竜のたまごが孵ったら
嘗て竜の王が治める、最強の国があったという。
※本作は、コロン様主催の「たまご祭り」参加作品です。
『すぐに会える。だから……』
あれは何時、誰の言葉だろう。
頭に浮かぶ言葉を反芻し、今日もラコは森を歩く。
ラコは自分の年も家族も知らない。名前すら分からない。
森の入口で気が付いた時、誰かに「ラコ」と呼ばれた。
だから名を聞かれたらそう答える。
ラコと。
長く続いた先の大戦で、国土は荒れた。
竜を祀る国をこの国が滅ぼし、この国も半分は焦土となった。
家族も家も、失くした民は緩衝地帯の森に逃げ込む。
以来ラコも森に住む。
小さな小屋で暮らしている。
時折森の奥から声がする。
ラコの名を呼ぶ声がする。
声に導かれラコは森を行く。
薪を拾う。茸を拾う。
たまに黒い石も拾う。
薪と茸は自分用。
黒い石は炎を作り出す売り物だ。
ラコは石を売った小銭で、僅かな食べ物を得る。
そうして数年たった。
ある日朽ちかけた木の洞で、ラコは大きな卵を見つけた。
ラコの頭より何倍も大きい卵だ。
差し込む光が卵の殻を通過する。
思わず殻を触ったら、ラコの掌よりも温かかった。
触れた瞬間、卵から声が響く。
いつも「ラコ」と呼ぶ声だ。
ラコ……ラコ……。
ようやく会えたね!
卵から響く声で、ラコの頭の中の殻が、ぱりんと割れた。
『ラコール、これ以上の戦は、双方の民を苦しめるだけだ。私は敵将に討たれよう』
『討たれるって、陛下。あなたは……』
陛下は言った。
ラコの夫、竜の一族の長。
そうして彼は死んだ……。
死んだ?
『君を、森に飛ばす。
私もすぐに行く。
だから、探してくれ。
卵を。
竜の卵を。
卵を孵せるのは、きみだけだ」
全てを想い出したラコは、卵を抱きしめる。
見つけたわ!
愛しいあなた。
「手を上げろ」
いつの間にかラコの背後には、銃火器を構える小隊がいた。
「伝承通りか。竜族は死んでもすぐに蘇る。しばし卵に守られて、とな」
ラコは両腕を一杯に広げ、首を横に振る。
卵を。
夫を包む卵を、守らなければと。
「逆らうなら女とて容赦せぬ。撃て!」
ラコは目を瞑る。
火縄の燃える臭いがする。
その瞬間。
突風が、木々を兵士を薙倒す。
兵士らの悲鳴にラコは目を開ける。
腰を抜かした隊長と、ラコを抱く腕が見えた。
「そこの兵、王に伝えよ。竜王が蘇ったと。一度死に戻りし竜の力、万倍になれり」
慌てて去る小隊を見ることなく、ラコは竜王に抱きつく。
「待たせたな」
「いいえ」
「もう二度と離れない」
「はい」
竜王はラコを抱いて飛び上がる。
その後山の頂に、竜族の住む国が出来たという。
竜王と王妃は末永く、幸せに暮らしたと伝え聞く。
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