ニセモノ
命「おい!・・・・・おい!!」
そっと目を開く奏。
「あに・・・き?」
何故だろう。奏の顔は何故か少し赤く火照っているようだった。
でも不思議じゃねぇよな。酷い頭痛だったんだろうに。
医者「花澤様のお兄様ですね?少しこちらへよろしかったでしょうか?隣のお部屋へお願いします。」
命「はい。」
隣の部屋ってそんなに重症なのか・・・・・?
怯える最中、静かに口を開いた。
医者「検査はしてみたものの、大したことはないと思うのですが、ここまでの頭痛となると精密検査も考えていただきたいと思いまして。それで参考がてら他にも昔何か原因があるようなことはなかったでしょうか?」
俺が一番怖かったのはこれだ。
そう。一番心の中の消したい部分。でも消してはいけない部分。
そこに誰かが入り込んでくることを拒み続けて生きてきたのだから。
でもだめだ。奏がここまで酷くなってしまった原因も関係ないとは言い切れない。
言うしかない。
それから約二時間弱俺は、あの事故以来初めて記憶のある限りの範囲で人に
話した・・・・・心臓がはち切れそうな感覚だった。
医者「なるほど・・・・・あくまで可能性の話だと思って聞いてください。過去に記憶障害がある方によく起こりうる症例なのですが、記憶を取り戻す際必ず頭には負担がかかります。それもなお、思い出したくなく、頭が自己防衛のため削除していた記憶ならなおさらです。」
命「記憶が戻ったってことですか・・・・・?」
自分のことがまた嫌いになる。失ったモノが返ってくることは嬉しいはずなのに。
ただ・・・・・ひたすら怖かった。その記憶が自分が覚えているあの日の記憶であれば。
奏はどう思うんだよ。俺はどんな表情をすればいいんだよ。
その時扉がそっと開いた。
命「か、奏・・・・・お前寝てないと・・・・・くっ」
何だよその顔。なんでそんな顔してんだよ。
やっぱり・・・・・
奏「ごめんね。迷惑かけちゃって。話まとまったらさ、後でちょっと話あるんだけど・・・・・頭痛はもう不思議なくらいおさまちゃったからさ♪」
「それに、原因はだいたい自分でもわかるような気がするんだ。」
私がさっき見たのは夢・・・・・じゃないよね。きっとこれが失ってた記憶の一つなんだよねきっと。それを命が覚えているのか確認したい。
ねぇ命・・・・・あなたはどこまで覚えてるの?
命「そっか。話だけすましたらすぐ行くよ。頭の方はとりあえず今の時点で大事に至ることじゃないってさ!安心しろよ!わかったら横になってろ!」
奏「へいへーーい。」
医者「でわ、とりあえず後日また病院の方で少し精密検査をしに来てください。本日は楽になり次第帰っていただいて結構ですので、お家でも安静にするようお伝え下さい。」
命「ありがとうございました。また近いうちに連絡さしてもらいます。それじゃ。」
帰り道結構歩いてんのに。
なんでこんなに黙りこくってんだよ。
さっきあんなに後で話そうとか言ってたくせに。
やっぱ・・・・・
奏「さ、寒いねぇ~~4月だってのにめっちゃ冷えるわ。」
ん~~言い出せないなぁ。てかあれ本当の記憶なのかな。
もしかしたらただの夢・・・・・ないない。そんな鮮明な夢ないでしょ
私の頭都合よすぎる解釈しすぎ。逆に頭良すぎんだろうね。
命「さっき言おうとしたのって。もしかして記憶でも戻ったのか・・・・・?」
なぁにぃ~~!!単刀直入すぎんだろ!!てか俺の聞き方雑すぎんだろ!
てか知られるの怖いんでしょ俺?馬鹿なんですか?ありえねぇ・・・・・
奏「うん。命。少し思い出しちゃった」
命「お、おおそうか。辛いよな。きっと辛いこと思い出したんだよな。俺が説明できる範囲の記憶だったら説明するし、俺できることならなんでも・・・・・」
ふと奏の顔みた。いつもの顔じゃなかった。
笑顔だった。ただただ。本当の偽りのない疚しさも気まずさもない。
どこかで見たことあるような・・・・・相原哀歌・・・・・
奏「命。私達。兄妹じゃないよ。」
あの頃から私達。ニセモノだったんだ。