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エピローグ-1 風桜リリの場合 / 江花晴海の場合


 ――リリちゃんは、本当に彼氏さんとかいないの~っ?


 テレビの中で。

 陽気な司会者が風桜(かざくら)リリに向かって質問をした。

 いつかも見た光景。いつも通りの光景。

 

『だから~っ。いないですようっ! アイドルは()()()()ですからっ♥』


 リリは慣れた様子で答える。

 いつもの調子で答える。

 自然に作られた笑顔で答える。


 ――好きな人とかは~っ?


『当然――リリを応援してくれるファンのみんなですっ♥』


 歓声。拍手。笑い声。 

 

 ――相変わらずアイドルの鏡だねえ。さすがは〝総選挙()()()〟っ!

 

 拍手。拍手。拍手。

 けれど――(わず)かな間。

 風桜リリは司会者の言葉にぴくりと眉を跳ねさせた。


 ――それじゃあ最後に、テレビの前のファンの皆さんに一言っ!


『はいっ! ずっとリリのこと見ててくれてありがとうっ。今こうして、リリがここにいられるのも、応援してくれるみんなのお陰だよう♥』


 ()()。見られている、とリリは思う。そうすると自然に口角が上がる。声色が1トーン明るくなる。

 世間の持つイメージ。ファンが持つイメージ。風桜リリのイメージ。


 だけど。


『……あたし、やっぱり〝夢〟があるんです』

 

 リリはそこでいつもの笑顔を、ほんの少しだけ崩した。


 ――え?


 司会者だけじゃない。

 メディアを通して彼女を見ていた人々も、いつもと違う――


 その一瞬の彼女に惹きつけられた。


『今回の総選挙では2位という結果でしたけど……次は負けません。今度こそは絶対に、1位になります。それも()()()()()()を。取ってみせます。だから――』

 

 リリはまっすぐにカメラを見つめて。

 その先にいるダレカに宣言するように。

 その先にあるイメージを越えるように。


 言い切った。


『応援、よろしくお願いしますねっ。以上、()()()()風桜リリでしたっ♥』



       * * *


 

「なんだか、リリちゃん雰囲気変わったね~」


 コスモス・プロダクションの事務所。

 氷入りのカップにとろみのある液体を水筒から注ぎながら、江花晴海(えばなはれみ)が言った。

 オフィスの壁際にある大型モニターでは、風桜リリのインタビュー映像が映し出されている。


「今やウチの事務所が誇るエースだからねえ」晴海はしみじみと言う。「ま、本人はまだまだ満足してないみたいだけど……あわわっ!」


 よそ見をしていたら(こぼ)れてしまった。

 慌ててバッグからハンカチを取り出して拭いて、表面張力でぱつぱつになったカップに口を持っていってすすった。


 ――おい、なにやってんだよ。


 そんな()()()の声が聞こえたような気がして振り返ったけれど。


 後ろのデスクには彼の姿はない。


「……気のせい、かあ」


 きっと今頃、いつもと同じように風桜リリのワガママに付き合っているのだろう。

 もしくは――と考えたところで、フロアの奥から声がかかった。


『おい、江花! ちょっと来てくれ』 

「はいはい~、ただいま~」

 

 呼ばれて上司のもとに行くと、なにやら今はここにいない幼馴染――中本才雅(なかもとさいが)の働きぶりが評価されて、現状の契約社員から【正社員】になることが決まったらしく、関連する手続きをよろしくとのことだった。


『まだ本人には伝えてないんだ。断られる可能性もあるな』と上司は笑った。

「いえっ!」晴海は大きな声で言った。「きっと――喜ぶと思います」


 晴海はデスクに戻って席に座り、『うう~ん』と大きく伸びをした。

 卓上にあったスマホを手に取りLINEを開く。才雅にこっそり報告をしようと数文字分をフリックしたところで――思いとどまった。

 ×(バツ)ボタンをタップ、タップ、タップ。削除(デリート)。なかったことにする。


 そこでふと。

 才雅との会話画面の【背景画像】が、いつかの飲み会で泥酔した時に撮った、自分と才雅の〝2ショット写真〟になっていることに気がついた。

 晴海は二三度(にさんど)瞬きをして。

 設定画面を開いて――背景を変更しようとしたけれど。


「やっぱり、や~めたっ!」

 

 結局はそのままにして、スマホを机の上に裏返しに置いた。

 テレビでは風桜リリのインタビューがちょうど終わったところだった。

 リリはいつも通りの。それでいて――()()()()()()()()()を浮かべて画面の中で手を振っている。


 晴海はカップに入っていた透明の液体を『んくっ、んくっ』と一気に飲み干して。

 『ぷはぁ~』などという、時代遅れなオトマノペを発して。

 

 だれにともなく呟いた。


 


「よ~し、ウチも頑張るぞ~っ!」

 




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