表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
(書籍1•2巻&コミカライズ)置き去りにされた花嫁は、辺境騎士の不器用な愛に気づかない  作者: 文野さと


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

29/92

28 裏街道の拐引 2

「おい、ジャーニン! そいつらはなんだ」

「足を痛めた娘っ子と、従者のガキだ。裏街道で拾った。二人とも可愛い顔立ちしてるから、高く売れるぜ」

 ジャーニンはどさりとニーケを落とした。

「きゃっ!」

「ニーケ!」

「あー、重かった。嬢ちゃん。でもいいケツだったぜ。ひひひ」

「あ、あなた達は……」

 リザの心が真っ黒な不安に塗りつぶされて行く。

「俺たちは東から来た。金を稼ぐためだが、あんたらの言葉で言うなら『ならず者』かな?」

 小屋の一番奥にいた男がゆらりと立ち上がった。

「こんな朝から裏街道を行くなんてな、事情ありなんだろうが、ま、俺たちに出会っちまったのが運のツキだと思いな」

「……っ!」

 リザは杖でジャーニンに殴りかかった。しかし、あっさり受けられ、杖を折られてしまう。

「なかなか、威勢のいいガキだぜ」

「暴れられると厄介だ。ジャーニン、(しば)って口を塞いでおけ」

「僕たちをどうするつもりだ!」

 リザは激しく抵抗しながら叫んだ。少し目が慣れてきたので、倉庫の中に十人以上の男達がギラギラした目でこちらを見つめているのがわかる。どれもこれも、ぞっとするような目つきだ。

「さぁて……王都に幾らでもある、もぐりの娼館(しょうかん)にでも売るかな?」

 男がどんどん近づいてくる。

「その前に、味見をさしてくれよ! バルトロお(かしら)!」

「ああ、後でな。だが、最後までするんじゃねぇぞ、初モンなら高く売れるんだからな。だが……」

 汚い指がリザの顎を(つか)む。

「あん? この(つら)どっかで見た気が……」

 男──バルトロが上着のポケットに手を突っ込んで丸めた紙を引っ張り出した。

「あ? ああ! これだこれだ! ハーリの村の門に貼り付けてあったやつだ。賞金が出るって言うから覚えてたぜ。おら、お前、こいつだろ? あんまり似てねぇけど。国のお尋ね者だってわけかい? 可愛い顔してなんて野郎だ」

 リザの目の前に突きつけられたのは例の手配書だ。

「いや、野郎でもない……ってことは、お前も女ってことかな?」

「それは僕じゃない!」

 伸びてきた汚いてからリザは身を(よじ)って逃れようとした。しかし、抵抗虚しく、胸を掴まれてしまう。

「へへ。柔けぇ。けど、まだ育ちきってねぇな。あと二年くらいしたら、もっとでかくなるかな?」

「……離せ!」

「へぇ、ぱっとみじゃわからんが、よくみると綺麗な顔だぜ……」

 バルトロはリザの帽子を払い落とした。たくし込んでいた髪がさらりと肩に流れる。

「ほう、黒髪じゃねぇか。この辺りじゃ珍しいな。ふーん……痩せっぽちなのに、妙な色気がありやがる」

 もう一方の指がリザの髪を()く。男の目に浮かんだ情欲に、吐き気がこみ上げてきた。

「手配書には無事に拘束とあったが、これは暴力じゃねぇ。おい嬢ちゃん、俺が気持ちの良いことをしてやろう……おい、お前ら。そっちの娘に手を出すんじゃねぇぞ!」

 リザの縄をひっつかんで男は扉を開けた。やっと暗さに目が慣れたところなのに、再び屋外に連れ出されて目が(くら)んだ。

「明るいところで全部見てやる。こっちへこい!」

 バルトロは倉庫の裏にリザを引っ張っていった。街道から死角になるそこには、乾草が積み上げられている。まだ乾燥していないそれは、青臭い匂いがした

「ううっ!」

 突き飛ばされて体が沈む。襟ぐりを掴まれていたから、大きな上着がずるりと脱げた。

「おお、華奢だな。好みだぜ」

 ぎっと振り返ったリザの瞳は、斜めに射した陽を拾って藍色に輝いた。

「これは凄い目だ。黒じゃない、青? 藍か?」

 バルトロはそう言いながら、後ろ手に縛られた両腕の縄を解いた。

 腕が自由になった途端、リザはめちゃくちゃに振り回したが、男は膝でリザを動けなくしたまま、半身をひょいと立ち上げたため、なんの痛痒(つうよう)も与えられない。

「ひっひっ……暴れろ暴れろ。少しは抵抗されねぇと面白くねぇ。どうせ、すぐに屈服させるんだから。肌はどうだ? そら!」

 毛がびっしり生えた手がぐっと伸びて、シャツを下着ごとを胸元から引き裂いた。

「んんん〜〜〜〜っ!」

 リザは口に食い込む布の下から必死に声をあげた。しかし、情けない声しか出せない。倉庫の中にも届かないだろう。その間にも男の指先はシャツの残骸を取り去って行く。

「おお! こりゃ思ったよりいい胸だ」

「……っ!」

 秋の朝の透明な日差しの元に、リザの白い肌が(さら)け出されていた。

「こっりゃ、すげぇ。だが、困ったな……最後までできねぇ……まぁ、(くわ)えさせたらいいか」

 そう言うなり、バルトロはリザの首筋に顔を埋めた。

 ぬるりと熱く非常に不愉快なものが、首や鎖骨の辺りを這い回る。胃液がせり上がり、絶望に手足が冷たくなった。

「うううっ」

 リザは必死で男の体を押し退けようとしたが、重すぎてどうしようもできない。力さえも()えて虚しく投げ出される。しかしその時、ズボンのポケットの奥に入っている硬いものに指先が触れた。

 昔、エルランドにもらった小刀だ。

「……」

 リザは抵抗を諦めた振りをしながら、ポケットの中で(さや)を外し、柄を握りしめる。その硬さがリザに勇気をくれた。

 バルトロはひぃひぃと笑いながら、リザの両胸を掴み、両足を細い腰に絡ませながら下半身を擦り付けていた。

 ──今なら手足が(ふさ)がっている!

 リザは小刀を振り上げ、垂直に男に突き立てた。




<予告>

進退極まったリザの前に現れたのは!?

Twitterでリザちゃん叫んでいます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

【ツィッター】      
― 新着の感想 ―
[一言] おおおっ!! リザちゃん、渾身の一撃!! 「あの方」からもらった思い出の小刀! ゴロツキを撃退・できたかな?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ