祭りと嫉妬と本名と
学園祭
今年はとても楽しみです。
2学年になったからクラス企画がありますし、なんと言っても今年のクラスには……
私は今、怒っています。
とてもとても怒っています。
教室の壁に寄りかかり、廊下の方をじとーっと見ます。ドアの隙間からは、楽しそうな声。
4人の男女が和気あいあいと、段ボールを使って作業をしているのです。
なんで段ボールなのかと言うと、このことが関係しています────我が母校が、学園祭に向けての準備期間に入ったことです。
こんなことになってしまった世間の中、学園祭をやることを決意してくれた高校には、感謝しきれません。ありがたや。
そして、私のクラスは、クラス企画の準備の真っ最中。私はと言うと、担当だった3人で次の仕事を待っています。
ここまでは別にいいでしょう。
ただ雑談を楽しくしているだけなのだから。
しかし。
ここで、先程の4人の男女が登場します。
その男子の1人がキーパーソン。
名前は白須くん。
下の名前は言えません。
貴いから。
かっこいいから。
素敵だから。
まそれはさておき。
私は許せないのです。
彼が2人の女子と作業をしているのが!
和気あいあいと、仲睦まじく、キャッキャウフフとしているのが!
私だって体育座りしてガールズトークしているよりも、彼と作業したい!キャッキャウフフしたい!でも私が行って空気悪くなったり話ついていけなくなったらいやぁ!
……とまぁこのように、心の葛藤のせいで怒っているということです。しんどい。
ガガッ
───生徒会から連絡です。下校時刻20分前になりました。生徒は作業をやめ、片付けに入ってください。繰り返しお伝えします─────
うぁ、終わってしまいました。
結局今日も、同じ空間で同じ空気をマスク越しに吸ってい……えーと、比較的近くにいるのに全く話せませんでした。はぁ。
「西館ちゃん、絵の具の跡拭こー」
「っあ、うん」
私たちはぞうきんで床を拭き始めました。
怒りのせいで力強い、私のぞうきん攻撃のおかげで絵の具の跡はすぐに消えてしまいました。
ぞうきん洗ってこよー
「あ、俺やるよ」
ふは。
変な声が出るところでした。
彼です。
彼が私に手を差し伸べてい……私のぞうきんをもらおうと、手を伸ばしていました。
優しいなぁ。やっぱり彼は、かっこよくて可愛くて優しい、素敵な人だ。
「あ、ありがとう、!助かる!」
私は彼にぞうきんを渡し、そそくさと別の片付けに移った。
……名前、言えなかった。
ありがとう、のあとには、名前を言うはずだった。
もちろん苗字だ。
けど、ほとんどの人が彼を下の名前で呼ぶし、逆に苗字で呼んだら傷つけてしまうかもしれない。
そんなこと達を思い、結局ありがとうしか言えなかった。しかも目を合わせて言えなかった。
あー、せっかく話せたのにーいーーーー!!
私は大切な人を目で追いかけた。
抱きしめたくなる、その後ろ姿。
ほかの女子と楽しそうにしていると嫉妬するほど、大好きな人。
まだ名前は呼べない。
勝手に、待たせてしまっている。
「……待ってろよ、白須くん」
恥ずかしすぎておかしくなった私、西館成清は、今日も恋を続けていきます。
些細な変化に気づいてくれましたか?
次回もお楽しみに(「・ω・)「