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2-5 なるほど旅行記ものなんですね

「女王さま……?」

「そうです、水を司る女王」


メイのつぶやきにエレニアさんが答える。

てかエルフって女王居たのか!?


「いえ、ジン殿。エルフの王ではなく水を司るための王です」


なるほど、つまり地水火風にそれぞれ王が居るということか。否定はされなかったので水の王はエルフのようだ。


「女王から水の加護を授かりなさい。加護を得た上でどうするかは貴女次第です。本来はウルストラに帰ってきてほしいところですが……」

「『魂の安息の為の地』を探すとしても誰も止めぬ、ということじゃ」

「(フェイナス氏の言ったことはわからなかったが、里を継ぐという義務はないと言ったそうだ)」


エルフは『魂の安息の為の地』に関する信仰(と呼ぶべきかは難しいが近い表現だと思う)が強い。

横で話を聞いているターリャはさほど興味がなさそうだ。文化の違いかもしれない。


『魂の安息の為の地』を求めるエルフは水の加護を求める。儀式的な意味合いもあるが加護はそのままの意味で旅の加護にもなり得るらしい。

今回はかなりイレギュラーだがメイが加護を得ることで安全のマージンが増えるとこの夫婦は踏んだのだろう。


「そしてジン殿」

「え、俺ですか?」

「そうです。貴方の存在もあるのです」

「ジン殿、ターリャ殿が言った災厄の始まりはいつだったかの」


ああ、そういえば。


「2週間前、ですね」

「そう、そしてジン殿が行き倒れていたのも同じ時期じゃ」

「我々は考えました、貴方はその特異な体質から災厄を逃れ、力尽きたのではないかと」

「そしてこうも言えるわけだな。ジンが災厄を連れてきた、とも」


今まで黙って話を聞いていたターリャが言った。そうだ、期間は一致する。そして俺に記憶がない。


「ただ、災厄の大元とは考えづらいのです。貴方は裏があるようにはあまり見えない」

「ですがエレニアさん。俺は記憶がないので本当に無罪だとはわからないですよ」

「そういうところですよジン殿。なので貴方も女王に逢って欲しいのです」

「加護を貰うんですか?」

「いえ、加護を与えられるのはその眷属とでも呼べる種のみです。なのでジン殿がもし加護を求めるなら地の王になりますね」


水の加護はエルフ専用らしい。


「では、どういう理屈でしょう」

「単純に記憶を戻せるかどうかじゃな。女王の周囲はそれはそれは優秀な者が多いので何かジンどのの記憶に関する情報が手に入るかもしれん」

「そして、もしジン殿が災厄に関わりがあるのであれば何かしら手を打てるかもしれないのです」


あ、これそっちが本命だ。


「女王様にはなんと伝えればいいですか?」

「必要ありません、言伝を飛ばしておきますので向こうで指示に従っていただければ」

「途中で逃げるかもしれないですよ」

「その時はその時です。ただ、あなたはリューリルを置いて去れますか?」

「……連れて逃げることもできます」

「そうなった場合は仕方がありません。それがリューリルにとっての『魂の安息の為の地』なのであれば」

「『水の加護』なしで放浪するのはお勧めしないがのう」


この言いよう、別に圧がかかるわけでもなくそれでもいいけどいいのかそれでという感じだ。


「いえ、大丈夫です。ちゃんと逢いますよ」


元から逃げるつもりはない。ただこの人達がなんでこうまで信頼しているのかがわからなかっただけだ。


思うに、これはエルフもしくはもう少し狭くウルストラの思考的な特徴のようだ。昨日の会話からもターリャはそう感じていないであろうことがわかる。

今回は流石に天秤は女王側にしか傾いていないが、俺が何をするかの選択に関してはほぼ止めてこない。ターリャだとおそらく強制的にこうしろという命令のような感じになりそうなものですら自由意志に委ねられている感じがする。


それはそれとて女王に逢うのは俺も賛成だ。記憶が戻るならなお良い。

一つ懸念点があるとすれば、俺の体質的な問題くらいか。仮に記憶を取り戻す魔法があったとして、マナを受け付けない俺は恩恵に授かれるのか、と。

今悩んでもしょうがないけどなここは。


「俺というイレギュラーの為になんか申し訳ないです」

「リューリルが謁見するのは遅かれ早かれ必要です。ジンどのが一緒であるほうが現状では安心だとも言えますから」

「そう言ってもらえると有り難いですね」


メイの方を見ると、彼女もこちらに気づいたようで笑いかけてくれた。

そうだな。一人で行かせるよりは断然いい。そう思うことにした。


**********


今日は流石に復興作業があるので狩りも座学もなしで俺もメイもできる手伝いをした。


獣人の人たちも手伝ってくれた。ターリャの話からすると彼らも故郷を焼かれた訳だが、しばらくはウルストラに滞在するらしい。

と言っても族長の家にやっかいになるメンバーも多いようで、つまりは今日も俺はメイの部屋だ。

勿論ターリャも一緒だ。


「慣れたと思うことにする」


開口一番これだ。今日色々獣人の方と触れ合う機会もあったけど、ターリャ以外に話がわかったのは2人だけだった。1割くらいか。


「リューリルは集落から出たことがないのだよな。不安はないのか?」

「うーん、せんぱいと一緒だから特にないですね」

「その信頼され方が本当にわからない」

「俺もわからん」

「ええ、なんでですかー」


膝の上に乗っているメイが言う。どうどうと頭を撫でる。最初は戸惑ったくせにもう撫でるのに慣れてしまった。


「俺はここの記憶が2週間しかないんだぜ。旅だってしたことないし」


当然と言うか、俺とメイの接点は主に高校だったので旅行に出たりなどもなかった。ってそこか。


二人で旅行したことがなかった。そりゃ一緒に何かをするってデートはいっぱいしたけど、それは生活圏での話がほとんどだ。

夏に海水浴すると言っても日帰りだし、そもそも部活してる高校生に旅行に行けるまでの金がない。


メイはおそらく楽しみなのだ。この日常になった非日常の更に上を行く非日常である旅という事柄が。

そして、俺と一緒だというのを嬉しがってくれているのであれば全力で応えるべきだろう。


「いや、まあ俺も楽しみだけどな。メイがいるし」

「そうですよね、せんぱい」


撫でている頭をぐりぐりと胸に押し付けてくるメイ。小動物のようで可愛い。


「ターリャさん今回以外で集落から出たことってありますか?」


ひとしきりぐりぐりを終えたメイが聞いた。俺も頭から手を離したが、メイの誘導でおなかに手を回して抱きしめてる感じになっている。


「近隣の集落に伝令を行ったり会合に出たりといった事ならある。だいたい長くて2日程度の旅程だ」

「へえー会合! どんな集まりなんです?」


旅の話かと思ったら会合に興味津々なメイ。そういえば昨日もこう本筋っぽくない話ばっかりしてた気がする。そういうもんなのだろうか。

ウルストラの周辺にも獣人の集落がいくつかあり、ターリャは自分のところの代表として会合に出たりするらしい。メイが言う限りはエルフにそういう習性はない。単にウルストラ周辺にエルフがいないだけのかもしれないが……


「基本的には近隣の情報共有だな。また普通に懇親会の場合もあるが」


どうやら後者の方は苦手そうだ。ターリャは確かにちょっとエレニアさんぽいというか事務的な感じはある。今日関わった獣人は結構感情豊かな人が多いので、彼女が珍しいのだろう。


「いや、単純に言い寄る男が邪魔なだけだ」


……それ懇親会というより合コンか? 行ったことないけど。


「確かにターリャさん美人ですもんね」

「リューリルも美しいと思うが」

「えへへ、そうですか。でも私はせんぱいのものですから」

「ジンは果報者だ」


ターリャは完全にメイとの会話に慣れてしまったようだ。もう頭を抱えることはないのかもしれない。


「だからせんぱいのことは取ろうとしちゃ駄目ですよ。私のせんぱいなので」

「どうしてそうなる」


あ、言ったそばから頭を抱えた。まだまだ慣れることはないようだった。

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