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ボクノワタシノひとこま。  作者: 磨雄斗
9/9

雪と傷みと愛情と

ああ、やってしまった。


洗濯物を畳みながら、私、千媛(ちひめ)は深い深いため息をついた。


今日、曇りの予報だったのに雪が降った。

午後からって言っていたのに早朝から降った。

そして今日、私は好きな人とその友達とスキーに行く予定だった。


漫画とかなら行かないだろう。けど、行ったのだ。


しかし、私は会話に入れなかった。

その上、空回り癖で自分勝手な振る舞いをし、撃沈。

しかも、雪もだいぶ酷い振り方だった。


いや、そもそもこの予定自体が自分勝手だったんだ。

何でこんなの立てたんだろ。


はあぁぁぁ…………


「全然進んでないじゃん」

「……愛葉(まよ)

「そんなに今日楽しかったの?」

「…………。」

私の弟が痛いところをついてくる。

グゥゥ、と唸るように睨みつけるが、愛葉は素知らぬフリして私の隣に座った。


私が畳み掛けていたTシャツを奪い取り、丁寧に畳んでいく。


「着替えもしないで洗濯物何か畳んでると風邪ひくぞ」

「……上から目線」

「どこがだよ」

……上から目線と自分で言い、今日の行いがあまりにも上から目線だったことを思い出し、また落ち込む。

ああダメだ。今日は何したって何言ったってダメだ。

惨めな自分に涙しそう。


私はまた、下を向いた。


───ふぅ、と呆れたようなため息。ぐい、と無理やり体を動かされ、愛葉の足元が目に映った。


「吐き出せ、全部」

「……やだよ」

「何で」

「愛葉に話すことないもん」

「はァ?お前俺の事何だと思ってんだよ」

「生意気バカ弟」

「あまりにもひでぇな。世界のどこにも代わりのいねぇ、佐倉千媛の弟だろうが」

「…… だからって、なんで私のこと聞こうとするの」

「お前の心が言ってんだよ、誰かに話してスッキリしたいって」

心?何それ。


突然、何気ない感情からぶわっ、と呆れと怒りが心に満ちる。


心が分かる?

何言ってんだ。

双子だから何だ。

私の心は……心は……


「愛葉なんかに、分かるわけないじゃん」

「分かるよ。だって世界で2番目にお前のこと理解してるのは俺」

「違う!!!私のことわかってくれるのは私しかいない!!次に分かって欲しいのはあの人だ!!あんた何かじゃない!!無理に私の心こじ開けようとしないでよ!!分かろうとしないでよバカ!!!!!」

不器用に畳まれた洗濯物を蹴り飛ばし、階段を駆け上がった。


「千ひめっ」


バンッッッッ


自分の部屋に飛び込みドアを閉め鍵をかけ、ベッドに転がり布団を被った。


バカバカバカバカバカバカバカ

私は何してんだ

私は今日何したんだ

上手く出来なかった

空回りした

また

まただ

何度も何度も空回りばかりしている

上手くいかない

何で

何で

私はあの人に近づきたいだけなのに

何で1歩が踏み出せないの

何で嫌われるようなことするの

傷つけるの

どうして

どうして

何で私だけこんな辛い思いしなきゃなの

何でよ

何でよ

何で………


ジャカジャカジャ………ガチッ


バンッ


!?ドア開いた!?


「千媛!おいもう、寝てんじゃねぇよ!……あーもー悪かったから!確かにお前のこと分かるってのは盛ったから!」

「ちょ、ひっ、引っ張んないでよ!分かったんだったら、もうほっといてよ!!」

「はぁぁ、ほっとけるわけねぇじゃん!もー早くいじけてないで出てこいよー!」

「なんでほっといてくれないの!また双子どうとか言ったらもう……」

「お前がまた塞ぎ込んで引きこもったら嫌だからだよ!!!!」

引きこもる。


ふつ、と思考が落ち着く。

『引きこもる』。


……そうだ、引きこもる。

私はそうだ、この間の恋もそうだった。

あまりにも上手くいかず、心が病んで、引きこもってしまった。2年前。あの時、どんなに心配されても誰にも何も相談しなかった。出来なかった。

怖かった。自分の恋に何か言われるのが。間違っていると言われるのが。

だから結局『学校行きたくない』の一点張りで引きこもっていた。その時、誰よりも心配してくれたのは誰?


……愛葉だ。


「千媛がまた理由もなく引きこもって、1人で苦しんで、なあなあにされるのが嫌なんだよ。なぁ、前回も何かしら理由があったんだろ?ただ漠然と行きたくないって考えじゃなかったんだろ?それはもういいけどさ、今回はやめてくれよそういうの。お前がどうかしてしまうのが怖いんだよ。壊れるのがヤなんだよ」

ぎゅう、と布団の一端が握られる。


「俺弟だよ。下だよ。けどさ、唯一の姉が自分の行為に後悔して、1人でそれと戦い続けるのをただ傍観するのって辛いんだよ?だから話して欲しいんだよ。詰め込んで欲しくないんだよ」

だんだん、言葉が詰まっていく。私は瞬きができなかった。


「……俺の心が、そう言ってんだ。抱え込んで欲しくないって。1人だと勘違いさせたくないって。だから、お前がどう思っているのかなんて、実は分かんない。わかったふりしか出来ない。だって話してくんないとわかんねぇんだから。……頼むよ、姉ちゃん。少しは俺を頼ってよ……」

ぐすっ、と涙声。


私は、布団の中で、目の下に溜まる温かいものがこぼれていくのを感じた。


辛いのを、誰かに話す。

それは相当な覚悟を必要とする。

でも、本当に信頼している人に話すのなら、全然怖くないんじゃないか。


……目を瞑る。

またポロポロと粒がこぼれる。


布団からふわりと出た。

「……愛葉」


くると振り返る。

暗がりの愛葉は、とても小さかった。けど、誰よりも大きな心を持って、私を涙目で見つめていた。


「……聞いてもらって、いい?心、分けたいんだ」

「……うん」

にっこり微笑む。


今日はたぶん、人生で1番最悪な日だった。

けど、最悪を話すのも、悪くないかもしれない。

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