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(書籍1•2巻&コミカライズ)置き去りにされた花嫁は、辺境騎士の不器用な愛に気づかない  作者: 文野さと


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52 収穫の市 1

「こんなにたくさんの人がいたのね……」

 リザは初めて出るイストラーダ城下の市場を見渡して言った。

 市の規模ならば王都の方が断然大きい。しかし、王都の市場が通りに面しているのに対して、イストラーダの市場は土地が広いせいか、巨大な空き地──広場を使っている。

 舗装されている場所は一部なので、ぬかるむと歩きにくいが、秋のこの季節は雨も少なく、少し埃っぽいことを除けば立派な市場だった。

 収穫の市は普段の市と違い、食料品や日用品だけでなく、王都や他の地域からきた商隊が、辺境ではなかなか手に入らない様々な物資を運んできてくれる、一年で最も賑わう人々の娯楽でもある。

 この催しが開かれるのは、今年で三回目だということだった。

 以前は街道の治安が悪かったり、仮に商人が来ても人々が貧しく、買えるものがなかった、とコルが教えてくれた。

「全てエルランド様のおかげなのです。鉄樹の輸送経路を整備したおかげで、中間業者に搾取(さくしゅ)されることなく、村民達に利益が届けられます」

「リザ。皆には前もって知らせてあるが、俺から離れないようにしろよ」

「は、はい」

 エルランドに手を引かれながらも、リザの目はあちこちを彷徨(さまよ)っている。見るもの全部が目新しいのだ。今頃はニーケもセローに連れられて同じことを感じているだろう。

 エルランドは慕われている領主らしく、街の人も商人も皆丁寧に会釈をしていく。しかし、こちらから話しかけるまでは領主夫妻に遠慮してか、声をかけるものはなかった。

「なんでも好きなものを買いなさい」

「でも、この間服を買ってもらったばかりだし……」

 リザのいうのは先日パーセラに着せてもらった空色のドレスのことだ。あれは単に借り物だと思っていたら、パーセラは贈るというし、エルランドはさっさと銀貨を支払っていた。

「なにが欲しいのか思いつかない……」

「だったら、俺がまず買おう」

 エルランドは次々に店を覗いては、美しい織物や、毛皮、銀製品などを大量に買っていく。買ったものは誰かが持つのかと思ったら、後で城に直接届けられるのだという。

「奥向きに必要なものはコルやアンテが買うから、俺の買い物はいわば、適当だな。領主が市場で金を落とさなければ、市は繁栄しないから。さぁ、次はリザの番だ。手本は見せただろう、やってみなさい」

「……はい」

 リザはまず、わかりやすいウィルターとパーセラの店に入った。急ごしらえの店舗の中に山のような商品が置かれている。

「リザ様! お待ちしておりました!」

「えっと、あの……お城の女の人たちが使う石鹸と香油をください」

「まぁ、そんなにたくさん! ありがとうございます! お値段は勉強させていただきますね!」

 パーセラが嬉しそうに両手を合わせた。彼女は午後から店に立っている。

「……それでいい」

 耳元でエルランドが囁く。

「あと、妻が使う最高級の化粧道具や身の回りの品々も頼む」

「かしこまりました」

「それから、布地」

 衣類や布はウィルターの専門だ。彼が扱うのは主に高級な服地である。

「えっと、下着用の柔らかい木綿を。あとは……私に似合う色や柄はわからないから、ウィルターさん選んでくださる?」

「もちろんでございます! 光栄です! リザ様は美しい黒髪をお持ちですから、明るい色の衣装がお似合いです。これなどはどうでしょう?」

 自分で高級服地など買ったことのないリザは、次々に出てくる美しい布地に魅せられていた。

「少しですが、絹もあるのですよ」

 そう言ってウィルターが奥から出してきた布は海の底から採れるという真珠色の絹織物だ。

「奥方様がいらっしゃると知ってれば、もっと持ってきたのですが、今回はこの一反だけなのです。ですが、質はいいですよ」

「もらおう」

 エルランドは即座に言った。

「この次からはたくさんの絹や毛織物を仕入れてきます」

 結局店の中の半分くらいの布地を買い占めることになってしまったが、リザがどきどきしているのに対して、エルランドは平気だった。

「布を買えば、この街の仕立て屋や女達にも仕事ができる。これも領主の妻の仕事だよ」

「……そうなのね。そうして回っていくのね」

「我が妻は賢い。では次だ」

 そうして、リザとエルランドは次々に店を回って行った。

 そして最後にやってきたのは、地元の職人が集まる一角だった。そこでもエルランドは鉄や革製品を買っていく。地元の職人たちは、エルランドには丁寧にお辞儀をしたが、リザには胡乱(うろん)そうな目を向けた。

「気にするな。職人気質というものはそうしたものだ。彼らはいい人間たちだが、とても保守的で頑固なのだ」

 しかし、リザは市場のある一画に目を止めていた。

「あっちを見たいのだけど」 

 リザがエルランドに指した場所は、面積だけは大きいが天幕もなにもない、布地を広げた上に品物を並べただけの露店だった。

「え? ああ、あれは」

 それは陶器を扱う店だった。




50話でエルランドの息を止めさせた、リザのドレスのイメージをツィッターにアップしました。

とても素敵よ!

ドレスって夢が詰まっていていいですね。


<予告>

リザ、本領発揮の行動開始!

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― 新着の感想 ―
[良い点] お買い物デート楽し~い! ドレス見ました!そりゃエルランドの息も止まるわ、かわいすぎる~ [気になる点] ニーケとセローの二人(* ̄ー ̄) [一言] 陶器のお店で何買うのでしょう?楽しみで…
[一言] デートだ、デートだ! リザちゃんとエルランドさんの市場デートだ! 市場って、いろいろ品物があって、楽しいですよね。 3回目ってことは、エルランドさんが、そこまで治安をよくしたことが、近隣に広…
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