踊るゾンビと夢のデビュタントin宮廷
よくあるプロローグ・その1
そこは町はずれの共同墓地。
三丁目のヤンセンさんちのご隠居を葬るために、今日も墓掘りが穴を掘る。
「さっさと終わらせて一杯やろうぜ」
汗をふきふき、男たちが声を掛け合う。と、そこにガキリと鈍い音が鳴った。
「ん、なんだこれ」
「おう、どうした」
「ツルハシが何か引っかけた。ちょっと待ってくれ……何だこれは。石棺?」
「何か書いてるな……我の眠りを妨げる者に災いあれ……なんか不気味だな」
「現場監督呼んで来よう。おーい、おおーい……うわああ!」
「どうした!? ……う、う、うわああああ!!」
よくあるプロローグ・その2
私、ミリカ・サボネット。16歳。花も恥じらうお年頃!
ついに! 私も! 憧れの舞踏会に上がれることになったの!
肩書といえばパパは男爵なんだけれど……でもでも、とある方面ではちょっとは名の知れた研究者なのよ。
それは、魔法!
私のパパは魔法研究会の会員なの! 結果発表のため、王様にも謁見されたのよ。
だから、次の日曜日に王宮で開かれる舞踏会に行けるの! 私も連れてってくれるって! やっぱりコネは作っておくべきよね。パパ素敵。
そこでは身分の高い皆様が集まって、とても華やかな催しが開かれるのよ。みんな素敵なお相手に夢中。そして、お相手がいない人は……ムフフ。
お集りの皆様の中から、素敵な人を見つけるの。パパも、「そろそろお前の将来を任せられるお相手を探さなきゃならないな」なんて言っていたのよ。どうしましょう。ドキドキしちゃう。
いわば、私のお披露目にもなるのよね。一番新しいドレスにしなきゃ。それと、とっておきのネックレスと。
どうしましょう。素敵な殿方が私に声をかけてきたら。
「なんてお美しいお嬢さんだ。一曲踊りませんか」
なーんて。キャー!
私、ミリカ・サボネット。16歳。絶賛彼氏募集中!
本番・日曜夜の宮廷にて
シャンデリアはキラキラと光り、人々が身に着けた宝石もキラキラと輝く。
噂に違わぬ煌びやかさに、初めて宮廷のフロアを踏んだミリカは……死んだ顔で椅子に凭れていた。
「どうしたミリカ。疲れたのか?」
父親のサボネット男爵が、通りすがる人々の目から我が子を隠すように立ちふさがりながらもそっと聞いた。
「疲れましたー。なんかもうヘコみましたー。ベッコベコですぅー」
煌びやかさの本質は、国家レベルで集まった美男美女勢ぞろい。このせいだ。
そして美男には美女のフィアンセがいるし、美女には美男の旦那様がいるのだ。仲良さそうに腕なぞ組み、ミリカがどんなに熱い視線を送っても気づいてすらもらえない。
その上、ハッ! と目を見張るようなお顔立ちの方は、大抵、身分違いである。ほぼ伯爵以上の方々だ。チッ。そんなもんだよ世の中。身分さえあれば美人も選びたい放題かよ、あーあ、世知辛いねぇ!
「まあまあ、そう言うな。お前だって可愛いぞ」
「パパなら娘にそう言うでしょうねぇ、アタシゃこの短い時間に身の程ってものを知りましたよ本当、どうしてくれるの乙女の夢を」
「お父様だぞ、お父様だ」
「はーいお父様」
さらに言えば、寄ってくる男性のレベルだ。
父親としては本当にここで娘の結婚相手を探すつもりらしい。いや、それは良い。おおいにやってほしい。
問題は、父親の知り合いが軒並み、魔法研究会の会員だということだ。
「これはこれは、ボルチーノ男爵、それにご子息。お久しぶりで」
挨拶もそこそこに、ミリカの前に押し出されたのは、やけに鼻息の荒い精悍な顔をした青年(上方修正表現)で、そのくせ「……ッス」としか言えず、挨拶のためパッとミリカの手を取り頭を下げた後、「デュフ」と笑った。
何がおかしいねん。
ミリカの愛想笑いは秒で消えたが、出してみせただけマシだと思いたい。
父が始めに根回ししていたのか、こういうのが次から次にと現れるのだ。何故か軒並み、コミュニケーションがアレな人ばかりだ。不健康そうなのや、さっきまで寝てたようなのや、いつ風呂に入ったかわからないようなのも。
「研究者はな、しょうがないんだよ」
「特定の職業に誤解を与えるようなこと言わないでよねパパ。私にはもう手遅れだけど」
「そう言うな……そんなだから、魔法研究界隈では嫁日照りなんだ。これは業界の未来がかかっていて……」
「私、あそこのイケメンがいい」
「あれはミールテス公爵だ、カンベンしてくれ、手が届くわけないだろう。不届きすると研究予算がケズられるんだ。いいか、魔法の才能がある者同士で子を成すと、さらに魔力の増加が望めて……」
興味のない話がつらつらと流れる。意識と共に、父親の声が遠くなってきた。
本当言えば、明け方の酔っ払いくらいに力を抜いて流れたいくらいなのだが、締め上げたコルセットのせいで姿勢をよくしないと息すら出来ない。
ああ。最悪だ。自分の纏う新しいドレスもとっておきのネックレスも、もうイモ臭さを感じる。
私はこうしてどこかのパッとしない男の妻となり、身分相応、パッとしない人生を送るんだろう。
「おっ、これはビストック男爵」
次の新しい人が来て、ミリカはつつき起こされた。一人の男性が、座るミリカを見下ろしていた。
パッとしない。
キング・オブ・パッとしない。
モヤシでメガネでいかにも研究者だ。今日見た男性の中で一番特徴がない。
「あ……っと……どうも。えと……リザロ・ビストック……です」
言い終わった後ソワソワと手を揉み、メガネを触り、頭を下げたあとに差し出された手に気が付き、慌ててそれを取ってなぜか「ありがとうございます」と礼まで言った。
例外ナシ、コミュニケーションがアレ。ミリカはそっとハンカチを出して手を拭いた。彼の手汗がすごかったのだ。
「いやあ、ご子息はなかなか良い魔力になりましたなあ」
と父親はご満悦だが、ミリカの心には早速シャッターが下りた。これで別れれば、2分後にはパッとしない顔も忘れているだろう。
しかし、部屋の一角から悲鳴が上がったことで、話を切り上げるタイミングを失った。
「なんだ?」
一同は声のする方を見た。不測の事態が起こったらしい現場から、悲鳴が輪になって伝わってくる。壁際にいたミリカたちも、順番を待ってそれぞれに声を上げた。
悲鳴の中心は扉番だった。ホールの入り口に立つ警備の役目を仰せつかっている者だ。そいつが潰れた声を上げている。喉にゾンビが噛みついているからだ。それならそんな声しか出ないのも……ゾンビ!?
「きゃああああ!!」
気が付けば、廊下から押し寄せて来ているらしいゾンビたちが扉に姿をみせつつある。
「扉を閉めろォ!!」
誰かが叫んだ。召使たちが扉に飛びついた。顔のいい誰かがそこに腰を抜かしてへたり込み、絨毯を濡らしていた。
押し合いへし合いの末、なんとか扉は閉められた。三匹のゾンビを外に出せないまま。
「ぎゃー!」
舞踏会の会場は、ダンス以上に大騒ぎ。
「えい! この!」
「近衛兵、早く!」
「待ちたまえキミタチ。僕がやろう」
イケメン軍団の中から出た一人が近衛兵からサーベルを取り上げ、カッコよく構えた。キャアキャアと黄色い声援が飛ぶ。
レディたちの期待を一身に受けたイケメンは善戦し、ゾンビはなんとか制圧された。早速、勝者を讃える名目でレディたちが彼を取り囲む。若い子らは元気でいい。
なんとか平和を取り戻した広間の中、人々は腐肉を避けて身を寄せ合った。
「一体何があったんだ」
「こんなところにゾンビがいるなんて……」
「衛兵は何をしてるんだ!」
一人が不満を爆発させた。ここで自分たちを守ってしかるべき武力への職務怠慢をなじる声音だった。そこに別の一人が現実的かつ悲観的な意見を被せた。
「詰所はこの広間の外だよ。廊下にはゾンビがいっぱいだった。もう戦っているさ」
もうみんな戦っている。それなのにまだ助けがこない事実……広間のあちこちで女たちが泣きだした。
ミリカはあっけにとられていたが、話しかけられて我に返った。
「大丈夫ですか、レディ」
パッとしない彼がミリカの様子を伺っている。
「ええ、大丈夫ですわ……」
しまった。大丈夫じゃない方が乙女らしかったか。どっかのイケメンの前で気絶でもしてみせればよかった。が、今更遅いだろう。隣にいるのはガリヒョロのメガネだし。
ていうか名前なんだっけ。と、ミリカが意図的に忘れた彼の名前を頑張って思い出そうとしている間に、広間の真ん中ではキリッと系イケメンが声を張り上げていた。
「騎士団がきっと助けにくる! それまではここに籠城するしかないだろう。バリケードを造ろう、みんな手伝ってくれ!」
どこにでもいるのだ一人は。こういうリーダーシップを発揮するヤツが。女にモテそうなやつはやることが違う。
「それから武器になるものを探すんだ!」
「くそう、大型武器屋に立て籠もればよかった、何もないな」
「舞踏会だからな……」
武器か……
ミリカも何かないかと自分の体を見回した。ふと思い立ってハイヒールを脱ぎ、手に装着する。よし。これで張り手なぞかませば、結構な攻撃力ではないだろうか。ちょうど足も痛かったし。
「勇ましいですね」
彼は感心した声をあげた。そうそう、思い出したがリザロという名前だった。
改めて眺めても、皆をリードしているイケメンと違って、やはりパッとしない。彼がヒーローになるところなんか、想像もつかない。
ただ、手ぶらな彼は落ち着いていた。ゾンビが出る前より格段に。それが何だか、頼り甲斐がありそうにも見えてしまう。これが吊り橋効果というやつだろうか。
「あなたはいいんですか、何か持たなくて」
「いや、まあ、僕はもう……持ってるので」
はて、とミリカが首を傾げた時、サボネット男爵が前に出て、偉そうなイケメンに芝居がかった声を上げた。
「ミールテス公爵! 我々のことをお忘れではないですか!」
パパ!?
ミリカは驚いた。だって、パパだってパッとしない紳士の仲間なのに。
「何だサボネット男爵、いい案でもあるのか?」
「いい案も何も。我ら、魔法研究会ですぞ。ゾンビ如き、パリッと煎餅にしてみせましょう」
「おお、そうだったな! 我らを助けてくれるか?」
「はい! 上手くいきましたらば、研究会への予算をば奮発していただきたく、ぜひぜひ」
セールスだった。しかし、状況に合わせた最高の顧客ニーズにお応えしている。パッとしないサボネット男爵が、ヒーローに見えた。すごい。
「……大変だ」
オペラグラスで窓の外を見ていた一人が震えた声をあげる。
「どうした」
「町中ゾンビだらけだ……共同墓地の方からわんさか来ている……もうこの世の終わりだ……」
思わず静まり返る中、ミールテス公爵はサボネット男爵を振り返った。
「頼むぞサボネット男爵!」
「えっ……そ、そんなに……? えぇ……わかりました、何とかします……なあ?」
一瞬怯んだサボネット男爵は仲間を振り返る。曖昧に頷く者がパラパラとだけ。何ということだ、戦争は数だというのに、研究会仲間は元から多くない。
「ま、まあいざとなったらファイヤーボールでドッカンドッカンいきましょう」
「余の宮殿を燃やした者には賠償金を課すぞ」
今まで隅っこで震えていた王様が、ここで急にモンスターカスタマーとして発言した。なんというトラップ。研究会の皆さんは一様にあんぐりと口を開ける。そんな縛りプレイ、初見で出来るかどうかはわからない。
「ぐううっ……」
苦しそうに呻き声をあげるのは、さっき大立ち回りをしてキャーキャー言われていたモテイケメンだ。周りの女たちがすかさず心配してみせる。
「どうしたの、どこか痛いの?」
「なに、大したことはない……さっきの戦闘でちょっと受けた傷が痛むだけだ」
意味がわかると怖い話。
しばしの沈黙の後、来た時と同じ勢いと悲鳴で、取り巻きのレディたちが一斉に離れていった。
間を置かず、ゾンビ菌発酵完了。人のいなくなった空間から、ゾンビと化したイケメンがウガーと咆哮をあげて暴れはじめた。
逃げ足の遅い一人が捕まり、ガブリとやられる。二匹になったゾンビはまた周りに襲い掛かり、今度は四。その四がまた……
ダンスホールは再びパニックに陥った。
ゾンビの一人、いや一匹が、得物を求めて真っ直ぐ駆けてくる。
「うびゃあああ!」
ターゲットにされたミリカは悲鳴を上げ、反射的にズバッと腕を突き出した。その手にはハイヒールが装着されている。
勢い止まらないゾンビは自らハイヒールに突っ込み、額にダメージを負った。思わずミリカが手を引っ込めると、刺さったまま持っていかれたハイヒールは、お札よろしくゾンビの顔を塞いでいた。前が見えない人の動きで右往左往。
「ほぎゃあああ!」
ミリカは恐慌状態に陥った。恋は上手くいかずとも、乙女であるのは本当なのだ。ゾンビ退治は荷が重い。
そこに、ザッと横入りしてきた背中がある。リザロだ。
彼は、悲鳴を忘れてポカンと見上げるミリカの前でサッとポーズを取り……うねうねとした奇妙な動きを流れるように踊った。
あのう。何をしてらっしゃいますの。
聞くのも憚られる雰囲気の中、ひとしきり踊り終わった彼は背筋を伸ばし、軽く顎を上げて元気よく挨拶した。
「ゾンビの皆さん、こんばんはー!」
ホール中に響く声だ。こんな大声が出せたのか彼は。大広間は静まり返った。彼の声だけがますます元気に響く。
「わざわざ宮廷まで来てくれてありがとうー! 今日は楽しいパーティだよー! さあ、ゾンビの皆は僕と一緒に楽しく踊ろうねー!」
明るい呼びかけの後にリザロがパン、パン、と手を叩くと、おお! なんと! ゾンビが一斉にリザロの方を向き、リズムに乗ってヘッドバンギングをはじめたではないか!
「はいっ、ゾンビの皆はこちらに整列ー!」
促されるままにゾンビは(表情が動きにくくなっているけれど、おそらく)楽しそうに手を鳴らし、足音そろえてリザロの前に寄ってきた。
「ぱーぱらっぱんぱぱぱー、1、2、1、2、そうそう上手だよー二列縦隊でいくよー、せーの、1、2、1、2!」
「ビストック男爵! そうだ、この手がありましたな!」
「サボネット男爵! はい! この研究を続けてきた甲斐がありました!」
手を取り合う父親たちを見て、ミリカは「一応聞くけど」と口を開いた。
「これ、魔法なの?」
「そうだぞ、ビストック男爵家は催眠魔法を研究していてな」
「あれは古来より伝わるハーメルン・マジックを愚息オリジナルにしたもの。名付けて『マウス・マウス・トレイン』」
「なるほど、ネズミの列の如し……か」
サボネット男爵はひとしきり感動している。
ネズミの害に困っていた町を救った笛吹きの話。笛の音を聞いたネズミが一列になって笛吹きに付いていき、川に入ったところで溺れて退治されてしまうという童話だった。今日の成果はゾンビだが。
「ハイハイハイハイ!」
リザロが頭上で手拍子を打てば、ゾンビ一同
「ワオワオワオワオ」
と、後に続く。クラップヨーヘン。プチョヘンザ。
高熱を出した時に見る悪夢のようだ。
リザロはバリケードを開けさせ、ゾンビを率いて外に出た。扉の向こうに待機していたゾンビたちも、リザロのノリを目の当たりにしたところで次々に踊り出していく。
「見ましたか皆様! 王様! 我が国は救われましたぞ! これが我らが魔法研究会の成果──……」
サボネット男爵が熱心に売り込みをかけている。
窓の外には、ゾンビの列が膨れ上がりながら、共同墓地へと帰っていく様が見られた。
確かに国は窮地を脱したが……ミリカはこっそり呟いた。
「いやぁ……地味」
ともあれゾンビパニック、めでたく終結。
リザロ・ビストックがミリカを訪ねてきたのは、三日後の昼だった。
「あら救国のヒーローがお越しですって」
ミリカがからかうと、リザロは恐縮した様子でモジモジした。
いかにパッとしない風采とはいえ、あんなことがあったからにはさすがに強烈に覚えている。わざわざ花束など持って訪ねて来られたりすれば、さらに悪い気はしない。
「今日は何のご用かしら」
花束をじっと見ながら問いかけると、リザロは思い切ったようにそれをミリカに押し付けた。相変わらず、手汗がすごかった。
「その、実は。サボネット男爵にはもう、許可をいただきまして。あの。レディ。僕と、僕、ぼぼぼぼぼぼぼぼ僕と、その、お付き合いいただけないでしょうか!」
国のヒーローは、事件の中心人物としてあれからあちこちに引っ張りだこだったはずだ。一緒について回って売り込んできたサボネット男爵は、いい寄付が集まった、とホクホク顔をしていたのだ。
だのに、この勇敢なヒーローに、妙齢女性からのお声はかからなかったと見える。さすがはパッとしないだけある。
「や、あのー、僕はその。あの時、戦う意思をみせた貴女が、あの、カッコいいな、と思いました。だから、僕は、その……貴女がいいなと、思いました!」
作文を読み上げるような告白に、ミリカは「ンフフン」と、曖昧に鼻を鳴らした。嬉しさ半分。迷い半分。
ガリヒョロメガネの引っ込み思案。この上なくパッとしない。
だが、ゾンビとミリカの間に立ち塞がってみせたあの背中は、逞しく見え……なくもなかった、今にして思えば。
「聞いていいかしら。……あの地味な……いや、国を救ったあの魔法は、どうして研究しようと思ったの?」
少しインタビューしてみようとミリカは考えた。迷いの元を見目以外に探したい。
「非力な僕でも使えて便利だと思ったんです」
「たしかに、あんなゾンビの山も大人しく墓に帰せたものね」
「いや、それは想定外でした。もっとこう、日常に使えると思ったんです」
「へえ。どんな?」
「僕は、異性と話すのが不得意です」
「それはわかるわ」
つい打ってしまった失礼な相槌は気にしないようだ。
リザロは足踏み行進をし、両手を上に向けて広げてみせた。すると後ろに揃っていたメイドや召使いが、同じポーズで扇形の陣形を描いて広がった……ここに来るまでに引き連れてこられていたらしい。
「誰かにプロポーズするときに、フラッシュモブができます!」
後ろの召使たちが「お願いしまーす」と声を揃えて歌い上げ、手をキラキラさせた。そこまで出来るのかこの魔法、器用だな。
「…………ていうか、それが動機で?」
「はい実は」
どれだけシャイだ。いや、逆かな??
悩むミリカに、リザロは急いで次の手を打った。
「女の人を打ち解けさせるには、笑わせるのが一番だと聞きました!」
「ええ。それで?」
リザロが合図をすると、一同はサッと先頭者の後ろに整列した。ピッタリ直線に並んだので、前からはリザロの姿しか見えない。
リザロは足を開いて腰を落とし、両手を腿に置いた。
真面目くさった顔はミリカに向けたまま、上半身でぐるーりと円を描く。すると後ろにいた者たちも、ワンテンポずれながら同じ軌跡を描いた。
ぐるーりぐるり。ぐるーりぐるり。ぐる
「ぶワハハハハハハハハハハハハハハハ!!」
二年後、ミリカは結婚した。
お似合いの相手と真面目なるお付き合いの後の、至極幸せな結婚であった。
派手さは無く、そして問題もまた無い。
老齢で死ぬまで、お連れ合いと穏やかな人生であったという。