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エピローグ-3(最終話) ふたりの手のひら


 車は昨日、会社の駐車場に置いてきた。

 

 だから今日はこうして、那由と一緒に()()で通勤することになっている。


 ふたりで部屋を出て、エレベーターに乗ってマンションの外へ。

 住宅街を抜けて坂を下って、並木通りに沿って駅までの道を歩く。歩く。歩く。


「こうして朝ふたりで出社するのは、久しぶりですね」那由が言った。

「そういえば、確かに。はは……なかなか慣れませんね」俺は答えた。

「………………」


 那由はそこでふと立ち止まって……いつかと同じように。

 何か言いたげに俺の顔を覗き込んできた。

 

「うん? どうしました?」

「あ、またです。()()

「敬語? ……あ」俺は気づいて頭を掻く。「すまん。外に出ると、ついクセで」

「契約違反ですからね」


 彼女は顔の隣に人差し指を立てて、少しだけ頬を膨らませた。


「私たちが今どこにいたって――才雅さんは()()()()()()()なんですから」

「那由も」

「え?」

「その、敬語――使わなくていいんだぞ?」


 俺の指摘に。 

 那由はすこし驚いたように目を(またた)かせて。

 

「私はいいんです。でも、そうですね――()()()


 そう言って『ふふふ』といつもの調子で微笑んで、ふたたび歩き始めた。


 どこか遠くで蝉の鳴き声が聞こえる。

 

 ――夏ももうすぐ本番だ。

 

 俺は那由の小さな歩幅に、自然と自らの歩調をあわせて。

 熱を帯び始めた太陽の光を全身に浴びて。

 隣で俺のために微笑んでくれる彼女(カノジョ)の存在を感じながら――


 この瞬間の感情が永遠に続けばいいのに。


 なんてことをやっぱり(おも)った。

 

 

      * * *

 

 

 駅に到着して。

 俺たちは一緒に改札をくぐった。


「那由、忘れ物はないな?」

「はいっ」


 ホームに電車が滑りこんできた。

 俺たちは一瞬目を合わせてから、なにかを確かめ合って――


 ()()()()に一緒に乗り込んだ。

 

 社内は比較的混雑していたが、満員というほどではない。

 俺たちは鞄を棚の上に置き、座席の前に隣り合って立った。

 

 左に立つ俺は左手で。右側に立つ那由は右手で。

 つり革をそれぞれ掴んでいる。

 

 がたり。電車が出発した。

 ホームの発車音が遠ざかっていく。


「「………………」」

 

 俺は窓から流れゆく景色を見つめた。

 川沿いに並ぶ樹々はすっかり緑々(りょくりょく)しく色づいている。

 

 線路がカーブに差し掛かったところで、ふと。


 隣に立つお互いの手が触れ合った。


 そうして俺は。

 迷うことなく。


 ――彼女の手を、きゅうと握ってやった。


 ぴくんと那由の身体が跳ねる。

 隣を見なくても分かる。

 きっと彼女が浮かべている表情を。その温度を――


 この世界で()()()が知っている。

 

「私たちだけの秘密ですね」


 彼女は照れくさそうに言った。


「そうだな」


 俺はしっかりと答えた。


 電車が線路を進む音が断続的に鳴り響いている。

 俺はその中に紛れるように。


 だけどはっきりとキミに聞こえるように、言った。


「那由。これからも、よろしく。先輩も後輩もなく……一緒に」


 がたん。

 ごとん。


 キミは答えた。


 

「うんっ。よろしくね――才雅」


 

 振動に合わせて俺たちふたりの身体が同時に揺れる。

 

 握った掌が温かい。

 じっとりと汗が滲んでくる。

 ()()()()()()()()()()()

 

 

 


 このままふたりの手が、溶けてひとつに混じりあってしまいそうだった。





 

 

      -『恋愛禁止は溶けましたっ!』-

                    <LOVELY END‼>







これにて本作、完結です――!

ここまでお読みいただき、本当の本当にありがとうございました……!

ふたりの行く末の幸せを、いち筆者として心から願っています。


よろしければページ下部よりブックマークや、★での評価などもぜひ――


あらためまして、本作に出逢っていただきありがとうございました!


              ささき彼女!

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