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魔法は万能、なの?

筋を大幅に変えたため、投稿がずいぶんと遅くなりました。申し訳ありません。

 その男が場に現れた途端、(呂布から見て)右端にいた【ウルズ】ことアン・スペンサーは全身に寒気を感じた。


 冗談じゃないわ!


 かつて故郷の森で森の主といわれたヒグマもどきの魔獣と出会った時も寒気を感じたものではあるが、これほどのものではなかった。

 あたりを払う威風。周囲を圧する覇気。何者にも屈しようとしない独立不羈の魂。そして、前を遮るものは何人たりとも生かしておかぬとばかりに殺意に満ちた狂気の目。


 この男は怖ろしすぎる。

 森の主どころか森の守護者、森の守り神。いいえ、そんな生温いものじゃないわ。覇王とか破壊の魔神とかのレベルよ。


 それでも、男が剣一本で決闘に臨むというのであれば3人全員でかかればまだ何とかなったかもしれない。

 それを、それを、雇い主のヴァンデルハウゼン卿が男に長柄武器をとることを言いくるめられてしまったために無茶苦茶になってしまった。

 なんで相手が長柄武器をとることを許しちゃうわけなの!ど素人が!


 アンが焦るのには理由がある。

 彼女たちの携えている武器はすべて対決闘用のものであって、相手が剣を持つことのみを想定している。

【ヴェルザンディ】ことエリザベス・ダウ―の持つ小盾も剣を相手にすれば攻防一体の有用な兵器であるけれども、遠心力を利用した長柄武器の強打には耐えきれずに意味をなさない。仮に小盾自身が耐えたとしても支える腕が一撃で使い物にならなくなってしまう。

【スクルド】ことヴィクトリア・コバートの双剣にしても剣が相手なら様々な技巧を凝らすこともできようが、リーチの違う長柄武器相手では凝らす前に圧殺されてしまう。それはアン自身の持つレイピアとマイン・ゴーシュにしても同じことである。

 つまり、呂布がハルバードを手に取った時点で彼女たちのアドヴァンテージはすべて消えたわけである。


 唯一、彼女たちに勝機があるとすればアンの魔法の一撃で仕留めること。

 しかし、それを許してくれるような甘い相手では当然ないわけで……。


 どうしよう。どうしよう。このままでは……全員、殺されてしまうわ。


 エリザベスとヴィクトリアが魔法の一撃を打つまでなんとか粘ってくれるよう祈りつつ、アンは恐怖で集中力を途切れそうになるのをこらえながら必死で魔法の呪文を小声で唱え続けた。


 *


 おれはかなりムカついていた。

 今は顔の部分が網目状の兜を被っていて見えないけれど、試合開始前にチラリと見た素顔がどいつもこいつも髪の毛の色と尖っている耳の部分以外、非常に紫二娘に似ていて気分が悪くなったのだ。それに加えて、こいつらの言動は胡軫(董卓に命ぜられて一緒に陽人の戦いに出撃した武将)というかつての大言壮語野郎を思い出させた。

 あの時、胡軫については本来なら直接自分の手で始末するところだったのだが、董卓がそれに気づいてやつをおれの上司に任命したため、おれはやつを斬り捨てることができなかったのだ。仕方なしに代わりに慣れない策に走ったせいで、結局、やつを生き延びさせ、こうして今でも心のしこりとなって残っている。


 こういう後悔は二度としたくない。


 右端の女は右手に【れいぴあ】というのであろう片手用の細剣を持ち、左手に柄にカギのついた籠状の護拳の鍔のついた短い直剣【まいん・ごーしゅ】を握っている。

 一見、前に出てきて相手と刃を交じらせる姿勢をとっているが、それは格好だけであって、こちらに気づかれないよう呪文を小さく唱えている。

 やつの狙いが一撃でおれを葬ることにあるのは知っている。

 ある程度読心の術と未来予知の能力を使える白雪の見立てによれば、こいつは魔法でおれの顔に火をぶっつけて頭はおろか肺まで一気に焼き尽くすつもりらしい。


 魔法は有用なものらしいが、おれからすれば弱点もかなり目に付く。今回は遠慮なくそれを突かせてもらうことにする。


 ふっ。真ん中の女が盾を自分の剣でたたいて挑発してきた。そして、その隙に左端にいた双剣使いが走っておれの背後に回り込む。


 味方を攻撃させたくがないための陽動。


 別段、珍しくもなんともない。規模は違うが、戦場ではよくあることだ。特にこちらが騎兵の集団で吶喊する時などはな。


 少々相手としては物足りないが、仕方ない。

 この際だ。どれ。この土地の者たちの目にわが武勇のほどを焼き付けてやるとするか。


 おれは【はるばーど】とかいう鎌槍を軽く振って二旋回させた……。


 *


 一方、白雪はすっかり観客気分であった。

 なにしろ自慢の父親がかつて天下を震撼させた武勇を振るうのだ。これをかぶりつきで見ない手はない。


「貴女のお連れは大丈夫だろうか?相手は名うての猛者。しかも3人。

 もしかの場合、我々はどう償ってよいのか……」


 オットー・へブラーが苦し気に白雪に話しかける。


「無用の心配じゃな。

 父者はかつてあまたの戦場を駆け巡り天下にこの人ありと知らしめた武人ぞ。あんな雑魚どもに後れを取るはずもあるまい。あの程度の雑魚ならもう30人でも60人でも余裕で相手できるというものじゃ」

「父者?お連れの方はエルフの血でも混じっておられるのか?

 我々にはせいぜい17、8にしか見えないのだが」

「この世にはその【えるふ】とかいう人間もどきしか若返りの術を知らんというのかな?

 それはいささか狭い認識じゃな。

 妾の知り合いなぞ、普通の人が3度転生を繰り返すくらいの年月を生きておりながら髪の毛は黒々、一本の白髪もないうえ、肌は17、8と見まがうほどぴちぴちしておったがな」


 白雪は若返りのことで一瞬、左慈やその仲間のことを思い出し、顔をゆがめた。


 今思い返しても忌々しい。

 妾に対してしたこともそうじゃったが、あやつら、自分たちが仙人になるためには手段を択ばん、とんでもない外道どもであったの。天下が揺れて人の目が集まらんことをよいことに、口には出せぬあこぎなことを何度繰り返していたことやら。

 今この場におれば、間違いなく皆殺しにしておるところじゃ……。


 嫌な気分を振り払うかのように白雪はオットーに早口でまくしたてる。


「ご老人。そんなくだらぬことよりも、もっとわが父者の勇姿をしっかりとその眼に焼き付けてほしいものじゃ。父者があの程度の雑魚どもをわざわざ相手取るのは、ひとえに名を売るという目的があったればこそじゃ。その点をよく心得ておいてほしいものじゃな」

「……」

「まだ疑うのかや?

 やれやれ。それでは妾が特別に解説してやろうかの。

 ご老人。そなたなら真ん中におるあの盾持ちをいかに料理する?」

「うむむ。まず間合いをしっかりとって相手の挑発には絶対に乗らず、剣で細かく牽制をして、相手が様子見に仕掛けてくる時か盾の上から目をのぞかせた時を狙って頭を叩くかそれとも小手を刺すか……。

 いや。体の動いたもう少し若い頃でもそれで成功するかどうか。うーん」

「まあ。そんなところじゃろな。

 剣一本で盾持ちを相手にするのはそれくらい難しいものじゃ。

 相手はこちらの攻撃を捌くばかりか盾そのもので殴りつけることもできるし、自分の持っている剣を盾の陰に隠し攻撃の意図を読みづらくすることさえできおる。盾はそれほど有利な武器なわけじゃ。

 じゃが、それは剣持ちを相手取るときだけのこと。

 長柄の武器相手に盾に有利なところなどありはせん。盾は長柄武器の強打に堪えられぬし、間合いは長柄武器の方がはるかに長いのじゃ。遠距離から手加減なしでボコボコやられてそれでおしまいというものじゃ。長柄武器にとって盾持ちなどいいカモでしかありえぬ。

 盾持ちでそうなら、もっと間合いの短い双剣使いも長柄の武器の相手にはならん。

 長柄の武器は懐に入った相手には振り回しづらいとかなんとか言えそうじゃが、熟練の人間ほど己の扱う武器の弱点をよく心得ておって対策を講じておるものぞ。懐に入る前に相手は頭を打ち砕かれて即死するか、仮に懐に入れても刃の部分で利き手を押さえつけられたうえ空いている方の手で掌打をくらっておっ死ぬか、じゃな。

 ご老人。もう気づいたじゃろ。父者がわざとごねて【はるばーど】を取った時点であやつらの勝機は消えたのじゃ。

 もちろん父者は最初からそういうことがすべてわかってごねたのじゃ。思い付きのまま行動していたわけではないのじゃよ。父者はあれで結構狡いうえに、こと戦うことに関しては情け容赦というものがないからの。父者を軽んじたものはたいてい死ぬ。

 ただ、父者は気分屋じゃから……たまに相手が生き残ることもある。妾としては歯がゆいとこじゃがな(あの劉備主従とか劉備主従とか劉備主従とか。あの時、あ奴らを皆殺しにしておけばよかったものを……。まあ、よいわ。此度は妾がついておる)」


 急にドヤ顔をしたり暗く沈んだ様子になったりと白雪の表情がくるくる変わることに閉口しながらもオットーは会話を続けた。


「なるほど。ホウセン殿の行動はすべて経験からくる理にかなったもの、ということですかな?」

「うむ。そういうことじゃ。

 ざっと解説してみたが、どうじゃ?これでもまだ父者を疑うのかや?」

「……ホウセン殿がハルバードを手に取られた理由はよくわかったのですが、それでも」

「なんじゃな?」

「あのウルズと申す代闘士は魔法を使ってよく相手を消し炭にしているとか。いかにハルバードの間合いが長くとも、魔法には敵いますまい」

「ああ、その点についても抜かりはないぞえ。

 父者は魔法使いなど相手にしたこともないが、戦場では弓持ちなど遠距離攻撃ができるものを腐るくらい相手にしておるわ。

 まあ、見ておるがよい」

「はあ……」

「おお。そんなことを言うている間に、それ。父者が右手の魔法使い目がけて走り出したわ」


 興奮気味に話す白雪につられてオットーほかの郷士たちも【ウルズ】ことアンに駆け寄る呂布の姿を目で追った……。


 *


 目の前の呂布の周囲からごおっという風鳴りを聞いた瞬間、盾持ちのエリザベスは思った。


 あれがハルバードではなく、ただの剣だったのなら……。


 もし呂布の携えているのが剣だった場合、エリザベスは迷わず、左に半身になって肩を突き出した体勢から裏拳の要領で相手の剣を盾ではじき、同時に体を回転し右の剣で相手の喉に斬撃をくらわしていたことであろう。

 だが、ハルバード相手にそんなことをすれば盾ごと真っ二つにされてしまう。

 できることといえば、エリザベスが盾で身をかばいながら後ろへ飛びのくほかない。


 ギュルルュュン


 嫌な金属の擦れ合う音が響く。

 エリザベスいては急いで飛びのいたつもりだったが、それでもハルバードの先端がわずかながらも盾を掠ったのだ。


「ひっ!」


 圧で無様に転がってしまったエリザベスの見たものは、こちらをまともに向いてもいない呂布の冷たい横目。

 それと自身の盾に穿たれた深い溝。そして、両断された自身の左の肘。


 ああ。盾を支えていた腕が……。


 あとエリザベスにできることといえば、ぶらぶらした自身の左腕の残りの部分に回復魔法をかけて止血をすることのみだった。


 *


 優れた動体視力と鋭い反射神経の持ち主であるヴィクトリアは呂布がエリザベスに向けて一撃を放つのを感じた瞬間、迷わず前へ出た。


 背後から懐に入り込みさえすれば。


 事前に自身にブーストを掛けていたヴィクトリアにはそれなりの勝算があったのだが……。


 ギュキーン   ギャリン


 一瞬で希望が絶望へと変わる。エリザベスに向けて放たれたはずのハルバードがなぜかもう戻ってきて来て自分を襲いかかったのだ。

 ヴィクトリアは咄嗟に双剣を交差して襲撃を防ごうとした。


「そんな!」


 重い衝撃の瞬間、思わず目を閉じたヴィクトリアが次に見たものは、右手の波打った蛇剣の刃が半ばで断ち切られている様とハルバードの刃の部分で双剣を抑え込んでいる呂布の余裕の笑みだった。


 ありえない。

 素の入った粗悪な剣が衝撃で折れてしまうのはよくあることとしても、わたしの剣はかなりの業物だったはず。

 それに、衝撃で下がったわたしにどうしてこの男はへばりついてこれるの!


 ハルバードの刃の部分で抑え込まれてエビぞりとなり、もう背がほとんど耐えきれなくなったヴィクトリアに呂布が囁く。


「迂闊だな。(長柄武器の)熟練の士に死角などない」


 次の瞬間、柄から離した呂布の左手の掌打が閃き、ヴィクトリアの意識は暗転した。


 *


 必死になって詠唱を続けていたアンもエリザベスの左腕が盾ごと両断され、ヴィクトリアの蛇剣が折られたのを見て集中力が途切れかけた。

 そして……。


 カチャーン

 

 きらりと光る何かが自分目がけて飛んできて石畳にはじかれた。


「ひあっ!」


 それはヴィクトリアの折れた剣の破片だった。

 偶然であり、呂布の意図したことではなかったが、アンの心を折るには十分だった(呂布としては投げつけて詠唱を妨害するためわざわざ拾った小石を別に忍ばせていた)。


 そこへあの男が地獄の悪魔もかくやとばかりの壮絶な笑みを浮かべて前に立った……。


「おんなっ!地獄の使者の足音が聞こえるかっ!」

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい。もうしませんもうしませんもうしません。許して許して許して」


 呂布に対して見事なまでのスライディング土下座をかましたうえ頭を石畳にめり込むようにこすりつけたアン必死になって命乞いをする。


「お、おまえもか。この土地の者はどいつもこいつもどうして邪魔をするんだ!おれが決め台詞まで言っているのにっ!」



 結局、土下座したアンの頭の上、髪の毛一本分のところでハルバードの刃は止まった。


 *


 後ろの見物人の輪の中で白雪がさかんに親指で首を掻っ切る仕草をしていることも、決闘の決まりとして降伏した3人の女をぶち殺さなければいけないことも、おれは知っている。

 だが、しかし。


「決闘裁判の代闘士を生業にしている以上、殺されることも覚悟しているはずだな。何人も殺しておいていざ自分の順番の時には許してくださいなど、虫がよすぎるとは思わんか」

「わたしどもにどうか貴方様のお慈悲にかけてくださいませ。

 もともとわたくしどもは250年前の人間の勇者を擁護する言葉を口走ったため里の長老たちの怒りを買い、『ヒト族の首100個、狩ってくるまで里に立ち入ることはまかりならん』と放逐された者たちでございます。もとよりエルフ至上主義に凝り固まって鼻持ちならない閉鎖的な里など、二度と戻るつもりはございませんが、さりとて狩りと戦いしかできないわたしどもにヒト族の社会で就ける職業などほとんどございません。たまたま3年前、野良で決闘をしているのに出くわし、代闘士がおらずに困っている方へ助力したのがはじまりで、よくないこととは知りながらズルズルと続けてまいりました。

 わたくしどもも殺した方々へはすまないことをしたのだとは思っております。

 ただ、弁解させてもらうならば、あの方々は汚職や反乱未遂、外国との通謀など本来死刑になってもおかしくない方々ばかりでして、たまたま諸事情により死刑の代わりに決闘裁判で始末されただけのこと。わたくしどもが殺さなくともいずれ殺されていた方々であることをどうかお含みくださいませ」

「ふんっ。自分たちは処刑のためのただの道具であって罪はないと言い張るのだな。

 だったら、あの『運命の女神が死の宣告を下したらもう生き続けることは誰にもできない』とか言う大言壮語は何だ?おれには自分たちより弱い者をいたぶり殺して悦に入っていたとしか思えんのだがな!そんな糞みたいな輩にどうしておれが慈悲などかけねばいかんのだ」

「あれはただの宣伝文句でございます。もとよりわたくしどもは自分たちのことを一度たりとも運命の女神などと思ったことはございません(かなりイケている方なので美の女神くらいには思ったことはございますが)。この世知辛い世の中では代闘士などという卑しい職業にも競争というものがございまして、あのような誇大な広告でもしない限りは口が干がってしまうのでございます」

「……」


 困った。おれの中で、こいつらを殺す理由がなくなった。すなわち、おれの感情がすっかり冷めてしまった。


「父者よ。いかんぞ。初志貫徹じゃ。その、気分でくるくる行動が変わる悪い癖を直すのじゃ」

 後ろから白雪が大声を上げる。


「そうだ。決闘の勝敗は相手を殺すか致命傷を負わせることであったな。

 おまえたちには気の毒だが、ここは……」

「わたしどもの心は致命傷を負いました。再起不能で代闘士を続けていくことができません」

「はあ?」


 必死の形相のアンに続けていつの間にかに腕が元通りになっているエリザベスが答える。


「ですから、決闘はわたしどもの負けでございます。ですから、命は取らないでください」

「なにを詭弁を」

「わたしどもの心はすっかり貴方様の虜です。身も心も命を除いてすっかり貴方様に差し上げます。炊事洗濯掃除、何でもできませんが、どうかよろしくお願いします。

 そうだわ。これからはそちらで衣食住すべてお世話になりますね」

「何を言っている。妙なことを口走ってごまかそうとするな。(その申し出を受けたとして)まったくおれに得になるようなところが一つもないではないか」

「えっ。わずかな食費とお小遣いだけでぴちぴちの若い美女エルフ3人も囲って夢のハーレムが楽しめますのよ?得しかないじゃありませんか」

「要らんわ。超お断りだ!」

「なぜですか?わたくしどものなにが不満なのですか?」


 兜を脱いで顔をあらわにしたエルフ女どもがドヤ顔でそんなことを言う。

 だから、おれは言ってやった。


「顔。おまえたちの顔はおれの好みから一番外れる」

「「「!!!」」」


 なぜか見物人たちも含めて辺りが静まり返った。解せぬ……。


 *


「ゴホン」


 静けさを破る立会人の中の一人が咳払いがする。


「立会人。この状況、どうすればいいのだ?」

 ヴァンデルハウゼン卿が重々しく尋ねる。


 今まで仕切っていた年嵩の髭の立会人は考えてもいなかった展開に頭を抱えて口を開こうとしない。

 代わりにおまけという形でただついて来たとしか見えない若い立会人がしゃしゃり出てきた。


「決まりは決まりですから。

 代闘士の方々は心に致命傷を負ったそうなので、決闘を降りられても仕方ありませんね」

「(そこは認めるのかい!)」


 言った本人を除く全員のツッコミの中、若い立会人の言葉だけが飄々と続く。


「不慮の事故で代闘士が戦えなくなった場合、原則に戻るのが筋ですね。

 ということで、ヴァンデルハウゼン卿。貴方が戦って決闘の勝敗をつけなくてはなりませんね」

「はあ?無理言うなよ」

「決りですから」


 9尺(約207センチ)のおれを見上げたヴァンデルハウゼン卿の顔色がみるみる白くなる。


「わ、わたしも心に傷を負いました。致命傷です。戦えませんから命だけはどうかご勘弁ください……」


 蚊の鳴くようなか細い声が耳に入り、おれは顔をしかめた。





 





 









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