

 「ワンメさん。シューティングレンジで撃ちまくった時の事思い出してください。横のレバー上げ下げしたの覚えてませんか?」

 頭の中に先週の情景が浮かび、AK-47の横にあるレバーがアップに映し出される。一番上が、セーフティ、真ん中がフルオート、一番下がセミオート。

 「ガクさん。ありがとうございます!」

 セレクターを一度下げて、スタッフの誘導の元、弾速計とエアガンの位置を調整すると。

 「はい。オッケーです。では、トリガーを弾いてください。」

 とスタッフの合図が聞こえ、引き金を引いた。

 発砲音と共に、弾速計の穴をBB弾が通り過ぎると、液晶がオレンジ色に光り、一番目立つ数値が動いた。

 スタッフは、その数値を確認すると、無言で右手の人差し指を立てて俺に見せてくる。

 その指示通り、もう一度引き金を引く。

 また人差し指を立てる。

 もう一度引くとスタッフはオッケーです。と言った。

 「うん。大丈夫そうですね。エアガンからマガジンを外して、セレクターをセーフティに入れてください。」

 マガジンを外して、セレクターをセーフティに。

 思い出した情景を参考にしながら、セレクターを一番上に持っていった。

 「お疲れ様でした。」

 スタッフは、一礼して、弾速計の隣に置いてあるシールの台紙を片手で持ち出すと、一枚の指先程度の小ささのシールを剥がし人差し指に乗せた。

 「弾速シールどちらに貼りますか?」

 「あー。すみません。良くわからないので、目立つところに貼ってもらってもいいですか?」

 エアガンを突き出す。

 「じゃあ失礼して、ここに。」

 と、スタッフは言うとマガジンを差すところの上あたりに貼る。

 「他に測る銃はありますか?」

 「これだけです。」

 「お疲れ様でした。これで弾速測定は終了です。今日一日よろしくお願いします。」

 俺は、一礼すると、隣にいるガクさんに顔を向けると、いつの間にか、俺の横から離れ、エアガンをテーブルに置いたガクさんが、俺を待っていた。

 そのまま、シューティングレンジの奥に進み、ガクさん合流する。


エアガン調整


 「じゃあ、次は、ホップ調整をしましょうか。」

 ホップ調整?

 ガクさんの格好は、ピストル型のエアガンを含め、3挺をシューティングレンジのテーブルに置き並べたところに手を杖の様についている姿は、映画の武器商人のようだ。

 ガクさんは、シューティングレンジの的に向けて指を差す。

 「ホップ調整っていうのは、限りあるリソースを使って、出来る限り遠く飛ばせるようにする為に、エアガンのホップアップパッキンを調整することです。今、ワンメさんが持ってるエアガンはホップがかかってない状態で、ノンホップ状態なので、調整をしてBB弾を遠くに飛ばせるようにします。」

 ガクさんは、手元にある黄土色のエアガンを手に取り、ストックの前にあるレバーを引っ張る。エアガンの真ん中にある蓋がスライドし、中に青い部品のような物がある。

 「この青いの見えますか?これが、ホップアップチャンバーってやつです。これを上下に動かして

好みの弾道や射程に合わせます。」

 何となくで理解していく。とにかく、上下に動かす事で遠くに飛んだり、飛ばなかったりするという事。

 ガクさんは、ホップアップチャンバーを弄る。

 「このエアガンは、ホップが掛かってない状態です。俺の後ろからBB弾の動き見てみてください。」

ガクさんはエアガンを構え、俺は、ガクさんの後ろに陣取り、ガクさんの後ろ頭越しにエアガンを覗き込む。

 「10mって看板があるターゲットを狙いますよ。せーの!」

 掛け声と共にBB弾発射される。微かに見える白い球が、勢い良く曲線を描き、地面に突き刺さるように落ちて、10mターゲットの下辺りに当たり、甲高い金属音が耳に届く。

 「これがゼロホップです。で、チャンバーをいじると………。」

 エアガンのストックで腹に刺す様に持ち替えると、先程のようにストック前のレバーを引き、ホップアップチャンバーをいじる。こんなもんか、と、言う言葉と共に、レバーを放し、エアガンを構えた。

 「次は、10mターゲットの頭を越えて、ネットを狙います。せーの!」

 先程と同じように弾道の行く末を見ていく。

 今度は、勢い良く、白い球がまっすぐ伸びていく。先ほど突き刺さった地点を軽く超え、弾は、遥か前方に消えた後に、変な違和感を感じる。

 「ネットが揺れたの見えました?」

 「ネットが揺れた?」

 「はい。一番先の青いネット。」

 ホップのかかり方で、弾の動きが違う事に驚く。ホップ調整次第でエアガンの表情が変わる。そんな気がした。

 「まぁ、こんなもんか。」

 ガクさんは、黄土色のエアガンのマガジンを抜き、エアガンをシューティングレンジに向けて空撃ちをして、セーフティロックを掛け、テーブルに置く。入れ違いにもう一つのAK-47を持つ。

 「じゃあ、同じエアガンなので、一緒にホップ調整しますか。」

 「はい、お願いします。」

 「AK-47の場合、銃の側面にあるチャージングハンドルを引いてください。」

 ガクさんは、エアガンを横に倒す。

 側面を上に向けるとレバーが見える。これがチャージングハンドルと言う部分。

 俺も、動きを真似て、チャージングハンドルを引く。

 すると、中に黒いダイヤルのようなものが見える。かすかに『HOP→』と書かれているのが見えた。

 「中見えるダイヤルが、ホップアップチャンバーになるので、矢印の方向と逆に回して一度ノンホップ状態にしてください。」

 矢印の方向とは逆にダイヤルを回そうとするが、これ以上回る気配はない。

 「そうしたら、まず、撃ってみましょう。」

 二人してエアガン構えてマガジンを装填し、シューティングレンジに向けて引き金を引く。

 弾は、狙った標的に対して飛んでいく。標的に向かった弾は、手前で急激に落ち始めたところで運良く届きカン。と音が鳴る。

 「この距離が、一番飛ばない設定です。ここから、自分の好みの弾道を探していくわけですけど、最初だから好みも何もないと思うので、とりあえず極力真っ直ぐ飛んで一番遠くに飛ばすように設定していきましょう。」

 教えてもらった通りにチャージングハンドルを引き、ホップアップチャンバーのダイヤルを適当に矢印の方向に回し、適当なところで止めて、チャージングハンドルを戻して、エアガンを構える。

 引き金を引くと白い球はどんどん伸びていき、失速する気配を感じず、ある地点から天に向かって勢いよくL字に舞い上がる。

 不思議な動きに少し面を食らった。

 「見事なフライハイでしたね。」

 隣でエアガンを構えたまま顔だけこっちに向け、ガクさんは言う。

 「何が起きたんですか?」

 「ホップを上げ過ぎたんですよ。」

 「上げ過ぎるとこうなるんですか?」

 「そうですね、ホップアップの仕組みとして、掛けすぎるとさっきみたいに登り龍のように飛んでいきます。その場合は、少しづつ下げて、ちょうどいい場所を見つけましょう。」

 なるほど。もう一度ホップチャンバーを露出させ、ダイヤルを爪で引っ掛けて上方向に1回だけ回す。

 再度構えて、引き金を引く。

 白い球はさっき同じで天に向かって勢いよくL字に舞い上がる。

 まだか。再度同じようにホップアップチャンバーのダイヤルを上方向に1回だけ回す。

 また構えて撃つ。

 白い球は、どんどん伸びて、遠くまで飛んで行き、確認出来るぎりぎりのところで、曲線を描いて地面に落ちていくのが、微かに見えた。

 なんとなく、チャージングハンドルを引いて、ホップアップチャンバーを露出させ、下方向に爪を引っ掛けて一回回す。

 再度、エアガンを構え、引き金を引く。

 白い球は、先ほどと同じ飛び方をしていく。

 こんなものか。よくわかんないんだけど。大丈夫だろう。

 「たぶん。出来ました。」

 「もし、ゲーム中、弾道が気になったら、シューティングレンジに来て都度調整してみてください。不安なら手伝いますよ。」

 「ありがとうございます。」

 「じゃあ、一通りの準備が終わったので、喫煙所でタバコでも吸って朝のミーティングを待ちますか。」


朝礼ミーティング前


 俺たちは、シューティングレンジを離れ、休憩スペースに荷物を置いて、途中自販機で飲み物を購入しておち、喫煙所へと着いた。喫煙所と言っても大した仕切りもなく、灰皿と椅子、キャンプとかに使いそうな、パラソルが配置されている。誰もいない喫煙所に一番乗りした俺達は、椅子に座向かい合うように座り、真ん中の灰皿を挟む形で、煙草を嗜みながら、買った飲み物を開けた。

 俺は、ふと、思い出す。

 「ガクさん。そういえば、あの黄土色のエアガンなんて言うんですか?」

 ガクさんは、黄土色?と一瞬考えこむが、何かが繋がった様に、あぁ。と呟く。

 「黄土色って砂の色みたいな色の事ですよね?」

 「そうです。その色のエアガンの事です。」

 「あの銃は、ハニーバジャーっていう銃ですよ。」

 「ハニーバジャー。なんか可愛らしい名前してるんですね。」

 ガクさん越しに見える他の参加者のエアガンに目が入って一つの疑問が生まれる。

 「ガクさん。他の人もハニーバジャーに似たエアガン持ってましたけど、似たようなエアガンいっぱいあるんですか?」

 ガクさんは、紫煙と共に言葉を吐き出す。

 「うーん。なんて説明したらいいんでしょうか………。」

 煙草を咥えながら、空を見て地獄の底から聞こえてきそうな呻きを奏でる。

 ガクさんの返答をじっと待つ。しばらくすると呻きが収まり、見上げているガクさんの頬が大きく凹むと顔を正面に戻し、溜めた紫煙を一気に吐き出した。

 「色んな銃が存在するんですけど、有名な銃が2種類あって、一つが、米軍がメインで使っているM4と呼ばれている銃。そして、旧ソヴィエト連邦で開発されたAK-47。この二つの銃が原型になって様々な銃が開発されてる形です。」

 「つまり?」

 「いっぱいあります。」

 「千葉のサバゲー業界では、主にM4系のエアガンをメインに使っている人が多いですね。次に多いのはドイツ、ベルギーの銃で、AKはどっちかって言うと少数派です。」

 話を聞いてると、気になることが、湯水のように湧いてくる。

 「サバゲーを知らないので、純粋に気になるんですが、なんでM4系を持ってる人が多いんですか?」

 「想像でもいいですか?」

 コクリと俺は頷いた。

 「東京マルイがM4系の商品を出しているのと、やっぱり映画の影響が強いんだと思います。」

 東京マルイ。俺が、貸し出してもらったAK-47も東京マルイだったはず。遠くに見える自席に置いたレンタル品を一瞥する。

 「メーカーがM4系を出してるから多いってのはわかりますけど、映画の影響って洋画って事ですよね?」

 ガクさんは、コーヒーを一気に飲み干し、空になったのを確認して椅子の前足の横に置く。

 気付けば二本目の煙草に手を伸ばして、ガクさんは紫煙を楽しんでいた。

 「アクション映画や現代戦を取り扱った戦争映画を見るとわかるんですけど、ヒーローはM4系。ヴィランはAK系を使っていることが多いんですよ。悪役を好きだって人もいますけど、やっぱり、人間、ヒーローになりたいじゃないですか。そして大抵の場合、洋画で人気なアクション映画のガンアクションは格別にカッコいいんで、憧れるのは、当たり前じゃない?って思ってます。」

 映画の主人公になり切りたいってことか。普段仕事や勉強に抑圧された日々を過ごす人は多いし、俺もその一人だ。確かに、映画の主人公みたいにかっこよく敵を倒せたら気持ちいいだろうなぁ。

 映画のワンシーンを思い浮かべ、主人公を自分に置き換えて考えてみる。

 それを見透かされたのか、ニヤつきながらガクさんは俺の事を見ていた。

 「ね?いいでしょ。」

 そう問いかけられると返答は一つしかない。

 「いいですねぇ。」

 釣られて俺もにやけていた。

 その時、ガクさんが、思いついたように指を鳴らした。

 「そうだ。ワンメさん。ミーティングが始まる前にフィールドをちょっと見てみませんか?」

 「フィールドの中に入るって事ですか?」

 「いや、展望デッキがあってそこから6割ぐらいを見下ろせるんです。俺たちが確保した場所の近くに階段があったの見ましたか?」

 「あぁ、見ました。あの先が?」

 「そうです。フィールドを見ることで説明できることもあるかもしれません。ちょっと行ってみましょう。」

 ガクさんは点いてた煙草を消して、立ち上がると、続けて俺も立ち上がって、展望台に向けて歩き出す。長い待機所の横を通って自分達の席を横を通り、ちょうど長い待機所の真ん中に位置する階段の前に着いた。二人が並んで上がれるぐらいの幅の工事現場の足場で作られた階段が、地上から3m程の高さにある展望デッキまで伸びていく。

 ガクさんが先に、足場の階段を登っていくのを見て、後姿を追うように、手すりに摑まりながら、一段一段確実に階段を踏み込んでいく。展望デッキに着いた時にはガクさんが先にデッキの手すりに肘をついてフィールドを眺めていた。その横に行って片肘ついてフィールドを見る。

 そこには、森、草むら、数えきれない木で作られた壁と丘フィールドを象徴するように小さな山が、二つあった。その他にも、土嚢が綺麗に横に積まれた壁が、幾つも設置され、山には、AMATERASUの横断幕が貼られた小屋が立っており、土嚢と簡単な屋根で作られた即席の見張り小屋がある小さい丘が横断幕を睨むように対角線に配置され、丘より先は、草むらと屋根なしの小屋には、四角の狭間が所々に空き、ちょっとした砦のように見える。

 一際目立つ鉄筋で作られたトーテムの先に白い看板で赤文字のアルファベットが目立つように書かれていた。

 見たことが無い光景に思わず感嘆のため息が漏れる。

 「ミーティング後ここでサバゲーをやります。思ったより広いでしょう。」

 「想像以上です。もう少し狭いところでやるものだと思ってました。」

 「アルファベットが書いてある看板が見えますか?」

 「はい。」

 「あれが、フラッグ地点と言われるところで、ゲーム中のスタート地点や目標地点になるところです。」

 言葉に聞き覚えのない用語が混ざり、文章が理解出来ないでいると、間髪入れずにガクさんは、笑顔で口を開く。

 「まぁ、実際にその時になったら説明しますよ。一気に言われても理解しづらいですもんね。」

 すると、後方から拡張された声が聞こえる。

 「本日は、アヴァランチオペレーションを選んで頂き誠にありがとうございます。これより、朝のミーティングを行いますので、中央広場にホワイトボードを設置しておりますのでその前へお集まりください。」

 「それじゃあ、行きますか。」

 ガクさんは、手すりから手を放し、階段を降りていく。

 俺は、短く返事をして後ろについていく形で階段を降りて行った。


朝礼ミーティング


 俺ら二人がホワイトボード前に行く時には、すでに人垣ほどではないが、多くの人がミーティングが始まるのをホワイトボード前の広場で、たむろっている。戦闘服を着ている人が大半だが、中にはカウボーイの格好をしている人や、ネルシャツにジーパンと言う普通の格好をしている人も多い。

 その普段見る事の無い後姿の集団を見ると改めて非現実的だなと思う。

 その歴戦の戦士たちの一番後ろに俺とガクさんは陣取った。戦士たちに混ざりガクさんの格好も相まって一気に戦士の風格が、急に湧き出ている錯覚が生まれ、普通の格好をしている自分が、現実に取り残されてしまっているような思いが沸き上がり、妙な恥ずかしさで顔を下に向けてしまう。

 ガクさんが、静かに耳打ちする。

 「みんな、キマッてるでしょ。俺、この風景見るの好きなんです。これから作戦会議が始まるような気がして」

 その声で、俯いてた頭を上げて、改めて戦士たちの後姿を見ると、確かにそう思えなくもない。

 しばらくして、スタッフ達が俺たちの周りを囲むように立ち並び、マイクを持ったリーダーらしきスタッフがホワイトボードの前に来ると、ミーティングが始まった。マイクを通した男性の声が聞こえる。

 「おはよーございます!」

 すると、一斉に挨拶の返事の声が辺りに響く。

 「本日は、様々なサバゲーフィールドがある中当フィールドアヴァランチオペレーションを選んで頂き誠にありがとうございます。今からお話しする話は、大変重要なルールです。知らない、聞いてない。一切通用しません。楽しく、安全に遊んで頂く為に、30分という長い時間ではありますが、出来る限り集中して聞いて頂きますようお願い致します。当フィールドの今の季節、ブッシュが大変濃く、足元が見えない場合がございます。歩いてたら、穴に足を取られて怪我をしたなんてことも実際にありました。十分気を付けてブッシュに入る際、または、移動する際はお気を付けください。また、当フィールドひじょぉぉぉに広いです!財布、車のカギなどの貴重品やお客様が身に着けている装備品。落としたら見つけるのは非常に困難です。まず、見つからないと思ってください。実際に、レンタカーのカギを紛失したお客様がいらっしゃいました。ゲームに参加する際は、貴重品等フィールドに持ち込まないようご協力お願い致します。そして、当フィールドで起きた事故による怪我等の責任は当フィールドは一切責任を負うことは致しません。皆様が持ち込まれたエアガンもしくは、レンタル品のエアガンは、怪我をするおもちゃになります。痣はもちろんの事、目が失明する恐れがある威力を持つおもちゃです。遊ばれる際は、細心の注意を払ってお使いください。セーフティエリアでの発砲は厳禁です。見つけた場合は、即刻!退場処分。と、なりますのでご注意ください。暴言、誹謗中傷はお客様同士のトラブルになります。アイツかってーなぁ!とか、今日の敵弱すぎ!など聞いた方も気分は良くありません。そこからトラブルに発生する可能性が十分にあります。相手が居て初めて出来る遊びです。その事をしっかりと頭に入れて、遊んで頂きますようお願い致します。もし、実際にトラブルになった、巻き込まれた。など、ありましたら、お客様当人同士の解決は絶対!におやめください。その際は、間にスタッフが入りますので、すぐスタッフにご報告をお願い致します。今、このようにマイクで説明させて頂いておりますが、マイクを使って喋っている時は、ルール説明やご案内など、定例会に重要な事をお伝えしておりますので、マイク放送が流れた際は、聞き流さないようお願い致します。ゲームに関して。当フィールドのゲームの流れは、1ゲーム表裏で1セットとさせて頂き、小休止を挟んで次ゲームに移らせて頂きます。毎ゲームの参加は強制では、ございません。体力を使う遊びです。体力と相談してゲームのご参加をご考慮ください。その際、受付前に簡単な駄菓子、飴などのお菓子やインスタントになりますが、コーヒーやお茶類などセルフサービスではございますが、ご用意しております。お湯もございますのでカップ麺等お持ちのお客様。ご自由にお使いください。本日、気温が高くなると予報が出ております。熱中症にお気をつけて下さい。水分補給。塩分補給。しっかりと行ってください。気分が悪いな。と、少しでも思ったら、エアコンルーム、女性専用更衣室にもエアコン設置しておりますので、ご利用ください。その際両室内土足厳禁となっておりますので、お履きの靴を脱いでご利用ください。なお、エアコンルーム。女性専用更衣室は飲食禁止です。本日、ユーチューブ等の撮影。個人での動画撮影する方いらっしゃいますか?」

 人の背中の森の隙間から微かに見えるスタッフが、手を挙げているのが見える。

 ふと、周りを見渡すと2人ほど手を挙げている。

 「ありがとうございます。当フィールドスタッフの映り込み関してですが、基本的に撮影拒否のスタンスを取らせて頂いております。撮影時に不用意に写り込んでしまった場合は、個人が、特定出来ないように加工をお願い致します。なお、本日、撮影拒否のお客様いらっしゃいますか?」

 一人の参加者が、手を挙げている。

 人混みの先から、「じゃあ、確認取ってマーカーつけてあげて」と、声が聞こえる。

 再度マイクを通して上から声が聞こえ始める。

 「今、手を挙げているお客様は、撮影拒否の意思を表示されました。撮影拒否のお客様はオレンジのマーカーを付けております。スタッフ同様撮影の際写り込まないよう最大限に配慮して頂きますようお願い致します。それでも、写り込んでしまった場合は個人が特定できないように加工等をお願い致します。そして、撮影に関するトラブルは、当フィールドでは一切関係ございません。撮影に関するトラブルは、当人同士の解決をお願い致します。撮影されるお二人のお客様よろしいですか?もう一度挙手して意思の確認お願い致します。」

 それぞれ違う位置から二本の腕が空に伸びる。

 「お客様よろしいですか?」

 スタッフは掌で優しくその人を指す。

 何らかのアクションを取ったのか、ありがとうございます。と、声が聞こえる。もう一人にも同じように確認をし、お礼をする。改めて、説明が続いて行く。

 「お二人のお客様ありがとうございます。お手を降ろして頂いて結構です。ここまでで何かご質問がある方いらっしゃいますでしょうか?」

 大勢の人間がいる中、静寂が支配する時間が、数十秒続くと、マイクのスイッチが入る音が聞こえた。

 「質問は、無いと。受け取ります。そして、一番大事な事をお話しさせて頂きます。ヒット判定についてです。当フィールドは全身ヒット制です。身に着けている装備品、エアガン、帽子、ストラップやキーホルダーに至るまで身に着けているものにBB弾が当たった場合すべてヒットになります。その際大声でヒットコールを願いします。当フィールドは、風がよく吹くのと、ブッシュが濃い為、自分が、思っているより声が相手に届いていない場合が多々あります。自分の声が届いているか確認出来るようにゲーム中当スタッフが巡回しております。声が聞こえたら『ナイスヒットコール!』と返答させて頂きますので、自分がしっかりヒットコール出来てるか、指標としてください。その際、声だけでなく両手を上げるなどのヒットジェスチャーも行ってください。耳と目で確認出来るように、最大限のアピールをお願いします。ゲームのルール次第では、ヒット後、こちらのセーフティエリアに退場やスタートフラッグに戻る事がございます。その際、大変ではございますが、ヒットコールとヒットジェスチャーを行いながらの移動をお願い致します。本日多くのお客様がいらっしゃてくれております。いつも以上にゲーム中、退場者とゲーム中のお客様が混ざり、分かりにくくなっております。間違えて撃たれない為にもコールとジェスチャーをしっかりと行ってください。それでも、撃たれてしまう可能性は十分あります。間違って撃ってしまったお客様は、しっかりと謝罪を行い、気持ち良いゲームを心掛けましょう。そして、ヒットされた方は、復活するまで、又は、フィールド外に退場するまで、私語は禁止とさせて頂きます。これは、ヒット後のオーバーキルの防止やプレイ中の方の判別しやすくする為。あと相手の情報漏洩の防止です。死人に口なしです。おしゃべりや反省会、情報共有する場合は、フラッグから復活後、もしくはフィールドアウト後にして頂きますようお願いします。もちろん、セーフティゾーンからの情報共有。無線を使っての会話は禁止させて頂きます。ゾンビ行為について。まず初めに。今日、サバゲー初めての方いらっしゃいますか?」

 該当している俺は、手を上げる。

 俺以外にもいるのか、頭の森の先端からちらほら何本か、手が伸びている。

 「ありがとうございます。手を下げていただいて構いません。」

 俺も含めてすべての伸びた手が一斉に引っ込んだ。

 「サバゲーと言うのは、紳士のゲームと言われています。何故なら、ヒット判定は自己判定するしかないからです。審判や機械やプログラムが判断をしてくれません。すべて、自分の判断でヒット判定を行います。ですから、本当は当たったとしても黙っていれば、ヒットにはなりません。ですが、それをサバゲープレイヤー全員がやると、ゲームが成り立たず、ただ痛い思いをするだけのどこかの部族の儀式と同じになってしまいます。ゲームを成立させる為にヒット判定は厳密に行わなければなりません。どこかに当たったな?と少しでも思ったらヒットコールを必ず行ってください。オーバーキル防止にもなりますので、くれぐれもヒットコールをお願いします。そして、ベテランサバゲーマーの方々!初心者が見ています!ベテランの方は、しっかりとヒット判定お願いします!よろしいですか!?」

 スタッフが最後の文末を語気を強めて言うと、野太い男たちの声でハイ!と短く力強い波がこの場に流れる。

 「再三、伝えさせて頂きますが、初心者の方も他の方が楽しく遊べるように、厳しくヒット判定をお願いします。」

 突然優しい口調に戻ったスタッフに少し戸惑いを感じながら声を絞り出す。

 「は、はい!」

 俺の声に釣られてか、水中から泡が漏れ出す様に次々と新兵の返事が続いてくる。

 「話を戻しまして、ゾンビ行為に関しての注意喚起です。ゾンビ行為は主に2種類あります。『意識的ゾンビ』と『無意識ゾンビ』です。意識的ゾンビとは、当たっているとわかっているのも関わらず意図的にヒットコールをしない行為を指します。そして、この行為は、非常に悪質な行為であり、先ほどお話しした通りゲームが、成立しなくなります。そして、無意識ゾンビについてですが、装備品の厚い場所や靴、エアガン等に被弾した場合や威力が落ちた弾が、当たった際に、当たったことさえに気付かない場合無意識ゾンビになります。ゾンビ行為を確認した際は、必ずスタッフにご報告をお願いします。その際に人物を特定出来るように服装やエアガン。装備品等をスタッフにお伝えください。人物が特定された場合、スタッフによる目視確認をさせて頂きます。スタッフの確認後注意勧告もしくは悪質だと思わる場合は警告をさせて頂きます。2度の警告を受けたお客様は、その時点で強制退店をして頂き、出禁処置を取らせて頂きます。その際本日お支払い頂いた金額はご返金致しませんので、ご了承ください。無意識ゾンビを防止する為に装備品の薄い所や音が良くなるところを思いやりを持って狙って撃ってあげてください。このフィールドは4~5mで、ばったり相手と出会う場合もあります。その距離で顔を狙って当てるとヒットは確実に取れますが、相手は非常に痛い思いをします。そういう時は、出来る限り、顔以外の部分を狙ってあげてください。それでも、相手は痛い思いをするかもしれません。その際は、一言ごめんなさい!と謝りましょう。痛い思いをした人もそれで許してあげてください。元々エアガンは、人を怪我させる事が出来るおもちゃです。痛い思いするのは当たり前です。ですが、必要以上の痛みを与えるものではありません。思いやりを持ってゲームをしましょう。そして、相手にゾンビをさせないようにするのも優しさです。中には優しさの権化みたいな人がいます。痛い思いさせるのは申し訳ないから痛みを感じないところに当ててあげようと、意図として、分厚い所をところを狙ってくる上手い人が、本当にいます。それが原因で、撃たれた方がヒットした事が気付かずゾンビ状態でゲームを続行してしまうという事案が発生します。優しさの権化プレイしても構いませんが、する方は無意識ゾンビされても構わないという覚悟を持って、プレイして頂きたいと思います。ですが、当フィールドはなるべくゾンビ行為を無くしたいと思っております。ゾンビをさせないのも一つの優しさと思ってプレイして頂きたいと思っています。残弾処理、試し打ちに関してですが、ゲーム前。ゲーム後は、フィールド内での発砲は禁止しております。発砲する際は、フィールド出入り口に設置しておりますドラム缶の中にのみ発砲をお願いします。フィールド内はゴーグルの着用を必ず行ってください。どんな理由があってもゴーグルを外す事を禁止します。フィールドに入る際は、ゴーグルやフェイスマスクの着用の確認を行ってからの入場をお願いします。続きまして、フィールド内の設置物についての注意事項です。フィールド内にある土嚢やバリケードなどの設置物に対して、足を掛けたり乗り越えたりするなどの行為は一切ご遠慮しております。そして、設置物に対して体当たりや蹴る、叩くなどの衝撃を与える行為を禁止します。当フィールドで使えるBB弾はバイオBB弾のみになります。プラ弾、セミバイオ弾は使用禁止です。見つけた場合はゾンビ行為同様出禁処置を取らせて頂きますのでご注意ください。BB弾の重さは、0.3gまで使用を許可しております。ダミーナイフ、銃剣は使用禁止ですが、装備品としての装着は許可しております。銃剣の着剣は禁止です。角度を付けての曲射撃ち。バリケードなどの隙間に銃口を突っ込んでの隙間撃ちは禁止です。ですが、バリケードの隙間の先のターゲットを狙う隙間撃ちに関しては、して頂いて結構です。隠れる際は、その点も踏まえて下さい。バリケードだから当たらないという訳ではないのでご了承ください。当フィールドは、フルオートは3点射、3点バーストでの運用をお願いします。また、バリケードから銃だけを出して撃つ行為。ブラインドファイアもしくはめくら撃ちも禁止です。射撃する際は、しっかりとバリケードから体を出してしっかり相手を狙って撃つ用にお願いします。フリーズコールは、原則禁止です。やって頂いても構いませんが、する方は、反撃される事を覚悟して行ってください。フリーズコールによるヒットのトラブルは、すべてフリーズコールした側に原因があります。それを了承した上で行ってくださいますようお願いします。フレンドリーファイヤーに関しては、撃たれた側のみ退場になります。それでは、フラッグダウンの説明を致します。」

 しばらく、無言が続くと、説明しているスタッフの腕が、群衆から生えて来くる。スタッフの手には、緑色の箱が握られていた。

 「フラッグ下にこの箱が置かれています。この中に…。少し、お待ちください。」

 腕が下に潜り、留め具を外す音が聞こえるとエアーホーンを持った手が再度現れる。

 「こちらが入っています。こちらを3秒以上鳴らしてください。その後スタッフのフラッグダウンの案内放送が流れたらフラッグダウン。ゲーム終了になります。エアーホーンを鳴らす際100デシベル以上の爆音が鳴ります。耳の近くでこれを鳴らすと難聴になる可能性がありますので、鳴らす際は、エアーホーンをなるべく上に上げホーン部分を上に向けて鳴らしてください。また、フラッグダウンする際に走り込みによるフラッグダウン。交戦中のフラッグダウンは無効となります。しっかりと相手チームを整理し、フラッグ周辺のクリアリングをしてからフラッグダウンを行ってください。当フィールドアヴァランチオペレーションは、初心者と女性に優しいフィールドを目指して運営しております。初心者、女性限定ルールを設けさせて頂いております。セミオート限定戦などの特殊ルール内でのフルオートの使用の許可。復活無しのルールで行われるゲーム中一度だけ自陣フラッグに戻っての復活を許可。この二点になります。もちろん、初心者の方も女性の方もこのルールを使用しない事を選択することも可能です。限定ルールを使用する方は、チーム編成後、白いテープをこちらでご用意しておりますので、肩下に巻いて頂きますようお願いします………。あと、少しで終わりますので、もう少々お付き合いください。エアガンの管理方法に関して、です。今、説明をさせて頂いているこの場所はセーフティエリアになります。皆さまが、安心安全に休憩できるところです。装備品を外して休憩する場所です。セーフティエリアでのエアガンでの発砲は厳禁です。これもゾンビ行為同様、セーフティエリアでの発砲が認められた場合その場で出禁勧告、即刻退場して頂きます。くれぐれもご注意ください。セーフティエリア内でのエアガンにマガジンの装填は絶対にしないでください。マガジンの装填は、必ずフィールド内で行うようお願いします。そして、セーフティエリアにエアガンを持ち込む際は、必ずセレクターをセーフティに入れてトリガーを引けないように管理するようお願いします。マガジンが外れにくい。もしくは、外れる機構が無いエアガンに関しては、事前にスタッフに報告をお願いします。そして、当該エアガンを使用している場合、パワーソースを使うエアガンは、パワーオフにして頂きます。それもかなわない場合は、セレクターをセーフティに入れた状態で銃口に保護キャップを被せて弾が発射されないように管理を徹底してください。本日、当フィールド利用中にエアガンの分解メンテナンスを行う場合。受付小屋側面にコンプレッサーが設置されてる机がございます。そちらで、メンテナンスをお願いします。お客様がお休みになられてるテーブルでの分解メンテはご遠慮ください。分解メンテを行う際は、受付にて分解メンテを行う旨を伝えてからお願いします。分解後のエアガンは弾速測定を受けて頂きますのでご了承ください。当フィールドには、観戦台がございます。ゲーム観戦する際は是非ご利用ください。その際は、ゴーグルの着用をお願いします。それと、観戦台での会話は禁止とさせて頂きます。意外と観戦台からの声が、ゲーム中のお客様に聞こえてしまい、相手チームの情報がばれてしまいます。ゲーム進行の妨げになりますので、楽しいゲーム進行のご協力をお願い致します。ゴーグルは、サバゲー用のゴーグル、シューティンググラス、フェイスマスクをご使用ください。普通のサングラス、メガネなどは被弾時破損し、目を怪我するので絶対に使わないでください。また、他フィールドの事案で、ネット通販を利用して購入したサバゲー用と表記されているゴーグルを使用した際、被弾、破損して怪我をする事案が発生しました。ご心配のお客様は今、一度。ご確認の上ご使用ください。シューティングレンジのご案内です。シューティングレンジは、ゲーム中も使用して頂いて構いません。シューティングレンジ使用の際は、保護ゴーグルだけ忘れずにご使用ください。当フィールドは、基本禁煙ですが、喫煙可能エリアが、受付横にあります。灰皿を設置しているところでご喫煙ください。電子タバコ、加熱式タバコ、紙タバコ。すべて喫煙可能エリアで、ご喫煙をお願いします。ご遊戯中に出た使用済みガス缶、電池、バッテリーはゴミ箱に捨てないようお願い致します。処理をご希望のお客様は、受付にてお受けいたしますので、お持ちください。それでは、長い間ご説明を受けてくださり、誠に、ありがとうございます。チーム編成をしたのちマーカーの説明をさせて頂き、ゲームを開始させて頂きます。」

 スタッフは、マイクを離し咳ばらいをしたのち再度マイクを口元に持って行く。

 「失礼しました。チーム編成する前にご友人やチームでご来店したお客様。また、同じチームになりたい方がいらっしゃったら一つの塊でまとまってください。」

 客の何人かが動き、グループがある程度纏まっていく。

 俺は、このまま動かない方がいいのか不安になりガクさんの顔を見る。

 それに気づいたガクさんは口元で少し笑って見せてサムズアップで返答してくる。

 「それでは、私が歩いていきますのでモーゼの十戒のように左右に分かれてください。」

 マイクを持ちながらスタッフは歩き出す。戦士の後ろ頭達がスタッフを中心に左右に断ち切られていく。その波が、俺の横まで来る。波に倣って俺も断ち切られる。

 「ご協力ありがとうございます。この瞬間が結構好きだったりします。」

 スタッフは少しはにかみ、ちらほら微笑が漏れている。

 「それでは、人数調整を行いますので、スタッフの指示に従い2列にお並びください。」

 俺達を囲っていたスタッフが、声を張り上げ、集まった客に声掛けを行っている。

 「それでは、左側のお客様は、こちらのお客様を基準にして2列にお並びおください。」

 「それでは、右側のお客様は、こちらの自衛隊迷彩のお二人のお客様を基準にしてお並びくださーい」

 左右に分かれた人の塊は、みるみるうちに、二手に分かれ列を作り出す。

 最後の列にガクさんと俺が並ぶ。

 最後の人が並んだのを確認したスタッフは人数を数え始め、参加者は、しばしの談笑の時間が続く。

 数え終えたスタッフが、マイクを持つスタッフに報告をしに行く。

 「奇跡的に綺麗にチーム分け出来ました。40人と40人で本日の定例会を行わせて頂きます。また、本日、黄色の装備をしてる人もしくは、赤色の装備している方いますか?」

 少し、ざわついた後に、反対側の列の一人が手を上げる。

 それに気づいたスタッフが参加者を確認すると、そちらが赤チームで、と言い、振り向いて、こちらの列は、黄色で、と言う。気付くと生声を発していたスタッフ二人が、黄色の何かが、入った箱と赤色の何かが入った箱をそれぞれ持って列の先頭の先で立っていた。マイクを持ったスタッフが、箱を持った二人に近づき、それぞれの箱からその何かを一つづつ取り出す。

 片手で持たれたその二つは、黄色と赤色それぞれ鉢巻のような長い布だ。

 「こちらが、マーカーになります。チームカラーのマーカーを二つ持って頂き、なるべく肩に近い所で巻いて固定してください。自前のマーカーをお持ちのお客様はそちらを使っても構いません。マーカーを巻く際ギリースーツをご使用のお客様は、ギリースーツの上からつける様にお願いします。また付けれない場合は、ガムテープを用意しておりますので、腕から背中にかけて分かりやすいように付けて頂きますのでご了承ください。それでは、マーカーをお配り致します。初心者、女性のお客様で特別ルールをご使用の方は、スタッフにお伝えください。一緒に白いマーカーをお渡し致します。チームマーカーの下に付ける様にお願いします。」

 スタッフにマーカーを受け取った戦士たちは、ぽろぽろと列からはけていく。小気味良いリズムで並んでいた列が進んでいく中ガクさんが口を開く。

 「ワンメさんは、初心者ルール使います?」

 「使います。」

 即答する。

 「俺もそっちの方がいいと思いますよ。生き返る時一回フラッグに戻らなきゃいけないから体力使うから大変なんですけど。」

 ガクさんの目は、横に一本線になってにっこりと笑う。その笑顔に少し、恐れのようなものを感じた。

 「なんか、その笑顔怖いんですけど」

 「あ、気付きました?下手な運動より、よほど大変ですよ。やられてもいいですけどやられないようにしないと、シャトルランが始まりますからね。」

 談笑しながら並んでいると先頭は、早くも俺たち最後尾にたどり着いた。

 スタッフは、笑顔で俺たちにマーカーを渡してくる。

 「今日は、よろしくお願いします。本日一日、黄色チームになります。」

 俺の前に黄色のマーカーが差し出される。受け取ると同時に、初心者ルールの使用を申し出る。

 「初心者の方ですね。わかりました。少し、お待ちください。」

 箱の底の方をしばらく弄ると、一本の白のマーカーを取り出す。

 「こちらをチームマーカーの下に巻くようにお願いします。すべてのゲームのフルオート解除。一回しか死ねないルールで、一度フラッグタッチでの復活が許可されます。初めてのサバゲー楽しんでください。」


ゲーム開始10分前


 スタッフにお礼を言い、お辞儀をして、その場を離れるとガクさんが、少し離れたところで待っている。

 少し駆け足で追いつく。

 「休憩所でマーカー巻きましょうか。」

 と、一言置いて、休憩所に向けてガクさんは歩く。

 休憩所に着き、ガクさんのガンケースを開けて、何かを探ると、黄色の二本の伸びた板を取り出すと、両腕に叩きつけると、瞬時に腕に板が巻き付いた。その後俺に近づき、俺の持っているマーカーを指差す。

 「これは、マジックテープで止めるタイプなんで、ぐるっと回せば止められますよ。」

 マーカーを見てみると確かに両端にマジックテープの雄雌が縫い付けてある。

 右腕に付けようと空いた左手で付けようと苦戦苦闘していると、手伝いましょうか?と、ガクさんは声を掛けて来て、俺は、その出された舟に乗る。ガクさんにマーカーを託し、俺は子供みたいに腕を出して、二種類のマーカーを両腕に巻かれていく。

 マーカーを巻き終えて少し談笑していると、案内放送が、場内に響き渡る。

 「長い間ルール説明を聞いて、頂き誠にありがとうございました。今から10分後に本日最初のゲームを開始致します。最初のゲームは、無限復活のカウンター戦になります。黄色チームはAフラッグアルファ。赤チームCフラッグチャーリーです。準備をしてお待ちください。また、弾速測定が、また終わっていないお客様は、シューティングレンジにて再開しておりますので、お済ませください。」

 いよいよゲームが始まる。

 もともと朝から浮ついていた心が徐々に引き締まっていくのがよくわかる。気付けば巻いたマーカーを触を撫でて、少しでも心を落ち着かせようと努力していた。

 ガクさんは、緑色のストールのようなものを巻きながら、

 「確認なんですけど、フェイスマスク持ってきてますか?」

 と、聞いてきた。

 借りたガンケースの中に詰め込んだフェイスマスクを取り出して、ガクさんに見せる。

 「初めて買ったサバゲー用品ですね。今日一日そいつが、顔の被弾から守ってくれますから。フィールドインするときに付けましょう。ゴーグルとマスクをつけるだけで、ぐっとサバゲー感出てきますから。」

 「いや、今でも充分サバゲー感感じてますけど…。」

 徐にずっとつけてたゴーグルを一度外し、フェイスマスクを装着したのち、ゴーグルを掛け直す。スマホを取り出しカメラ機能を使って、自分の姿を確認した。すべて透明でクリアな硬い特殊なプラスチックで、作られたサバゲーのゴーグル。顔の輪郭が変わる訳じゃないが、頬部分にクッション材が入っているナイロン生地のパットが、頬の部分を覆い、顎から鼻の頭にかけて、金属材で作られたメッシュで構成されたフェイスマスクを着けた姿は、一兵士に見え、自分で思うのも恥ずかしいが、様になっているが、口に出せる事は出来ず、即座に見繕った言葉が先走る。

 「確かにサバゲーしてる人っぽい。」

 「でしょ?」

 スマホをのカメラ機能を切ってテーブルに置き、エアガンとマガジンが準備できてるか確認する。

 マガジンの弾の装弾OK。エアガンのバッテリーOK。確認したのち、何気なくエアガンを手に持ち感触を感じていた。

 「お、準備万端って感じですか?」

 フェイスマスクをつけ、キャップを深くかぶり、黄土色のエアガンを構えたガクさんが、マスク越しに笑顔で聞いてくる。

 「あ、いや、そういう訳じゃないんですけど準備した方がいいですか?」

 「もうそろそろフィールドインじゃないですかね。案内放送流れると思いますよ。」

 と、言った瞬間。フィールドインを告げる案内放送がフィールドに響き渡る。

 「あ、本当だ。」

 「それじゃあ、フィールドインしましょうか。保護具はオッケーなんで、エアガンとマガジン持ちました?」

 エアガンは持っている。マガジン二つをポケットに突っ込んだ。

 「はい!オッケーです。」

 「じゃあ、行きますか!」

 「はい!」

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