般若心経を唱えつつ

　不正選挙、ＭＭＴ、歴史認識……世の中には様々な情報があふれており、知れば知るほどに混乱する。疑惑は疑惑を引き寄せて、すべてが疑わしくおもえてくる。いままで正しいと感じていたものは、すべて偽りであったのかもしれない。すべてが嘘であり、騙されつづけていたのかもしれない。

　なにが正しいのか、私にはわからない。

　迷いを抱えたまま、仏壇のまえで姿勢を正す。ロウソクに火を灯し、線香を立て、手を合わせて読経をはじめる。神や仏や念仏だけは信じられる、と主張できるほどの信仰心は持ちあわせていないせいか、雑念は消えない。

　戦前の日本が正義の味方にしかみえないのだが……消費税も、既得権益を守るためなのだろうか。もしもＴ氏が大統領に再選したら、メディアはどのような主張をはじめるのだろう。一般人すら騙せない時代に、世の中が変わろうとしているのかもしれない。

　般若心経を唱えていても、次から次へと雑念があふれてくる。

　騙されていたのかと、怒りがある。

　襲いかかる激変の予感に、不安もある。

　心のどこかで確かなものを、救いを、求めていたのかもしれない。

　ふっと、言葉が浮かんだ。雑念にまみれながら般若心経を唱えていると、頭のなかに「脱衣ゲーム」という言葉がなんの脈絡もなく湧いてきた。

　意味がわからないまま連想される、脱衣麻雀。麻雀のルールもわからないまま、ゲームをプレイしていた記憶がよみがえる。学生のころ、当時の友人が置いていったものだ。適当に小さな勝利を積み重ね、キャラのエロいイラストをきちんと確認したうえで返却したのではなかったか。

　般若心経を唱えつつ、どんなイラストだったのかまったく思い出せないでいるうちに、さっきまでの悩みを忘れていることに気がついた。

　いろいろとどうでもよくなった、クリアな頭で考える。

　嘘が暴かれたら既得権益は崩壊するはず。歓迎すべきことなのだろう。どういう変化が起こるにせよ、ひとつ衣服が脱ぎ捨てられるとおもえば、わくわくしないこともない。

　ゆるい心持ちで般若心経を唱えながら、「脱衣ゲーム」という言葉が、神か仏かご先祖さまからのメッセージである可能性を考えてみた。

　あまりにも俗っぽく、煩悩にまみれた衆生を救う、無限の愛とはこういうものかとおもわないでもないが、べつにエロゲーとはいっていないことに気づいて、

「嘘偽りを捨てて、裸のような素直な心で生きなさい」

　なんとなくそれっぽい結論を導き出し、読経を終えた。