夜の亡骸、
今回は秋の夜に恋をした男子高校生の話です。
紅……?
※この作品には未成年喫煙のシーンがありますが、それを助長する意図はありません
不機嫌な顔の彼女は
ライターをカウンターに置いて
掠れた声で零す「グラシア」
何のことですか? と首を傾げる
「110番」と言った声は怒ってて
慌ててタバコを右手に
「ありがとう」と無愛想な声が
すごく綺麗だったんだ
今日も夜が当たり前に死んでいった
何の変哲もない夜だった
ただ僕はそんな夜に
彼女のことを目で追っていた
今日死んだ夜っていうのは
何体目の死骸なんだろう
いつも来てるお姉さんだ
先輩が僕にひっそり話す
ここが長い先輩によると
旦那さんが亡くなっているらしい
真っ暗な寝室で学ランを脱ぎ
父さんのタバコくすねて
路地裏で火をつけたタバコは
苦い味をしていたんだ
今日も夜は平然と顔を出す
死んでいくことも知らないくせに
ただ僕はそんな夜に
彼女と初めて目が合った
タバコを取り上げた彼女に
僕の言い分は届いたかな
だって一目惚れだった
ダメなことってわかってる
でも繋ぐものが何もないから
貴方より肺を汚せば
男になれると思ったんだ
ねえ背伸びしてるの?
それとも口説いているの?
どちらも私に期待しないで
副流煙さえ拒むくせに
適当なことを言ってるな
彼女が慣れた手でタバコに火をつけた
フィルターに移るルージュを見てた
僕のYシャツポケットには
赤いラークがほったらかし
今日も夜が当たり前に死んでいく
黒い空は消えていって
彼女もいなくなっていた
これから、これから朝が来る
ありがとうございました!