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童話 

リスさんのわすれもの

作者: くろたえ

冬、冬、冬。


冬にお腹が空かないように、冬のご飯を集めなきゃ。


秋に入ったら、森のリスさんは大忙し

冬のための食糧を保存します。


あちらこちらから、どんぐりを集めては

木の根元、木の穴、土の中に

たくさんたくさん

ドングリを隠します。


このリスさんも、そんな一匹。


わっせわっせわっせ


隠し場所を探します。


わっせっわっせ


わっせっわっせ


それでも森のドングリはなくなりません

たくさんの動物たちの栄養のあるご飯になります。


わっせっわっせ


わっせっわっせ


そして、隠し場所を見つけては

ぽろぽろと口の中から出します。

口の中は大きく広がり、たくさん入ります

それでも、まだまだ入れてしまうので

このリスさんは、ドングリを口に入れた時は

両手でお口を押えながら走るのです。


わっせっわっせ


わっせっわっせ


ああ、風に冬の匂いが混じってきた

雪が降ってはドングリ集めはできません。


リスさんは、もっともっと集めます。

ああ、見つけた。

ここにもあった。

ここにも

あそこにも

あっちにも


わっせっわっせ


わっせっわっせ


わっせっわっせ


地面をかけずりまわり

ドングリを拾い口に詰めては


あっちにコロコロ

こっちにポロポロ


と森中に隠していきます。


リスさんのふと上げた鼻先に

今年初めての雪がふわりと落ちました。


ひやぁあああああっ!


今度は、真冬の寝床作りです。

冬の間、ずっと眠ることは出来ません。

それでも、温かいベットのある家が必要なのです。


どこかにないかな?

どこがいいかな?


雪の吹き込まない場所。

怖い獣から守ってもらえる場所。


ああ、ここがいいかな。


とうとう見つけました。


木の小さな穴。


こんどはここに温かなベッドを作ります。

木の根元に生えているコケをむしってベッドにします。

鳥の柔らかな羽根も見付けました。

これも体を温めてくれるでしょう。


そうして、木の穴に、こんもりとしたベッドが出来上がりました。

今は青々としているコケも、じきに、ふんわり乾燥して柔らかく体を包むでしょう。


あとは、ベッドを取り囲むようにドングリで縁取りました。

寝転がったまま、食べられます。

ここにも、詰め込めるだけのドングリをいれました。


はあ。

疲れたな。

さむいな。

リスさんは、もぞもぞとベッドの中に入りました。


森は冬になりました。


雪がごうごうとなる中で

リスさんは、手を伸ばしてベッドの脇のドングリを取って食べます。


かりかりかりか・・・


食べかけたまま眠ってしまいました。



ある晴れた冬のお昼ごろ。


いちめんの銀世界

まぶしいっ!


リスさんは目を覆いました。

真っ白な世界です。

地面も、木の枝にだって雪は積もっています。


でも、でも、・・・

えいやっ!


リスさんは木から雪でふかふかの地面に飛び降りました。

そして、ちょっと周りを見渡して、

たしか、あのへんの・・・


雪の上をぴょんぴょんと飛び跳ね

飛びついて登った木の穴には

隠したドングリがいっぱい。


それを口にいっぱいに詰め込もうとして考えました。

いつものように、お口にいっぱい入れて

ドングリがこぼれないように、手で押さえたら

木に登れないじゃない!


リスさんはすごく大事な事に気が付きました。


そして、リスさんは、口に入ってもこぼれない分だけ入れて

家に戻りました。

そして、またドングリを取りに引き返しました。


こうして、ベッドの周りをドングリが取り囲みます。


リスさんは安心して、また眠りに入りました。



その頃、おなかを空かせた狸さんがいました。

木の皮をめくって虫を食べていましたが、もう昨日から何もたべていません。


「おなか すいた」


とぼとぼ冷たい雪の上をとぼとぼ歩いていました。


目の前にある木の皮はなんだか虫が入ってそうに膨らんでいます。


「よいしょ」


木の皮に噛みついてはがします。

すると、

虫ではなく、ドングリがころころと落ちてきました。


「ああ、ドングリだ。ドングリだ」


喜んで狸が拾って食べます。

美味しいドングリ。

甘くて、ほくほく。

栄養もあります。

ぽくぽくぽく


雪が積もると、狸はドングリは拾えません。


「これは、きっとリスさんのだ。

ありがとう、りすさん。ごめんね、リスさん」


これで冬が越せそうです。



別の日、おなかの空いた鹿さんがいました。


鹿さんは、冬の間は木の皮を食べます。

でも、それだけでは栄養がたりません。

それでも、仕方なく木の皮をはいで食べていました。


「もっと木の皮を食べないと」


おや?

この木の根元から美味しいにおいがするぞ。

前足で雪を掘りました。

木の根元にはドングリがたくさんありました。


「ああ、ドングリだ。ドングリだ」


鹿が夢中で食べます。

長い首を下にして、

モグモグ食べます。

美味しいドングリ。

甘くてほくほく。

栄養もあります。

ぽくぽくぽく。


雪が積もると鹿はドングリが見つけられません。


「これは、きっとリスさんのだ。

ありがとうリスさん。ごめんね、リスさん」


これで冬が越せそうです。



真っ白で耳の先だけ黒い兎がおなかを空かせていました。

もうすぐ冬は終わるでしょう。

でも、新芽が生えるのは、まだ先。

兎は葉っぱも木の皮も食べつくしてしまいました。

新芽がまだ生えない木の枝をうらめしそうに眺めます。


「ああ、ちゃんと栄養を取らないと赤ちゃんが産めないわ」


冬が終わる少し前は、木の周りの雪が溶けてきます。


あれ?

この下から美味しい匂いがするぞ。

穴を掘るのはお手の物。

ホリホリと雪を掘り

ホリホリと土を掘っていくと

木の根元にどんぐりがたくさんありました。


兎が夢中で食べます。

真っ白い手を土の色にして。

美味しいドングリ。

甘くてほくほく。

栄養もあります。

ぽくぽくぽく


雪の中でのご飯は木の皮ばかりです。


「これはきっとリスさんのだ。

ありがとう、リスさん。ごめんねリスさん」


これで、きっとかわいい赤ちゃんが産めるでしょう。



そうして、雪が溶け始めたころ

ベッドからリスさんが出てきました。


あれ?

どこに隠したっけ?

どんぐり


リスさんが頭をかしげました。

たくさん

たくさん

運んだどんぐり。


「どんぐり、どんぐり」


りすさんはつぶやきます。


足に丸いものが当たりました。


ああ、まだドングリがお部屋にあるじゃないか!

安心してドングリを食べると

眠くなりました。


そうして、地面が出て枝に新芽が出始めた頃

ベッドからリスさんが出てきました。


あれ?

どこに隠したっけ?

どんぐり


リスさんは頭をかしげました。

たくさん

たくさん

運んだどんぐり。


「どんぐり、どんぐり」


リスさんはつぶやきます。


なんとなく、ベッドの奥や部屋のすみに足を伸ばしました。


どんぐりは、お部屋にありません。


さがしに行かなきゃ!

リスさんは飛び出しました。


でも、そこはもう春が待ちきれないと雪の間から緑の葉や木の枝には新芽が

リスさんの大好物があるではありませんか!


「ああ、春だ。春が来た。春の食べ物を食べなきゃね」


枝には柔らかな新芽。地面には顔を出したばかりのみずみずしい草。

もう少しすれば虫も出てくる。


リスさんは新鮮な春を食べつくしました。


そして、すこし頭をかしげました。


「あれ?なにを探していたんだっけ?」


思い出せません。

でも、思い出さなくても良い事をリスさんは知っています。

なぜなら、たくさんの食べ物があるからです。


木の下をたぬきさんが通りました。

そしてリスさんに声を掛けます。


「リスさん、ありがとう」


リスさんは、頭をかしげます。

狸はまだ冬毛のまるまるな姿です。


地面で春の最初に咲く花を食べていました。

近くに来た兎さんが言います。


「リスさん、ありがとう」


リスさんは頭をかしげます。

兎は小さな子供を連れて、行ってしまいました。


木の上で、花の蕾を食べていました。


下を通った鹿さんが言いました。


「リスさん、ありがとう」


リスさんは頭をかしげます。

鹿は、青い草を食べて上機嫌です。




そして、森の色々な場所で、リスさんの集めたドングリのいくつかが芽を出しました。




森はしずかにつぶやきました。


「リスさん、今年もありがとう」



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― 新着の感想 ―
[良い点] 石河翠様の「冬童話大賞」から拝読させていただきました。 なんて優しく可愛らしいお話でしょう。 最後の他の動物たちからお礼を言われ、意味がわからず首を傾げるリスさんが良いです。
[良い点] リスさんの知らないところで、リスさんのおかげで助かった動物たちがたくさんいる。 そして、リスさん自身も、知らないうちに誰かに助けられている事があるかもしれない。 森の生態系は、そういう助…
[良い点] 優しく、温かなお話ですね(^^♪ わたしがお話を書く際に常に心掛けていることに、『おすそ分けの精神』がありますが、まさにそれを完璧にお話に取り入れた、すごくほっこりするストーリーだと思いま…
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