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2-1 スローライフものじゃないんですか?

座学というのは要するに勉強。歴史を学び、世界を学び、そして魔法を学ぶ時間のことだ。

メイと想いを伝え合った翌日も、いつも通りに昼以降は座学を受けていた。


この里で暮らしていて分かった事が一つあって、俺が言葉を理解できるエルフは里の中でも7人だけということ。

ありがたいことにこの座学の教師であるザーイシュー老も理解できる言葉を話す一人だ。老とは呼ばれているもののそれはエルフ、若くしか見えない。


「お二方とも、今日は妙に気合が入っとりますな」


ザー老が言う。気合が入っているというか憂いが無くなったというか、気の持ちようが少し変わっただけだが。


「今日は魔法の体系を組み立てる話をするが、ジン殿もそれで良いかな」

「勿論です」


魔法の話は3度目だ。1度目はマナの話。2度目はマナ変換による元素の話。これがマジで良くあるファンタジーで逆に驚いた。あれって結構正しいんだな。

要するにマナから地水火風の4元素を取り出してそれらの組み合わせで魔法が発動する、という仕組みだ。とても馴染みやすい。


ザー老はそれぞれの体系についての話をするが、これはどちらかと言えば化学だ。魔法は化学だった。

しかし謎なのはこれだけの体系的な仕組みが解明されているのに一切文字がないことだ。なぜ口伝だけなのかについては誰もわからないらしい。


今日の座学はザー老が具体的な組み合わせを教え、メイが実践するという流れだ。

俺はそもそもマナから元素を取り出すという作業ができない。ザー老曰く体質的な問題らしい。異邦人なので異物判定さえれているのかもしれない。悲しいことだが。


そういえばヒューマンという種はここでも存在するそうだ。魔法が使えない種族ではないとのことだが、この世界の原種なのか俺みたいな転移者が多く居たのかは実際に他のヒューマンを見てみないとわからないだろう。


また、それぞれの種族でマナ特性があるらしい。エルフは水を得意としているという。エルフと言えばどちらかと言うと風な気がするのだが、風は有翼種がいるそうだ。

メイも水を生み出したり凍らせたりといった初級の魔法はお手の物だ。どういう感覚かを聞いてみたが、第六感のような五感とは別系統の感覚があるのだという。


今日は初級魔法を組み合わせて別の効果を導き出す。これが体系を組み立てると表現されているそうだ。やってみたさがある。


なお、マジックポイントといった概念は存在しないようだ。大気中のマナが無くならない限りは無限に撃てるとかチートじゃないか。

触媒である杖で(これもまた魔法使いらしくて良い)水と風を組み合わせて霧を発生させるメイ。どんどん霧が濃くなり、もう自分の手の届く範囲しか見えなくなった。


「上手いなー」


こうも何も見えないと下手に動けない。というかなんで室内でこんなことしてるんだ。今更だが外でやればよかったのでは……

そう考えた瞬間、大地が揺れた。


「地震!?」


震度3ほどの揺れがあった。が、あったというよりこれはずっと続いている。


「リューリル様! 魔法を解除してくだされ!」


ザー老に言われてメイが魔法を解除したようで霧が徐々に晴れてくる。


「大丈夫か!?」


メイに寄って抱き寄せる。頷くメイ。


「こういうのは良くあるんですか?」


ザー老に聞く。老齢のエルフは首を横に振った。これはひょっとしてやばいのではないか。

地震が起きない国では建物の耐震をそこまで強く考えて設計されていないとどこかで見たことがある。

地球ならともかく、ここで地震が起きないのであれば建物は倒壊の危険があるのでは。


とまで考えたところで、メイが口を開いた。


「マナが……大量のマナが消費されている……」

「マナ枯渇!? いかん、伏せたほうがいい!」


ザー老が叫び、頭を低くした。瞬間的に習ってメイを覆うように一緒に伏せる。その二秒後。

風が吹いた。


**********


冗談ではなく風が吹いた。それも突風。建物の中であるにも関わらず、だ。

つまりそれは建物が吹っ飛んだということ。


ここは族長の家だ。おそらく里の中でもかなり強い建物であるはずだが、吹っ飛んだ。


メイの頭を抱えうずくまる。まだ小さな彼女は飛ばされてしまうかもしれない。


「じっとしてろよメイ」

「うん」


時間にして10秒くらいだろうか。それくらいで突風は止んだ。頭を起こして安全を確認する。

壁が一部無くなっているが原型を保って残っているので全てが吹っ飛んだわけではないようだ。


ザー老も素早く立ち上がり、風の吹いていった方向を見ている。突風によって家も木もなぎ倒された先に、黒い煙が上がっていた。


「メイ、大丈夫か?」

「大丈夫です、ジンせんぱいはどうですか?」

「俺も大丈夫だ」


そう答えるとメイは力を抜いた。杖に灯っていた光が消える。どうやら何かしらの魔法を使っていたようだ。


「水の防壁を、念の為です」


なるほど。咄嗟に機転が効いて素直に感心した。昔から気を使うのが上手かったなそういえば。


「皆さん、無事ですか」


部屋に入ってきたエレニアさんに皆が無事と答える。扉は飛んでいなかった。この状況で律儀に扉から入ってくるのは流石だな。


「長より招集です。里の中心に集まって来るよう皆に伝えてくれませんか」


ウルストラの里は特に建物が密集しているわけでもなく、そもそも里としての区切りなどもないような土地だ。

これはエルフ及び有翼種に特有のものだという。規律だっていないというか自由と言うべきか。


わらわらと集まってきたエルフ総勢70名程度。中には家が壊れていない人もいるらしい。全員の前に長であるフェイナス氏が立ち、声を上げた。

が、俺はフェイナス氏の言葉がわからないのでメイの翻訳によって聞いた。メイが言うには同じ言葉をリピートアフターファーザーしてるだけらしいのだが……

力強く言ってるのだがメイが言うと途端に可愛くなってしまう。


「つまり、70年ほど起こらなかった現象が起きたってこと?」

「って言ってます。私の次に若い人で30歳、知らないのは私とせんぱいを入れて5人だけみたいですね」

「ザー老はマナ枯渇って言ってたけど」

「うーん、その言葉は初めて聞いたと思います」


俺も初めて聞いた訳だけど、なんとなーく想像は付く。定番としては、爆発だろう。実際風が吹いた先を見ると何やら黒い煙が立っている。


フェイナス氏は前兆などからマナ枯渇であることと原因を調べるために爆心地に数人向かってほしいことを伝えてきた。

ここは正直行ってみたい。が、なにぶん何も知らない俺が行っても足手まといになるだけだろう。


そんな訳で数名をフェイナス氏主導で人選していっていたところ、またしても事件が起きた。

起きたというか、やってきた。

獣のような鳴き声とともに。


爆心地の方向、黒い煙を背にしてこちらに向かってくる集団。

エルフではないその見た目。全身に毛をまとい、頭には犬を想起させる耳の付いた。

4元素のうち火に秀でているという、獣人の集団が、そこに居た。

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