クワイエットトピック~セカンドインパクト(2)
動画配信サイトでサバゲー動画を見た分目類。彼はこの時初めてサバゲーと言う遊びを知る。
思い立ったが吉日。翌日、近場のエアガンショップAMATERASUに見学へと向かう。
その場で出会った一人の客、山寺岳。岳にエアガンの試し撃ちを勧められ一日堪能した分目は、満足していた。そのまま店長と交えて談笑中、サバゲーの定例会に参加する手筈となり、店を後にしたのだった。
クワイエット トピック
朝が来た。
朝日が漏れる暗闇の中で、鳴り続けるケータイのアラームが響くと夢から現実へと戻る。
アラームを消し、寝ぼけてる頭で上半身を起こす。眠い目を擦りながら、風呂場に向かい、シャワーを浴びて眠っていた体に鞭を打つ。
そのまま洗面台に向かい身支度を済ませると、スーツの下だけを履き、ワイシャツを着て、ネクタイを締める。ネクタイとワイシャツをネクタイピンで抑えると、ジャケットを腕に掛けると、ダイニングに向かう。使われていない椅子の一つに、ジャケットを掛けると、台所に出向き、冷蔵庫を漁り、材料を両手に抱えると、朝食の目玉焼きとみそ汁を作り始める。具材は、目に入ったもやしだけ。パックご飯をレンジで温め、茶碗の中に入れ、見た目を整える。出来たそれらをテーブルに運び、箸を取りに一度台所に戻り、椅子に座り、手を合わせ、朝食の時間が始まる。
スマホで動画サイトを開いて、一番上に出て来た動画を選んで再生する。内容は、サバゲー動画だ。
5日前、AMATERASUでエアガンを体験してから、朝のお供になっていた。
サバゲー動画を見て、イメージトレーニングをする。趣味がなく漠然と毎日を過ごしていた日々が、嘘のように満たされていった。
土曜日の定例会参加の為に仕事をしている。と、言っても過言ではない。
朝食が終わり、食器を洗い、スマホで時間を確認する。6時50分。出勤する時間になったのを確認すると、カバンの中身を見て忘れ物が無いのを確認したのち、最後に煙草をカバンの中に入れ、すべてのカギが纏まっているキーホルダーを持って家を出る。
階段を降りて駐車場へ向かい、車に乗り込む。キーを差し込んで、回すと静かに車は動き出す。
いつもの通勤路を通り、会社の駐車場へ。
今日は、レンタルエアガンを受け取る日だ。ただそれだけなのに、心は踊り、いつもは何も感じない通勤路が、キラキラして見える。
駐車場から社屋へ歩いてく、いつものより足が確実に軽い、自分でも早く歩いているのがよくわかる。何故か無駄に階段を使い、1階のエントランスから自分の担当部署がある6階までルンルンで登り、オフィスに入る。自分のデスクにたどり着き、パソコンを立ち上げ、社内、社外からのメール確認を行い、今日の仕事内容を確認する。パソコンで仕事の準備作業をしていると、部長が出社してくる。その5分後に朝礼が始まった。
頭の中がエアガンで一杯だった俺は、部長の話を右耳から左耳へ素通りさせると、みんなが座るタイミングで自分も座って、今日の業務が始まる。
今日は、レンタル品の受け取り、明日は待ちに待った初めてのサバゲー定例会。心が浮つく。という言葉が使われる状況を人生で2度目だ。
一度目は、高校生の時。
自転車で一時間かけて通学する日々。その通学路にレンタルビデオショップがあって、そこに帰り寄り道するのが日課になっていく。過去に見たことない映画を借りて見まくっていた。
その中で、「マトリックス」のDVDを手に取って夕食後自分の部屋でプレーヤーにいれて、ポテトチップスとコーラを映画のお供にして見る。
不思議の国のアリスをモチーフにした物語の始まりから、主人公の修行シーン。そして、ラストへと続く怒涛のアクション。
ポテトチップスを頬張るのを忘れて見入ったのを覚えている。エンドロールを見終えて、すぐにインターネットでマトリックスを調べて、続編があることを知ると早く借りたくて仕方なくて早く明日になれと興奮したのを思い出す。
映画館で見たかった。と、思った作品はこれが初めてだった。
回想にふけりながら仕事をこなしていると、昼食のチャイムがオフィスに流れる。
え?もう昼?
パソコンのモニターをのぞき込み仕事の進捗状況を確認すると、自分が気付かないうちに仕事が終わりかけていることに気づく。
午後は、ゆっくりやるか。
自分のデスクから立ち上がり、一つ階が下の5階にある食堂に向かう。
長蛇の列に並び、いつものサバの塩焼き定食を頼み窓際のカウンター席に陣取り黙々と食べる。
「分目。隣いいか?」
口の中にサバを頬張りながら声の方向に顔を向けると、同じ部署の先輩がコンビニのビニール袋を持っていた。
口の中のサバを飲み込み。
「あぁ…どうぞ。」
と、隣の席を引いて先輩に席を用意した。
先輩は、静かに椅子を座ってビニール袋をガサガサと広げ、中からサラダチキンとサラダを取り出すと最後にペットボトルの水を取り出した。
「先輩、ダイエットでも始めたんですか?」
サバの塩焼きの残り香を堪能しながら出されたものを見る。
まぁな。深いため息を吐きながら先輩は出した食品をじっと見る。
「俺、太ったかな?」
サバの塩焼きをもう一度口に入れるとサバの濃厚な脂を口の中で堪能する。芳醇な甘みと白魚特有のさっぱり感。白飯を箸でちょうどいい大きさで拾い上げ、口の中へダイブさせ口中調味を楽しんでいく。白飯が口の中に広がったサバの油を白飯が吸収しうまく絡んでいく。十分にサバと米を楽しむと
わかめの味噌汁で流し込む。濃い赤味噌のパンチのある味が、すべてを洗い流し口の中をリセットしてくれた。
やっぱり、和食はうまい。
「ねぇ、聞いてる?」
「ん?あぁ…そうじゃないですか?」
そもそもそれどころじゃない。飯がうますぎる。
「やっぱそうかぁ………」
先輩の独白が始まる。
「この前彼女がさ。急に痩せろって言ってきたんだよね。今までは、そのお腹かわいいって言ってたのに。」
サバの塩焼きの最後の一口を口に入れ単独で良く味わう。何度も何度も噛んで油を堪能する。最後に残していた味噌汁を一気に飲み干す。
うまかったぁ。
両手を合わせて
「ごちそうさまでした。」
と、この食事に関わったすべての人々に感謝の意を表し、一息ついた。
「ねぇ。ほんと聞いてる?」
先輩は死んだ目をしながら、両手で食べかけのサラダチキンを持っていた。
「聞いてますよ。ダイエットですよね?毎日見てるからですけどあんまり体系変わってないと思いますよ。」
「え?さっき太ってるって言わなかったっけ?」
鳩が豆鉄砲を食らったような顔をして先輩は言う。
「そうですか?………まぁ、なんか運動してるんですか?っていうか、先輩そもそも太ってないですよね?」
まぁ、いいかというそぶりで先輩はぼそぼそとサラダキチンを兎のように食べ始め、何口目かでサラダチキンから口を放し口の中から咀嚼したものを無くす。
「まずは、食生活を変えたほうがいいじゃん。それと、俺着やせするタイプでさ。腹が出てるのよ。」
先輩は左手で我が子を身籠った様に腹を摩った。
煙草吸いに行こう。時間ももうないし。
「先輩。ダイエットって食生活も大事ですけど運動も大事ってよく聞きますよ。サバゲーでもしたほうがいいじゃないんですか?」
そう伝えると食べ終えた食器を持って立ち上がる。
「サバゲー?」
摩っている手を止め先輩は宇宙人でも見るかのような目で俺を見る。
「走り回わるらしんで、もしかしたらいい運動になるかもですよ。それでは、お先に失礼します。
」
先輩に軽く一礼し、その場を去る。後ろに先輩の視線を感じながら返却口へと向かった。
煙草を吸って午後からもうひと踏ん張り。仕事が終わればAMATERASUへ行ける!自然と歩くスピードは速くなった。
時は過ぎ、夕日沈む17時
終業のチャイムが鳴る。
「お先に失礼します。」
カバンを取り出し私物をカバンの中に放り込み、椅子の背もたれに掛けてたジャケットを左腕に掛けて左手にカバンを持った状態で軽く皆に会釈する。
はやる気持ちが漏れ出し、自然と早歩きでドアに近づき、後は明けて廊下に出るだけ………。
「分目さん。」
後ろから静かで鋭い声を掛けられ、ドアノブにかける右手が止まってしまった。
はやる気持ちを抑えなるべく冷静に対応しようと目を閉じ、鼻で静かに深呼吸をしてから振り返る。ここで、残業はなんとしても阻止しなければいけない。
「はい。」
なるべく抑揚をつけず、落ち着きのある声のトーン。なんでしょう?と顔に書いてあるようなキョトンとした顔。偽装は完璧なはず。
誰もこの後エアガンを見に行く少年のような用事にこの後行くとは思うまい。
隣の席のショートボブの女性がキーボード操作を止めて俺をじっと睨んでくる。
いつも笑顔の子だと思っていたので初めて見た表情に少し恐怖を覚える。
俺の課の同僚の本城灯だ。
「仕事終わったんですか?」
彼女の声は冷たく鋭い。聞いたことのない声に恐怖は増幅していく
「え?とりあえず今日の分は終わりました…けど………。」
助けを求める様に辺りを見回す。先輩は関わらないように在庫ファイルを見始めて俺との視線を外してくる。上司の課長は、素っ頓狂な顔で彼女と俺の顔を交互に見ていた。
「そうですか。お疲れ様でした。」
そう彼女は呟くとキーボードを打ち始めた。
「え?」
ぶった切ったような会話に思わず声が上がる。
「終わったんですよね?仕事。」
「はい………。終わりましたけど…。何かありましたか?」
と、恐る恐る聞き返す。
「無いなら大丈夫です。お疲れ様でした。」
狙いすました睨んだ瞳がスーっと俺から外れパソコンに向かいキーボードを打ち始める。
ここで、周りを見たら呼び止められるかもしれない。強行突破するしかない。俺は、そっとドアノブを回し静かに廊下に出て音を立てずにドアを閉めた。
俺なんかしたんかなぁ。本城さん怖かったー。
気持ちを切り替える為に短く太く息を吐き出す。
ヨシ!
元気よくハツラツと足を交互に出してエレベーターに向かい、一階のエントランスに降りて会社を出て、駐車場に向かい車に乗り込んだ。
バックとジャケットを助手席に置き、ケータイをホルダーにセットして、ナビアプリを起動してAMATERASUを行先にセットし、キーを回して、駐車場を後にする。
ナビの合成音声の指示に従いながらハンドルを操作していく、あと少しで着くと思うと、ワクワクする気持ちが高まっていき、今日仕事を仕方事も忘れ、エアガンを受け取ることしか考えられずにいた。
こういう時に限って信号によく捕まるもので、その度に信号無視してやろうかと思ってしまう。何度かの右左折を繰り返し先週来た住宅街へと着く、陽が出ている時に来た時より住宅一つ一つの部屋の明かりと電灯の光が、閑静な住宅街のアーチを作りその真ん中を自分の車だけが走っている。
住宅街の端。奥と言ってもいい場所に、ログハウス調のエアガンショップAMATERASUが
見えてきた。
砂利が敷き詰められた駐車場には3台の車が止まっている。
二つは見覚えのあるステーションワゴンとコンパクトカー。もう一つは見たことが無い一台の黒のコンパクトカー。
黒いコンパクトカーの横に車を止めて、助手席に置いたジャケットを着て、カバンに入れてた財布を取り出し、胸の裏ポケットに差し込んで、車のドアを開け、外に出る。
歩いて薄暗くなった駐車場を渡り、二つの光源で下からライトアップされた金属製の店看板の前を通って、テラスの階段を上がり、店のドアの前に立つ。
六つのガラスの奥は店内からシェードカーテンで見えなくなっており、CLOSEと書かれた看板がつり下がっている。かすかに店内の光とBGMのジャズがかすかに漏れていた。
初めて閉店後の小売店に入るという普段ではありえない事態に、心臓が大きな音を鳴らし始める。妙に緊張感が走り、手にじわりと汗もかき始めた。緊張をほぐすために2回大きく深呼吸をして、ドア付近にあるインターホンを鳴らした。
しばらくするとくぐもった音の人の声が聞こえてくる。
「すみません。本日は営業終了してまして、大変申し訳ないのですがまた日を改めてご来店ください。」
「あ、先週お世話になりました分目と申します。レンタル品を受け取りに参りました。」
「あーワンメさん。ごめんごめん。どうぞ、中へお入りください。皆さん待ってますよ。」
ガクさんの他にも誰か来てるんだろうか?
「ありがとうございます。失礼します。」
ドアのノブをゆっくりと降ろし、ドアを引き中に入る。
「お邪魔します。」
軽い会釈をしながら入店すると、カウンターにオーナーさん。その手前にガクさんとシューティングレンジですれ違った男が俺の方を見ていた。
「仕事お疲れ様です。」
とガクさんが手を挙げて挨拶すると、隣の男は無言で会釈をした。
「待ってましたよ。ワンメさん。明日の為のエアガン。選んでおきましたからこっち来てください。」
オーナーの言葉に釣られるように入店の鐘の音を後ろに置き去りにしながら近づいていく。
レジの前に着く。オーナーは、レジの下から黒い長方形のケースを石を持ち上げる様に取り出し
、レジテーブルに慎重かつ丁寧に置いた。
その前に、と、ガクさんは手で空間を切りながら
「こちらの方の紹介をさせて貰いたいんですけどいいですか?」
と、男を掌で指して言葉を続けていく。
「先週お会いしたと思うんですけど、俺のサバゲー仲間で師匠的存在のシバさんです。」
「先週は、ちゃんとした挨拶が出来ず、すみません。司馬と言います。司馬秀幸(シバ
ヒデユキ)です。よろしくお願いします。」
と、深々と頭を下げてきた。
「こちらこそ、挨拶できず申し訳ありません。分目類と申します。今後ともよろしくお願いします。」
俺もその礼に答える様に同じぐらい頭を下げる。
俺とシバさんがほぼ同じタイミングで頭を上げると、オーナーが間を割ってくる。
「二人の挨拶が終わった所で、ガンケースあげてもいい?」
「あ、すみません。お願いします。」
オーナーに目線を合わせてぺこりと頭をまた下げる。
改めてガンケースと言われた物を見る。
全身黒のそのケースはだいたい1m以上の長方形のケースで、左右両端付近と中央付近の4か所にかぎ爪式の簡単なロックがついている。
オーナーさんは、手を回して端からプラスチックが擦れる音と太いくぐもったはじける音を出しながらロックを外し、すべてのロックが解除された時、オーナーの両手が、ガンケースの両端を掴むと一気にガンケースを開けた。
ガンケースの中身は、黒いスポンジが蓋部分と底部分に敷き詰められており、その上に前と後ろ部分、そして銃を撃つために握るところグリップと言われる所にも木製パーツが大胆に使われている。エアガンが、勇ましくケース内の中心に収められており、空いてるスペースに見た事あるバナナのようなマガジンが2つと、黒い部品と何かの機械とアダプターらしき物が入っている。
「次世代AK!」
「次世代AKか。」
ガクさんとシバさんが同じタイミングで歓声に近い声を上げる。
次世代AK………とは?
「ワンメさん。先週めっちゃ撃ったあのAK-47ですよ。同じ銃です。」
俺のリアクションの無さに気付いたのか、ガクさんが興奮気味に説明を付け加えた。
「え!?そうなんですか?」
前の部分以外はどう見ても同じに見えない。ガクさんから借りたAK-47は全体的に黒い印象がある。
ガクさんは、銃の各パーツごとに指をさして説明してくれた。
「俺の次世代AKは自分が使いやすいように外見をカスタムしているんです。専門的な説明になっちゃいますけど、まず、ベースとなる次世代AK-47のノーマルがこの状態。ストック部分は、ノーマルが木製パーツを再現した強化プラスチックで作られた固定ストック。俺はここをM4と言う銃で良く使われているストックに変えてます。グリップ部分も、同じように強化プラスチックで木製っぽく作られていてAK好きは敢えてここを残す人も多いです。俺はここを社外品の互換性のあるタクティカルグリップに変えてます。そして最後にレシーバートップレールカバーも変更して光学機器を乗せられるようにしてます。実際にドットサイトとマグニファイアを乗せてますよ。」
どっとさいと?まぐにふぁいあ?わからない単語で頭がいっぱいになる。
少し焦りながら取り次ぐようにガクさんはさらに説明を続ける。
「あぁ…、ごめんなさい。ドットサイトっていうのは筒を覗いた時に赤い点を見たと思うんですけどそれがドットサイトです。」
狙う時にのぞき込んだ筒を思い出す。あれが、どっとさいと。
「それとマグニファイアっていうのは、ドットサイトに望遠機能を持たせることができる機器です。」
まぐにふぁいあ?
「この前撃った時は使わなかったんですが、それを、ドットサイトと同じ位置に調整することで望遠機能を付けることができます。」
望遠機能?頭の中でとある映画のワンシーンを思い出す。
「山猫は眠らないみたいな感じですか?」
「良く知ってますね!正確には少し違うんですけど、概ねそんな感じです。」
よくわからないが、とにかく、ガクさんのAKと、この目の前にあるAKは違う。と言う事だけはわかる。
俺とガクさんの会話に申し訳なさそうにオーナーが割り込んでくる。
「ガクさん。盛り上がってるとこ悪いんだけど、説明してもいい?」
ガクさんは、アッ。と言う短い発音の後に、歯を閉じて細く息をすると、ドゾ。と聞き取れないくらいの声で言うと権利を右手をに乗せて差し出し、頭を少し下げる。
「じゃあ、このエアガンの説明をします。」
オーナーは、腕を突っ伏し直して、一回咳ばらいをして、説明は続く。
「東京マルイと言う会社で発売された次世代電動ガンAK-47という商品で、このモデルは、次世代電動ガンとわれるシリーズの一つで、射撃時にリコイルと言われる反動が発射時に味わえるのが特徴で、オートストップ機能が付きで、装填したBB弾が無くなった時点で自動で撃てなくなる機構が備わってる事で、実際の銃の操作感に近くなったのが特徴です。ウチのシューティングレンジで撃ったことあると思うから、操作は何となく想像できると思うよ。」
俺は、無言で頷く。
オーナーは、一つ一つ指を差して流れる様に説明をしてくれている。
「そして、二本のマガジンと動力のバッテリー。そしてこれが、バッテリーの充電器。BB弾と弾込めする為のローダーになります。それじゃあ明日の為にバッテリーの入れ方教えますね。」
「よろしくお願いします。」
俺は、頭を下げる。
「ワンメさん。エアガンを持って貰っていいですか?」
目の前のAK-47を手に取る。
「エアガンの前の部分に木目調の部品があると思うんですけど、それ、ハンドガードって言うんですけど、ハンドガードの上の部分。手前側に斜め下に伸びてる部品が見えますか?」
AK-47を少し傾けると、オーナーが言っている部品が顔を出している。
「見えます。」
「一度ケースに戻して頂いて置いて作業をしましょう。」
オーナーの指示の通りにガンケースのスポンジの上にひっくり返す様に置いて指示された部品側を晒す。
「その部品を上に向けてずらしてください。」
その部品は少し硬くロックがかかっているように、意図的な抵抗を感じながら力を徐々に加えロックを外すと、部品は外れて90度上に展開する。
「そのまま解放した部品を上で固定しながら、ハンドガードの上部分をそのまま手前に引っ張って外してください。」
手前に引こうとするが部品で固定されていた部分が邪魔をして少し苦戦するが、少し上げる様に引っ張るとすんなりとハンドガードの上部分を外すことが出来た。
「そのまま部品を外してもらって、外した部品は一旦置いてください。」
ハンドガードの上部分のパーツを置き解放された内部は、百円ライターが丸々入ってもまだ余裕があるぐらいのスペースがあり、手前から黒い配線とその先に雄のコネクターが顔を出している。
「そのまま、バッテリーを手に取って貰って、エアガンから出ているコネクタに接続してくださ
い。」
ケース内に置いてあるバッテリーを手に取る。
黒く長方形を象ったバッテリーは、龍が炎を吐いているステッカーが貼られ、そこには2200mAhと書かれており、下の方に小さくLi-Po20c7.4Vと表記されていた。
バッテリーから飛び出ている雌のコネクターをエアガンの雄のコネクターに繋ぐ。
「エアガンを起こして、バッテリーを開いているスペースに入れる。」
バッテリーを入れた後に配線やコネクタが絶妙に入らずはじき出され空中散歩をしてしまう。
「バッテリーのサイズがギリギリだからちょっと入れにくいかも、配線の向きとか気を付けながらやってみて。」
しかもそれがハンドガードを収める時にコネクタや配線が押さえつけられうまく閉まらない。4
~5回ほど入れ方を変える。その最中、ほかの三人の視線が俺の頭に突き刺さって、少し、手が汗で滲む。
バッテリーからの配線を銃本体下側に向け、銃口側にバッテリーのケツを押し当てながら取り外したハンドガード上部を差し込むように戻していくと今までの格闘が嘘のように何の抵抗もなくすんなりと戻すことが出来た。
妙な緊張感を落とす為に肩から大きくため息を吐いて、ロックをかけて、出来上がり。エアガンで遊べるように準備するだけでこんなに疲れるんだな。
「お疲れさま。慣れればそんな難しくないですよ。本当は、フィールド内にあるシューティングレンジに行って通電確認を行うんですが、今回は例外として、これを銃口につけて引き金を引いてください。」
親指ぐらいの赤い筒を差し出される。
「これは、保護キャップって言って、誤作動による事故、怪我を防止する為の物になります。」
保護キャップを受け取り、銃口にかぶせる様に銃口に差し込む。銃口が、完全に保護キャップに
覆われ割れない限りは怪我することはないだろう。
銃を構える。その際、銃口がオーナーに意図せず向いてしまった。
「ワンメさん。ゲーム以外で絶対に銃口を他人に向けないようにしてね。事故防止、トラブル防止になるから。」
笑顔が一瞬で真顔をに代わる。
その機械的な動きに背筋に蛇が這いずるような感覚を覚えた。
「すみません。」
急いで銃口を下げ、ケースの中を狙う形になる。
「そのまま、セーフティを解除して、コッキングレバーを引きながらフルオートでトリガー引いてみてください………。出来そうですか?」
「ちょっとやってみます。」
先週のシューティングレンジを思い出す。エアガン横にある長い棒。それが、セーフティレバー。上からセーフティ状態。真ん中で、連続発射のフルオート。一番下が、単発発射セミオート。そして、セーフティの斜め前にある出っ張った棒がコッキングレバー。これを手前に引くことでBB弾を撃つ事が出来る。徐々に記憶が読みがって来た。
セーフティを一段階下げて、銃口をケース内に突っ込み、右手でコッキングレバーを引き続け、左手でグリップを握ってトリガーを引く。
壁越しから聞いているような曇った破裂音と、エアガンの作動音と共に流れ込んでくる振動を受け続ける。
「通電確認だから、そんなもんで大丈夫だよ。」
セーフティレバーを一番上に戻して、ガンケース内に置く。安堵のため息を漏らした後に。
「ありがとうございます。」
もう一度軽く頭を下げる。
「これで、明日参戦出来ますね。」
ガクさんが、肩に手を置いて笑いながら顔を軽く覗き込んでくる。
「BB弾の詰め方とかは、大丈夫だと思うけど、わからなかったらガクさんに聞いて。後は、あれば軍手を、ゴーグルは、アヴァオペでレンタルしてね。」
オーナーは、ガンケースに置かれたAK-47から手慣れた手つきでバッテリーを外し、ケース内の荷物を整理整頓し始める。
「そそそ、わからない事あったら何でも聞いてね。明日は、楽しもう。」
オーナーは、ケースの蓋を閉め、4か所のロックをかけた。
「軍手?」
妙に引っかかるその二文字。
「そうそう。話聞いたかもしれないけどさ、エアガンってどうしたって怪我するおもちゃなのよ。歯がかけたり、場合によっては失明するし、知らないじゃすまない事もあるからさ。手に当たったらそりゃあもう。」
「話は、ガクさんから聞いてましたけど、そんなに痛いんですか?青痣出来たりするって聞きましたけど」
「痛いよぉー。時速300kmで6mmのBB弾が飛んでくる。距離が近ければ近いほど、距離減衰は起こらないから当たった時の激痛は、声にならない時もあるしね。」
その痛みを想像して体に寒気が走る。
「あーそれはやばそうですね。」
「そうなんだよ。まぁ、説明も済んだし一服でもしよっか。ジュース奢るからさ。」
そう言うとオーナーは、レジ奥のスタッフルームに消えていく。
場所を移して、喫煙室。
3人は、各々煙草に火を付け煙草を嗜んでいるとオーナーは、4人分の缶ジュースを持って来て入ってきた。
オーナーは、一人づつ缶ジュースを渡し、缶ジュースを開けて一口飲むと、片手で煙草を器用に一本だけ出して口に咥え火を付ける。
司馬さんは煙を肺に入れると味わうようにゆっくりと紫煙を吐き出す。
俺とガクさんが、同時に煙を吐き出した。
「そういえば、ワンメくんってゴーグルとか持ってるの?」
シバさんが灰皿に灰を落としながら煙草の煙で充満しかかった喫煙所に声が響く。俺は、白煙を吐きながら答えた。
「いや、持ってないので向こうでレンタルしようかなと思ってます。」
ガクさんが続けて口を開く。
「レンタルでもいいですけど、ここで買っていく?」
「手に届く値段なら買ってもいいかなぁ。」
「一番安いので1000円しないけど、メガネタイプのゴーグル買うならフェイスガードも一緒におすすめしますよ。」
オーナーは、ここぞというタイミングで会話に入って来る。
「フェイスガード?」
「さっきオーナーが言ってたように、歯や口周りの保護に使う保護具です。大体3500円ぐらいするかなぁ。」
「3500円かぁ。結構するなぁ。」
テーブルを見ながら考えを巡らせている、とクスクスと笑う声が聞こえる。顔を上げるとガクさんが驚いた表情でこっちを見ていた。そして、シバさんが意地が悪そうに笑っている。
「あ、ワンメくんごめん。ワンメくんの事じゃなくて。がっちゃん。」
「がっちゃん?」
ガクさんの先生的なイメージとは程遠いあだ名に違和感を覚えてる最中にも二人の話は進む。
「がっちゃん。普通の人の感覚の3500円は高いよ。サバゲーマーと一緒の金銭感覚にしちゃダメじゃろ。」
「え!?いや、でも、安く……ないのかぁ………そっかぁ…。」
ガクさんは、救いを求める様に天井を見上げてしまった。
「え?俺なんか悪いこと言いました?」
「いや、なんも悪くないよ。サバゲーマーは、エアガンが地面から生えるって言う文言があるぐらい金銭感覚がおかしい人がいるのよ。がっちゃんみたいにね。」
その時、甘い樹液が皮の表面に滲むように憧れが溢れ出てくるのを感じた。
その樹液を認識すると自然と口が開いていていく
「買ってみようかなぁ………。」
シバさんは、一瞬驚き、なだめる様にはっきりと優しい声色で話しかけてくる。
「う~ん。レンタルでいいかなぁ。」
シバさんは、何度も捩じるようにゆっくりと左右に首を振って、顎を擦りながら申し訳なさそうにしている。
「いや、やっぱ買います!金銭感覚おかしくします!」
急に溢れ出した購買欲が声量と気持ちがトップギアに入る。
「ちょちょちょちょー………。うーん。無理だけはぁー。」
未だに顎を擦ってるシバさんに対して俺の鼻息は荒い。
「趣味と言う趣味は無いし、お金はあるんで、買っちゃいます!」
「えぇーとごめん。ちょっと割り込んでいい?」
ガクさんが申し訳なさそうに右手を上げて、悲しい顔をしながら会話に割り込んでくる。
俺と、シバさんと一人会話を静かに聞いていたオーナーがガクさんに注目した。
「シバさん。俺…。貶されてる?」
ガクさんは、食事を求める子犬の様にシバさんを見上げて話しかける。
「う~ん。多分。褒めてる。」
シバさんが、苦笑いしながら答える。
オーナーが大きく手を鳴らして、この場の空気を仕切りなおした。
「ワンメさんの気が変わらないうちに商品持ってくるからちょっと待ってて」
俺を含めた3人の顔を順番に笑顔で見回すと、喫煙所を小走りで退出していった。
トップギアに入った感情が徐々に下がっていき冷静になっていく
「多分。サバゲーって楽しいんですよ。」
話しながら、気持ちを整理していく。
「感覚狂うぐらい。一回だけになるかもしれないけど、その一回が楽しい思い出になればいいと思ってます。だから、買いますよ。ゴーグル。」
水を与えられた萎れた花が、徐々に咲きほこれるようにガクさんの煙の幹が真っ直ぐに天に伸びて、咥え煙草の先の灰が人知れずポトリと落ちる。
いつの間にか切れた店内BGM。落ちた灰が3人に気付かれず静かに放置されていく。
ガクさんは、一度煙を勢いよく掃き出して、テーブルに視線を落とす。落ちた灰に気付き、丁寧に手を箒と塵取りにして灰を片し、灰皿に捨てて拍手をしながら手に付いた灰を払う。
「ワンメさん。その楽しい思い出は一回じゃ終わらないから大丈夫。2回、3回って続いていくよ。」
ガクさんの無駄にキメ顔に少しイラっとする。
左の頬を少し釣り上げてシバさんがそれに答えた。
「金銭感覚狂ってるヤツに言われてもなにも響かないだろ。」
無駄に決めたその顔が一気に崩れ、シバさんの方に風を切るように振り向くと
「それは言わない約束じゃないですかーシバさぁん。」
と、懇願するように吠える。
堰を切った様にどっと笑いが溢れるシバさんを見て俺も少し吹いてしまう。
「ワンメくんはこうなっちゃダメだよ。」
はい。と笑いながら答える。
「シバさん。それ、オーバーキルっすからね!」
ガクさんも笑い始める。
何の取り留めのない身内の話。
人柄を知ってなきゃ笑えない他愛のない話。
そんな温かい空間の中オーナーが戻ってくるまでケラケラと俺ら三人は笑い続けた。
セカンドインパクト
俺はあの後、東京マルイからでたPROゴーグルLのクリアー880円(税別)とOneTigris メッシュ ハーフマスク 3300円(税別)を買い、ガクさんと待ち合わせ場所と時間を確認しながら、連絡先を交換した。
オーナーからさらにマナー講座を受け、レンタル品とボトルに入った弾を渡される。
パンパンに入った弾は3500発入っているらしい。
その場で別れを告げ家に帰り、今、現在。家でバッテリーの充電をして明日着ていく服と靴で悩んでいる。
動きやすくて汚れていい服。
スポーツなんて興味なかった俺からすればそんな都合のいい服なんてものはなく、せいぜいハーフパンツか部屋着のスウェットぐらいしかない。
とりあえず現状を確認するために持ってる服をできる限り床に広げ確認してみる。
まずはトップス。良く着る服やお気に入りは除外していく。
残った服は大体7~8着。Tシャツ、パーカー、ネルシャツ、カーディガンにアロハシャツ。
カーディガンは、除外する。季節的にアロハはまだ早い。冬が明けて久しい今パーカーかネルシャツになる。というように引き算をしていった結果、インナーに無地の白いTシャツに大学時代の時に買ったスターウォーズのロゴがプリントされた黒地のパーカーに決まった。
ボトムを色々と探してみる。
一抹の希望にすがり、服の入ったカラーボックスを掘り進むように探していくが、やはり見つからない。いつも着ているジーパンぐらいしかなかった。
まぁ、これでいいか。
最後に靴。玄関に向かい添え付けの靴箱のドアを開く。
あまり使われていない靴箱には、点々と使われていない靴が、寂しそうに置かれていた。
一番上にあるスニーカーを取り出す。
匂い。大丈夫。カビは、生えてない。靴底は、まだ生きてる。履けることを確認し、そのまま玄関へ。
「この靴何か月ぶりだろ」
上がり框に腰を据え、土間に置いた靴を履く。
軽くその場で足踏みやジャンプを繰り返し靴の感触を確かめる。
「ま、こんなもんか」
と、納得すると、リビングに戻り充電が終わったバッテリーを充電器から外す。
AMATERASUで買った商品とバッテリーのセーフティケースを取り出す。これもレンタル品の一つだ。Li-Poバッテリー事故による火災からある程度守る為のケースらしく、耐火繊維で作られているらしい。基本は、この中にバッテリーを入れて保管するらしい。
バッテリーをセーフティケースに入れガンケースに置く。明日持って行く為の物を再度確認する。
エアガン。OK。
バッテリー。OK。
充電器。OK。
BB弾。OK。
BB弾ローダー。OK。
マガジン2本。OK。
ゴーグル。OK。
ハーフマスク。OK。
二度確認して、漏れがないかチェックしたのちガンケースを閉じ、ロックを掛ける。その上に、明日着ていく服を用意して準備は終わった。
あとは、寝るだけ。
明日への興奮を抑える様に携帯灰皿と煙草を持ちベランダに出る。
摩天楼。と、まではいかないが、地方都市独特のまばらに散らばる光の夜景を見ながら一服を楽しむ。
そよ風がこめかみを撫でる。その瞬間体の底から小刻みに震え体全体に一瞬で広がる。
まだ寒いな…。
明日は、何もしない日じゃない。初めてサバゲーに行くんだ。楽しかったらいいなぁ。
手すり壁で頬杖をする。ニコチンが頭に回り頭が重くなる。
まだ吸いきってない煙草を無理やり携帯灰皿に押し込むと、急に瞼が重くなる錯覚に陥る。
それにつられて大きいあくびををするとそのまま部屋へと入った。
そろそろ寝れそうだ。
電気を消し、スマホの光を頼りにベットにたどり着いて、体を布団で包み込む。
目覚ましの確認をし、充電ケーブルを差し込み充電するのを確認するとそのまま意識は夢へと引っ張られていった。