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(書籍1•2巻&コミカライズ)置き去りにされた花嫁は、辺境騎士の不器用な愛に気づかない  作者: 文野さと


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42 城の暮らし 3

「さぁ、もういいでしょう? お部屋にお戻りを」

 アンテが今度こそリザを階段に押し戻そうとする。体格もいいが力も強い。これが辺境の女なのだ。

 しかし、リザはその腕を振り払った。

「次は厨房を見たいの。アンテ、案内を頼みます」

「厨房など、あなた様が見に行くところではありません」

「それは見てから決めるわ」

 リザも頑張って言い放った。

 ニーケは、今まで面と向かって人に逆らったことのない主が、果敢に言い返しているところを、はらはらしながら見ていたが、その肩に誰かが手を置いた。コルだ。

「一緒にご主人様を見守りましょう」

「は……はい」

「いつも私に食事を作ってくださる人たちを見たいの」

 リザは穏やかに、しかし、きっぱりとアンテに伝えた。ニーケが拳を握り締めた時、意外にもアンテがあっさり折れた。

「……左様でございますか。わかりました。では参りましょう」

 そして、後ろも見ずにすたすたと階段を下り始める。リザは慌てて後を追った。再び長い階段をどんどん下りていく。

 厨房は一階の奥の方にあった。

「こちらですわ、リザ様。どうぞお好きなだけご覧くださいませ」

 アンテはいやに丁寧に頭を下げ、既に少し開いていた両開きの扉を大きく開ける。途端に熱気と、いろんな食材の混じった匂いが流れ出てきた。

「さぁ、どうぞ」

「ありがとう」

 アンテは、ぱんぱんと手を打ち合わせて進み出た。

「みんな! 奥方様が厨房を検分にいらっしゃいましたよ! ご挨拶を!」

 アンテの声で、忙しく立ち働いていた女達が一斉にこちらを向いた。その中にはターニャの姿もあった。リザと目が合うと、彼女はこそこそと柱の陰に隠れてしまった。

「検分だなんて……そんなつもりでは」

「フラビア!」

 アンテは奥から急いで出てきた女に声をかけた。

「リザ様、これが料理女のまとめ役、フラビアです」

「こ、こんにちは。ようこそいらっしゃい、ませ。奥方様」

 赤ら顔の太ったフラビアがぎこちなく小腰を屈め、辿々(たどたど)しい挨拶をした。

 その様子にリザは、いつものように呼び方を訂正することもためらわれるような、いたたまれない気持ちになった。

「こんにちは。お仕事の手を止めてごめんなさい……いつも美味しい食事をありがとう。それを言いたかっただけなの」

「それは……どうも……ありがとうございます」

 女たちは一斉に顔を見合わせていた。

 ──いつもたくさん残すのにさ。

 そんな声がふと耳に入る。

 リザが顔を向けても、何人もの料理女が立っているので、誰が呟いたものかわからない。しかし、そこに立つ女達が、一様にあまり嬉しくなさそうな顔をしていることは伝わった。

 確かにリザは毎回食事を食べ切れないでいる。こちらの料理の量が多い上に、冷たくなって硬くなった肉やパンで、すぐにお腹がいっぱいになってしまうのだ。


 確かに食べ残すことはよくない。

 みんなこんなに一生懸命に作っているのに、私は悪いことをしているのかしら。


「いつもありがとうございます。リザ様はこちらの方々に比べると、体も小さく少食だと思いますので、これからは少し量を減らしてもらえると助かります」

 隣からそう言ってくれたのはニーケだ。先ほどの呟きは彼女にも聞こえていたのだろう。

「だ、そうですよ。みんな聞いたわね。奥方様の御命令です。明日からはお食事の量を減らすこと。わかったわね!」

 アンテの指示に、皆は一様にのろのろと頭を下げた。そして、もう後も見ずに自分たちの持ち場へと散っていく。

「お気がすまれましたか?」

 アンテは勝ち誇ったように尋ねた。

「ええ。もう十分わかったわ。あなたの采配(さいはい)が完璧だということが。手を(わずら)わせてごめんなさい」

 リザはそう言って厨房を後にした。


 翌日から、リザの食事は小鳥の餌かと思うほど少なくなった。

「リザ様、これは!」

「いいのよ。もっとひどい時もあったわ。このスープは冷めても美味しいわよ。いただきましょう」

 そう言ってリザは一切れのパンと野菜、冷たいスープだけの朝食を終えた。

「そろそろ本格的に冷えてきたわね」

「この肩掛けは暖かそうですわ」

 ニーケは戸棚から大きめの毛織物を出してきて、リザの薄い肩を包んでやる。エルランドが用意させた物だろう。

「さぁ、今日もお城を見て回りましょう。図書室にも行かなくちゃ!」

 スープを飲み干したリザは、元気よく立ち上がった。

 ここでも生きていくには、自分から立ち向かわなくてはならないのだ。




ツィッターで、リザちゃんが心の内をつぶやいています。

アカウントをお持ちでなくても、文野さとで検索したら私のTL見られる……んじゃないかな?(違ってたらすみません)

この章は次回で終わり。リザちゃんの地味な努力の巻でした。

<予告>

彼の帰還の知らせ。



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【ツィッター】      
― 新着の感想 ―
[一言] アンテさん…いくらなんでもエルランドさんが事態を把握したら大変なことになるんじゃないの… ここまで露骨にやってたら城内のエルランドさんの部下とか、あるのかわからないですが諜報部隊の人とかにす…
[一言] こんばんは。はじめまして。いつも8時を楽しみにしております! アンテさーん!!事情があったとしても読んでてつらいです(T ^ T) リザは強い子だけど、早く嫁いびりに気づいて!エルランドさん…
[一言] やると思ったわ。アンテさん。 「多すぎて食べられないので、少し減らしてくれると」 言質取ったぜ! ・・・行動、素早いです。 即、熊ご飯から小鳥のエサに転換。 お庭の男衆は、コルさんの態度の…
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