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3-1 ふたり旅?

この世界には文字がない。


文字がないと言うより「書く」という文化がないらしい。地図も貰えなかった。

違和感はある。杖はあるのだから魔法陣くらい存在してそうだが、それもない。


杖は純粋に魔法の発動体としてしか使われていない。杖で地面に何かを描く、みたいな事もない。


「どうしたんですか?」


隣で歩くメイが言う。歩幅がかなり違うので遅めに歩くのが少し大変だ。


「地図くらい欲しかったな、って思ってたとこ」

「ああー確かに。でも真っ直ぐでいいって話ですし大丈夫じゃないですか?」

「それはそうなんだけどね」


例の災厄騒動から3日後、つまり女王様に会うように言われた翌々日、俺達はウルストラの里を出た。

女王の元へは歩いて5日ほど。メイの歩幅を考慮されたのだとすると東京小田原間くらいか? そんなに歩いたことがないので違うかもしれない。


実のところ既に出発して2時間程度は経っているのだが、特にメイは疲れた様子もない。


「のどかですね、せんぱい」

「この辺りは小動物くらいしかいないらしい。もう少し行くと森が開けてそこにはちょっと危ない奴もいる、と聞いた」


これは狩りの供をさせてもらった際に得た情報だ。故にエルフの狩人はこの森の中から出ることはまずない。


そうそう、旅の最中は食料調達に気をつけろとフェイナス氏に釘を刺された。

なんでも旅人という存在は珍しく街でも都合よく食料を買える訳でもないらしい。そもそも世界共通の通貨がないし。


街があればなにかしら物々交換などできる場所もあるかもしれないが、ウルストラの里には店舗のようなものはなかった。

つまりのところ交渉で得るとか狩りなどで得るとかいった手段が主流ということになる。


旅人が少ないとそれに関する産業は発展しない。市場原理に任せればそうなる。

少ないというのは、旅に出る種族がエルフと有翼種くらいしかいないからだ。ヒューマンの旅人は珍しい。


「危ないというのはどういう種族がいるのだ? 猪とか狼とかか?」


そして獣人の旅人も珍しい。なぜかターリャが同行していた。


「狼って……君等の親戚とかじゃないのか?」


ターリャは明らかに犬的な獣人だ。猫的な獣人もいるらしいのだがこれがどういう事を指すかはよくわからない。


「親戚であるものか。我々は獣ではないのだから」


獣人という名前に獣が入っていると思うのだが、もしかすると文字がないために同一だと認識されていないのかもしれない。

そうなるとそもそも名前がどうやって付いたんだって話になってくるが、普通は因果が逆だよな? ケモノビトだから獣人だよな?


この辺りの話は突っ込んでも仕方がないのかもしれない。意表を突いて古代文明で行われた悪魔合体の果てに生まれた種族かもしれないし。


「獣であることを捨てたのが我々だと聞いている。だから獣は我々の親戚ではないし、仲間にも友にもなれないのだ」


続けられたターリャの言葉が若干それを肯定しそうで怖い。


「ターリャさんはどこまで一緒ですか?」

「山の麓だ。そこから道を外れて裾を進む」


ターリャが同行することになったのは、彼女もまた火の王に謁見するためだという。加護を求めると言うより今回の件の顛末と陳情に行くようだが。


エレニアさんが水の女王に言伝すると言っていたが、あれはどうも留守電のようなものらしい。

バイト時代の連絡は電話が多かったので留守電もよく入っていたけど、こう聞くのに時と場所を少し選ぶのが面倒だ。

ただ文字がないので手紙であるとかSNSとかSMSとかそういったものも使えない訳で、言伝はかなり便利だろう。


「森を抜けて草原を突っ切れば山の麓、だったか」


その後は山道を進んで2つの山を超え、湖の畔を進み女王の居住区にたどり着く。ということらしい。

おそらく今日一日はターリャと一緒だろう。


「あ、せんぱい! 鳥ですよ!」


生態系がどうなっているかはわからないが、この世界は地球と違う奇っ怪な生物が居るわけでもない。

メイとかターリャといった亜人種の方が珍しい。それに、例の災厄みたいなのもあるがあれは今のところ例外だ。


「リューリルはどの生物が好きなのだ?」

「えっと、それはなんで?」

「今日の夕食にするが」


メイが問い返したのはなんとなくそんな気がしたからだろう。俺もそんな気がした。


「そうですね、食べるのであれば兎さんは美味しかったです」

「なるほど。ただそうか兎か」

「困ることでもあるのか?」


考え込むターリャに聞くと、


「火加減が難しい。兎は小さいからな」


あ。なるほど。

獣人は火の魔法が得意だ。つまり転じて料理の火加減も得意なのかもしれない。


**********


美味かった。


小学生の感想かと言われそうだが事実だった。


なるほど抜群の火加減で兎肉は調理され、簡易的なスープになった。

繰り返すが美味かった。


火の通し方によっては硬いだけなのに、柔らかジューシーな肉だった。

驚いていっぱい食べてしまった。


更に余剰分は干し肉のような形にしてくれるという。

火の魔法便利すぎるのではないか。

俺とメイはもうターリャ様ターリャ様と呼びながらスープを食べていた。


満点の星の下、エレニアさんから貰ったマントを使い寝床を作る。

と言っても木の洞にいいポジションを見つけるだけだ。


いい感じで座った俺の上に当たり前のようにメイが身体を預ける。人間ソファ俺。


「いやなんだ。予想した通りで驚きもないな」


ターリャはこれまたマントを器用に使い寝る格好を作った。犬系のはずなのにその姿は猫っぽい。


「一心同体ですから」


そのフレーズ気に入ってるね?


「ねえせんぱい。星が綺麗ですね」

「そうだな」


昨日は既に簡易屋根ができていたので星空ではなかったが、長の家で見た空よりも星が多い。

それはエルフの里が森の中にあるためだと思う。ちょうど山と平原の境目にあるこの場所は、数本の木が高さを持っているがそれ以外は開けている。

真上は茂った枝葉で覆われているものの、それ以外は星空だ。


星空の事を勉強でもしていればこの空が地球とどう違うかなどを知ることができたのだろうか。

……まあいいか。


この地は地球でないことは確かなのだ。腕の中の存在がそれを証明している。今はそれだけで十分。


「なあ、メイ」

「ふああ、なんですか」


もう眠そうだ。結構歩きづめではあったもんな。メイの身体には辛いかもしれない。


「今日も一日ありがとう、おやすみ」

「はい、お休みなさいです、せんぱい」


しばらくして寝息が聞こえてきた。


獣人の警備団長様曰くほとんどの動物は魔法の火を嫌うらしい。

だから篝火の元、俺達は安心して眠ることができた。

明日以降の心配は、今は考えずに。

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